情報誌タートル 第35号

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【巻頭言】

『受容の階段とタートルとの出会い』

理事 神田 信(かんだ しん)

はじめに、この度の熊本地震で被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。

さて、私は網膜色素変性症がわかって約25年になる。徐々に進行してやがて目が見えなくなると診断され、いろいろなことが頭の中をよぎったことを今でも鮮明に覚えている。目が見えなくて生きて行けるのか?正直にそう思った。そして働いていけるのか?医師の言葉で「定年まで働いている人はたくさんいる」と言われたような気がする。60歳定年と考えると残すところ10年を切った。ぼんやりゴールが見えてきたが、ここ数年視力低下が激しく今までと違った試練が待ち構えていそうである。

振り返ると、診断された当初は夜盲があるくらい。たいした不自由はないが、目が見えなくなるということに苛まれとても辛く苦しかった。見えなくなったらどうなるんだろう?特に職場では病気を悟られないように必死なあまりに、不自然な行動も多くとってしまったりした。今では大好きな飲み会も暗い店だとどうしようと憂欝になった。見えなくて失敗したくないので行きたくなかった。誘いを断る理由に苦労したりした。網膜色素変性症であることを隠し、見えない事より見えなくなる事を知られたくなかった。上手くいっている仕事から外されたくなかったのだ。スポット照明の立食パーティーや避けきれない接待が終わるとホッとした。また、見えないと言えなくて失敗したことを繰り返し悔やんだりした。

段階的に上司や一部の人に話してきたが、7年程前に人事に障害者手帳2級であることを報告。これにより、私が網膜色素変性症で視野が狭く暗いところは見えないことをカミングアウトした。すると、どうだろう。見づらくて困っているとき、これまでにはなかった「大丈夫ですか?」といった声をかけてもらえるようになった。私も言いづらかったが、周りで見ていて危なっかしいと思っていても、気に留められなかったり、薄々知っている人も声をかけづらかったのである。こちらからも頼み易くなった。これまで、解らないパソコン操作を聞いても、マウスポインターで「ここをクリックして」と言われても、どこのことかわからないのに、つい解った調子で答え、理解できなかったりしたが、解るように指でさして確認するようにしてもらった。基本的に人はみな優しい心を持っていると思う。それだけに、こちらが不自由を発信しないと、触れてはいけないこと、差し出がましいことと思う心理が働くようである。

実はまだ会社では白杖をついていない。帰り道は誰かに掴まって一緒に帰ってもらっている。だったら白杖をついても一緒のようだがそれがそうではない。今までがそうであったように、きっと白杖をついたってそう悪いことはおこらず、むしろ良い事ずくめであろう。病気を受容できない甘えである。タートルでは待った無しで見えなくなった人がたくさんいる。道路交通法では障害者手帳を取得すると白杖をついて歩くことになっており、トラブルがあると不利になる。これまでの経験より、白杖をついた方が楽で良いことはわかっている。しかし、会社の人にそこまで悪くなったのかと思われたくない心理が働いている。ただ、そんなことよりあと10年、会社でどう働いて行くかが大切である。

タートルにはずいぶんと救われてきた。メーリングリストで自己紹介をした。すると数名の方から励ましの言葉をいただいた。割と事細かく書いたことが良かったのだと思う。タートルサロンや交流会、二次会も極力参加した。そうする事により多くの情報を得ることができた。多くの人と知り合い刺激や情報交換をさせてもらった。同じ境遇の人に多く知り合えたことはとても大きな財産である。初めて、やがて目が見えなくなるといわれた時には想像していなかった、案外良い人生を送らせてもらっている。

これからいよいよ本格的な視覚障害者になって行く。タートルの皆さんの力を借りながら、最期にも良い人生だったと思えるように精進していきたい。

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【3月交流会講演】

『目の不自由な方への情報ケアとiPad、iPhone活用』

株式会社Studio Gift Hands
代表取締役・医師 三宅 啄(みやけ たく)氏

眼科の三宅と申します。今日ここに来て、非常にいろいろなことを思い出していました。ちょうど今日から5年前ですが、私が大学病院を辞めて、「視覚障害者の方にiPadやiPhoneが使えるのではないか」ということで最初に訪れた施設が、実はこちらになります。あれから5年が経ちました。世の中にも様々な変化が起こってきたと思います。それで、この5年間の自分の活動と、それによって世の中がどう変わったのか、前半ではその振り返りをしていきたいと思います。

今日は「iPhoneやiPadの最新のアプリについて聞きたい」という方もいると思いますから、直近で一番盛り上がっているアプリなどを少し実演して、最後に私たちがこれから作ろうとしている神戸のプロジェクトが何かという話をしようと思います。見える方のために、私のiPadの画面をプロジェクターに投影しながら話をしたいと思います。

実は今から5年半ぐらい前、ちょうど東京医大で眼科医だけをしていた頃、私は1つの壁にぶつかっていました。その壁は何かと言うと、私の実家は眼科一家ですが、私自身が眼科医として大変に大きい障害を持っていることに気づいてしまい、それが越えられないところで非常にメンタルダウンをしていましたが、それは何かと言うと、手術が苦手だということでした。

正確に言うと手が震える癖があって、ドクターになってからもそれがなかなか治りませんでした。ある程度の手術はできるのですが、それ以上には絶対にいけない壁にぶつかっていました。これはもう眼科医を辞めるしかないと思って、精神科医になろうかなど、いろいろとキャリアに悩んでいた時でした。

その時、ちょうど説明のために使っていたiPadが、患者さんから非常にウケが良かったのです。白内障手術の説明をすると、「手術の内容はいいから、この板はこの病院で買えるのですか」という質問が殺到して、「これは見やすいんだ」と気づいたのが一番最初でした。

