目次
- 【巻頭言】理事 長谷川 晋
- 【11月交流会講演】北九州市立総合療育センター 眼科部長 高橋 広 氏
- 【職場で頑張っています】会員 立澤 千加子
- 【お知らせコーナー】
- 【編集後記】
- 奥付
【巻頭言】
『障害者の社会参加を考えるための「水槽」モデルについて』
理事 長谷川 晋(はせがわ しん)
寒い日が続いていますが、会員の皆様は元気でお過ごしのことと存じます。
さて今回の巻頭言では、以前、私がある先生から教わった、障害者の社会参加を考えるための「水槽」モデルについて紹介したいと思います。
私は雑誌や書籍の編集を仕事としてきましたが、自分が視覚障害者(網膜色素変性症)であることがわかってからは、障害児教育(特別支援教育)の分野に携わるようになりました。これからの人生で障害とどう向き合っていけばよいのかを知りたいと思ったのです。もっとも障害児教育といっても、知的障害や発達障害を対象とした仕事でしたが、障害受容、障害者と社会参加といった大きなテーマは、決して障害種にとらわれるものではありませんでした。
そして、そのような折に出会ったのが、「水槽」モデルでした。 「水槽」モデルは、冒頭で述べたように、障害がある人が「社会に参加する力」を創り出すための考え方を示したモデルです。意味は狭くなってしまいますが、ここではタートルの趣旨に合わせて「社会に参加する力」を、「仕事ができる力」と読み替えて話を進めます。
さて、このモデルでは「仕事ができる力」を、「本人の力」「周囲の理解・協力」「テクノロジー」という3つの要素にわけて考えます。「テクノロジー」は、いわゆるICTなどのコミュニケーション技術です。そして、この3要素をかけたものが、「仕事ができる力」と定義します。
では、頭の中に「水槽」を一つ、思い浮かべてみてください。底面の縦を「本人の力」、横を「周囲の理解・協力」、そして水槽の高さを「テクノロジー」とします。すると、この3要素をかけた値である「水槽」の容積が「仕事をする力」となります。
仮に、「仕事ができる力」を100としましょう。100の力があれば、与えられた仕事を遂行できるということを意味します。この場合、縦、横、高さがそれぞれ10あれば、水槽の容積は100になり「仕事ができる力」は確保されます。
しかし、本人の力が5しかなかったらどうでしょう。「本人の力」、我々にとっては「視力」に相当するわけですが、こればかりは、いくら本人が努力しても伸ばすことは難しく、また限界があります。けれども、横か高さのどちらかを20に伸ばすことができれば、どうでしょうか。5×10×20=100となって、「仕事ができる力」を確保することは可能になるのです。また、本人の力が低下した場合は、そのつど残りの2つの要素を調整していけば、問題は解決できるでしょう。「周囲の理解・協力」と「テクノロジー」はやり方次第で大きく伸ばすことができ、特に後者は、今後も視覚障害者の生活や就労に大きな力となることは、想像に難くありません。
この考えの根底には、環境を調整することで、障害があっても社会で活躍できるようにするということがあります。私は、「困ったな」と思ったときは、このモデルを参考にして課題解決を図っていこうと思っています。ただし、この「水槽」モデルでは、もう1つ大事なポイントがあります。それは、どれか1つの要素がゼロになってしまうと、いくらほかの力を伸ばすことができても、合計はゼロにしかならないということです。我々は、見えなくなっても、頭を使って考えることはできます。だから「本人の力」がゼロになることはありません。しかし、ほかの要素は意識していないとゼロになってしまうかもしれません。自分の力を推し量りながら、ほかの2つの要素をどのように伸ばして総体としての力を確保するか、それが大切なのだと思っています。
【11月交流会講演】
『ロービジョン就労相談から見えてくるもの』
北九州市立総合療育センター眼科部長
高橋 広(たかはし ひろし)氏
高橋です、こんにちは。
ご覧になった方もいらっしゃると思いますが、日経新聞夕刊に「目の健康を守る」というシリーズがあります。11月10日の第4回目はロービジョンケアに関するものでした。
「働く視覚障害者のロービジョンケアに力を入れる北九州市立総合療育センターは、視覚障害が見つかった段階から眼科医を中心に視能訓練士や看護師、医療ソーシャルワーカー、歩行訓練士などがチームを編成。職業訓練施設や行政、勤務先の産業医とも連携して取り組む」という内容で、日経が取材に来た時の記事です。
