1.はじめに
長年にわたり、我が国の視覚障害者の職業リハビリテーション関係者にとって、三療(あんま・マッサージ・指圧、鍼、灸)以外の新しい職域の開拓が、大きな課題であった。それは、視覚障害者にも三療に偏った職業選択から、個人の特性に合わせた幅広い職業選択を可能にしようとする取り組みであった。関係者の努力によって、構内電話交換手、コンピュータプログラマー、パソコンを活用した事務的職種、ヘルスキーパー(企業内三療士)あるいは公務員への道が開かれるなど、状況は徐々に改善されているが、なお職域は限られたものである。
視覚障害者の職業リハビリテーションに関して、職域の拡大と並んで大きな課題は、雇用の拡大である。平成3年の厚生省身体障害者実態調査によれば、視覚障害者の就業率は身体障害者の中でもっとも低い。また平成8年の同調査によれば、障害発症は40歳代以降の中高年齢層に圧倒的に多い。とりわけ、働き盛りの40,50歳代と言えば、職場においては、長年培った技術・知識によって中核的存在であり、また家庭においては、経済的・精神的支柱としての存在である。このような年代で障害を負うということは、本人・家族にとどまらず、雇用主にとっても大きな打撃となる。したがって、中途視覚障害者の円滑な職場復帰あるいは職業復帰は、視覚障害者の雇用拡大を図る上で、重要な意味を持つと言えよう。
本稿では、『中途視覚障害者の職場復帰に関する研究会報告書』に従い、「職場復帰」とは、「元の会社に雇用継続されたまま復帰すること(配置転換、出向等を含む)」として、中途視覚障害者の職場復帰の促進を目指して、その現状と課題の整理を試みたものである。
2.雇用継続の状況
ここでは、筆者らが1996年に行った日本盲人社会福祉協議会のリハビリテーション部会加盟の生活訓練実施施設等72施設の施設利用者の年齢、障害程度等の状況と、職場復帰との関わりで重要と考えられる訪問訓練・休日訓練等の訓練の状況について紹介する。
(1)利用者の年齢と障害程度
全利用者は、72施設およそ2,000名であった。詳細なデータがそろっている59施設の利用者は1,820名で、うち女性は789名(43.4%)であった。表1は、さらに年齢データが得られた1,326名の利用者の年齢階層を示したものである。50歳代が23%ともっとも高く、続いて20歳代と40歳代がともに18%であった。ただ、60歳代、30歳代も10%以上と、かなりの割合を占めている。
※表1
表2は、障害等級が報告された者1,158名の等級の内訳を示したものである。この数を分母として算出した割合では、1級66.2%、2級17.4%で、1,2級合計の「重度者」が83.6%に達する。
※表2
(2)雇用継続の状況
訓練終了後、復職した者として、125名(うち女性30名)が報告されている。また、就職した者として49名(うち20名が女性)が報告されている。このように、雇用継続が厳しい状況にあることを示している。
(3)生活訓練の実施体制
中途視覚障害者の場合、いったん退職すると、再就職はきわめて難しい。したがって、雇用継続を図る上からは、在職のままで生活訓練が受けられ、可能ならば、職場が休みの日に訓練が受けられることが望ましい。
在職のままで生活訓練が受けられる施設は、全72施設中、通所で38カ所、訪問訓練で30カ所となっている。また、土日・祝祭日に訓練が受けられる施設は、72施設中、通所訓練で8カ所、訪問訓練で21カ所であった。
※表3
※表4
(4)施設の偏在
上の表3、表4からも分かるように、生活訓練施設は、首都圏、近畿圏、及び東海圏に集中しており、地方在住の者には生活訓練サービスを受けにくい状況にある。
3.リハビリテーションの流れ
雇用の継続を図る場合に限らず、視覚障害リハビリテーションの流れは、次のようにまとめることができよう。
(a)眼科医療(医学的リハビリテーション)
(b)生活訓練(心理・社会的リハビリテーション)
(c)能力開発・就職援助(職業リハビリテーション)
(d)社会復帰・職業復帰(リハビリテーションゴール)
視覚障害の発症または進行により、受障者は、眼科医療の対象となる。その後は障害程度やリハビリテーションの最終目標の違いによって、生活訓練と能力開発・就職援助の2つの領域の対象となる場合((a)→(b)→(c)→(d))、あるいは生活訓練のみの対象となる場合((a)→(b)→(d))、さらには眼科医療のみの対象で他の2つの領域の対象とはならない場合((a)→(d))がある。なお、眼科医療領域の後、直ちに能力開発等の職業リハビリテーションに移行する場合((a)→(c)→(d))は、皆無ではないにしても、その数は少ないと思われる。
時間的には、各領域が順次経過していく場合が一般的であろうが、医療領域に生活訓練が組み入れられる例も現れており、また生活訓練と能力開発が並行的に行われる場合もある。このようなリハビリテーション領域の重層的な実施は、対象視覚障害者の社会復帰や職場復帰までの時間を短縮でき、それだけ心理的あるいは経済的な負担も軽減できると考えられる。