患者さんに説明するのは本当に好きで好きで仕方なかったので、あらゆる説明用の資料をiPadの中に入れていました。「今日の手術はこうやってやります」というような動画を入れて、患者さんが「ああ、見える」などと言うのを楽しんでいたのが始まりでした。

ちょうどその頃、5年半前ぐらいに「iPad2」というiPadの2機種目が出ました。その時にiPadの後側にカメラがついたのです。それで、写真に撮って拡大したら見えるかと思い、患者さんに写真を撮って見せたら「非常に良く見える」という話になりました。もしかしたら拡大読書器のように使えるのではないかと思って、東京医大での最後の仕事として「ルーペと拡大読書器とiPadで拡大した場合に、どのぐらい読み速度が違うか」というような比較検討試験をやりました。

そうしたら「あまり変わらない」という結論でしたが、持ち歩けるし、いろんな姿勢で読めるので、「これは良い」という結論になりました。大学を辞めたあとのセカンドキャリアとして、私は「眼科を辞めるのはちょっと…」と思っていたので、敢えて「治さない医療をやってみようか」と思い、5年前に私の挑戦が始まりました。

それで、出会った職業が産業医の仕事でした。産業医というのは企業ドクターです。企業の中で健康診断を診たりするのが元々の仕事ですが、いまの産業医に求められるのはそこだけではありません。メンタルケアであるとか、この4月から始まる障害者雇用の合理的配慮に対するアドバイスなど、次々と産業医の仕事が増えています。

5年経ちましたが、結果的には「視覚障害者の合理的配慮がわかる産業医」と検索しても、ほとんど出て来ないのが現状です。ですから、そういう点からも講演できる機会をいただくようになりました。そのような中でiPadを持って、「本当に目の悪い人に使えるのかな」と思いながら、最初に来た施設が日本盲人職能開発センターです。こちらで、「まず、私は何をすれば良いですか」「視覚障害者の世界はどういう世界ですか」ということを聞き、いろいろなアドバイスを受けて全国をまわって行きました。

その後、アップルストアに行き説明をしました。iPadには眼の悪い人が使いやすい機能がたくさんついています。例えば、こういう端末では一般的に2本の指で拡大縮小が簡単にできますが、文字を見る時に背景が黒い方が見やすい人であれば、わざわざ設定画面まで戻らなくても、iPadにはさわれるホームボタンが1つありますから、そこにショートカットで白黒反転をつければ一瞬で色が反転できるのです。また、(プロジェクターの写真を指し)この状態では、私たちの記念写真も衝撃写真のようになっていますが、写真を見る時にはこれも元に戻せます。

ここまで教えないといけないのです。ただ「色反転機能がついている」と教えて、ずっと反転したまま使ってしまうと、使い心地は良くないのです。こういうことについても、アップルストアの中で「もっとこうした方がいいよ」と、積極的にスタッフに伝えていったところ、バージョンアップの度にそれが次々と変わっていきました。

「視覚障害者向けの機能が沢山あるという話をアップルでやりましょう」ということで、2012年の4月にアップルストア銀座で私は初めてのイベントを開催し、約200人の人が会場に集まりました。アップルも非常に驚いて、「先生、これはぜひ連続企画でやってください」ということになりました。

そこから、まずは弱視向けのiPadの使い方を「アップルストア銀座の中でやろう」という試みが始まりました。当時は、ストアスタッフでもそういう機能があることを全く知らなかったり、どういうふうに使うのかよくわかっていないこともありました。

この1回目セミナーを行った後の一番大きな変化は、これは皆さんもあまり気づいていませんが、「アクセシビリティ」という障害者機能で、歯車マークの「設定」というアイコンの中で決められる項目です。この歯車マークを押して設定の中に入った時に、左側の「一般」という項目を押すと、右側に本体の情報などがいろいろ出てきますが、その中に「アクセシビリティ」と書いてある項目があります。

このアクセシビリティですが、昔は一番下にありました。さらに「視覚サポート」などもずっと下の方にあって、目の悪い人が見つけるにはかなり大変でしたが、この講義をした次のバージョンアップでは、いきなり一番上に来たのです。ここは本当にすぐ変えてくれる会社だということがわかって、アップルとしっかり向き合っていこうと思いました。やる以上は、視覚障害者にきちんと対応できるスタッフを絶対に各店舗に配置してもらう約束で、2年目には全国ツアーを実施しました。

そうしてスペシャリストを各店舗に配置していただきましたが、また課題が出てきました。もう弱視向けはわかったので「全盲向けの『Voice over』を教えて欲しい」というニーズが多くなってきたのです。

デジタルなものを教える上で一番大事なことは、「アナログ的な入り口である」ということでした。そこで、発泡スチロールを組み合わせたものが、「さわれるiPhone」と「さわれるiPad」です。立体的に「液晶画面の範囲がどこまでか」とか、「アプリは画面にどう並んでいるのか」ということを、指で触ってわかるような模型を作りました。

Voice overの講義をするときは、これを用いてまず触っていただきました。「大きさはこれぐらいです」「背面の角にカメラがついています」等を理解していただいてから、Voice overといういわゆる全盲モードでの使い方を教え、全国のアップルストアのスタッフに「こうやってください」と伝えたところ、以降は全国のアップルストアで、視覚障害者向けのワークショップが最低でも月に1回は行われる形になりました。

そして、3年目に全盲向けのワークショップ等を行いました。その頃、iPS細胞の網膜再生医療を世界で初めて行なった神戸の理化学研究所にいらっしゃる高橋 政代先生と一緒に、新潟で講演をする機会をいただきました。終わったあと、高橋先生から「神戸に非常におしゃれで視覚障害者が元気になる病院を作りたいから、そこのディレクターをやってくれないか」という話になりました。その話が後で出てくる「神戸アイセンター」や「NEXT VISION(ネクストビジョン)」という話につながっていきます。

