障害者雇用対策基本方針

はじめに

1 方針のねらい


 我が国における障害者施策は、平成5年3月に策定された「障害者対策に関する新長期計画〜全員参加の社会作りをめざして〜」(計画期間平成5年度からおよそ10年間)及び同計画の重点施策実施計画として平成7年12月に策定された「障害者プラン〜ノーマライゼーション7か年戦略〜」(計画期間平成8年度から平成14年度まで)等に沿って、国連障害者年のテーマである「完全参加と平等」の実現に向け、障害者が他の一般市民と同様に社会の一員として種々の分野で活動することができるようにするというノーマライゼーションの理念に従って進められてきている。
 このようなノーマライゼーションの理念の実現のためには、障害者の社会的な自立に向けた基盤づくりとして、職業を通じての社会参加を進めていくことが基本となる。このため、障害者が男女ともにその適性と能力に応じて可能な限り一般雇用に就くことができるようにすることが重要であり、また、このことは障害者が、その能力を十分に発揮し、働く喜びや生きがいを見出していくということからも極めて有意義である。このような考え方の下に、これまで「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下「法」という。)及び法に基づく「障害者雇用対策基本方針」(運営期間平成5年度から平成9年度まで)に基づき各般の障害者雇用施策を推進してきたところである。
 その結果、障害者雇用に対する関係者の理解も深まり、障害者の雇用は着実に進展し、近年は特に精神薄弱者において顕著にその雇用状況が改善している。しかしながら、企業の実雇用率をみると法定雇用率を依然下回った状態にあるとともに、障害の重度化や障害者の高齢化も進展しており、近年の景気の動向ともあいまって、障害者を取り巻く雇用環境は依然として厳しいものとなっている。
 このような中、平成9年には障害者の雇用を一層促進することを目的として法の一部改正が行われ、精神薄弱者を含む障害者雇用率が設定されることとなった。
 そこで、今後は、障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るためには事業主を始めとする国民一般の障害者雇用への理解が不可欠であることを念頭に置きつつ、雇用の立ち後れがみられる重度障害者に引き続き最大の重点を置いて、精神薄弱者を含む障害者雇用率の設定を踏まえた身体障害者及び精神薄弱者の雇用を一層促進することとするほか、精神障害者についても、その障害の特性等に関する正しい理解を促進しつつ、就業環境の整備を通じてその雇用の促進や雇用の継続を図るなど、障害の種類及び程度に応じたきめ細かな対策を総合的かつ計画的・段階的に推進していくことが必要である。
 また、障害の重度化や障害者の高齢化の進展を踏まえると、障害者が雇用の分野と福祉の分野を円滑に移行できるようにするため雇用部門と福祉部門とが密接な連携を図るとともに、多様な雇用・就労形態も視野に入れた雇用施策の充実を図っていく必要がある。
 この基本方針は、このような今後の障害者雇用対策の展開の在り方について、事業主、労働組合、障害者その他国民一般に広く示すとともに、事業主が行うべき雇用管理に関する指針を示すことにより、障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図ることを目的とするものである。

2 方針の運営期間


 この方針の運営期間は、平成10年度から平成14年度までの5年間とする。

第1 障害者の就業の動向に関する事項

1 障害者人口の動向

(1) 身体障害者人口の動向
 我が国の18歳以上の身体障害者数は、平成3年において、在宅の者272万2千人(厚生省「身体障害者実態調査」)、施設入所者13万4千人(厚生省調べ)となっており、昭和62年時(それぞれ241万3千人、9万3千人)と比べて増加している。
 在宅の者について障害の程度別の状況(平成3年)をみると、軽度身体障害者52万6千人、中度身体障害者95万4千人、重度身体障害者109万2千人となっている。また、このうち65歳未満の者は、それぞれ軽度の者25万2千人、中度の者46万人、重度の者56万人で、昭和62年と比べると重度の者は10.0%の増加となっており、重度身体障害者が増加している。
 また、年齢別の状況(平成3年)をみると、65歳未満の者のうち50歳以上の者が84万4千人とその63.3%(昭和62年と比べて3.2ポイント上昇)を占めており、一段と高齢化が進んでいる。

