情報誌タートル 第53号

本文へ移動
主要メニュー一覧へ移動

ここから本文

目次

今月の表紙

カメのイラストがあります。
コロナに負けず頑張りましょう!
と、カメがエールを送っています。

目次へ戻る

●巻頭言

『トランジション〜Withコロナ時代に思うこと』

理事 石原 純子(いしはら じゅんこ)

2020年、皆さまはどのような時間を過ごしましたか? この一年、新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の影響により、かつて経験したことのない非常事態に直面し、世界が大きく変動しました。

とりわけコロナ禍で、「あはき師」の方々の就労状況は厳しくなったと伺っています。また、視力状況の変化により、リハビリや訓練が必要になった方々も、訓練施設の業務停止や制限により思うように訓練が受けられず、もどかしい思いをされた方も多かったのではないでしょうか。それぞれ置かれている立場や環境で、コロナ禍の影響を受け、翻弄された一年だったと思います。

毎年この時期になると思い浮かぶのは、一年を振り返ってその年の世相を表す「今年の漢字」の話題です。それに倣って、私がこの一年を漢字一文字で表すとするならば、変化の「変」になります。毎日、満員電車に揺られ学校や会社へ行くこと、気軽な人の集まりやおしゃべり、飲み会、旅行、スポーツ観戦、観劇、コンサートやライブに行くこと……日常の何気ないことが、今までのようにはいかなくなりました。新しい生活様式や価値観を求められ、働き方やコミュニケーションの在り方、イベントの開催などが大きく変わりました。

また、自分にとって大切にしたいこと、何を目指していくかということも問われるようになったと思います。

長い自粛生活により、世の中は閉塞感が漂い、鬱々とした気持ちを発散できないまま、いつもなら気にならないことも妙に気になり、不安を感じていた方もいたのではないでしょうか。私も今一つやる気が起こらず、気持ちが上がらなかったり、このままでいいのかという焦る気持ち、ざわざわ落ち着かない気持ちなど、いつもは感じない心の変化が起きていました。毎日の通勤で、手摺りや吊り革につかまる、エレベーターのボタンを押す、共有部分のドアノブに触る、お店でお金のやり取りをするなど、日常動作で避けては通れないことにストレスと恐怖を感じました。私は医療関係で仕事をしているため、感染防止対策には特に気を配ってきました。

そのような中でも、何とか気持ちを奮い立たせ、頑張ってきた一年。「よくぞ、年の終わりまでたどりつきました。お疲れ様。」と自分をねぎらってあげたいと思っています。

「変」という視点でこの一年のタートルの活動をみてみると、従来行っていた「サロン」が、zoomを使った「オンラインサロン」へと変わりました。かねてから、全国の女性会員とつながりたいと考えていましたが、このコロナ禍のおかげで、「オンライン女子会」を開催するチャンスに恵まれ、全国の女性会員とつながりを持つことができました。世界的にもオンライン化が進み、どこにいてもつながりが持てる、興味があるセミナーや講習会に気軽に参加できる、うまくスケジュールを立てれば一日に複数のイベントへも参加ができます。このようにzoomの広がりは、よく言われている視覚障害者の「移動」の問題を変化させ、視覚障害者にとって、最も恩恵を受けられたことかもしれません。

個人的には、移動にかかわる時間がなくなり、他のことに時間がさけるようになったので、とても生活が楽になったという感じがあります。とはいえ、zoom肯定派ではありますが、そうした交流だけでは物足りないなと思うこの頃。やはり、リアルに会って感じ取る人の「気」に勝るものはないと思っています。一日も早く、新型コロナウイルス感染症が終息に向かい、自由に交流ができる日が来ることを願っています。Withコロナ時代、便利なツールやサービスを積極的に取り入れ、ゆるやかな人とのつながりを持ちながら変化の時を乗り越えていければと思っています。「しなやかに」

最後になりましたが、来る年が皆さまにとって幸多き年になりますよう、心よりお祈り申し上げます。

目次へ戻る

●特別寄稿

『視覚障害者の就労支援』

北九州市立総合療育センター眼科 高橋 広(たかはし ひろし)氏

連絡先:
〒802−0803 福岡県北九州市小倉南区春ヶ丘10−4
北九州市立総合療育センター眼科 高橋 広
Tel:093−922−5596 Fax:093−952−2713
e-mail:h#-takahashi@kitaq-src.jpg
 (SPAM対策のため2文字目に # を入れて記載しています。お手数ですが、上記アドレスから # を除いてご送信ください。)