また、別な分野で発表していたところ、東京大学の駒場にある先端科学技術研究所の教授が私と大変似ていることをやっていると、目黒区眼科医会の先生が教えてくれましたので、講演を聞きに行きました。そこで聞いたのは、発達障害や学習障害で文字の読めない子どもたちが、テクノロジーを使うことで不便さを感じずに授業に参加したり、就労を果たしているという話でした。

皆さんの中にもメガネをかけて生活する方は多いと思いますが、メガネをかけた状態の視力でどのくらいものが見えるかは、実際に皆さんが生活する上での一番大事な視力になると思います。同じように、子どもにとってもテクノロジーを使った上での計算能力や、テクノロジーを使った上での記憶力が(重要であって)、そこで闘わせなければ駄目だという話をしていました。まさにそのとおりだと思いました。

「矯正視力があるのに、何で矯正知力はないのか」という話を、その先生がしていました。そして、私は東大の先端研の人間支援工学部に所属することとなりました。

この5年間で所属も様々に増えてやることも増えましたが、活動の中で大きく変化したことがいくつかあります。

1つは、アップルストアで視覚障害者向けのワークショップが月に数回、全国で行なわれるようになったことです。それから、眼科の先生たちにとっても、視覚障害者がiPhoneやiPadを使うことは当たり前の世界になりました。なぜなら教科書にも載っていますし、若手ドクター向けの教育動画や、ロービジョンケア項目の最後には「目の悪い方へのiPadやiPhoneを使った情報ケア」が、項目として入っているのです。きちんと勉強している眼科の先生であれば、「使える」ところまでは知っています。今後は「どこに行けば勉強できるのか」ということで、場所を増やすことが次の課題になるかと思います。

もう1つ私を後押ししてくれたのは、眼科の保険点数がつくようになったことです。2012年の4月より「ロービジョン検査判断料」ということで、iPhoneやiPadを紹介、指導をした場合、きちんと資格試験を受けてきた先生がクリニックや病院に常勤としていれば、情報料を頂けるようになりました。

患者さんからすると「お金を取るのか」と思うかもしれませんが、お金が取れない限り絶対にクリニックはやりませんから、すごく大きな変化になります。それ以来、全国の眼科医会から「iPadやiPhoneはどうやったら使えるか、講演してくれないか」という要望があり、今ではほとんど全国の眼科を回っています。

もう1つの変化ですが、私が初めてアップルストアでセミナーをやった時にちょうど来ていた、私より3つぐらい年下の方がいます。彼はユニバーサルスタイルという会社の社長ですが、本人が視覚障害の柔道選手でメダリストです。彼がぜひ挨拶に来たいということで、私の外来に来ました。彼とは「年も近いし、友達になろう」ということで、目が悪いとどこが困るかという話を聞いたり、彼にiPadの使い方を教えたりしていましたが、私は産業医をやっていく上で「視覚障害者の就労にiPadがつながらないか」ということが、どうしても気になっていたのです。

井上眼科病院のITサポート部で、自ら目が悪い人として、もっと悪い人や同じぐらいに悪い人に対して、どこが行き詰まるかを含めて、情報ケアをする職業でiPhoneやiPadの使い方を教えたりも含め、働かれている方がいます。このことは私にとって最高の成功事例であって、これが仕事になったのはすごく大事なことです。井上先生が発表でもおっしゃっていましたが、眼科の病院で視覚障害者が障害者雇用で雇われているのは、たぶんその方だけだと思います。しかし、これは変な話です。なぜなら一番目の悪い人に詳しいはずの眼科病院が、障害者雇用で視覚障害者を雇っていない事実があるからです。

やはりロービジョンに対して、それは病院がやることではないと思っていた過去の部分があるかもしれないですし、実際にどうしたら良いかわからない部分もあると思います。だから、iPhoneやiPadなどの入口として入りやすい部分をケアできる人、それが専門の仕事になっていくことが、今後は大きな希望のロールモデルになるのではないかと思います。

5年間経過し、やっと眼科の先生たちの意識が変わりました。そして、アップルストアの意識も変わりました。視覚障害者向けのアプリも大幅に増えました。アプリケーションを作っている方たちからもよく連絡を受けますし、今では「作りたい」という声が次々と上がっています。次のステップは、箱になるようなものであるとか、そこに行けばどんなに情報がない人でも少し情報が得られるものを作ろうということで、それがネクストビジョンや神戸アイセンターを作る話につながっていきます。

まず、弱視の方の話になりますが、弱視向けについては、アプリだけでなくて端末自体の性能がかなり良くなりました。例えば、iPadはブロック状に置かれているアプリを押すと起動しますが、このブロック自体が見えないことに対しては、画面を無理やりズームするような「アクセシビリティ」の「ズーム機能」があります。ズームすると画面が無理やり拡大される機能ですが、弱視の人がよく使う機能になります。ただ、画面が大きくなりすぎるというか、どこを見ているのかわからなくなってしまうのです。

ところが、最近のものには、もう少し使いやすいズームが入っています。そのズームを使うと、画面上に虫眼鏡を出すことができるようになったのです。この虫眼鏡の中の大きさは自分で変えられます。よく、弱視の方がiPadを使っている時に、iPadの上に虫眼鏡を置いて見ている方がいます。面白いなと思いますが、虫眼鏡はやはり拡大率が決まってしまいます。しかし、デジタル虫眼鏡なら好きなだけ拡大したりできるし、虫眼鏡の中の色を反転する機能を付けたりすることもできます。

