第7回視覚障害リハビリテーション研究発表大会グループ討論原稿
 98/05/05作成
 1998/06/27-28  障害者職業総合センターにて開催
   金子  楓(千葉県中途視覚障害者連絡会、ワークアイ・船橋)
   鈴木信一(千葉県中途視覚障害者連絡会)
   工藤正一(千葉県中途視覚障害者連絡会)
(1)主訴別(単位:人)
  生活相談(88)    職業相談(33)          学校進路・施設入所相談(27)
  補装具・パソコンの購入相談(16)          医療相談(7)  障害年金申請手続き(6)  障害者手帳申請手続き(5)  その他(7)
(2)障害の原因別(単位:人)
  網膜色素変性症(44)  先天性(白内障・網膜芽細胞腫)(13)  網膜黄班部変性症(10)  糖尿病性網膜症(6)  レーベル氏病(6)  ベーチェット病(5)  緑内障(4)  その他(18)
(3)障害等級別(単位:人)
  1級(18)  2級(21)  3級(25)  4級(8)  5級(1)  6級(0)
  その他(18)
{Aさんのプロフィールとこれまでの経過}
  男性、53歳。元銀行員(勤続24年)。障害等級3級(網膜色素変性症)。妻、子供2人の4人家族。
  Aさんは初対面にも拘わらず堰を切ったように一気に話を始めた。自分でも何を話せばよいか全然整理されていないようだった。6月は殆ど毎日のように訪ねてくるか、私の自宅をも含めて、電話をかけてきた。      
  平成6年に銀行を依願退職。病気の進行により事務処理が困難となったことに加え、同僚との中も気まずくなり、孤立。その後、家庭用品販売卸問屋に勤めたが、仕事が細かいため長続きせず。職業安定所で仕事を探したが面接までいくがダメ。勤めても、長続きせず。話を聞いていて、以下のような、家庭的な問題、情緒不安定な面があること、社会に対する不信感があることなどの問題が見えてきた。
{Aさんへの対応}
  私は社会への不信感を取り除くことにつながればと思い、網膜色素変性症には直射日光が目に悪いことや、それを防ぐ遮光眼鏡は補装具として支給されることを説明し、行政に申請するよう勧めた。
  また、昼間は一人でいるとのことで、拡大読書器の使い方を話し、本を読む楽しみを話した。拡大読書器は日常生活用具として支給されることを説明し、申請を勧めた。
  申請書類はAさんの前向きな姿勢を少しでも家族に分かってもらうため、必ず奥さんと相談して書くようにアドバイスした。結果は申請書類は奥さんが書いてくれたという。
  Aさんの働きたいという願望は強い。私は、Aさんには、就職したいなら職業安定所と連絡を密にすることが大事だと話す一方、職業安定所のCさんと連絡をとり、視覚障害者が企業で働くことの大変なこと、企業の理解が必要なことを説明した。
  また、家族不和の解消方法として、本人には少し残酷と思ったが、家族がお茶を飲んでも飲まなくても、Aさんに家族のお茶を入れるようにアドバイスした。しかし、Aさんは返事をしなかった。
{事態の変化}
  6月末に遮光眼鏡ができあがり、Aさんが見せにきた。自己負担金がなく、全額(37,500円)行政から出たことで社会への不信感が少し和らいだようだ。
  8月26日、拡大読書器が届いたが、これも行政から全額(198,000円)支給された。行政に今まで自分が抱いていた不信感のことに反省する言葉を口にするようになり、Aさんは息子の誕生日のことまで教えてくれた。
  9月に電話があり、拡大読書器を使って、新聞や手紙が読める、雑誌・小説が読めると喜んでいた。特に、新聞が読めることで家族と共通の話題ができたことが一番嬉しいようだった。
  9月23日、昨夜奥さんと息子がAさんの入れたお茶を飲んでくれたと、嬉しそうな電話があった。私に言われた日からほぼ毎日のようにお茶を入れていたが、今日も飲んでくれない、明日こそやめようと思った日の方が多かったが、入れていてよかったと語った。
  当初、職業安定所のCさんとAさんとは意思の交流がうまくいかなかった。しかし、Cさんはよく話を聞いてくれ、面接会にも同行してくれた。Aさんは障害者合同就職面接会に参加して、総合建設会社に採用された。
  今、Aさんは経済的・精神的にも安定し、夫・父親としての自信を取り戻し、職場では仲間ともうまくいっているようだ。
{ピアカウンセリングの感想}
  「ワークアイ・船橋」に尋ねてきた時は、毎日のように私にマジックで書いた文字を見せ、その文字を私が読めない事を確認し、自分がまだ読めることに対し優越感を感じて帰っていった。
  私とAさんが同じ病気であったこと、私の方がAさんより病気の症状が重いことから、Aさんがここまで気持ちを開いてくれたと思う。  
  自分の話を聞いてくれる人、自分が落ち着いて数時間座っている所があったこと、そして「ワークアイ・船橋」ではAさんより障害の思い人達が精いっぱい頑張っている、そのことがAさんの精神力を取り戻す力になったと思う。
  Aさんの場合は成功した例だが、まだ心を開くまでいかない人の方が多いのではないか。
  相談全体を通して感じたことは、スムーズに適切な相談に辿り着けるようなネットワークづくりの必要性である。