以下では、中途視覚障害者の職場復帰という観点から、これら3つの領域について整理してみた。
(1)眼科医療
言うまでもなく、眼科医を中心とした医療スタッフによる治療の段階である。障害原因には糖尿病性網膜症やベーチェット病などの全身性の疾患も多く、眼科医療にとどまらず、総合的な医療が必要なケースも多い。
この段階で、まず指摘しなければならない点は、告知の問題である。多くの中途視覚障害者が、回復の期待を抱いて医療機関を巡り歩くことが多い。そのような場合、主治医が患者に失明や視覚障害について明確に告知していないことが少なくない。障害の受容や、職場復帰に向けてリハビリテーションのプロセスを迅速に開始するためには、時宜を得た明確な告知が不可欠である。失明は言うに及ばず、視覚障害者になったということは、患者本人はもとより、家族や職場の関係者にとっても、大きなショックであり、また将来に大きな不安を抱くことになる。この時期に、多くの中途視覚障害者が自殺を考えると言う。したがって、心理的なサポートと、職場復帰への展望を与え、またそのための十分な情報を提供することが必要になる。このような援助を担うのは、医療ソーシャルワーカーではないかと思われる。しかし、開業医の場合、ソーシャルワーカーを採用している例はごく稀である。そのような場合には、地域の関係機関との連携がきわめて重要であろう。
(2)生活訓練
この段階では、視覚障害によって失われた日常生活ないし社会生活に必要な諸能力の付与が図られる。具体的には、歩行訓練、コミュニケーション訓練(点字や墨字処理)、日常生活動作訓練(家事や身辺管理)などで、対象者の能力やニーズに合わせて実施される。
職場復帰との関連で重要な問題は、訓練の提供形態である。我が国の多くの生活訓練施設は、入所ないし通所を基本としている。しかし、中途視覚障害者本人や会社としては、できることなら長期の休職はせず、場合によっては勤務を続けながら、土・日などの休日や勤務時間後の訓練を望むであろう。また、訓練施設が遠隔地にある場合は、訪問訓練が望まれる。しかし、現状では、このような休日や夜間の訓練、あるいは訪問訓練を実施している施設はまだ少ない。
もうひとつの問題は、施設の地域間での偏在である。表3に示すように、首都圏、東海圏、近畿圏に集中している。このような地域間格差は、地方在住の中途視覚障害者にとっては、居住地域で必要なサービスが受けられず、職場復帰にも大きな支障になる可能性がある。少なくとも、遠く離れた施設への入所が必要になり、心理的・経済的負担が大きくなろう。
また、生活訓練施設は、日常生活能力の付与を第一義としているため、職場復帰に求められる高いレベルの訓練カリキュラムを用意していない場合も多い。さらに、会社側との調整連絡に当たる専門のスタッフがいないかもしれない。
(3)能力開発・就職援助
能力開発に関連しては、上にも述べたように視覚障害者の職域がきわめて狭いことが挙げられる。中途視覚障害者の職場復帰としては、原職復帰が最も望ましい。しかし、現実には原職復帰は難しく、職務再設計が必要になることが多い。そのような場合、それまでに蓄積した知識を生かした事務的職務か、あるいはヘルスキーパーに職種転換を図るケースが多い。事務的職務の場合、文書処理を中心にパソコンを利用することが、ほぼ不可欠になっている。このような状況で、受障前、現場的な職務(例えば、販売・営業、技能工等)に従事していた者の職場復帰が、より難しくなっている。是非とも、接客技術や熟練技能を生かせるような職種、またそのための能力開発訓練の充実を急がねばならない。
4.キーパーソン
中途視覚障害者の職場復帰を論じるとき、しばしばキーパーソンの重要性が指摘される。文字通り職場復帰の成否の鍵を握る「キーパーソン」は、職場の上司や人事担当者あるいは組合幹部などであるが、時には社内の健康管理に当たる産業医や保健婦などの場合もある。いずれにせよ、これらのキーパーソンは、本人と会社との間に入り、本人に代わり会社との交渉や関係機関との調整に当たる。受障による大きな不安を抱え、また治療やリハビリテーションに専心しなければならない本人にとって、さらに会社との交渉を独力で行うのは、あまりにも負担が大きいことであろう。そのような意味で、キーパーソンの存在は、きわめて重要と言わねばならない。
さらにもう一人の「キーパーソン」の存在が重要であるように思われる。上に述べたように、多くの場合、復職に至るまでには、リハビリテーションのいくつかの段階を経ねばならない。このようなリハビリテーションの各領域間の円滑な移行や連携、あるいは職場の「キーパーソン」と協力を図るためには、リハビリテーション過程の「コーディネーター」が必要になる。多くの場合、それは医療ソーシャルワーカーであったり、生活訓練施設の指導員であろう。また、当事者(中途視覚障害者自身)のグループの場合もある。これらキーパーソンやコーディネーターの存在があって、初めて職場復帰が円滑に進むことが多い。