拡大して見たい時は、だいたい文字が見たい時だと思いますから、反転していた方が良い場合もあります。こういう特殊効果を付けた虫眼鏡を画面上に簡単に出せるようになったことなどが、新しいバージョンに入っている弱視向けの機能です。その他にも文字の設定を最初から大きくするとか、コントラストを強くするなど、様々な機能があります。

今日はどちらかというと音声の話が良いと思ったので、iPhoneを使ってそちらを紹介したいと思います。いま私のiPhoneがプロジェクターに映っていますが、普通の状態であれば画面を1個押すと選べる状態になります。こちらを、先ほど言っていた全盲向けの「Voice over」モードにいまから切り替えます。私のiPhoneでは、ホームボタンと言われるボタンを3回押した時のショートカットにVoice overが設定してあるので、3回ホームボタンを押すごとにVoice overがオンまたは、オフになります。

これはホームボタンで切り替えることもできますが、いまもっと目の悪い人に便利なのが、喋るだけでいろいろなことのできる「Siri」という機能です。そのSiriにお願いしてVoice overをつけたり切ったりすることもできます。ここは電波が入っているので、Siriを使ってVoice overをつけてみます。

(三宅) Voice overオン。
(Siri) Voice overをオンにしました。

これでVoice overがオンになりました。この状態で触ると「開くにはダブルタップします」と喋るようになります。移動は指でさわるのではなく、フリックという画面を左右に1回こするような操作をすると「次へ、次へ」「戻る、戻る」という感じで移動ができます。

ここで全盲の方がよく使われるプログラムをいくつか紹介します。

『Light Detector』というアプリは、明るさを検知するアプリです。明るい方向にiPhoneを向けると音が高くなって、暗い方向に向けると音が低くなります。これは明るさを検知するだけのアプリですが、これを使って部屋の電気をつけたり消したりとか、あと電化製品の電源が入っているか消えているかを、液晶画面に押し当てながら認識するなど、使い方は様々です。

その他、『Color Say』。画面の真ん中にあるものが何色かを読んでくれるアプリです。全盲の方で、靴下の左右が同じかどうかを調べるのに使っている人もいます。

『コンパス』。「方位を正確に調べるためにデバイスを水平に保ってください」とSiriが言いましたが、いまiPhoneの長辺が向いている方向を方角で教えてくれます。だから、自分が回転すると「133度南東」「348度北」という感じで方角を教えてくれます。これは、全盲の方が電車を降りた時に、「コンパスを起動」とイヤホンに向かって話しかけて、ホームの右側に進んだら北か、左側に進んだら北かというように、大まかな方角を知るために使っている方がいます。

『マネーリーダー』。このアプリを起動して、Siriが「通貨のスキャンが可能な状態です」と言ったら、お札を下にかざすと「1,000円」「1,000円」とお札を識別してくれます。

また、もっと面白いアプリがあります。私はこの目薬が何かということを、このiPhoneに覚えさせています。そこで何であるかを読み上げてもらいます。まず、『レコグナイザー』というアプリを起動します。

(Siri) 「レコグナイザー設定」「レコグナイザー実行中」「ご登録アイテム」
(録音された音声)「1日2回さす目薬」

「1日2回さす目薬」と、先にiPhoneに覚えさせておきました。これで似たような目薬でも、それぞれに家族の方が1回覚えさせておけば、次から目薬にかざせば良いわけです。それが何かという画像認識を自分で覚えさせることができます。このようにタグ付けのできるアプリも出てきています。

他にも地図のアプリがあります。

(Siri) 「ViaOpta Nav」

名前が非常にわかりにくいのですが、『ViaOpta Nav』というアプリです。これをちょっと起動してみます。一番最初に開くと、基本的に画面が三分割で出てきます。右上が検索になっています。

(Siri) 「新しい目的地 ボタン」

そこを2回トントンと押します。

(Siri) 「戻るボタン」「テキストフィールド」「*編集中」「文字モード」「住所を入力」「先頭に挿入ポイント」

ここで、目的地の駅を言葉で入れてみたいと思います。

(三宅) 「四ツ谷駅」
(Siri) 「挿入された『四ツ谷駅』」「オーケー」

これでオーケーです。

(Siri) 「住所を検索しています」

いま検索をしています。

(Siri) 「新宿区、およそ460メートル」「どうしますか」「ここへ向かう ボタン」

ここへ向かうというのがあるので、ちょっとこれを起動してみます。

(Siri) 「ナビを開始 ボタン」

ナビを開始と言っているので、そこを起動してみます。

(Siri) 「進む方向を知るには、デバイスを持ったままグルッと回ります」

何を言いたいかというと、目が悪い人がナビを使う時に一番よく言うのは、「最初にどちらに向かって進めば良いか」ということです。このアプリを持った状態で回転します。

(Siri) 「このまま100メートル道なりです」

この様な感じで、進むべき方向にiPhoneが向いた時に「そちらに進んでください」と言うところから始まるアプリです。地図は一切出て来ません。ずっと「何百メートル先を左」とか「右」と言うだけです。これはもともと見えない人のために作られたアプリなので、そうなっています。

いま出ている「Apple Watch」という時計型のウェアラブル・デバイス(身体に付ける端末)と100%リンクしています。起動さえしてしまえば、あとは時計の方に表示が出て、自分の付けているイヤホンに音が入ってくる形になります。交差点など曲がるところが近づくとブルブル震えるなど、見えない人用の配慮や気づきの配慮のようなものが入っているアプリになります。