(2) 精神薄弱者人口の動向
 精神薄弱者数(18歳以上)は、平成7年において、在宅の者19万5千人(平成7年厚生省「精神薄弱児(者)基礎調査」)、施設入所者10万5千人(厚生省調べ)となっており、平成2年時(それぞれ16万8千人(平成2年厚生省「精神薄弱児(者)福祉対策基礎調査」)、8万6千人(厚生省調べ))と比べて増加している。
 在宅の者について程度別の状況をみると、最重度の者2万1千人、重度の者5万3千人、中度の者4万6千人、軽度の者4万人となっている(平成7年厚生省「精神薄弱児(者)基礎調査」)。

(3) 精神障害者人口の動向
 精神障害者数は平成8年において、精神病院入院34万人、在宅182万人となっている(平成8年厚生省患者調査、厚生省報告例等)が、このうちには、精神分裂病、そううつ病、てんかんのほか先天異常による中枢神経障害等を原因とする器質性精神病、いわゆる神経症等種々の精神疾患を有する者が含まれている。
 また、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に基づき、平成7年度に交付が開始された精神障害者保健福祉手帳は、平成9年12月末現在で9万9千人に対して交付されており、その内訳を障害等級別にみると、1級(精神障害であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの)の者2万8千人、2級(精神障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの)の者5万2千人、3級(精神障害であって、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの)の者1万8千人となっている。

2 障害者の就業の動向

(1) 障害者の就業状況
 身体障害者の就業者数(厚生省「身体障害者実態調査」)は、平成3年において89万4千人と、昭和62年における70万1千人と比べて増加しており、就業率も34.1%と昭和62年と比べて4.9ポイント上昇している。これを従業上の地位別にみると、平成3年においては「自営業主」24.8%、「家族従事者」13.7%、「会社・団体の役員」8.5%、「一般雇用者」27.5%、「臨時雇」5.0%、「日雇」3.5%、「内職」4.7%となっている。
 精神薄弱者の就業者数は、平成7年において、13万人(平成7年厚生省「精神薄弱児(者)基礎調査」)となっており、平成2年における10万人(平成2年厚生省「精神薄弱児(者)福祉対策基礎調査」)と比べて増加している。これを従業上の地位別にみると、「正規の職員」18.9%、「臨時雇」10.3%、「内職」1.7%、「家の仕事の手伝い」11.3%、「作業所での就労」51.1%となっている。

(2) 障害者の雇用状況
 平成5年に5人以上の常用労働者を雇用している事業所を対象に行われた「身体障害者等雇用実態調査」(平成5年労働省)によれば、常用雇用されている身体障害者は34万4千人、精神薄弱者は6万人、精神分裂病、そううつ病にかかっている者は1万1千人、てんかんにかかっている者は1万2千人となっている。
 また、法に基づく身体障害者雇用率(1.6%)が適用される民間企業(常用雇用者数63人以上)における実雇用率は、平成5年以降徐々に上昇してきたが、平成9年は前年と同率の1.47%であり、依然として法定雇用率からは隔たりが見られる。障害種類別で見ると、精神薄弱者である雇用者数の伸びが顕著である。企業規模別の状況をみると、63〜99人規模の企業の実雇用率は1.91%と高いのに対し、100〜299人規模では1.46%、300〜499人規模では1.35%、500〜999人規模では1.36%、1, 000人以上規模では1.46%と、法定雇用率を下回っている。従来から規模の小さい企業で実雇用率が高く、規模の大きい企業で実雇用率が低いという傾向が続いているものの、近年は規模の小さい企業の実雇用率が年々低下する一方で、規模の大きい企業の実雇用率は依然として低い水準にあるものの年々上昇する傾向がみられる。
 一方、公共職業安定所における障害者である有効求職者は9万9千人であるが(平成9年12月末現在)、そのうち身体障害者は7万6千人、精神薄弱者は1万7千人となっており、精神薄弱者の占める割合が年々増加してきている。また、身体障害者のうち重度身体障害者数は約3万1千人となっており、身体障害者全体に占める重度身体障害者の割合も年々増加している。このようなことから、近年はその雇用状況が改善してきているとはいえ、なお重度身体障害者、精神薄弱者についてはその雇用に立ち後れがみられる。