5.おわりに
以上、視覚障害者の雇用の拡大を図る上からも中途視覚障害者の職場復帰の促進が重要であること、また、その成否には、職場におけるキーパーそンや、リハビリテーション過程におけるコーディネーターの果たす役割の大きいことをみてきた。
しかし、このようなキーパーソンやコーディネータは、制度やシステムとしての存在ではなく、偶然あるいは幸運に依存する。職場には、支援してくれる上司はいないかもしれない。主治医は開業医でソーシャルワーカーはいないかもしれない。さらには、生活訓練を受ける施設には十分に復職を支援するだけの人的余裕がないかもしれない。そもそも居住地域には生活訓練施設がないかもしれない。
このような状況の中で、地域的偏在もなく、また復職に当たりパソコンの指導もできる地域障害者職業センターには、中途視覚障害者の職場復帰のためのコーディネーター機関としての期待が、今後ますます高まるものと思われる。
参考文献
1 はじめに
中途視覚障害者の復職など雇用の継続に至る過程として、障害の認知→視機能活用訓練→生活適応訓練→職業訓練→職場復帰・定着が考えられる。しかし、これはモデル的流れであり、実際の職場復帰・雇用の継続は、必ずしもこのような過程をたどらない。障害者(患者)の「視機能の活用状況」、「職業・職種」、「職場環境」及び「職歴」等の違いにより、職場復帰・雇用の継続に必要な要件は異なるものである。一般的な中途視覚障害者の社会的リハビリテーションから職場復帰のプロセスについては「中途視覚障害者の職場復帰に関する報告書」(注)を参考にされたい。本論は職業訓練に至るまでの医療から社会的リハビリテーションの取り組みとして、国立身体障害者リハビリテーションセンター病院のロービジョン・クリニックを利用した患者の実態を中心に医療・社会的リハビリテーションについて考察し、中途視覚障害者の職場復帰についての要素を見いだしたい。
2 施設別利用者の進路状況
ロービジョン・クリニックにおける医療・社会的リハビリテーションについて述べる前に、「東京都視覚障害者生活支援センター(データは旧東京都失明者更生館時代のもの)、」(図表では東京)、「国立身体障害者リハビリテーションセンター生活訓練課程」(図表では生訓、「同センター一般リハビリテーション課程」(図表では一般リハ)及び「ロービジョン・クリニック」(図表ではロービジョン)の利用者の課程又は訓練終了時における進路状況について考察してみる。
表1及び図1をみると、いわゆる生活適応訓練施設である「国リハ生活訓練課程」及び「生活支援センター」は、『施設入所』が最も多く、次いで『家庭復帰』となっている。双方の施設とも『就労』は、10%未満と少ない。「国リハ生活訓練課程」は『施設入所』が78.4%と非常に多いが、これは国リハに理療課程、職能訓練及び国立職業リハビリテーションセンターの職業訓練課程があるので、それらの前職能訓練的な生活訓練課程としての利用が多いからである。一方、「生活支援センター」は、『家庭復帰』が33.0%と最も多く地域型施設の特徴といえる。次に「一般リハ課程」の利用者の進路は、職能訓練課程であるので『就労』が74.4%と最も多い。
ロービジョン・クリニックは、『就労』が40.8%と最も多く、『家庭復帰』が39.6%と続き、『就学等』が14.9%及び『施設入所』が4.7%となっている。『就学等』というのは、前就労段階の就学年齢層である。このように、ロービジョン・クリニックは、医療的なケアから生活適応、職場復帰・雇用の継続への援助まで、現状復帰を目指し幅広い援助を行う。
3 ロービジョン・クリニックにおけるケア
一般にロービジョン・クリニックというと、狭義に「光学的補助具の処方による視機能の活用」と捉える節があるが、実状は、ロービジョン者は全盲者とは異なった様々なニーズがあり、補助具の処方だけでなく、治療、障害の告知、視機能の活用、生活適応技術の訓練及び職場適応の助言等、多岐にわたる。そのため、医師、視能訓練士、ケースワーカー等の専門家がチームを組んで対応する。そして、ケアとしては、単に医療側が用意した技術等の提供というより、患者が現在「困ること」に患者と共に取り組み、現状復帰のための問題解決に当たる。
次にこれらロービジョン・クリニックにおけるケアの流れと内容について述べる。
(1) 発病(受障)