私とタートルの出会いは、工藤正一先生が本誌第51号に記載されているように、1995年6月に横浜で開かれた第3回視覚障害リハビリテーション研究大会でした。その後は一人ひとりの事例を大切にし、工藤先生と二人三脚で就労問題に取り組みました。その結果、厚生労働省の「障害者雇用対策基本方針」に「ロービジョンケア」の概念を盛り込むことができ、そして「ロービジョンケア判断料」の診療報酬化につながっていきました。その間、常に我々の心の中にあったのは「視覚障害者の生活」でした。

さて、我が国の視覚障害者は164万人(0.5未満のロービジョン者、2007年日本眼科医会研究班報告)と言われていますが、視覚障害の特性や程度は極めて多様です。しかし、社会のICT技術の進展に伴い、視覚障害者を取り巻く状況は変わってきました。その結果、視覚障害者はより多様な職業、職種で働くことが可能となってきていますが、そのためには視覚障害者としての適切な教育や職業訓練を受けることが必要です。そしてさらに、視覚障害者のもつ視機能を正しく評価した医療支援と、雇用する側のニーズとをマッチングさせる必要があります。

また、多くの視覚障害者は中途のロービジョン者で、適切な就労支援を受けることができないと職を失う危険性が高く、再就職も容易ではありません。この就労支援は、眼科、職場、福祉・訓練施設の各々が行っていますが、その間の連携が不十分です。その結果、視覚障害者の雇用に地域間格差が生じ、雇用する側の対応の仕方も様々で、場合によっては離職に直面するなどの社会的な問題が生じています。現在各地で取り組んでいるスマートサイトも、生活支援をどのように行うかを主目的にしており、就労に必要な情報は僅かです。視覚障害者の就労支援を標榜している個人や団体でも的確な支援に結びついていない事例を、私はタートル・ロービジョン就労相談会で知りました。

そこで、私たちは、産業医科大学眼科近藤寛之教授の下に2017〜2019年度の3年間、日本医療研究開発機構(AMED)障害者対策総合研究開発事業「視覚障害者の就労実態を反映した医療・産業・福祉連携による支援マニュアル開発」の研究を行いました。

その際に、NPO法人タートルの皆さまから視覚障害者の置かれている実態調査(アンケート・インタビュー調査)に多大なご協力を賜りました。改めまして厚く御礼申し上げます。

この調査で明らかになったのは以下の点です。

@眼科医療におけるロービジョンケアを行っている病院・診療所は少ない。
Aリハビリテーション科においては、ニーズはあるが視覚単独障害者に対するリハビリテーションは行われていない。
B企業における視覚障害者支援には限界がある。
C訓練所においては自立訓練に多くが割かれ、職業訓練を行っている施設は全国的にもわずかである。
Dこれらの機関をつなぐコーディネート役は、公的にハローワークなどの労働関係機関が行うべきであるが、十分にその任を果たしていない。

このような状況下でも、活用できるフローチャート(視覚障害者就労支援のスリーステップ)を作成した次第です。

1st Stepでは、眼科は視機能の評価を、病院リハ科・訓練施設・視覚特別支援学校ではADL(日常生活動作)評価を行い、就労支援シートに記載されます。また、その他の施設(職場・点字図書館・ハローワーク等)では実状把握と就労に必要な事項を整理し、必要な情報が就労支援シートに記載されます。そして、適切な支援機関・施設につないだ後、そこからさらに自立訓練施設へとつなぎます。この際のシートのつなぎ役は視覚障害者自身になります。したがって、当事者である視覚障害者の動きがこのマニュアルの運用の鍵を握っています。

2nd Stepの自立訓練施設では、就労支援シートを受け取り、評価・情報の集約・把握後、必要な訓練を行います。そして、視覚障害者が仕事をするのに高度なパソコン技術等の習得が必要であれば、3rd Stepである職業訓練施設へつなぐことで、より質の高い就労に結びついていきます。

もし、このような支援を求めようとするなら、視覚障害者であるあなたの「仕事ができなくなった」との一言が絶対に必要です。黙っていては、我々支援者は何も分かりませんし、できません。