様々なアプリが出ています。アプリケーションは本当に毎日無限に生まれているので、あとは使い方だと思います。例えば、テレビ電話。 『FaceTime』というアプリですが、「誰々にFaceTime」と言えば、それでテレビ電話がかかります。その状態で遠くに住んでいる家族の方に、ちょっと何か見てもらうこともできます。牛乳パックの賞味期限であるとか、服のコーディネートを毎日見てもらっている方もいました。「この服と合うのは右から何番目のスカートか」と話しながら、服をかけているところをテレビ電話に写します。「右から3番目でいいんじゃない」「ちょっとベッドに置いてみて」と言って、「オーケー、それでいいと思うよ」というような話をして終わるのです。

これなどは、本当に目を貸してほしい状態の時に、デジタルで一瞬に相手を連れて来てくれるものだと思います。ただ、こういう講義をする時に私がいつも言っているのは「いくらテクノロジーが進んでも、テクノロジーだけで全部終わらせることは絶対にありえない」ということです。やはり、一番大事なのはその先にいる「人」なのです。

だから、一番簡単かつ無敵なアプリは、友人をつくることです。その人に電話をすればすぐに目を貸してくれるわけで、実はそれが一番大事なのです。

でも、近くに知り合いがいない人のためには、知らない人同士が支援するアプリも出ています。これは、当事者もしくは支援者がダウンロードすると「あなたは当事者ですか、支援者ですか」と聞かれるのです。「支援者です」と登録しておけば、世界のどこかで当事者がアプリを起動さえすれば、そのアプリに「誰かがいま呼んでいます」と表示が出ます。その時に暇な人がそれを押せば、当事者とテレビ電話がつながって、「あなたが見ているものは何々ですよ」というように数分間目を貸してあげるもので、マイクロボランティアと言われています。

今後大事なことは何かと言うと、やはりこういうものを普通に皆が持って、普通に使っている中で、ちょっと使い方をひねれば、お互いにすごく良いコミュニケーションツールになることです。いま、やっとそういう時代に近づいています。まだ自分の中で何に使うかはっきりしていなくても、何かあった時にはとりあえず電話としては使えるわけですから、まずは持ってみるということでしょうか。

家族との無料のテレビ電話に使うのもいいですし、そういう敷居の低いところから始めることが良いかと思います。今日は、アプリの最後に一番敷居の低い使い方をいくつか紹介しますので、それを見ていただきたいと思います。まず、一番敷居の低い使い方は「Siri」です。Siriは音声命令ですが、Siriに頼むとどこまで何ができるか紹介してみます。

例えば、患者さんから「困るんですよね」と一番よく言われる不具合の1つに、弱視の人がiPadでいろいろな地図や写真を見た時に、外に出ると眩しいので眼の瞳孔が閉じてしまい、iPadの画面が暗くて見えなくなってしまうことがあります。iPadの画面の明るさを最大にしたいけれども、画面が見えないから明るさの調整ができないジレンマがあると聞きました。

しかし、そういうこともSiriに頼めばすぐにやってくれます。Siriはこのホームボタンを長く押していると「何ですか」と聞いてくるのです。そこに話しかけるだけです。

(三宅) 「画面の明るさを最小に」
(Siri) 「はい。これが一番暗い設定です」

これで画面の明るさが最小になりました。

他にも様々なことができます。検索や、アプリを起動したり終了させたり、アラームをセットしたりすることができます。また、よく患者さんに言われるのがスケジュールの管理です。これもSiriが便利だと思います。

また、『リマインド』という機能もあります。これは、あとで思い出すように「何かを覚えておいて」という機能になります。

(三宅) 「家に着いたらゴミ出しをリマインド」
(Siri) 「はい。ご自宅に着いた時にリマインドします」

これは何かというと、このiPhoneには自宅の住所が入っているので、私が自宅に着くとブルブル鳴って「ゴミ出し」「ゴミ出し」と言うのです。また、「自宅を出る時にゴミ出しをリマインド」と言えば、家から出る時に「ゴミ出し」「ゴミ出し」と言います。それで「ああ駄目だ、ゴミを出さなければいけない」ということになります。

今までなら「覚えておくのは大変だ」「書いたけどどこに書いたかな」とか、「書いてあるけどよく読めない」など、いろいろな不便さであるとか、「何かもっと簡単にしてくれれば良いのに」という時に、近くに秘書がいて全部やってくれたらいいですね。でも、喋り方さえ間違えなければ、かなりのことをSiriが秘書としてやってくれるのです。見えない人にも、テクノロジーにスケジュール管理を任せることができる時代になっています。

最後に一つ紹介します。それは『Amazon』のアプリです。

(自動音声) 「何をお探しですか」

この『Amazon』アプリの検索のところにカメラボタンのようなものがあります。そのカメラボタンを押して商品に向けると、バーコードではなく映像からサーチかけて、その商品を引っ張ってきます。これはお昼に飲んだ「毎日1杯の青汁」ですが、『Amazon』でそのまま24本入りが買えることになります。バーコードリーダーでなくても画像認識で買えるところまで、テクノロジーは来ています。だから、これがどんどん進んで行けば、かざすだけで、それが何かわかる時代になっていくのかと思います。これが最新の状況になります。

『視覚障がい者向け使い方教室 for iPhone』というアプリ。これは当事者と支援者が2人ペアで使うアプリで、ずっと順番にやっていきます。まず、本体の形から説明が始まります。そして、Voice overでアプリの起動やメールの送信などの使い方について、iPhone上で練習をしながら進んでいけるものです。 ドコモでもauでもどの端末でも大丈夫ですし、iPadでもダウンロードできます。Voice overを使ってみたいけれど「何か難しそうだな」「最初ちょっとよくわからないし怖い」という人には、こういうアプリを使いながら家で勉強することのできる時代になってきたのかと思います。