発病の段階では、患者自身視機能の障害があっても不自由さをあまり認識しておらず、「治る」という期待を抱いている場合が多い。しかし、医療スタッフ側はこの時点で障害の発生を又は将来視機能の低下が顕著になるであろうことを知っている。しばしば将来的な見地から、医療スタッフが障害の克服について先回りし、「(視機能が残っている)今のうちにリハビリを受けなさい」(具体的には「白杖を使いなさい」、「点字を勉強しなさい」等)と助言するケースがある。医療スタッフとしては患者の将来を考えて述べているのだが、このアドバイスが患者にとっては「失明宣告」と受け取られ失望する場合が多い。時には「障害の受容」を拒否し、いくつかの医療機関を行脚し多くの年月を費やす。ロービジョン・クリニックの来院患者は、別の医療機関での「障害の告知」直後のケースから、「告知」後何年も経ったケースまで様々である。いずれにせよ、当クリニックが「障害」に関わる初診というケースはまれである。ロービジョン・クリニックは、検査、診察により診断を確定した上で、医師により改めて「障害の告知」を行うことから始まる。患者は医師による告知で改めて自らの障害を認識しリハビリに向かおうとする場合、あるいは改めて失望を覚える場合など様々である。この診察で併発白内障の治療の可能性が見いだされ、手術を行い飛躍的に視機能が回復するケースもある。あるいは、補助具の処方によって、諦めていた視機能が活用できることを知り、一瞬にして霧が晴れ患者自身の日常を取り戻す場合もある。しかし、治療への期待を託してロービジョン・クリニックを訪れた患者も多く、障害の告知により治療の期待を失い精神的に落ち込む者もいる。このケースでは、視機能活用の継続や福祉サービスの活用、心理的カウンセリング等が必要で長期的なケアになることが多い。
以上のようにロービジョン・クリニックの導入において患者によりそのサービス内容も異なる。しかし、いずれにしても医学的に正確な診断と医師による「障害の認知」への方向付けのカウンセリングを出発点として次の段階である視機能の活用又はケースワーク、心理的カウンセリング等へ進むことが重要である。
(2) 心理・社会的相談
医学的検査及び診察の結果に基づき患者の日常生活や仕事において困っている点を明らかにし、問題点等を見いだす。患者によっては、患者自身でも「困っていること」が的確に表現できない場合又は残存視機能がありながらそれを活用できることを知らない場合もある。従って面接ではいろいろな側面から患者を捉え、問題点を明らかにし解決方法等を助言する。特に主な訴えが「就労」に関する患者の場合は、仕事の内容を把握し、視機能の活用で継続が可能か、新たな手段を導入する必要があるか、配置転換等が可能か、上司や同僚の理解や協力が得られるか、家族の理解や協力は得られるか、障害年金受給の可能性、あるいは休職中の場合では休職期間や傷病手当の受給の可能性等を把握する。ロービジョン・クリニック受診以前は治療に専念してきたのであろう。これらの点について必ずしも明確に対応していない患者もいる。これらのことを明らかにするだけで、患者は次に何をしたらよいのかがわかるようになる。
相談ではいわゆるケースワーク的なことだけでなく、患者のADL、仕事上の行動(特にコンピュータへのアクセス状況)や歩行等についての評価も行う。これら評価に基づき必要に応じて外来又は入院訓練を計画する。 ロービジョン・クリニックを受診した患者で、視力、視野とも急に低下し「コンピュータ操作において、カーソルの動きがうまく追えなくなった。文字も見えづらくなった。もう仕事がやっていけない。やめようと思っている」と訴える患者がいた。社会資源の活用の話をした後、日頃使っているウィンドウズ登載機で白黒反転機能を紹介し評価したところ、カーソルも問題なく追えるし、通常表示で読めるようになった。このように、1回だけの受診で問題解決できる患者も多い。これは、社会的相談の部門だけでなく、医学的相談や視機能活用部門でも同様なことがある。
更に心理的相談にも応じる。医師に障害を告知されていても、この相談の中で再び「治療の方法はないか」と問う患者も多い。これにはケースワーカーの範疇でも応えるが、より医学的な事柄については、医師にフィードバックしながら応答することもある。また、必要に応じて外来で数回相談を継続する。
(3) 視機能の活用
視機能の活用については眼科外来での検査を基に近見視力、羞明の程度及び仕事に必要な文字処理状況等の評価を行う。評価に基づき近見用の補助具、遠見用の補助具、遮光レンズ及び非光学的補助具(適切な照明、文字を書くときのガイド等)を選定・処方する。このうち弱視眼鏡や単眼鏡は補装具なので医師の処方箋を要する。必要に応じて外来又は入院で補助具の使用訓練等を継続する。患者によっては強いて手帳を取得しなくても、又は生活訓練や職業訓練を受けずとも、補助具の活用だけで職場復帰できるケースもある。
視機能の活用評価の段階で、ルーペ等いわゆる補助具の活用が最も有効であることはいうまでもない。しかし、これら補助具とは異なり、矯正眼鏡が役に立つ場合もある。特に網膜色素変性症等の患者の場合、ロービジョン・クリニック以前の病院等で網膜疾患があるということで矯正眼鏡の調整が詳しく行われない場合がある。これらの患者に対して矯正眼鏡の再評価を行うと「飛躍的」ではないにしろ、「みやすくなる」ことがある。中年以降の患者では、老眼を加味した眼鏡を選定すると、文字処理が便利になる。これらもロービジョン・クリニックにおける視能訓練士の大きな役割である。