是非、視覚障害者就労支援マニュアルを見せてください。 そして、このマニュアルには、「就労支援ツール(タブレット端末)」を紹介しています。

私は、視覚障害者が就労支援を得るには、視覚障害者の見え方を支援者が知ることから始まると痛感しています。つまり、視覚障害者がご自身の見え方を理解していないのに、当事者がどのように困っているかを支援者が正確に知ることはあり得ません。支援する側は、視力低下は比較的に容易に理解できますが、視野障害のイメージは難しいのです。いつも私はお話しますが、中心暗点では文字処理は困難ですが、単独歩行は可能です。一方、求心性狭窄では文字処理も単独歩行も困難です。たったこれだけのことでさえ、理解していない眼科医はかなりいます。中心暗点者は暗点を小さくするため近方に、狭窄者は視野を拡大するため遠方に生活の基準点を置いています。さらに、輪状暗点になるとますます生活の理解は困難となります。これらを擬似体験、理解できるものに冊子「みる 見る 診る」があり、私はタートルのロービジョン就労相談会で多用し、ご家族や付き添ってこられた同伴者に見え方を理解していただきました。最近、輪状暗点シートを加えました。

そして、この冊子をさらに改善したものが、タブレット版の支援ツールmilookです。 これまで職場の関係者への説明は、当事者任せであったため、視野が狭い、中心が見にくいという程度の理解にとどまり、それを改善させる手段を講じるところまでは及びませんでした。しかし、改良した支援ツールでは、動画や録音、記録も可能なので、自分の見え方を専門家や支援者が説明するような形で再現でき、我々の声が届けられるようになります。

一般的に視覚障害者には寡黙者が多く、自らの困難を積極的に主張せず、職場環境の改善を申し出ることも少ないのが現状です。また、彼らはしばしば見ることを諦めているようなケースに出会います。

そこで、諦めることなく可能性を見出すために背中を押し、手を引く「ロービジョンリハビリテーション(LVR)」が眼科医療には必要であると考えており、私が強く主張するところです。一方、患者である視覚障害者やその家族の心に寄り添う「ロービジョンケア(LVC)」も大切なことを申し添えておきます。

最後に、工藤正一先生が唱えられた就労のための三種の神器と言われている「タイポスコープ」「遮光眼鏡」「マイナスルーペ(凹レンズ)」は非常に有効であることを付け加えて結びとさせていただきます。

追記:
就労支援マニュアルの概要と使用法を紹介しましたが、このマニュアルは北九州市立総合療育センター眼科のホームページからダウンロード可能で、大いに活用を期待しています。
また「就労支援ツール」はiPad専用で、App Storeからアプリ(https://www.apple.com/jp/ios/app-store/ アプリ名:milook)をインストールでき、その使用説明は、同眼科のホームページにあります。

目次へ戻る

●タートル催し報告

『初の全国オンラインタートル女子会開催!』

このコロナ禍、今や当たり前のようにそのオンラインシステムの名前を聞くようになった「zoom」で、約1年ぶりに女子会を開催しました。対面の女子会は、どうしても地域が限られてしまうところ、北は北海道、南は福岡まで15名の参加者がネットを介しておしゃべりの花を咲かせることができました。ちなみに参加者居住を都道府県で申し上げると…、北海道、宮城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、徳島県、福岡県…と、実に多くのところから集まってくださいました。

お茶やお菓子を片手に参加者がそろったところで、女子会の流れとしてはまず最初はお決まりの自己紹介から。コロナの影響で困ることはたくさんあるはずですが、前向きに考えて逆に良くなったことや変わったことを自己紹介に盛り込んでもらったところ、たくさん歩くようになった、電車が空いていて快適になった、zoomによって全国どこでもつながりを持てるようになった…とのお話を聞くことができました。

続いて、女子会で「聞いてみたいこと」をお一人ずつ話をしていただきました。皆さんからは…
・コロナ禍で買い物や外出はどうしているか。
・習い事やお稽古事の話を聞きたい。(視覚障害者に対応してくれる茶道について)
・便利グッズの紹介。
・休日の過ごし方。
・見え方の変化を周囲にどのように伝えていくか。
・事務系以外の職種で働いている人の話。
・各地域の女子会について。などなどの質問が出て、1つずつに対してそれは多くのお話が飛び交いました。

最近タートルではオンラインサロン、テーマ別サロンといったzoomを使ったいろいろなサロンを行っており、その中でも話が盛り上がるであろう質問もありますが、それもやはり女性って話が大好き!どのテーマも話題が尽きません。便利グッズについては台所で便利なスポンジの紹介や、音声案内付きエアコンの紹介がありました。このエアコンの話については電器店の店員さんが大変親切な方で、こういった製品があることを教えてくださったとか。

このコロナの影響で、スーパーに一人で買い物に行ったところ、店員さんにとてもつらい対応をされたというお話もあったのですが、この電器店での話はみんなにとって悪いことばかりではないと心暖かにさせてくれる内容でした。特に、その話を紹介してくださった方は今年ご結婚されて、この状況で暗いニュースばかりが流れる中で皆さんに幸せを分けていただいた…そんな感じがしています。ありがとうございました。そして改めておめでとうございます!!