最後には、「現役世代にとって目を病んでも働けるかどうかは切実な問題。我々の仕事は患者の背中を押してリハビリを頑張ってもらうことだ」とありますが、今日はロービジョンリハビリテーションについて話をさせていただきます。
私は1975年に慶應大学を卒業し、1989年に産業医大に赴任しました。1994年2月、産業医大の患者さんからロービジョンケアを知りました。ここから私のロービジョンに関する取り組みが始まっています。
1995年6月、第3回視覚リハビリテーション研究発表大会が横浜で開催された時に初めて工藤さんと出会いました。翌年12月、私が北九州視覚障害研究会を開催した際のシンポジウムに工藤さんにご来訪を願い、 就労についてのお話をしていただきました。 それをきっかけに九州地区のJRPS立ち上げや、北九州市就学指導委員会等に従事し、1997年、今に至る九州ロービジョンフォーラム第1回を開催しました。2000年4月、日本ロービジョン学会の設立に関与し、2010年から3年間は理事長に就任、2012年4月にロービジョン検査判断料が出来上がって行くというストーリーです。つまり、私は日本のロービジョンケアとともに歩んできたということになります。
さて、いきなり話は飛びますが、私はこのような会の時には必ず「みる」という言葉の説明をします。「みる」という言葉には、いろいろな漢字が当てられます。まず、見学の「見」です。この「見」というのは「網膜に像が映る」という意味です。そして、医師が「みる」というのは診察の「診」と書きます。「診」は「即時的に判断する」ということです。その方がどういう状態で、どんな病気で、どのような治療をしなければならないかを判断するのが医師です。 看護師さんたちの「みる」は「じっとそばで見守る」というところから「看」というわけです。では、視能訓練士やリハビリの訓練士さんたちはどう「みている」かというと、視力の「視」ではないでしょうか。それは「分析する」という意味になります。では、学校の先生はどうでしょう。観察の「観」で「総合的にみる」という意味です。
我々専門職はいろいろな患者さんをいろいろな場面で「みる」わけですが、「みる」という言葉を聞いてどういう意味かを推測する力はものすごく大切です。 また、学校の先生には「とにかく国語力をつけさせてほしい」とよく言っています。大切なのは同音異義語への理解です。視覚障害者にとって音で物事を判断するしか手段のない時は同音異義語がどのような意味なのか、文脈から探るしかないのでたくさんの言葉を知ってほしいのです。 しかし、文字を見ることのできる間は「見てほしい」「見えるようにしてほしい」とお願いします。ルーペでも、拡大読書器でも何でも使ってとにかく「見ることが楽しい」というように指導をお願いしています。
以上のことを受けて、皆さんにご理解いただきたいのはご自身の「できること」「できないこと」を整理して他人に伝えられるようになって欲しいということです。それができない限り、皆さんが思っている仕事はできません。その上で仕事をするための第一歩は安全な歩行、安全な通勤ということになります。極端なことを言うと企業にとっては、皆さんが毎日安全に会社に来てくれることが最大の関心事です。 この重要な点を、後ほど事例を交えてお話しします。
まず、視覚障害者の実態についてお話します。アメリカでは視力0.1以下を失明と言います。日本では指数弁以下である「0.01以下を失明」という定義にしていますが、それに比べたらアメリカでは失明といっても目を十分にまだ使えます。やや偏った見方ですが日本では全盲に対する施策しかなくロービジョン者への施策はありません。ここをきちんと訴えて行かないといけないと考えています。このアメリカの失明基準に則り、日本眼科医会が良い方の目の視力0.1以下の失明者は18万8,000人、0.2〜0.5未満(ロービジョン者)は164万人と推定しています。原因眼疾患の第1位は緑内障で、糖尿病網膜症による失明者は、内科医や眼科医の努力で減っており、ロービジョン者はまだまだ多いのが現状です。