(4) 継続受診(入院訓練)
医学的相談、視機能活用及び心理・社会的相談の各部門とも必要に応じて外来又は通院でそれぞれ患者の必要とするケアを行う。特に入院によるケアは、就労に関わる援助においても患者の様々なニーズに応えられる可能性は高い。表1及び図1によると、入院訓練を行った患者の「就労」率(51.8%)は、ロービジョン・クリニック全体の「就労」率(40.9%)よりも10.9%も高くなる。また、休職から復職した6名(14%)は入院訓練を行っている。その内容は、補助具の処方、歩行、コンピュータ、点字、ADL及び心理的カウンセリングであった。更にそれぞれの患者の主たるケアをあげると、視機能の活用訓練が2名、社会適応訓練(歩行訓練が主で、コミュニケーションも含む)が2名及び心理的ケア中心のものが2名であった。入院期間は1週間から数週間であった。特に心理的ケアが中心のものは訓練期間が長かった。そのうち1名は、当初の計画では訓練終了後は退職して社会適応技術習得のため更生訓練施設に入所するつもりだったが、入院訓練終了後復職したケースである。入院訓練により心理的に安定し拡大読書器の使用による文書処理ができること、音声及び拡大機能を活用したコンピュータ操作ができるようになったこと及び白杖による歩行訓練で、単独での歩行行動ができるようになったこと等により、視機能低下による漠然とした心理的不安の解消と自らの行動に自信がもてたことの効果が大きい。また、6名のうち4名は教職関係者(公務員)で病気休暇等休職が取得しやすい状況にあった。更に、職場との関係では、5名については訓練により職場復帰が可能な旨の医師の診断書を発行した。そのうち2名については、職場の人事担当等が訓練中来院し、訓練の見学と復職の条件等について医師やケースワーカーと打ち合わせた。また、そのうち1名は打ち合わせの経過の中で就労規則からすると、重度障害者であるが故に「退職」せざるを得ない状況であるとの見解もでた。しかし、本人の復職への強い意志と、職場の人事担当とケースワーカー(必要に応じて本人も同席)との数回の検討により復職に至ったものである。別のケースは、入院訓練終了後ケースワーカーが、本人の復帰する職場に行き、職場の環境整備(照明、段差及びコンピュータの設置等)及び仕事内容の検討ためのミーティングに参加した。
以上の他、年休等を利用し1〜2週間の入院訓練で就労の継続を果たしたケースは多い。その場合もロービジョン・クリニックと職場の人事担当等と連絡を取ったケースもある。一方では、訓練等のことについて職場に内緒で患者の個人的な休暇を使って入院訓練を行ったケースも複数ある。いずれにしても復職・雇用の継続への援助内容は、個々の患者の様々な要素(視機能の活用状況、仕事内容、職場環境、意欲又は心理的安定度等)により異なる。また、ロービジョン・クリニックでは、医療の一環として多方面(医学的処置、補助具の処方、社会適応技術の習得、心理的カウンセリング、職場等の環境調整等)のケアが可能であり、それらの結果について診断書という形で提供できることも有効だ。無論、ロービジョン・クリニックにおける入院訓練は比較的短期間であるのでより訓練を必要とする場合は、更に更生訓練施設利用をすることとなる。
4 まとめ
以上述べてきたロービジョン・クリニックにおける医学的、視機能の活用、及び心理・社会的ケアは、現在のところ特殊な形態でのケアであるが、当センター学院では過去8年間眼科医師が医療ケアとして、ロービジョン患者に対応できるような技術を身につけることを目的に「眼鏡等適合判定医師研修会」を行ってきている。毎年各所の眼科医師が参加しており、ここ数年この講習会を受講した医師を中心に、それぞれの地域で「ロービジョン・クリニック」が実施され始めている。眼科医療の中で単に治療だけにとどまらない、患者の日常生活の向上を目指した新しいアプローチが芽生えつつあることは、視機能低下で困っている患者にとって朗報である。「ロービジョン・クリニック」という医療の範疇でのリハビリテーションサービスによって、手帳取得の有無に関わらない幅広い中途視覚障害者の職場復帰がより可能となると思われる。
(注)<参考文献>
1.はじめに
当センターでは、視覚障害者の職業能力開発の事業を始めて18年になる。さらに、それ以前から、カナタイプライターを墨字を書く道具として活用すべく、タイピング技能の普及と向上を図る活動を続けてきた。視覚障害者の墨字によるコミュニケーション手段の獲得は、自立への意欲と社会参加の促進を図るうえで有効であった。そして、タイピング技能の向上とともに、テープ起こしという新たな職種の開発に挑戦を始めたのである。試行錯誤の結果、1976(昭和51)年に社会福祉法人日本盲人職能開発センターとして、20名定員の社会事業授産の形で、テープ起こしの仕事を軌道に乗せた。さらに1980(昭和55)年には、身体障害者通所授産施設「東京ワークショップ」(定員30名)を開設した。