また、各地域でどんな風に女子会をしているかという質問がありましたが、現状小さい地域でしか行えていなかったので、このzoomを使った女子会はなかなか外出も難しい方にとっても繋がることのできる素晴らしいツールであることは間違いありません。zoomが女子会としてやりやすいものなのか、福岡でのコミュニケーションツールとしてlineのグループ通話なども使っていると紹介していただき、そういったことも今後いろいろ試しながらオンライン女子会を充実させつつ、あとはこのコロナが少しでも早く終息して、東京に限らず、また地域で区切ってしまうのではなく、全国の皆さんと対面での女子会を開けるような計画も立てていけたらと思っています!皆さんからの企画、ご意見をいただけたらうれしいです!

文責:理事松尾、理事石原、理事芹田

目次へ戻る

●職場で頑張っています

『「見えにくい」ことから学んだこと』

会員 山田 尚文(やまだ なおぶみ)氏

私は、今年12月で65歳。長年勤めてきた会社を退職することになる。目の病気(緑内障)を持ちながら、この年まで働くことができたのは、周りの人の支えがあったからだが、「見えにくい」という私の障害は、なかなか周りに理解されにくいし、必要以上に無理をして体調を崩したり、時に、気持ちを弱気にさせることもあった。

私が日立に入社し、最初に配属されたのは、大型コンピュータの開発部門。その後、35歳頃に海外事業を担当する部署に異動となった。その部署は、英語の専門家が多く、英語が苦手だった私は、すぐには使いものにならず、社内の研修所で1ヶ月間の英語研修を受けることになった。緑内障の視野欠損が見つかったのは、そんな頃だった。

この研修は、泊まり込みの研修で、スポーツの時間にバドミントンをやったところ、シャトルが視界から消えてしまう。おかしいと思って眼科に行くと、視野欠損があり、緑内障と診断された。そこから、緑内障の治療が始まった。当初は、点眼薬で治療を開始したが、それでも少しずつ視野欠損は進行していく。主治医に勧められ、1998年には、緑内障の手術を受けた。その後も、白内障の手術、そして2017年には、再度、緑内障の手術を受けることになる。

1回目の緑内障手術をした2年後、本社の管理部門へ転勤となり、仕事の内容が大きく変わった。担当したのは、輸出管理。新しい職場に出勤すると、まず手渡されたのは、厚さ3pほどもある法令集で、これを勉強しろと言う。すでに、中心部分の視野に欠損があり、文字を読むことに不自由を感じていたが、まだなんとか文字が読めるレベルではあった。転勤して半年間は、ほぼ法律の勉強に費やした。その数年後には、法令集の文字が読めなくなるのだが、この時に無理して勉強したことは、後々、仕事を継続するうえで大きな財産となった。

その後、書類の文字が読めなくなり、主治医の先生に相談し、神奈川リハビリ病院のロービジョン外来を紹介された。すでに、かなり視野欠損が進んでおり、身体障害者手帳を申請し、視野障害で2級となった。会社に状況を話し、拡大読書器と、スクリーンリーダソフト、そして、画面拡大ソフトを導入してもらった。2010年頃のことである。

振り返ってみると、緑内障発症後の30年間は、つねに視野欠損の進行の中で仕事をしてきた。目で見て仕事をする習慣が残っていた当初は、見ることにこだわって、ストレスを感じていた時期もあった。しかし、仕事は、チームで進めているものであり、見えないことがハンディとならない分野で、どう貢献していくかという視点も大切だとわかってきた。そのために心がけていることは、次に起きることを予測して、その場で目を使わなくてはいけないシチュエーションをどう事前準備で回避するか。会議の前には、資料はスクリーンリーダで読んでおくこと、関連しそうな法律条文は確認しておくこと、自分が説明しなければならないことは考えておくこと、など、ある意味当たり前のことの積み重ねであるが、「見る」ということを回避しながら仕事を進めることを模索していく中で、だんだん、あまり不自由さを感じずに、仕事をこなせるようになってきた。もちろん、職場の上司や同僚の理解とサポートがあったからだが。