第2 職業リハビリテーションの措置の総合的かつ効果的な実施を図るため講じようとする施策の基本となるべき事項


 障害の重度化や、障害者の高齢化が進展する中で、障害者や事業主の職業リハビリテーションに対する需要は多様化、複雑化し、職業リハビリテーションに対する期待も高まっている。このような中で障害の種類及び程度に応じた職業リハビリテーションの措置を総合的かつ効果的に実施し、障害者の職業的自立を進めていくことが重要となっており、今後は、こうした観点から、以下に重点を置いた施策の展開を図っていくものとする。

1 障害の種類及び程度に応じたきめ細かな措置の開発、推進


 職業リハビリテーションの措置の総合的かつ効果的な実施を図るためには、その措置の開発を進めるとともに、職業指導、職業訓練、職業紹介、就職後の助言指導等各段階ごとにきめ細かく各種の措置を実施していくことが重要である。また、技術革新、高齢化等企業を取り巻く環境が変化する中で、障害者の職業生活における諸問題に適切に対応していく必要もある。このため、障害者職業総合センターにおいて、障害の種類及び程度に応じた職業リハビリテーションの措置の開発に努めるとともに、地域障害者職業センターが中核となって関係行政機関、企業との密接な連携の下に職業リハビリテーションの措置を推進する。

2 一般雇用に就くために特に支援が必要な障害者に対する職業リハビリテーションの推進


 精神薄弱者や精神障害者等一般雇用に就くために特に支援が必要な障害者の円滑な雇用の促進を図るためには、実際の職場環境の中での基本的な労働習慣の習得等も重要である。このため、実際の作業現場を活用した職業リハビリテーションを一層拡充する。
 また、これらの障害者の職業的自立を図る上では、離職を未然に防止し、雇用された障害者が職場に適応できるよう、継続的な相談、指導が必要である。そのため、雇用された障害者についての相談、職場適応指導を一層強力に実施しその職場定着の推進を図る。
 さらにこれに併せて、地域において継続的、かつ、きめ細かな支援を行うことが重要であることから、公共職業安定所、障害者職業センターにおいて職業リハビリテーションを実施するほか、職業生活における自立を図るために継続的な支援を必要とする障害者に対しては、関係行政機関との密接な連携の下、市町村レベルで福祉部門と雇用部門との連携を図りながら、訓練から就職、職場定着に至るまでの相談、援助を一貫して行う支援体制としての障害者雇用支援センターを通じた職業リハビリテーションの実施を推進する。

3 職業能力開発の推進


 より多くの障害者に対して適切な職業訓練が実施できるよう、一般の公共職業能力開発施設において、障害者が利用しやすいように施設や設備の整備等を図り、障害者の受入れを促進する。他方、一般の公共職業能力開発施設において受講することが困難な重度障害者等に対しては、障害者職業能力開発校において、障害の特性や程度に配慮した訓練科目の設定等を推進する。
 また、技術革新の進展等への対応、企業在職中に障害者となったいわゆる中途障害者の職業転換への的確な対応及び職業訓練を修了した者のアフターケアを図る観点から、在職者訓練を積極的に推進する。

4 実施体制の整備


 障害者の職業的自立を進めるためには、障害者が生活している地域社会において、教育、福祉及び医療部門との緊密な連携の下に、きめ細かな職業リハビリテーションの措置を提供していくことが重要である。このため、公共職業安定所、障害者職業センターを始めとする職業リハビリテーション実施機関において従来よりも専門的な相談、援助を行う等職業リハビリテーションの措置を充実する。また、障害者が、雇用の分野と福祉の分野との間を円滑に移行できるようにするためにも障害者の雇用を支援するネットワークの形成等を進め、教育、福祉及び医療機関との連携を強化する。
 特に、地域レベルにおける教育、福祉及び医療部門との緊密な連携については、障害者雇用支援センターの設置の促進等体制の整備を図る。
 また、職業リハビリテーションの措置の開発を推進するため、障害者職業総合センター等の機能強化を図る。