その後、1984(昭和59)年には、<エポックライターおんくん>を開発し、仮名文字のみの「テープ起こし」から、漢字仮名混じりの「テープ起こし」へと大きく飛躍させ、自立主体的で自己完結型の仕事として確立させた。
これは、点字による漢字表記のルール(六点漢字)とタイピング技能とを融合させた<フルキーおんくん入力方式>、そして極めて短い音声による漢字の確認(音訓読み)を導入し、スピーディな日本語入力を実現にしたことにある。
1988(昭和63)年には「東京ワークショップ」でテープ起こし作業をする全員に<エポックライターおんくん>を整備した。
1990(平成2)年からパソコンの基本ソフトであるMS-DOSや、スクリーンリーダー<やまびこ>にのせたVZエディタを使っての日本語入力、そして汎用データベースソフト(dBASE)の指導をカリキュラムの中核におき、事務的職種へのパソコン活用の模索を始めた。
現在、<フルキーおんくん入力方式>は、<でんぴつ>に引き継がれ、<やまびこ+VZ>から<VDM100+でんぴつ>に代えてパソコン指導を行う。やがて<Windows>における日本語入力にも<フルキーおんくん入力方式>は導入されることになる。いずれにせよ<フルキーおんくん入力方式>は漢字入力の速度を上げる手段として不可欠であり、タイピング技能と六点漢字習得は当センターの訓練の根底をなすものと捉えている。
2.職業訓練の2つの方向
(1)事務処理科とOA実務科
1994(平成6)年11月から日本障害者雇用促進協会の委託事業として事務処理科(定員5名)を開設し、事務処理能力を付与するために、1年、6カ月、3カ月コースの3課程を設け、就職、復職、継続・向上訓練といった希望に応じて受入れを始めた。
1997(平成9)年には、東京都職業能力開発部の所管である東京障害者職業能力開発校の分校の指定を受け、OA実務科として3名の公共職業訓練を行うこととなった。公共職業訓練というのは、公共職業安定所の受講指示を得て、雇用保険や訓練手当の援助措置等を受けながら訓練受講ができるシステムのことである。
こうして事務処理科と併存の形でOA実務科を設置したが、パソコンを中心としたワープロ、表計算、データベース、点字エディタ、OCR墨字読取装置、オプタコン、パソコン通信、Windows95、インターネット等の情報機器をできるだけ幅広く訓練する。弱視者には拡大ソフトを使う方向で進め、早期失明者には漢字教育の手段として六点漢字を指導する。目標は、各種ソフトを使うことができるという点に置いている。また、職業情報の獲得という側面にポイントを置き、福祉機器展示場の見学、セミナー・講習会・研修会等への参加、企業に働く視覚障害者の実際を見聞、福祉機器メーカーや福祉施設等への見学も適宜行う。
(2)東京ワークショップ
東京ワークショップは身体障害者通所授産施設で、厚生省所管の措置入所施設である。訓練期間は1年。訓練生のニーズは、(a)同施設内でテープ起こしの仕事をする、(b)復職や新規に雇用の場を求める、という2通りである。
テープ起こしは、他人の話を能率的に書き取る技能を必要とする。仮名漢字変換による同音異義語の選択を詳細読みで行うのでは速さに限界がある。そこで六点漢字の習得訓練を徹底的に行い、フルキーによる直接漢字入力をめざす。また、話し言葉を書き言葉に修正・整理するといった文章処理を行う技術を身につける。
一方、パソコン利用の幅を広げる訓練として、基本はMS-D0S上のエディタを用いての日本語入力、書式等印刷関連の後処理にワープロソフト、汎用データベースソフト(dBASE)の指導、これにより例えば住所録等の身の回りのデータを整理蓄積し、データの検索や抽出に活用する。
訓練は特化した内容に限定し、現段階では、基本をMS-DOSにおき、Windowsに対応していく。
3.復職・再就職・継続雇用の事例
当センターにおける中途視覚障害者の復職・再就職・継続雇用の事例について表1に示す。18例のうち14例が男性で女性は4例になる。年代的には当該時に30代後半から40代後半と働き盛りの年齢層が多い。中途視覚障害者の原職復帰は、事例(a)、10年前の地方公務員である。公務員が3分の1を占める6例となっている。民間企業に再就職の形で雇用された事例(b)が事務的職種への進出の先駆けとなっている。
中途視覚障害者の復職・再就職・継続事例(表1) 1998年9月1日現在
氏 名 |性別 年齢・生年 視力・等級 眼 疾 文字 在籍期間 復職・再就職先 復職年月 仕事の内容
(a) N.H. 男 49歳(1949生) 全盲(1級) 緑内障 点字 86/6〜88/3 横浜市役所港湾局 88/4(復) テープ起こし・資料作成
(b) A.S. 男 54歳(1944生)|全盲(1級) 色変 点字 91/4〜92/6 近畿日本ツーリスト総務部 92/7(再) 法務案件進捗管理