「視覚障害者の種類」については3つに私は区分します。「視力障害」と「視野障害」それから「まぶしさ」です。日常生活に必要な視力は0.5です。学校の検査ではABCD判定というのがありますが、Aは1.0以上、Dは0.3未満です。D判定では一番前の席から黒板の文字が見えない子供ということになります。メガネをかけて「1.0が出た」ということなら、何ら問題はありません。しかし、学校検診で0.3未満の子供が眼科に行っても0.3未満しか見えないということであれば、教育の現場で何らかの配慮が必要です。つまり特別支援教育を考える必要が出てきます。このように、学校の視力検査というのはとても大切です。
一般的な視力検査では小数視力を使いますが、0.5と0.3と0.2などを全部足して平均値を取ってはいけません。小数視力では当尺度にはなっていません。つまり、対数視力に直さないと視力の平均は語れません。0.5という視力は0.1と1.0の間の7割がたが見えているということが対数からは理解できます。ですから0.5あればおおよそのことはできるということになります。例えば、0.5以上あれば原付バイクや小型特殊運転免許は取れます。
次に、視野について考えてみましょう。視野狭窄の人は歩くことと文字の処理が難しく、中心暗点の人は歩くことはできますが、文字が読めないという違いがあります。また中心部分が見えない人でも外側の視野が使える方が結構います。中心の視野はもちろん大切ですが、外側の視野もとても大切でこれを周辺視野と言います。この周辺視野があるからこそ「何か動いている」ということが分かります。つまり、右から車か何かが動いて来たときに、素早く目をその方向に動かすために役立つ視野です。また、下り階段で、足元を感じさせてくれるのもこの周辺視野です。
このような視野異常を擬似的体験できるものがお配りした「みる 見る 診る」です。「狭窄の人では遠くはOKですが近くはダメ」「中心暗点の人では遠くはダメだけど近くは大丈夫」を実感してください。狭窄した視野を広げる「マイナスルーペ」を紹介します。これを目の前に持ってくると視野が広くなります。ただ狭窄が10度以下5度程度で、視力が0.2〜0.3以上ないと効果がないようです。0.1以下の人では効果がありませんね。視野10度とは、60cm離れて半径10cmの円、5度とは半径5cmの円の大きさです。これが身体障害者手帳の10度以内の意味です。
最後にもう1つの視覚障害が「まぶしさ」です。まぶしさに対して「遮光眼鏡が良い」と言われます。まぶしいので目を開けてくれない錐体ジストロフィの女子がいました。教室でもまぶしくて目を開けてくれないので黒板の文字が見えませんが、教室内で使用するための遮光眼鏡を処方したら大成功でした。このように遮光眼鏡は、屋外は無論有効ですが、屋内や本を読むとき、パソコン時にも大いに役立ちます。私は、雨降りの夜の車運転では必ず遮光眼鏡(CCP400AC)を愛用しています。青いヘッドライトがとくにまぶしいですね。
さて、「眼科の医療目的」というのは何でしょう。「見ることができるようにする」ということに尽きますので、眼科医は視力を良くするために必死になります。しかしながら、それには限界があります。治療できずに、見ることができなければ日常生活動作が徐々にできなくなります。生活の質QOLが落ちるということです。そうならないために、私はロービジョンケアを行っています。
このロービジョンケアを「保有視機能を最大限に活用し生活の質の向上を目指すケアである」と私は定義します。また、ロービジョンケアは「目に障害を持つ方々への生活支援である」と言えます。 目を病める人は必ず眼科を受診します。医療をロービジョンケアの窓口にすることによって「見えない」「見えにくい」という視機能の障害を機能障害の部分からアプローチできます。一方、生活に関わった「文字が読めない、書けない」「仕事ができない」「歩けない」などの日常生活動作(ADL)の支障は、能力障害です。このような能力障害に陥って、当事者や家族など支援を教育や福祉に求めた時から教育支援や福祉支援がはじまります。
では、ケアとリハビリの違いは何なのでしょう。ケアは主に教育や福祉が行う支援で、リハビリテーションは医療が行うものです。医療は失った機能を回復させて日常生活動作(ADL)能力を改善させてQOLを向上させます。すなわち医療におけるロービジョンケアは、使えない機能を工夫して使えるようにして、できなくなったADLをできるようにするリハビリテーションのことです。