5 専門的知識を有する人材の育成


 障害の重度化や障害者の高齢化が進展し、必要とされる障害者の職業リハビリテーションも多様化、複雑化している中で、障害の種類及び程度に応じたきめ細かな職業リハビリテーションの措置を講ずるためには、これらの措置に関する専門的知識を有する人材の育成が重要である。このため、公共職業安定所職員、障害者職業相談員、障害者職業カウンセラー等に対して必要な知識の付与、専門的技法の指導等を行い、職業リハビリテーションに従事する人材の養成と資質向上をより一層積極的かつ着実に推進する。また、これと併せて、法に基づき企業が選任する障害者職業生活相談員等の資質の向上にも努める。
 なお、これらの専門的知識を有する人材の育成に当たっては、障害者自身の有する経験や実際に障害者が雇用されている事業所において経験的に獲得された知識、技法等の活用を図る。

第3 事業主が行うべき雇用管理に関して指針となるべき事項


 事業主は、関係行政機関や事業主団体の援助と協力の下に、以下の点に配慮しつつ適正な雇用管理を行うことにより、障害者がその適性と能力に応じて、健常者とともに生きがいを持って働けるような職場作りを進めるとともに、その職業生活が質的に向上されるよう努めるものとする。

1 基本的な留意事項

(1) 採用及び配置
 障害者個々人の能力が十分発揮できるよう、障害の種類及び程度を勘案した職域を開発することにより積極的な採用を図る。また、必要に応じ職場環境の改善を図りつつ、障害者個々人の適性と能力を考慮した配置を行う。

(2) 教育訓練の実施
 障害者は職場環境や職務内容に慣れるまでより多くの時日を必要とする場合があることに配慮し、十分な教育訓練の期間を設ける。
 また、技術革新等により職務内容が変化することに対応して障害者の雇用の継続が可能となるよう能力向上のための教育訓練の実施を図る。
 これらの教育訓練の実施に当たっては、障害者職業能力開発校等関係機関で実施される在職者訓練等の活用も考慮する。

(3) 処遇
 障害者個々人の能力の向上や職務遂行の状況を適切に把握し、適性や希望等も勘案した上で、その能力に応じた適正な処遇に努める。

(4) 安全・健康の確保
 障害の種類及び程度に応じた安全管理を実施するとともに、職場内における安全を図るために随時点検を行う。また、非常時においても安全が確保されるよう施設等の整備を図る。
 さらに、法律上定められた健康診断の実施はもとより、障害の特性に配慮した労働時間の管理等、障害の種類及び程度に応じた健康管理の実施を図る。

(5) 職場定着の推進
 法に基づき企業が選任することとされている、障害者の雇用の促進及びその雇用の継続のための諸条件の整備を図る等の業務を行う障害者雇用推進者や、障害者の職業生活に関する相談及び指導を行う障害者職業生活相談員について、雇用する労働者の中からその業務に適した者を選任する。
 また、障害者が働いている職場内において関係者によるチームを設置すること等により、障害者の職場定着の推進を図る。

(6) 障害及び障害者についての理解の促進
 障害者が職場に適応し、その有する能力を最大限に発揮することができるよう、職場内の意識啓発を通じ、事業主自身はもとより職場全体の、障害及び障害者についての理解や認識を深める。

2 障害の種類別の配慮事項


 1の基本的な留意事項に加え、障害の種類及び程度に応じて、例えば次に示すような事項に配慮する。

(1) 身体障害者
 身体障害者については、障害の種類及び程度が多岐にわたることを踏まえ、職場環境の改善を中心として以下の事項に配慮する。

イ 視覚障害者については、通勤や職場内における移動ができるだけ容易になるよう配慮する。また、個々の視覚障害者に応じて職務の設計、職域の開発を行うとともに、必要に応じて、照明や就労支援機器など施設・設備の整備や、援助者の配置など職場における援助体制の整備を図る。

ロ 聴覚・言語障害者については、個々の聴覚・言語障害者に応じて職務の設計を行うとともに、設備の整備等により職場内における情報の伝達や意思の疎通を容易にする手段の整備を図る。また、必要に応じて、手話や要約筆記のできる者を配置するなど職場における援助体制の整備を図る。

ハ 肢体不自由者については、通勤や職場内における移動ができるだけ容易になるよう配慮するとともに、職務内容、勤務条件等が過重なものとならないよう留意する。また、障害による影響を補完する設備等の整備を図る。

ニ 心臓機能障害者、腎臓機能障害者等の内部障害者については、職務内容、勤務条件等が身体的に過重なものとならないよう配慮するとともに、必要に応じて、医療機関とも連携しつつ職場における健康管理のための体制の整備を図る。