最後にこれから私たちがやっていこうとしている「ネクストビジョン」と「神戸アイセンター」、あとは「isee!運動」は何かについて紹介したいと思います。

「isee!運動」は、神戸の高橋先生と一緒に、この2月にキックオフする形で始めたものです。サブタイトルに「視覚障害者のホントを見よう」と書いてありますが、これは視覚障害者向けのサイトではありません。視覚障害ではない人に「視覚障害者の世界を知ってください」というものや、企業の担当者などに「目の悪い人でもこういう働き方がある」というような可能性を示していこうとするサイトで、どちらかというと支援者や関係者・人事向けに今後動いていくようなサイトになります。

これとは別に「ネクストビジョン」というサイトがありますが、こちらは視覚障害者向けのサイトになっていて、そこが大きな切り分けになっています。どちらがどちらかわかりにくいので、どう説明したら良いのか、それが私たちのいま課題でもあります。

次に「isee!運動」は何かということです。私たちは来年(2017年)の12月頃を目途に、「神戸アイセンター」という新しい施設を作っています。どこにできるかと言うと、神戸の理化学研究所の横にある先端医療センター病院の隣で、神戸ポートアイランドの中になります。そこは何をやる病院かと言うと、もちろん普通の診療はやりますが、iPS関連の医療もやりますし、iPSに関わる基礎研究もやります。

もう一つ大きいのは「ロービジョン」というブースがあることで、そちらに関しては私がディレクターをしています。ニュースや新聞では「ロービジョンの訓練をする」と、かなり報道されていますが、訓練をする場所ではありません。空間的にもそれほど大きくないですし、情報センターということです。例えば「今はこういう視力でこういう働き方をしているが、どこに行ったら就労継続ができるのか」など、とにかく最初の一歩になるようなものにしたいと思います。

せっかく場所ができているので、ただのコールセンターではなく、そこに行くと日々様々なイベントが行われる形を考えています。例えば、いまやることが決まっているのは、ブラインドの人のクライミングです。病院の壁が一面クライミングの壁になっていて、行くといつも目の悪い人が壁に登っていたりします。

その他にもブラインドヨガなど、スポーツ的なものを含めた体験型で活動的なブースが一部分にあったり、シュミレーションをするために空間があります。 そこは、あるときは学校の一つの教室になっていたり、あるときは職場の一つになっていたりします。また、あるときは地震が起こった後のオフィスのように物が乱立していたりします。そういう中で、視覚障害者の様々なグッズが本当に使えるのかどうか体験できるようなブースになります。

できたら、そこをライティングすることで昼や夜のような感じを出すなど、視覚効果をいろいろと変化させて、いろいろな体験ができるようにしたいと思います。いまは箱しかありませんが、ガラスでくくられた箱のような空間を、シュミレーション・ブースとして作ろうとしています。

それから、視覚障害の人が作る料理を「一緒に食べよう」ということで、非常に大きなキッチンがあって、そこでは日々コーヒーが出されたりします。コーヒーメーカーが入っているので、コーヒーの新作をちょうどその場にいた視覚障害の人たちにテイスティングしていただきます。そこには味の評価をしたり、商品開発をするような形で企業などが次々と入って来て、お互いにデータを取ったり何かを提供したりして、商品開発にも生かしていくような箱になります。

これまでのように支援のトレーニングができる場所は、実際に神戸にはかなりたくさんありますから、そこにつなぐハブとなる場所になります。どちらかというと、トレーニングをする場所ではなくて、「トレーニングをするには、こういう場所がありますよ」というように、情報の見える化をめざしています。

また、「こんなに目が悪くても楽しめるスポーツがある」というようなアミューズメントやアトラクション的なものを考えていて、楽しい部分を前面に出した空間づくりを、議論しながら作っています。

「何だ、神戸か。神戸まで行かないと使えないのか」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。形としては、こちらが一応ハブになりますが、皆さんが使える「情報障害にならないための情報センター」という意味がすごく強いのです。

ですから、ここは場所は決まっていますが、ホームページも作っていて、そこに自分の現在地や働いている場所を入れると、周りにどんな施設があるかとか、営業時間や住所、電話番号が一覧で出てきます。

誰に使っていただきたいかと言うと、目の悪い労働者を抱えている人事担当者や産業医です。「私は眼科医でないからわかりません」ではなくて、施設の周りに何があるか調べるとか、どこに行けば情報を得られるのかということです。いわゆる「働く」「働き続けられる」ところに対しては、見えにくい人に対するサービスがないのです。

ですから、私たちとしては第一優先でホームページなどを作っています。スマホなどでも勿論見られるし、ネット上なら何でもアクセスできます。それを使うことで、会社に目の悪い人が出て来ても、人事担当者が「何をやったらいいか、わからない」とならないためにやるのです。

その中で、タートルにつなげたいと思います。何も知らない人が、いきなりタートルにまでつながることは、普通に考えたら滅多にありません。「こういうサイトがいっぱいあります」と紹介して、迷わず入りやすい最初の入口にしたいのです。

私は産業医をしているので、産業医の学会で発表ができます。産業医の先生たちに「今後は、合理的配慮について必ず産業医が質問される時期が来ます」「でも、皆さんは視覚障害者の合理的配慮について、何か言えることがありますか」と言いたいのです。

今年の5月に、福島で「日本産業衛生学会」という学会があります。そこではシンポジウムを25分間やらせていただく予定です。まずは眼科医であり産業医である立場から、「産業医が情報障害にならないでください」ということを、強く人事担当者や産業医に伝えるシンポジウムを予定しています。