一方で、企業の中で働いていると、まだまだ視覚障害者がどのように働いているか、理解が進んでいないと感じることも多い。こうした現状を少しずつでも改善していくために、最近、日立内に「インクルーシブなみらいプロジェクト」という活動を立ち上げた。これは、障害があっても当たり前に働けるインクルーシブな職場環境を創り上げていくために、障害者と一般の社員、研究者やエンジニアがつながって意見交換していく場づくりを目指したものである。私は、12月で退職するが、この活動を通じて知り合った次の世代の仲間たちが、この活動を引き継いでいってくれるだろう。

今、振り返ってみると、見えにくくなったことで見えてきたこと、学んだことがとても多かった。そして、これからもまだまだ学ぶことが多そうだ。

目次へ戻る

『休職・復職を経て、新たな道へ』

会員 杉森 千絵子(すぎもり ちえこ)氏

「直接お会いする前に恐縮ですが、退職されない方がよいと思いますよ。」
2017年6月初旬、後にお世話になる訓練施設に、会社を退職して訓練を受けたいと相談した際に言われた言葉です。「在職中であれば休職等をして訓練を受ける方向で職場と交渉し、認められなかった場合は次の選択肢を考える(退職は最終手段)というのが通常である。訓練を受ける時期としては適切だと思うので、まずは休職で考えてはどうか」とのことでした。視力が著しく低下し、単独歩行や書字情報の処理に不安を覚え、仕事にも支障を来たすようになっていた時期でした。精神的にも不安定で、退職以外考えられなかったので、この言葉にはっとしたことを覚えています。一人で悩まずに誰かに相談すれば、解決策や方向性が少しずつ見えてくるものですね。訓練終了から早いもので約3年が経ちますが、あの時訓練を受けて、休職を選んで本当によかったと改めて感じています。

私は、先天性無虹彩症と黄斑低形成、白内障、緑内障により、幼少期から弱視でしたが、視力が両眼とも0.1程度ありましたので、中学までは地元の普通校に通いました。負けず嫌いというのもあり、何事も人の数倍努力することを心がけました。自分は周りの人より劣っている、でも困難なことがあったとしても自分の努力次第で十分乗り越えていけると考えていたからです。自分の障害について説明することや助けを求めることが苦手で、悔しいことや辛いこと、苦労も多々ありましたが、友人に大変恵まれ、楽しい学校生活を送ることができました。

高校は、東京の筑波大学附属盲学校高等部に進学しました。障害の悩みを共有し、切磋琢磨できる大切な仲間が沢山でき、自分の障害とも向き合うことができた貴重で充実した3年間でした。視覚障害に関する知識を得たのも、「合理的配慮」について学んだのもこの頃で、大学進学にあたり受験上や入学後の配慮内容について自分で考えた経験は、後の就職活動でも役に立ちました。

2013年に大学を卒業し、大学受験の大手予備校に入職すると、模擬試験の編集・制作を行う部署に配属され、化学の編集担当となりました。視力に変化はなく、ある程度小さい文字も読むことができたので、比較的問題なく業務に対応できていたように思います。

編集業務は、講師への執筆依頼、監修会議の実施、図版作成・組版、校正、採点基準・質問答案対応等があり、1つの模試にかける時間が長く、場合によっては、訂正連絡や採点処理等も行うため、特に繁忙期は残業も多く慌ただしい毎日でした。

文系出身でしたが、業務の中で編集技術や化学の基礎知識、校正の力も少しずつ身に付き、手書き原稿が多い中で読みにくい文字を推測したり、複雑な図も執筆者の意図を汲んで作成できるようになり、執筆者からの信頼も得られ、編集者として成長していくことができました。

しかし、2016年1月頃から時々突然目に激しい痛みを感じるようになり、徐々に視力も低下、同年10月には左は0.01、右は0.04まで落ちていました。受診中の病院に加え複数の眼科をまわり、角膜輪部機能不全と診断されました。

工夫を重ねて仕事を続けたものの、自分の努力だけではどうにもならない状態になり、翌年6月、東京視覚障害者生活支援センターに相談・見学に行き、9月より半年間、就労訓練でお世話になりました。なお、会社には訓練施設の資料を揃えた上で、現状の説明と休職の相談をし、後日医師の診断書を提出、条件付きで特例として認めてもらいました。因みに、私がタートルに出会ったのはこのころです。