20年ぐらいロービジョンケアをやっていると、「寄り添うロービジョンケア」と「背中を押し、手を引っ張らなければならないロービジョンケア」の2つがあることに私は気付きました。「背中を押す」「手を引く」というロービジョンケアがロービジョンリハビリテーションで、医療が行うリハビリテーションなのです。そのロービジョンリハビリテーションを進める上で、視覚障害者は何ができるかではなく「何をしたいか」というのを最初に問います。「そのためにはどのような支援が必要か」を提示します。「補助具は」「制度は」「社会的リソースは」何であるのか、そしていかに「家族を支援する」かが重要です。それらをしながら「視覚障害者も普通に生きていける」というメッセージを出すべきだと思います。
我々眼科医は、目の前にいるすべての患者さんが「生活者である」という視点を持つべきです。そして、そのためには包括的なリハビリテーションと連携の大切さを理解する必要があります。すなわち、医療、教育、福祉といったいろいろな専門職の人たちが一緒に行うチームアプローチです。その上で生活を支援する制度を十分に活用し、そのお手伝いを医療はすべきであると思っています。
私が関わらせていただいているタートルの「ロービジョン就労相談会」は、平成21年5月15日から始まりました。篠島先生の懐かしいお姿もこの写真にはありますね。これまで都合80回、延べ217人のご相談を受けましたが、今後も継続していくことが大切です。
これらの経験から、視覚障害者が仕事をしようとするときの的確なアドバイス以外に、「三種の神器」と工藤さんが名付けたものがあります。「マイナスルーペ」「遮光眼鏡」「タイポスコープ」です。マイナスルーペと遮光眼鏡については既にお話しましたが、タイポスコープは紙製で、細長く切り抜いたところを書面の上においてコントラストを上げ文字を読みやすくします。このタイポスコープは名刺サイズにも作れます。高齢者の方も便利に使いますし、発達障害児の注意を集中させ、読むことができます。この「就労三種の神器」で仕事に困り始めた人のほとんどで解決しました。
次に、実例を紹介します。銀行に就職した人ですが、タートルの相談会にいらっしゃいました。網膜色素変性症で手帳を持っていますが、左右の視力がそれぞれ0.1で、自分ではどう見えているかが分かりません。したがって、周りの人に自分の見え方をどう伝えて良いかが分かりません。また、「できること」と「できないこと」の区別ができず、伝えていません。視力が0.1あれば、もっと見えてくる行動が違ってくるのではないかと思うのです。また、遮光眼鏡が役立ちそうだと感じて、改めてロービジョンクリニックの受診を勧めました。「ロービジョン就労相談会」では、医療行為はできませんので、アドバイスに留めざるを得ません。この事例の方は、北九州の私の眼科を受診され、ロービジョンリハビリテーションを行い、職業リハビリテーションにつなぎ、復職されました。
別の例です。網膜色素変性症で大学を卒業し入社時の視力が0.7と0.5ありましたが、その後仕事ができなくなってタートルに繋がり、相談会にいらっしゃいました。この人に問診票を取ったところ「何に困っているか」に対して「いいえ」ばかりなのです。知っているところは歩けるし、知らないところも何とか歩けるが、人の顔は分かりません。読み書きはできず何事も出来ないと言われました。この人も「自分の見え方」を知りませんでしたし、周囲への伝え方を知りませんでした。この二人の方に限らず、タートルの相談会に来る多くの方々は、まず自分がどう見えているかを伝えられません。
1例目は求心性狭窄で、2例目のこの方は輪状暗点です。中心暗点の中に小さな中心視野がある輪状暗点(いわば、ドーナツ状の暗点)は理解が非常に難しく、説明はさらに難しいようです。この方にも北九州に来ていただき、固視や眼球運動訓練を行いますと、0.3ぐらいしかなかった視力が翌日には0.5まで上がりました。どこで見たらよいかをチョット教えただけで、見たいものに目を合わすことができ視力値が上がります。このように彼女には能力があるのですが、自分でその能力を使うことはできなかっただけなのです。つまり、私は、見えることに気がつくように教授しました。これが「できるんだ」と実感させるロービジョンリハビリテーションです。さらにマイナスルーペ、遮光眼鏡は有効でした。それでも効率の良い文字処理は難しく、職場では音声パソコンを使うべきであるという結論に達しました。そして、その場で会社の上司に電話し、また診断書と情報提供書(歩行訓練も必要と付記)を書きました。その後、視覚障害者就労生涯学習支援センターでパソコンの専門訓練を受け職場復帰しました。