そのための最初の入口が、そういう情報サイトになります。皆さんが情報の中で迷子にならないような状況を作っていきたいと思います。

その中で言いたいのは「障害者雇用は、ただ障害者を雇用することではない」ということです。ある方は目が見えないことで車の会社に就職して、一番高級なクラスの車で椅子の座り心地だけを判定する仕事をしています。それは、視覚障害者でないとわからないというところで、彼らの意見が介されているのです。

今までの業務を、何とかテクノロジーを使いながら頑張ってやっていくことは、もちろん大事です。しかし、それ以上に「むしろ見えないからこそわかる」ことが仕事になるような事例を集めたいと思います。

良い事例を作っていただき、それをこの「isee!運動」の中で「こんな成功事例があります」というものに出して、今まで目の悪い人は「雇う上で何を配慮すれば良いかわからないし、どこが強みになるかわからない」と言っていた企業に対し、「うちの商品開発にも関わってほしい」と思わせるような状況を作りたいことが一つです。

もう一つは、私のいる東京大学の中村研究室に近藤准教授がいて、彼がやっているのは遥かに先進的で、「障害者雇用なんてなくせ」と言っているのです。「障害者雇用では、最低労働時間は1週間に20時間以上会社にいないと、1コマとして数えられないが、そんなバカなことあるか」と言って、超短時間型雇用をやっています。

東大では、多くの障害者が月1時間から勤務しています。勤務というかお金を貰っています。場合によっては全く研究室に来ないで、送り合ったデータ量(ファイルの数)によって収入を得たりしています。みんなが無賃にならないよう少しずつ稼いで、きちんと税金を納めていこうとしています。

そういう事例を集めて、厚労省に「『会社に来ることが最低ライン』などというバカなことは言わないでください」と言えるようなことを、行っています。厚労省に発表することで、法律を変えるための一つの要素として使えるのではないかと思います。そういう形で大学でも研究が進んでいます。

今日私が話したかった内容は、だいたいこれで全部になります。

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【定年まで頑張りました】

『目のリハビリがある!』

賛助会員 森 さゑ子(もり さゑこ)氏

私は、静岡市の中学校の国語教員でした。病名は錐体ジストロフィ。手帳は5級です。2015年3月31日、56歳で退職しました。

35歳の時、突然矯正視力が0.3に落ちて以来、名古屋の三宅養三先生の言葉、「森さん、僕、一生懸命研究して、治療法が見つかったらすぐ連絡するから待っとってね」に支えられ、人や道具を探し回りました。

一番の悩みだった、読み書きによる目の奥の痛みを解消してくださる中国鍼の先生や、一番何でも相談できるJVT(全国視覚障害教師の会)の先生方と出会うことができました。その中でも特に励ましていただいた女性の先生は、病名は色変で手帳2級、大学進学率の高い公立高校の英語科に勤め、定年退職の時に校長から「来年もいてくれないか」と言われた、すばらしい方でした。角膜ヘルペスの後、矯正視力が0.1に落ちた頃、一番苦しかったのは、自分の見え方を他人に説明できないことでした。同じ大きさの字でも、線が途切れて文字の形に見えない時もあれば、読める時もある。天気や教室が変わるたび、窓側や廊下側に動くたびに、見え方が大きく変わる。黒なら全部読める訳ではなく、赤が全部読めない訳でもない。……混乱しました。近くの眼科で視野欠損が大きくなったと言われた時も、「そんなの、いつからあったのだろう。でも大したことない。ぶつからないから」と聞き流し、そして絶対に誰にも言いませんでした。本当は一日に何度も、至近距離にいる生徒の顔がのっぺら坊に見えて、怖くて体が凍りつき、心の中で号泣していたことを。言えば必ず精神科を勧められる、と思っていたからです。結局、言わなくても勧められました。それが、校長の最後の善意でした。

その後、交流教員として3年間勤めた盲学校で、独学でロービジョンケアを研究しているメガネ屋さんと出会い、ルーペや単眼鏡、遮光眼鏡を武器に自信を取り戻しましたが、普通中学に戻ったら、また行き詰りました。

そして、48歳の時、退官後の三宅先生の居場所がわからないなら潮時、と校長に退職を申し出た直後、工藤先生を介して九州の高橋広先生がお電話をくださったのです。

「目のリハビリがある。絶対辞めるな」

現実を変える力を持つロービジョンケアは、夢のような復職と納得のいく退職を私に与えてくれました。眼科医の診断書なしに休職はできず、眼科医の意見書なしに復職後の目への配慮はもらえなかった、と思います。そして、高橋先生のロービジョンケアは、単に目の訓練と音声パソコン訓練にとどまらず、縮こまった心のケアや職場の受け入れ体制づくりに至るまで、入念で手厚いものでした。

初診日、まず最初に眼底カメラを覗き、見えるはずのないアルファベットが見えた衝撃はとても大きかったです。「訓練すれば、もっと楽にものが見えるようになる」なんて信じ難いことでしたが、もし本当ならそれ以上の喜びはない、楽に読みたい、と憧れました。先生の確信と方向性、段階ごとの順序や方法、目標とその意味等の説明は、すべて明確で具体的でした。或る日は2時間も愚痴を聞いていただき、過去の眼科への鬱憤も晴れました。

目の訓練は、固視訓練と眼球運動訓練でした。半年かけて、中心暗転の視野欠損の中に自分の見たい字や顔を絶対に入れない目になりました。半年もかかったのは、父がアルツハイマーと人工透析で要介護4だったので、1週間九州で教わっては自宅で練習することを繰り返したからですが、このスローペースが功を奏しました。次に、拡大読書器で200人分の採点ができる自信がつくまで、半年訓練しました。昔、20万円で買っても酔いがひどくて武器にならなかった失敗が報われました。学校の皆様に祝福されて復職でき、鍛えた効果は今も維持できていて、幸せです。

最後に、ここに書ききれなかった多くの方々の御支援に感謝申し上げ、私のような体験ができる社会環境の整備を強く祈ります。

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【お知らせコーナー】

◆ ご参加をお待ちしております!!(今後の予定)

◎タートルサロン

毎月第3土曜日  14:00〜16:00
*交流会開催月は講演会の後に開催します。
会場:日本盲人職能開発センター(東京四ツ谷)
情報交換や気軽な相談の場としてご利用ください。

◎交流会

9月17日
11月19日
3月18日

◎忘年会 12月3日

会場:両国ビューホテル(いつもの会場です)

◆一人で悩まず、先ずは相談を!!