センターでは読み上げソフトを使用したPC訓練をメインに、並行して歩行訓練やロービジョン訓練等を行いました。中でも、PC訓練はそれぞれの目標に応じて自分のペースで進められるため、私はWordやExcel等の訓練に加えて、読み上げソフトが職場で使用している編集ソフトにどの程度対応するか等についても実際に操作して検証させてもらいました。戻る場所が確保されていることで気持ちは比較的安定し、訓練に対するモチベーションも保てていたように思います。訓練のために休職を選択したことは、その時期も含めて適切でした。

限られた期間の中で、私の希望に応じて訓練計画を立て、また復職に際しての打合せに同席いただくなど、様々な場面でご指導・ご支援いただいた先生方に、この場を借りて御礼申し上げます。

会社には復職と同時に支援機器の手配をしてもらい、職場の理解や先生方のサポートもあり、スムーズに復帰できましたが、将来を見据えて、2019年4月に転職しました。現在は、関東にある弁護士会に勤務しています。

弁護士会とは、弁護士に対する監督等を行う、弁護士法に基づく公的団体で、日本で弁護士業務を行う弁護士は、必ず、日本弁護士連合会と、全国52の弁護士会のいずれかに所属(会員登録)しています。

また、弁護士は弁護士業務の他に、会務活動(弁護士会等で取り組む公益活動。例えば、国選弁護・当番弁護活動や市民向けの法律相談、学校向けの法教育授業への講師派遣、人権擁護活動、弁護士会を支える活動等)を行っており、事務局はその事務処理等を行います。その中で、私は会報誌の編集・制作を行う部会を担当しており、PCは拡大鏡と読み上げソフトを併用し、校正の際は拡大読書器やルーペ等も活用して業務を行っていますなお、現在の視力は左が手動弁、右が0.02です。

前職とは異なる業界なので、時に不甲斐なく思うこともあり、また試行錯誤の日々ではありますが、周囲の理解・協力もあり、最近は楽しく業務に取り組むことができています。この業務に携わり、著作権や肖像権等にふれる機会が増えたので、これを機に勉強してみようかと考えているところです。

前職と現職では、その道のプロと一緒に仕事をする(一つのものを作り上げる)という点が共通しており、それが私の仕事の楽しみにも繋がっています。編集者として身に付けた能力や自分の強みを最大限に活かしつつ、今後も自己研鑽に努めたいと思います。

目次へ戻る

●お知らせコーナー

「第三回ロービジョン・ブラインド川柳コンクール」のお知らせ

今年度第三回を開催しています「ロービジョン・ブラインド川柳コンクール」ですが、最初に第二回の作品より就労に関わる作品をご紹介させていただきます。

◆希望こそ 社会復帰の 第一歩
作者解説:視覚障害を負うと、誰でも絶望感を感じる。希望を持つことができれば、訓練などにより以前に近いような生活を取り戻すことが可能になる。自身の体験を込めて。

◆数えよう できないことより できること
作者解説:見えなくなるとできないことばかりに目が行きがちになるが、別の方法や機器を使うと案外簡単にでき、気持ちが楽になる。QOL向上につなげることができる。

◆見えないが 不幸じゃないよ 私のくらし
作者解説:中途視覚障害者ですが、見えていた時より友人も増え、やりたいことを見つけ、見えていた時より充実した毎日を送っています。

◆まだ見える 残った視野を フル活用
作者解説:だんだんと視野は少なくなってきましたが、まだ残っている部分があり、そこを使わない手はないと思い、日々眼球運動に励んでおります。

◆見えにくさ 架け橋となれ 水増しの
作者解説:昨年度、残念なことに中央省庁による障害者法定雇用率水増し問題が露わになりました。私は自身の弱視という見えにくさをバリアバリューとして国家公務員になり障害者と健常者の架け橋となっていこうと思います。

◆この子らの 未来は僕らが 変えるんだ
作者解説:電車で親子がいて子供は弱視の様で眼が悪いなりに一生懸命本を読んでいて「僕運転手になりたい」と言いました。今、大人の視覚障害者の働き方次第で職域は広がります。彼が大人になる時のために未来を変えなければ!!