もう一点、重要な「産業医の役割」について話しておきます。 就労相談会をやればやるほど、会社の方々のご理解が必要なことを痛感しており、最近は産業医の皆さまとの連携に力を入れています。
ある女性の方が、最初に出会った産業医から「手帳2級は仕事ができない、明日から出社禁止」と言われたそうです。今まではちゃんと地下鉄で通っているのですが、手帳2級と伝えただけでこのようなことになりました。会社にとっては「視覚障害者は働けない」というイメージしかないのが現実です。工夫さえすれば働けることを会社の人は知らないし、ほとんどの産業医はそのことを知りません。しかし、一度連携の取れた産業医の方々からは、視覚障害者を紹介していただけるようになってきました。したがって、相談会ではまず当事者から産業医の皆様に現状を伝え、タートルの『Guide Book 視覚障害者の「働く」を支える人々のために』などを会社に渡すように話します。
以上の「ロービジョン就労相談会」をまとめます。 相談会では、これまで受けてきた、あるいは実施された眼科での診療内容やロービジョンケアについて聞き、相談者が持参した手帳や書類から得られる視機能情報と、職場などでの問題点を突き合わせ、その改善点を考えていきます。さらに検査や情報が必要な場合には、眼科やロービジョンクリニック等の受診を勧めます。産業医との連携が必要な場合は、眼科主治医から産業医への視覚情報の提供と共に、必要な配慮事項を記入した情報提供書を書いてもらうよう促します。
また、「職業リハビリテーション」の必要性を話し、紹介します。これには視覚障害者の方の職場復帰への強い意思と努力が必要です。文字処理能力を向上させ、移動技術を上げ、コミュニケーション能力を十分に付けたうえで職場改善も必要であることを話します。
ご本人に何とかしたい気持ちがあるのなら、「何とかする方法を相談会で皆と一緒に考えましょう」と語りかけます。職場復帰のためには産業医も重要な仲間であることを付け加えます。 そして、我々は、能力開発のための指導員の育成と訓練所の確保、訓練先の充実とジョブコーチの育成を制度として作っていかないといけないと思います。
以上、本日の話をまとめますと次のようになります。 ロービジョンケアのスタートは、眼科のロービジョンリハビリテーションで、4つの時期に行うべきと考えています。まず、眼科初診時に、「普通に生きていける」というメッセージを眼科医療は出さなければいけません。次は学校の選択の時です。その次は「一般就労も可能である」という就労選択の時、そしてもう1つが家族を持つ時にも背を押す必要があります。これらの節目節目の間は寄り添いながらのケアが必要となります。寄り添うケアには、医療では看護師さんが適任ですが、この分野が得意な福祉や教育の力に頼りたいところです。
最後に、「障害の告知」は、「普通に生きていけることを伝える」「工夫すれば普通に生きていけることを伝える」ということだと思っていることを皆さまにお話して講演を終わります。 どうもご清聴ありがとうございました。
追記:常々患者の皆さんや視覚障害の皆さんが私のロービジョンケアの先生だと思っています。私のこの20年は、ロービジョンケアとの関わりを皆様から学んできた20年でした。2006年に工藤さんらと執筆した医学書院の『ロービジョンケアの実際』第2版を統計や就労のところを書き直した5刷を2016年3月に出しましたので、お読みいただければ、うれしい限りです。
【〜タートルより〜協力セミナーのご案内!】
◎第9回医療が関わる視覚障害者就労支援セミナー
テーマ:「眼科における就労支援と職業リハビリテーション」
期日:平成29年5月21日(日)12:00〜15:00
会場:じゅうろくプラザ5階小会議室(岐阜市文化産業交流センター)
交通:JR名古屋駅から快速で約20分
オーガナイザー:
北九州市立総合療育センター 高橋 広
認定特定非営利活動法人タートル(中途視覚障害者の復職を考える会) 工藤 正一
※事前登録・会費:必要ありません
誰もが目に異常を感じたら、最初に訪れるのが眼科である。眼科では、それぞれのライフステージに応じて、適切な支援が求められる。特に働き盛りの中途視覚障害者にとって、職業の維持・継続ができるかどうかは切実である。そのような患者に対しては、就労継続のためのロービジョンケアが必要である。眼科における就労支援は難しいと思われているが、実際にはどのような支援が眼科で行われれば良いのだろうか。