見えなくても普通に生活したい、という願いはだれもが同じです。職業的に自立し、当り前に働き続けたい願望がだれにもあります。一人で抱え込まず、仲間同士一緒に考え、フランクに相談し合うことで、見えてくるものもあります。気軽にご連絡いただけましたら、同じ視覚障害者が丁寧に対応します。(相談は無料です)

◆正会員入会のご案内

認定NPO法人タートルは、自らが視覚障害を体験した者たちが「働くことに特化」した活動をしている団体です。疾病やけがなどで視力障害を患った際、だれでも途方にくれてしまいます。そんな時、仕事を継続するためにはどのようにしていけばいいかを、経験を通して助言や支援をします。そして見えなくても働ける事実を広く社会に知ってもらうことを目的として活動しています。当事者だけでなく、晴眼者の方の入会も歓迎いたします。

◆賛助会員入会のご案内

☆賛助会員の会費は、「認定NPO法人への寄付」として税制優遇が受けられます!
認定NPO法人タートルは、視覚障害当事者ばかりでなく、タートルの目的や活動に賛同し、ご理解ご協力いただける晴眼者の入会を心から歓迎します。ぜひお力をお貸しください。
眼科の先生方はじめ、産業医の先生、医療従事者の方々には、視覚障害者の心の支え、QOLの向上のためにも賛助会員への入会を歓迎いたします。また、眼の疾患により就労の継続に不安をお持ちの患者さんがおられましたら、どうぞ、当認定NPO法人タートルをご紹介いただきたくお願いいたします。

◆ご寄付のお願い

☆税制優遇が受けられます!
認定NPO法人タートルにあなたのお力を!!
昨今、中途視覚障害者からの就労相談希望は急増の一途です。また、視力の低下による不安から、交流会やタートルサロンに初めて参加して来る人も増えています。それらに適確・迅速に対応する体制作りや、関連資料の作成など、私達の活動を充実させるために皆様からの資金的支援が必須となっています。
個人・団体を問わず、暖かいご寄付をお願い申し上げます。

★当法人は、寄付された方が税制優遇を受けられる認定NPO法人の認可を受けました。皆様の積極的なご支援をお願いいたします。
寄付は一口3,000円です。いつでも、何口でもご協力いただけます。

☆入会申込書・賛助会員申込書・寄付申込書はタートルのホームページからダウンロードできます。

≪会費・寄付等振込先≫

ゆうちょ銀行
記号番号:00150-2-595127
加入者名:特定非営利活動法人タートル

◆活動スタッフとボランティアを募集しています!!

あなたも活動に参加しませんか?
認定NPO法人タートルは、視覚障害者の就労継続・雇用啓発につなげる相談、交流会、情報提供、セミナー開催、就労啓発等の事業を行っております。これらの事業の企画運営に一緒に活動するスタッフとボランティアを募集しています。会員でも非会員でもかまいません。当事者だけでなく、晴眼者(目が不自由でない方)のご支援も求めています。積極的な参加を歓迎いたします。
具体的には事務局の支援、情報誌の編集、HP作成、受付、スカイプの管理、視覚障害参加者の誘導等いろいろとあります。詳細については事務局までお気軽にお問い合わせください。

☆タートル事務局連絡先

Tel:03-3351-3208
E-mail:m#ail@turtle.gr.jp
(SPAM対策のため2文字目に # を入れて記載しています。お手数ですが、上記アドレスから # を除いてご送信ください。)

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【編集後記】

熊本地震で震災に遭われた方々に心よりお見舞い申し上げます。

さて、全国のタートル会員の皆様、お元気でお過ごしでしょうか? 桜も、あっという間に過ぎ去り、夏のような日差しが肌を貫くような…そんな時期になりました。この「情報誌」が皆様のお手元に届くころは、真夏の陽気になっているでしょうか?

夏といえば皆様はどのような事を思い出すでしょうか?私は、「海!」です。港で感じる潮風。海水浴や、海の家などのお楽しみなど、毎年少なからず思い出を残しております。お祭りや、屋台、すいかにかき氷など、そろそろと近づいてくる夏の風物詩に早くも思いをはせております。

少し困りものなのは、その前に顔を出す「梅雨」でしょうか?外出時に傘が手荷物になってしまったり、電車やお店に忘れてしまったり、特に白杖を使う方は、外出が大変な時もあるでしょうね?(私もですが…)

これからも、季節の移り変わりを楽しみつつ、思わぬ事故に注意をして共に頑張ってまいりましょう!

さて、今回の「情報誌」はいかがでしたでしょうか?これからも、会員の皆様に楽しんで頂けるような充実した誌面作りを目指していきたいと思っております。今後とも、より一層のご愛顧を賜りますよう宜しくお願い致します!!

(市川 浩明)

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奥付

特定非営利活動法人 タートル 情報誌
『タートル第35号』
2016年5月16日発行 SSKU 増刊通巻第5456号
発行 特定非営利活動法人 タートル 理事長 松坂 治男

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