(c) A.A. 男 32歳(1966生)|全盲(1級) 視神経萎縮 点字 92/4〜94/3 国立精神神経センター 94/4(復) テープ起こし・雑務
(d) A.H. 男 30歳(1968生)|全盲(1級) 網膜剥離 点字 93/4〜94/3 二宮町役場総務部 94/4(復) テープ起こし・ソフト開発
(e) I.Y. 男 48歳(1950生)|全盲(1級) 視神経萎縮 点字 93/4〜94/3 MKサービス経理部 94/4(復) テープ起こし
(f) T.K. 男 37歳(1960生)|弱視(2級) 視神経萎縮 墨字 93/4〜94/3 ライオン(株)市場情報部 94/6(再) モニタリング・調査データ管理
(g) A.S. 男 50歳(1948生)|全盲(1級) 色変 点字 94/4〜95/3 埼玉県自治研修センター 95/3(復) テープ起こし
(h) S.H. 女 40歳(1958生)|弱視(2級) 色変 墨字 94/11 95/3 NK銀行調査部 95/4(復) 資料作成
(i) O.T. 男 43歳(1954生)|全盲(1級) ベージェット 点字 94/4〜95/3 小泉産業イズム企画部 95/6(復) 顧客管理・情報収集・発信
(j) K.Y. 女 48歳(1950生)|弱視(2級) 視神経萎縮 墨字 95/4〜96/5 秦野市役所 96/6(復) 資料作成
(k) I.K. 女 33歳(1965生)|全盲(1級) 網膜剥離 点字 96/4〜97/3 チノー(株)人事部 97/4(復) 資料作成
(l) T.K. 男 33歳(1965生)|全盲(1級) ベージェット 点字 96/12 97/3 富士銀行本店人事部 97/4(復) テープ起こし・資料作成
(m) O.K. 男 45歳(1953生)|全盲(1級) 色変 点字 96/4〜97/3 品川燃料(株)総務部 97/4(継) テープ起こし・社内報編集
(n) W.T. 女 30歳(1969生)|弱視(2級) 緑内障 点字 96/12 97/7 世田谷区職員研修室 97/8(復) 区民向けインターネット・モニター
(o) K.K. 男 40歳(1958生)|弱視(1級) 緑内障 墨字 97/4〜98/3 商事法務研究会 98/4(継) セミナー企画・資料作成
(p) Y.K. 男 26歳(1972生)|全盲(1級) 網膜症 点字 97/4〜98/4 東京ビジネスサービス 98/5(復) テープ起こし
(q) I.U. 男 43歳(1955生)|全盲(1級) 色変 点字 97/4〜98/3 三洋電機(株)産機部 休職期限 98/ 1/30 (復職時期交渉中)
(r) K.S. 男 38歳(1960年) 全盲(1級) 色変 点字|97/10 98/9 日本ユニシス(株)経理部 98/10(復職予定)社内経理業務用ソフトDP
復職あるいは再就職の際に仕事が明確に用意されている場合は少ない。受入側はもちろん、当事者自身どのようなことがどの程度できるのか分からない状況にある。作業の内容と量については、実際の職場で同僚や上司と具体的に試行錯誤を繰り返して形作っていく必要がある。相互理解のうえに立って進めるのが重要である。
以下に事例(a)、(b)、(f)、(i)、(r)の5例について、仕事の創出に関わる工夫と仕事の内容の概略を記す。
4.仕事の創出への取り組み
(1)事例(a)
生活・コミュニケーション・歩行訓練を七沢ライトホームで受け、東京ワークショップにて職業訓練とテープ起こし実務を行い、約2年在籍して原職に復帰する。当初はテープ起こし中心であったが、視力をある程度使うことが可能であったため、エポックライーおんくんでテープ起こしをした後、書類としての体裁を整える部分を一太郎を用いて行っていた。そのためテープ起こしの仕事から課内の資料作りを一太郎を用いて行う仕事に中心が移った。ところが、約5年後に緑内障が悪化し、全く見えなくなってしまった。それ以後、当センターが関わり、VDM100で一太郎を音声化して使うよう切り換えた。資料作成に必要な「読みの問題」は、同僚の協力と同時に土日にかけて外部のボランティアに対面朗読をしてもらい、資料作りの仕事を続けている。
(2)事例(b)
就職相談会に臨み採用に至った再就職のケースである。配属先の総務部はビル管理業務を担当してもらいたいという意向があった。しかし、本人は視力低下の進行とともに不良個所の発見という基本部分に自信が持てないと断る。当面社長の入社式の挨拶や株主総会のテープ起こし程度でほとんど仕事はなかった。
部外からの電話は積極的に取るように心掛け、部内では人間関係の形成と業務の把握に努めた。約1年後、法務を担当する人たちがそれぞれ案件の進捗管理をしていて、毎週進捗状況の報告会を開いているのを知る。各担当者は、ワープロで自分の担当案件の状況を整理し、報告していた。部長が特定の案件の状況を照会しても、すぐには回答が出ない。何とかならないかという部長のニーズを聞き、データを一つに集めてデータベースの作成を提案する。これが仕事の創出のきっかけとなった。当センターはデータベースの基本的部分のプログラム作成に援助した。本ケースは、ワープロからデータベースへの移行を円滑に行えた点に良さがある。上意下達でなく、法務担当者はワープロで打たなくてもデータベースでの一覧の資料に信頼を持ち、楽になったと感じた。データベースに最初に登録する段階では同僚の女子社員の協力を得、データの更新は報告会の収録に基づき行う。