本セミナーでは、まず、岐阜県におけるある眼科クリニックの視能訓練士から、これまでに関わった経験を発表してもらい、就労支援にとって何が大切かを考えたい。その結果、ハードルが高いか低いかではなく、就労支援が必要と思ったら、在職中にロービジョンケアを開始する。早期に医療から、「視覚障害があっても働ける」とのメッセージを出し、背中を押してあげる。そのためには、眼科として何か特段の準備が必要なのか。必要だとしたら、どのような準備が必要なのかを、参加者で一緒に経験を出し合い考えてみたい。
その一方で、確かに視覚障害者の就労支援に携わるためには、一定の準備は必要である。つまり視覚障害リハビリテーションについて知っておくことが必要である。それは、福祉系と労働系に分かれるが、いわゆる自立訓練(機能訓練)は前者に属し、職業訓練は後者に属している。
そこで、本セミナーでは、労働系の職業訓練施設としてわが国の中核をなす国立職業リハビリテーションセンターの役割とその実際について理解を深めたい。そのために、同センター職業訓練部、職業訓練指導員相良佳孝氏に講演をしてもらう。その中で、職場復帰支援の事例についても紹介してもらいながら、自立訓練(機能訓練)と職業訓練の特徴とその違いを明らかにし、両者の有機的な連携について考えたい。また、視覚障害者のための訓練施設そのものが少ないため、いかにしてそれらにアクセスするか、地域にそれに代わるものがあるかどうかについても情報交換したい。
他方、平成28年4月から、障害者差別解消法、改正障害者雇用促進法が施行されたところでもあり、いわゆる合理的配慮に関して問題や課題を持って本セミナーに臨む参加者もいるだろう。中途視覚障害者が働きつづけるためには、眼科医と産業医の連携も大切であることから、それらのことについても、意見交換できるようにしたい。
・事例を持ち寄っていただくと、ケース検討もいたします
・討論・意見交換の希望者は下記の担当までご連絡ください。
担当:
高橋 広(北九州市立総合療育センター TEL 093-922-5505)
工藤正一(認定NPO法人タートル 事務局 日本盲人職能開発センター 東京ワークショップ内 TEL 03-3351-3208
又は工藤携帯090-8893-7169)
【第18回日本ロービジョン学会学術総会の詳細は以下のサイトをご覧ください】
第18回 日本ロービジョン学会学術総会(2017年5月20日・21日 じゅうろくプラザ)
http://www.lowvision2017.jp/
【職場で頑張っています】
『私らしく生きていこう!』
会員 立澤 千加子(たつざわ ちかこ)
千葉県在住の立澤です。 私は、1996年に障害者手帳2級を視野障害で取得しました。発症は11歳の時で、ステロイド剤による緑内障です。右目はわずかに光を感じる程度、左目は矯正視力はありますが、中心視野は5度未満です。幼い頃に、発症してから今のところ、急激な進行はありません。視力はあったので、障害者としての認定は、長期間されませんでした。そのような事情により、普通学校で学んできました。
小学5年生の時だったと思います。当時、私は足が速くリレーの選手に選ばれ、いつも通りに走ったのですが、コーナーで白線を見失ってしまい、全校生徒が見ている中、走れなくなってしまいました。事情を知らない先生に激しく叱咤されたのを覚えています。
当時の主治医からは、「あなたは視力があるのだから普通の人と同じ」と言われつづけ、周囲の理解も得られませんでした。それでも、視野が狭いために起こりうる苦難は多々あり、乗り越えられたのは若さゆえだと思います。
20年前に、眼科医を変えた際、「障害者手帳を持っているか」と問われ、「持っていない」と答えると、「すぐに申請しなさい」と言われるがまま、手帳を取得しました。たぶん、5級程度かなと思っていたら、なんと2級ではありませんか!調べてみると、重度障害となっています。家族も、そんなに悪かったのかと愕然としたようです。
当の本人も最初は、かなり落ち込みましたが、手帳の威力を知るにつれ、考え方を180度変えました。そして、この目の状態でよくぞ、二人の子供を怪我や事故にあわせることなく、育てられたのは、相当に神経を使っていたのだと実感しました。
障害者手帳を取得して、私は肩の荷がおり、正々堂々と目が不自由であることを隠すことなく、人生を送っています。