ホ 重度身体障害者については、職務遂行能力に配慮した職務の設計を行うとともに、就労支援機器の導入等作業を容易にする設備・工具等の整備を図る。また、必要に応じて、援助者の配置等職場における援助体制を整備する。
 さらに、勤務形態、勤務場所等にも配慮する。

ヘ 中途障害者については、円滑な職場復帰を図るため、必要に応じて、医療・福祉機関とも連携しつつ雇用継続のための職業リハビリテーションの実施、援助者の配置などの条件整備を計画的に進める。

(2) 精神薄弱者
 精神薄弱者については、複雑な作業内容や抽象的・婉曲な表現を理解することが困難な場合があること、言葉により意思表示をすることが困難な場合があることを踏まえ、障害者本人への指導・援助を中心として以下の事項に配慮する。

イ 作業工程の単純化、単純作業の抽出等による職域開発を行う。また、施設・設備の表示を平易なものに改善するとともに、作業設備の操作方法を容易にする。

ロ 必要事項の伝達に当たっては、わかりやすい言葉づかい、表現を用いるよう心がける。

ハ 日常的な相談の実施により心身の状態を把握するとともに、雇用の継続のためには家族等の生活支援に関わる者の協力が重要であることから、連絡体制を確立する。

ニ 重度精神薄弱者については、生活面での配慮も必要とされることを考慮しつつ、職場への適応や職務の遂行が円滑にできるよう、必要な指導及び援助を行う者を配置する。

(3) 精神障害者
 精神障害者については、例えば、臨機応変な判断や新しい環境への適応が苦手である、疲れやすい、緊張しやすい、精神症状の変動により作業効率に波がみられることがある等の特徴が指摘されていることに加え、障害の程度、職業能力等の個人差が大きいことを踏まえ、労働条件の配慮や障害者本人への指導・援助を中心として以下の事項に配慮する。

イ 本人の状況を踏まえた根気強く分かりやすい指導を行うとともに、ある程度時間をかけて職務内容や配置を決定する。

ロ 職務の難度を段階的に引き上げる、短時間労働から始めて勤務時間を段階的に延長する、本人の状況に応じ職務内容を軽減する等必要に応じ勤務の弾力化を図る。

ハ 日常的に心身の状態を確認するとともに、職場での人間関係が円滑にいくよう配慮する。また、通院時間、服薬管理等の便宜を図る。

ニ 職場への適応、職務の遂行が円滑にできるよう、必要な指導及び援助を行う者を配置する。

ホ 企業に採用された後に精神疾患を有するに至った者については、医療機関や職業リハビリテーション機関との連携により、円滑な職場復帰に努める。

第4 障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るため講じようとする施策の基本となるべき事項


 障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るに当たっては、今後とも社会全体の理解と協力を得るよう啓発に努め、ノーマライゼーションの理念を一層浸透させるとともに、この理念に沿って、障害者が可能な限り一般雇用に就くことができるようにすることが基本となる。この点を踏まえ、特に雇用状況が厳しい重度障害者に最大の重点を置きつつ、障害の種類及び程度に応じたきめ細かな対策を総合的に講ずることとし、以下に重点を置いた施策の展開を図っていくものとする。

1 障害者雇用率制度の厳正な運用等


 法定雇用率の達成に向けて民間部門、公的部門に対する指導を強力に実施し、障害者雇用率制度については、事業主名の公表を含めた厳正な運用を図る。
 この場合、必要に応じて、特例子会社制度の積極的な周知を図り、その活用を促す。
 また、除外率制度については、除外率設定業種における障害者の雇用状況を把握するとともに、除外率設定業種における雇用事例の収集・提供、職域拡大を図るための措置等を推進することにより、障害者の雇用促進に努めつつ、縮小を前提とした検討を行う。

2 事業主に対する援助・指導の充実等


 障害者雇用に関する好事例を積極的に周知するとともに、障害者の雇用管理に関する知識、情報を提供すること等により事業主の取組を促進する。
 また、障害者の職業の安定を図るためには、雇入れの促進のみならず、雇用の継続が重要であることから、障害者や事業主に対する職場適応指導、きめ細かな相談・援助を行うとともに、各種助成措置を充実すること等により、障害の種類及び程度に応じた適正な雇用管理を促進する。
 さらに、障害者雇用納付金制度を適正に運営することにより、障害者雇用に伴う事業主間の経済的負担を調整するとともに、助成金制度を活用することにより障害者の雇用の促進及び継続を図る。