◆就労で やっぱり大事 お人柄
作者解説:音声PC等のスキルもさることながら、採用担当者は、人間関係力、コミュニケーションスキル等の人柄を重視している。

◆合理的 配慮の前に 自己把握
作者解説:合理的配慮を求める前に、自分がどんな見え方なのかを把握し、それに対してどんな配慮を受けたいのかをきちんと伝えられるようにならなければならない。

◆目は大事 いへんがあれば すぐ眼科
作者解説:手遅れということのないように。

このコンクールは、視覚障害に因んだ川柳を、当事者だけでなくすべての方から募集して、それぞれの立場からの川柳により、障害理解と啓発を行うことを目的としています。

今回ご紹介した作品は、すべて視覚障害の方の作品となりますが、視覚に障害のない方も応募できます。応募期間も限られますが、広く周りの方にもお勧めいただき、盛り上げていただければ幸いです。未発表のものに限りますが、一度に5句まで、何度でも応募することができます。

・応募期間:2021年1月31日まで。
・最優秀賞と各部門賞、および入選作品は2021年3月下旬に発表します。
・詳細は、「第三回ロービジョン・ブラインド川柳コンクール」と検索し、コンクールホームページ(URL:https://www.paris-miki.co.jp/lv-senryu/)をご覧ください。応募はホームページからとなります。
・問合せ先 ロービジョン・ブラインド川柳コンクール事務局
メール  l#v-senryu@paris-miki.jp
 (SPAM対策のため2文字目に # を入れて記載しています。お手数ですが、上記アドレスから # を除いてご送信ください。)

沢山のご応募をお待ちしております。
最後に一句。
見えぬから 磨いた笑顔で 乗り切るの

◆ ご参加をお待ちしております!!(今後の予定)

◎タートルサロン

毎月第3土曜日  14:00〜16:00
*交流会開催月は講演会の後に開催します。
情報交換や気軽な相談の場としてご利用ください。
*新型コロナウイルス感染防止の観点から、当面はZOOMによるオンライン開催とさせていただきます。
他にも、原則 第1日曜日には、テーマ別サロン(偶数月)、交流サロン(奇数月)いずれもオンラインを開催予定です。
奮ってご参加ください(詳細は下記の事務局宛にお問い合わせください)。
*オンラインイベントの詳細は、タートルのメーリングリストでお知らせしています。タートルMLに未登録の方はこの機会にぜひ登録ください。
登録方法は、タートルホームページの「メーリングリストのご案内」を参照ください。
http://www.turtle.gr.jp/h04-ml.html

◆一人で悩まず、先ずは相談を!!

「見えなくても普通に生活したい」という願いはだれもが同じです。職業的に自立し、当り前に働き続けたい願望がだれにもあります。一人で抱え込まず、仲間同士一緒に考え、気軽に相談し合うことで、見えてくるものもあります。迷わずご連絡ください!同じ体験をしている視覚障害者が丁寧に対応します。(相談は無料です)

*新型コロナウイルス感染防止の観点から、相談会は当面、ZOOMによるオンライン方式とさせていただきます。
*電話やメールによる相談はお受けしていますので、下記の事務局まで電話またはメールをお寄せください。

◆正会員入会のご案内

認定NPO法人タートルは、自らが視覚障害を体験した者たちが「働くことに特化」した活動をしている「当事者団体」です。疾病やけがなどで視力障害を患った際、だれでも途方にくれてしまいます。その様な時、仕事を継続するためにはどのようにしていけばいいかを、経験を通して助言や支援をします。そして見えなくても働ける事実を広く社会に知ってもらうことを目的として活動しています。当事者だけでなく、晴眼者の方の入会も歓迎いたします。
※入会金はありません。年会費は5,000円です。

◆賛助会員入会のご案内

☆賛助会員の会費は、「認定NPO法人への寄付」として税制優遇が受けられます!
認定NPO法人タートルは、視覚障害当事者ばかりでなく、タートルの目的や活動に賛同し、ご理解ご協力いただける個人や団体の入会を心から歓迎します。
※年会費は1口5,000円です。(複数口大歓迎です)
眼科の先生方はじめ、産業医の先生、医療従事者の方々には、視覚障害者の心の支え、QOLの向上のためにも賛助会員への入会を歓迎いたします。また、眼の疾患により就労の継続に不安をお持ちの患者さんがおられましたら、どうぞ、当認定NPO法人タートルをご紹介いただけると幸いに存じます。

入会申し込みはタートルホームページの入会申し込みメールフォームからできます。また、申込書をダウンロードすることもできます。
URL:http://www.turtle.gr.jp/

◆ご寄付のお願い

☆税制優遇が受けられることをご存知ですか?!
認定NPO法人タートルの活動にご支援をお願いします!!
昨今、中途視覚障害者からの就労相談希望は本当に多くあります。また、視力の低下による不安から、ロービジョン相談会・各拠点を含む交流会やタートルサロンに初めて参加される人も増えています。それらに適確・迅速に対応する体制作りや、関連資料の作成など、私達の活動を充実させるために皆様からの資金的ご支援が必須となっています。
個人・団体を問わず、暖かいご寄付をお願い申し上げます。