(3)事例(f)
本事例も就職相談会に臨み採用に至った再就職のケースである。強度の弱視で社内的に理解を求めるためにワッペンを付けるなど工夫をしている。採用に踏み切る時点で職場の直属の上司が具体的仕事内容の想定と業務拡大に確信を持てたことが他の部員に大きく影響を与えた。職場の雰囲気が前向きなため、キーマンとも言うべきある特定の同僚から助言が適宜出され、具体的な仕事の創出に結びつき、業務は拡大していった。「こんなこともできるのでは、やってみてはどうか」といったアイディアが提供されたのである。
社員のモニタリング。社員の人事情報をデータベースとして取り込み、人事部との連携で常に最新のデータとして更新されている。社員の中から条件を設定して抽出し、製品のモニターを依頼するアンケートを送る。返信された墨字のデータは同僚の女子社員によって電子化され、これを受け取る。そして加工処理して資料として作成する。
調査会社との契約による外部委託モニター、例えば家庭の主婦やOLなどパソコン通信の可能な人たちとの通信上の対話から、ある特定のモニターを依頼する製品に対する使い勝手等の書き込みから、数字的な集計や、感想をまとめて資料と作成し関係部署に提供する。
(4)事例(i)
復職事例として極めて恵まれたケースである。復職に当たって、プロジェクトチームを作り、戻った際にどのような仕事を作っておけばよいかを検討した。当面顧客管理にしぼり、ショールームに来館される顧客の名刺をデータベース化して販売促進に活用しようと考えた。館長というキーパースンの存在が大きく、復職をスムーズに運んだ。訓練期間中にデータベースの形とプログラム等の詳細は訓練側と打ち合わされ、準備態勢が整えられた。名刺データの読み込みについては、職場介助者精度を活用した。当センターと事例会社と契約し、音訳者と当センターとで具体的にテープ化作業を進める。データの朗読されたテープを聞きながら、データベースに打ち込んでいく。テープ起こしの技能を生かしている。
また、ショールームに来館される顧客に説明する要員である女子社員の自己啓発のためのテープ起こし、即ちそれぞれが説明する内容を録音し文字化して、当人に渡す。それを読んでよりよい説明をするための参考にしていく。
さらに、パソコン通信のクリッピングサ・サービスを利用して、社内に必要とする情報を収集し加工し提供する。このように自らの存在をアピールするために仕事を創出して、社員のニーズに応えて電子メールを送ることで情報発信者となり、存在感を実感しているという。
(5)事例(r)
本ケースは、まだ復職して実務に就いているわけではないので、ここに事例として挙げるのははばかれる。しかし、復職の実現は間違いない段階に来ているし、事例として記録にとどめるにふさわしいと考える。
1996年12月、解雇通告を受けながら仲間の支えでそれを撤回させた。そして、生活リハを東京都失明者更生館(現:東京都視覚障害者生活支援センター)で、さらに職業リハを東京ワークショップでと進めてきた本人の意志の強さと努力が実ろうとしている。もちろん復職後に様々な困難は待ち受けているに違いない。
原職に戻ることを原則に、復職に向けて会社側と実務遂行の具体的部分での詰めを行う中で、使用機器の音声化とアプリケーションの音声対応の検証などを行ってきた。その中で、当面音声化の困難な部分について、画面の読み取りにオプタコンを活用することにした。目の見えていた頃に経験している仕事であるため、画面イメージがある。そこで多少時間はかかるが、不可能を可能にしたのである。
5.おわりに
中途視覚障害者の復職問題は、所属する企業の体質によって、受入方に大きな違いがある。事業主と組合との関係によってもまた受入方に違いが見られる。働き続けてきた障害を受けた社員の側に立つか、事業主の利益や都合で動く会社側に立つかの基本的姿勢の違いである。組合は本来組合員の利益、権利を守るために存在する。しかし、そうとは言えない組合に直面することがある。そのために復職が極めて困難であり、また強引に戻っても仕事を一切与えられない状況に置かれる。このような企業には事例を示しても見向きもしない。最初から障害者を排除することしか考えていない。このような企業に理解を求めるのは難しい。しかし、8割方の企業は中途視覚障害者自身の熱意や周囲の支援で変わる。
職業能力開発を実践する訓練施設に課せられた役割は、自信を失った中途視覚障害者に、働き続ける自信を回復させることだろう。
続きを読まれる場合は、「職リハネットワーク」から その2へどうぞ。