今、働いている会社は外資系の生命保険会社です。当然のことながら、障害者採用です。職場のPC環境は、PC_TalkerとZoomTextを入れてもらっています。生命保険会社に入社すると、一般課程試験を受けるのが常となっており、受験に際して、時間延長は認めてもらえませんでしたが、問題用紙を拡大し、直接に問題用紙に記入する方法で受験しました。職務内容は、反社会的勢力のスクリーニング業務に携わっています。ただ、業務の詳細については記載することができず残念です。
もう少しレベルアップしたい、一般社員に引けを取らずに仕事がしたいという気持ちと、もうこれ以上、眼に負荷をかけたくないという、相反する考えに、葛藤する時もあります。そのような私にヒントをくれたのが、『他者の期待を満たすために生きているのではなく、自分が自分のために自分の人生を生きていないのであれば、一体誰が自分のために生きてくれるのであろうか』という、以前に読んだ本の一節です。
ここで話は変わりますが、私には、小学一年生になる初孫(男の子)がいます。最近、一緒に出かけたり旅行へ行くと、必ず段差や階段で声をかけてくれます。そして、手を引いてガイド役をかってくれます。トイレへ行きたい時なども、手を引き私が出るまで、トイレの前で待っててくれます。これも、娘の教育の成果でしょうか。(笑) 小さなジェントルマンに助けられながら、世代交代の日が近づきつつあるのを、嬉しい想いで実感しています。
末筆ですが、今回、このような機会を与えて下さった事を感謝するとともに、タートルで出会った仲間たちは、私にとって生涯の支えとなることでしょう。
【お知らせコーナー】
◆ ご参加をお待ちしております!!(今後の予定)
◎タートルサロン
毎月第3土曜日 14:00〜16:00
*交流会開催月は講演会の後に開催します。
会場:日本盲人職能開発センター(東京四ツ谷)
情報交換や気軽な相談の場としてご利用ください。
◎平成29年度認定NPO法人タートル通常総会・記念講演
平成29年6月3日(土)10:30〜17:00
AM 通常総会 PM 記念講演とサロン
会場:日本盲人職能開発センター(東京四ツ谷)
講師:公益財団法人 東京しごと財団 障害者就業支援課 委託訓練推進班 コーディネータ 杉本 薫 氏
演題:『在職者訓練の現状と課題』
◎交流会
9月16日(土)(予定)
※詳細が決まり次第お知らせ致します。
◎その他イベント
●4月23日(日)
「アイフェスタ」出展決定。
*詳細は神奈川県ライトセンター及びJRPS神奈川支部にお問い合わせください。
●5月21日(日)
「第9回医療が関わる視覚障害者就労支援セミナー」に協力
*詳細は本情報誌9ページを参照ください。
◆一人で悩まず、先ずは相談を!!
見えなくても普通に生活したい、という願いはだれもが同じです。職業的に自立し、当り前に働き続けたい願望がだれにもあります。一人で抱え込まず、仲間同士一緒に考え、フランクに相談し合うことで、見えてくるものもあります。気軽にご連絡いただけましたら、同じ視覚障害者が丁寧に対応します。(相談は無料です)
◆正会員入会のご案内
認定NPO法人タートルは、自らが視覚障害を体験した者たちが「働くことに特化」した活動をしている団体です。疾病やけがなどで視力障害を患った際、だれでも途方にくれてしまいます。そんな時、仕事を継続するためにはどのようにしていけばいいかを、経験を通して助言や支援をします。そして見えなくても働ける事実を広く社会に知ってもらうことを目的として活動しています。当事者だけでなく、晴眼者の方の入会も歓迎いたします。
入会金はありませんが、入会時に初年度年会費5,000円の納金をお願いいたします。
◆賛助会員入会のご案内
☆賛助会員の会費は、「認定NPO法人への寄付」として税制優遇が受けられます!
認定NPO法人タートルは、視覚障害当事者ばかりでなく、タートルの目的や活動に賛同し、ご理解ご協力いただける個人や団体の入会を心から歓迎します。
年会費は1口5,000円です。(何口でも結構です)
眼科の先生方はじめ、産業医の先生、医療従事者の方々には、視覚障害者の心の支え、QOLの向上のためにも賛助会員への入会を歓迎いたします。また、眼の疾患により就労の継続に不安をお持ちの患者さんがおられましたら、どうぞ、当認定NPO法人タートルをご紹介いただけると幸いに存じます。
入会申し込みはタートルホームページの入会申し込みメールフォームからできます。また、申込書をダウンロードすることもできます。
URL:http://www.turtle.gr.jp/
◆ご寄付のお願い
☆税制優遇が受けられます!
