1998年10月発行の「職リハネットワーク」は、中途視覚障害について特集しています。本ファイルは、その巻頭言です。
本ファイルの最後のほうで、中途視覚障害に関する記事の「その1」にリンクを張ってあります。
視覚障害者職業リハビリテーション(以下、「リハ」という。)問題は、従来、厚生、文部行政として行われてきた。近年労働行政が障害者雇用問題に正面から取り組み始めたことは大変に歓迎すべきことである。いうまでもなく障害者の職業選択の自由が保障されることは日本国憲法の理念からいって当然のことであるが、所沢に職業リハセンターが開設されるまで厚生行政によって主に対応がなされていた。
さて、障害者の職業訓練施設がおいおい整備され、近年情報機器の発展はめざましいものがあり、そのことが視覚に頼らずに、読み書きのみならず、あらゆる仕事が視覚障害者に可能になり、従来の視覚障害者に困難であったことができるようになり、視覚障害者の職業訓練の内容の幅は拡大された。報告(参考文献1)によれば、公共の障害者職業能力開発校において1995年には39名が訓練を受け、訓練内容がオフィスビジネス系が12名、情報処理系10名であった。その他にも多くの職業内容について訓練を受ける者がいた。このことが示すように、視覚障害者の職業選択があんま、マッサージ、鍼灸という三療に限るという時代ではなくなった。
私は大学眼科において視覚障害者のリハ相談を34年続け、また、眼科開業の場では地域リハとしてリハビリテーションワーカーを雇用して5年間取り組んでいる。
この経験から、職業訓練の場が増え、職業選択の幅は拡大したとはいえ、視覚障害者の職業自立についてはきわめて厳しい状態にあるとひしひしと感ずる。中途障害者の現職復帰の率はここ10年ほど増加してはいる。しかし現職復帰するプロセスとして職能訓練、職業訓練の場があるが、その訓練をした後の職場復帰の段階で大きな問題がある。
一般社会では、視覚障害者の雇用については視覚障害者は何もできないとの認識しかなく、もし雇用されたとしても直接身近に接する同僚や上司が困惑する。これは視覚障害者についての無理解がそうさせているのであって、視覚障害者が能力を発揮するための心配りや方法について正しい知識を持つならば「やれるなあ」ということになる。このようなケースに多く接している。しかし障害者自身が萎縮して周りの援助を求めなかったり、遠慮して身を引いてしまうケースが多く、本人の能力を発揮する場が与えられないというのが現実である。この問題を解決する方法として、地域での(自宅から職場まで)訓練指導をする体制が必要である。社会体制として職場復帰に絶対的必要条件である職場の環境整備や指導をする部分が、地域の中に十分に行き渡っているとはいえない現状である。
施設での訓練後に施設の指導員による指導がなされているようではあるが、実際には年間数十人を対象とした指導は可能であろうが、全国津々浦々までそのような指導は不可能であるのが実態である。この問題解決の方向としては、地域の中にその機能を持つようにしなければならない。
地域に労働行政として関わる機関としてハローワークがあるが、その機能の中に視覚障害専門のワーカーがいるところは、ほとんどないようである。
方法としては地域に視覚障害者リハワーカーが配備されていて、その指導による職場適応のための訓練や職場環境の整備をする必要がある。ハローワークすべてに配備する必要はなく、一般の障害者支援を行う施設の中に配備され、そのワーカーが視覚障害者については小児から老人まで訪問指導をする体制を整備すれば、職業自立の支援もできる。
厚生行政、労働行政と区別することなく、地域における対応は地域の身障者支援機能があって、その上に専門的な職業訓練や能力開発のための施設が整備されていればよい。
地域の中での指導体制が最も望まれるところである。
続きを読まれる場合は、「職リハネットワーク」から その1へどうぞ。