3 重度障害者の雇用・就労の場の確保


 重度障害者の雇用の場を確保するため、モデル的な役割を果たす第3セクター方式による重度障害者雇用企業の設立・育成や重度障害者多数雇用事業所の設置を促進する。
 また、一般雇用に就くために特に支援が必要な障害者については、福祉的就労から一般雇用への移行に加え、在宅勤務や自営業等多様な雇用・就労形態も視野に入れ、福祉機関等関係機関との連携による雇用支援体制の整備に努めるとともに、職務の見直し、職域の拡大、施設・設備の改善の促進、障害者及び事業主に対する相談等の施策の充実を図る。

4 精神障害者の雇用対策の推進


 精神障害者のうち、その症状が安定し就労が可能な者については、職業リハビリテーションの措置の的確な実施に努めるとともに、各種助成措置の活用も図りつつ、雇用の促進及び継続を図る。
 また、第3セクター方式による重度障害者雇用企業において、精神障害者が雇用されるよう積極的に誘導することに努める。
 さらに、精神障害者の雇用に関する理解を促進するため、事業主のみならず、医療、福祉関係者等に対しても好事例等雇用に関する情報を提供すること等により、周知啓発を充実する。
 なお、精神障害者に対する障害者雇用率制度の適用については引き続き検討を加え、適切な措置を講じる。

5 障害者雇用に関する啓発、広報


 障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るためには、国民一人一人の障害者雇用への理解が不可欠であり、事業主団体、労働組合、障害者団体の協力も得ながら、事業主、労働者、障害者本人及びその家族や教育、医療、福祉に携わる者等を含め広く国民一般を対象とした啓発、広報を推進する。

6 研究開発等の推進


 障害者雇用の実態把握のための基礎的な調査研究を計画的に推進する。また、職業リハビリテーションの質的向上、職業リハビリテーションに関する知識及び技術の体系化、障害者の職域拡大及び職業生活の向上を図るため、障害の種類及び程度に応じた障害特性、職業能力の評価、職域拡大、雇用開発等の障害者雇用に係る専門的な研究を事業主団体等の協力も得て計画的に推進する。さらに、障害者の加齢に伴う職業上の問題、雇用の分野と福祉の分野との間の円滑な移行を確保する上での問題等障害者の雇用に関する今後の課題に関する研究を積極的に推進する。
 併せて、これらの研究成果については、十分に施策に反映させるとともに関係者に積極的に提供するなど、その活用に努める。

7 関係機関との連携


 障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るためには、関係行政機関が密接に連携して、一般雇用に就くことを希望している障害者を把握するとともに、障害者が職業生活を送る上で抱える問題点について情報を交換し、人権擁護の問題も含め個別の問題について的確かつ迅速に対応できるようにすることが重要である。このため、地域における教育、福祉、医療機関等からなる障害者雇用連絡会議の開催や個別の事案への対応を通じて、障害者を支援する機関相互間の連携の強化を図る。
 また、障害者の職業的自立を図るためには、雇用の面ばかりでなく、教育、福祉等の関係部門と緊密な連携を保ちながら、障害者が生活している地域社会においてきめ細かく施策を講ずることが重要かつ効果的である。特に、精神薄弱者、精神障害者は、職場環境を始めとする環境の変化による影響を受けやすいこと、地域における社会生活面での配慮が不可欠であること等から、地域レベルにおいて、地方公共団体及び民間部門との連携も図りつつ、生活全般に関わる支援を行う必要がある。このような点を踏まえ、障害者の職業生活に関わる社会環境を地域に根ざした形で、住宅、交通手段等も含め総合的に整備していくことが重要であり、これに対する援助措置の充実に努める。

8 国際交流、国際協力の推進


 開発途上国に対する職業リハビリテーション分野の技術協力、先進諸国との間で障害者雇用に係る情報交換や関係者間の相互交流を進める等我が国の国際的地位にふさわしい国際交流、国際協力を一層推進する。


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