★当法人は、寄付された方が税制優遇を受けられる認定NPO法人の認可を受けました。
また、「認定NPO法人」は、年間100名の寄付を受けることが条件となっています。皆様の積極的なご支援をお願いいたします。
寄付は一口3,000円です。いつでも、何口でもご協力いただけます。寄付の申し込みは、タートルホームページの寄付申し込みメールフォームからできます。また、申込書をダウンロードすることもできます。
URL:http://www.turtle.gr.jp/

≪会費・寄付等振込先≫

●郵便局からの振込
ゆうちょ銀行
記号番号:00150-2-595127
加入者名:特定非営利活動法人タートル

●他銀行からの振込
銀行名:ゆうちょ銀行
金融機関コード:9900
支店名:〇一九店(ゼロイチキユウ店)
支店コード:019
預金種目:当座
口座番号:0595127
口座名義:トクヒ)タートル

◆ご支援に感謝申し上げます!

多くの皆様から本当に暖かいご寄付を頂戴しました。心より感謝申し上げます。これらのご支援は、当法人の活動に有効に使用させていただきます。
今後とも皆様のご支援をお願い申し上げます。

◆活動スタッフとボランティアを募集しています!!

あなたも活動に参加しませんか?
認定NPO法人タートルは、視覚障害者の就労継続・雇用啓発につなげる相談、交流会、情報提供、セミナー開催、就労啓発等の事業を行っております。これらの事業の企画や運営に一緒に活動するスタッフとボランティアを募集しています。会員でも非会員でもかまいません。当事者だけでなく、晴眼者(目が不自由でない方)の協力も求めています。首都圏だけでなく、関西や九州など各拠点でもボランティアを募集しています。
具体的には事務作業の支援、情報誌の編集、HP作成の支援、交流会時の受付、視覚障害参加者の駅からの誘導や通信設定等いろいろとあります。詳細については事務局までお気軽にお問い合わせください。

☆タートル事務局連絡先

Tel:03-3351-3208
E-mail:m#ail@turtle.gr.jp
(SPAM対策のため2文字目に # を入れて記載しています。お手数ですが、上記アドレスから # を除いてご送信ください。)

目次へ戻る

●編集後記

全国のタートル会員の皆様、いかがお過ごしでしょうか?

実は、この原稿を書いているのは11月。11月は、暖かい日も多く、外出にはもってこいの日が多いと思ったのですが、なかなか遊びには行けず…。これはよくないと気を引き締め(?)ちょっと頑張って予定を作り、紅葉でも見に行こうかと思ったのでした。紅葉といえば、黄金に染まるイチョウ並木を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか? わたくしもそのような一人でして、秋の深まるある一日、明治神宮外苑あたりに出かけました。青山通りから明治神宮外苑まで続くイチョウ並木は、世界的にも知られているのだそうです。ドラマやCMのロケ地として使われることも多く、おしゃれな雰囲気もありますね。コロナの第三波が大きく報道されてはいますが、人通りは多く楽しそうな会話があちらこちらから聞こえてきます。新しい生活様式とは言うものの、このような場所にいると、そのような言葉が、違う世界のことのように感じます。

とはいえ、先日、神奈川県にある視覚障害者施設で利用者の感染が報道されましたし、また、企業の忘年会中止(自粛?)は、90%との報道もあります。読者の皆様の勤務先も、変わらずテレワークであったり、不必要な飲食の自粛要請だとか、様々な対応がなされているのではないでしょうか? 外国ではワクチンが開発されたとか…。それを摂取したからといって、元の生活に戻るのでしょうか? やはり、生活も仕事も、新しい環境での継続を見据えてということになりそうです。あ、そういえば…新ワクチンも必要ですが、その前にインフルエンザの接種予定が間近。忘れずに行ってきます!

さて、今回の「情報誌」はいかがでしたでしょうか? これからも、会員の皆様に楽しんでいただけるような誌面にしていきたいと思っております。どうぞ宜しくお願い致します♪

(イチカワ ヒロ)

目次へ戻る

奥付

特定非営利活動法人 タートル 情報誌
『タートル第53号』
2020年11月18日発行 SSKU 増刊通巻第6883号
発行 特定非営利活動法人 タートル 理事長 松坂 治男

目次へ戻る