認定NPO法人タートルにあなたのお力を!!
昨今、中途視覚障害者からの就労相談希望は急増の一途です。また、視力の低下による不安から、交流会やタートルサロンに初めて参加して来る人も増えています。それらに適確・迅速に対応する体制作りや、関連資料の作成など、私達の活動を充実させるために皆様からの資金的支援が必須となっています。
個人・団体を問わず、暖かいご寄付をお願い申し上げます。
★当法人は、寄付された方が税制優遇を受けられる認定NPO法人の認可を受けました。
また、「認定NPO法人」は、年間100名の寄付を受けることが条件となっています。皆様の積極的なご支援をお願いいたします。
寄付は一口3,000円です。いつでも、何口でもご協力いただけます。
寄付の申し込みは、タートルホームページの寄付申し込みメールフォームからできます。また、申込書の書式をダウンロードすることもできます。
URL:http://www.turtle.gr.jp/
≪会費・寄付等振込先≫
●郵便局からの振込
ゆうちょ銀行
記号番号:00150-2-595127
加入者名:特定非営利活動法人タートル
●他銀行からの振込
銀行名:ゆうちょ銀行
金融機関コード:9900
支店名:〇一九店(ゼロイチキユウ店)
支店コード:019
預金種目:当座
口座番号:0595127
口座名義:トクヒ)タートル
◆活動スタッフとボランティアを募集しています!!
あなたも活動に参加しませんか?
認定NPO法人タートルは、視覚障害者の就労継続・雇用啓発につなげる相談、交流会、情報提供、セミナー開催、就労啓発等の事業を行っております。これらの事業の企画運営に一緒に活動するスタッフとボランティアを募集しています。会員でも非会員でもかまいません。当事者だけでなく、晴眼者(目が不自由でない方)のご支援も求めています。積極的な参加を歓迎いたします。
具体的には事務作業の支援、情報誌の編集、HP作成の支援、交流会時の受付、視覚障害参加者の駅からの誘導やスカイプの操作等いろいろとあります。詳細については事務局までお気軽にお問い合わせください。
☆タートル事務局連絡先
Tel:03-3351-3208
E-mail:m#ail@turtle.gr.jp
(SPAM対策のため2文字目に # を入れて記載しています。お手数ですが、上記アドレスから # を除いてご送信ください。)
【編集後記】
全国のタートル会員の皆様、お元気でお過ごしでしょうか? お手元に今回の情報誌が届く頃は、2017年ももう4分の1が過ぎようとしていますね。 毎年同じことを思うのですが、どうして時間はこんなにも早く過ぎ去ってしまうのでしょうか?慌しい師走を過ぎ、お正月を満喫したかと思えば、あっという間にまた仕事。そして情報誌の編集…。気がついたらまた師走になるのでしょうか?
この記事を書いている今日この頃は「インフルエンザ」が猛威を振るっていて、私も体調が今ひとつの中なのであります。毎年インフルエンザ予防接種をしているのに、職場でも多くの同僚がお休みをしています。何とかならないのでしょうかねぇ?
ところで、たまには美味しい食事をなどと思いたちまして、思案した結果「ミシュランガイド」をチェック!和食を選びいざ出発したのですが「住宅街の中〜探すのに一苦労…」といったコメントがたくさんあり、(覚悟はしていましたが)1時間近く歩き回りようやく見つけたそのお店は、予約不可。そこでまた、ずっと並んで待たなければならなかったのでした…。味は勿論ですが、それだけでなく、お店の雰囲気や店員さんの物腰なども素晴らしく、全体の評価でまた寄りたいと思わせるのでしょうね。
さて、今回の「情報誌」はいかがでしたでしょうか?これからも、会員の皆様に楽しんで頂けるような誌面作りを目指していきたいと思っております。今後とも、より一層のご愛顧を賜りますようどうぞ宜しくお願い致します!!
(市川 浩明)
奥付
特定非営利活動法人 タートル 情報誌
『タートル第38号』
2017年2月7日発行 SSKU 増刊通巻第5691号
発行 特定非営利活動法人 タートル 理事長 松坂 治男