第7回視覚障害リハビリテーション研究発表大会グループ討論原稿
1998/05/08作成

1998/06/27-28 障害者職業総合センターにて開催

「タートルの会」による相談活動

工藤正一, 吉泉豊晴, 山口 崇

1. 原職復帰の意義

 近年、障害者に対する理解は進んだとはいえ、依然、多くの中途視覚障害者は退職を余儀なくされている。当事者にとっては、切実で、まさに生存権に関わる問題である。
 この背景の一つには、視覚障害がなかなか理解され難いことがある。一方、視覚障害者に対する相談はいろいろなところで行われているが、原職復帰については、適切に対応できるところが少ない。
 その理由は、視覚障害リハビリテーションの遅れもあるが、この問題は、福祉問題と雇用問題の両面からの対応が求められるからである。
 視覚障害によって、これまで培ってきた経験や知識、技能が、ある程度は失われるかも知れないが、適切にリハビリテーションの機会が与えられ、職場の理解が得られるならば、原職復帰は可能である。
 今、原職復帰の事例を増やしていくことが、企業などの視覚障害に対する理解を広げ、ひいては、視覚障害者全体の職域と雇用の拡大に繋がる。

2. 「タートルの会」の紹介

 「中途視覚障害者の復職を考える会」(通称「タートルの会」)は、1995年6月、一人の中途視覚障害者の原職復帰の支援を契機に、自ら視覚障害ゆえの困難を抱きながら働く当事者らによって結成された。それゆえ、当会の活動には、人権の尊重、とりわけ中途視覚障害者の働く権利を守るという立場が貫かれている。
 会員数は発足当初30名であったが、現在は200名を超えている。
 
事務局  
日本盲人職能開発センター東京ワークショップ内(山口)  
幹事会  
会長以下14名で構成。最低月1回開催。
 行事等の計画、運営、各種相談(初期相談を重視、個別・具体的に対応)。  
学習・交流会  
隔月開催。会員の交流、情報交換の場(作業環境、仕事の内容、機器の活用、歩行問題など)。相談があった時は、参加するよう働きかけている。平均50名程度の参加。  
会報『タートル』の発行  
年3〜4回発行。「職場で頑張っています」などが好評。  
メーリングリスト(ML)  
1997/07/30開設。4月現在ML会員数は55名、ホームページを見ての参加も多い。これまでのメール数は約1,000通。主な内容は、障害者問題情報交換、パソコン活用のノウハウ、会員情報の共有化など。  
ホームページ(HP)  
1997/11/22開設。会の活動を広く知ってもらい、視覚障害を理解してもらうために情報を積極的に公開。4月現在アクセス件数は約1,200件。リンクを張りたい旨の連絡多数。会報バックナンバー、復職関連資料等を掲載。  
『中途失明〜それでも朝はくる〜』を発行  
発行部数5,000部。見えなくても働き続けている人がいることを知ってもらい、十分な情報がなく悩んでいる当事者や家族・関係者、眼科医やリハビリ関係者等に読んでもらいたい本。新聞等で紹介され大きな反響、2,000部増刷。

3. 相談の概観

 最近、手記集の発行がきっかけで相談が増加している。また、新聞記事を見て、しばらくして相談してくるケースや、医療・リハビリテーション関係者、及び、そこから紹介されてくるケースも見られる。
 それらに対しては、情報提供だけで終わるケースも多いが、可能な限り個別に相談に応じている。
 以下は、最近の相談の内容や傾向または結果が概観できるようまとめたものである。
 
休職することなく働き続けたケース  
これには弱視者が多い。早期に相談に結び付き、交流会に継続的に参加し、そこから必要なノウハウや知識、あるいは必要な支援を得ながら働き続けている。社内キーパースンが重要な役割を果たし、短期間の研修で復職できたケースもある。  
原職復帰を果たしたケース  
これは一定期間休職した後に復職したケースである。この中には、会発足直後から会の行事に参加し、生活・職業訓練を経て、原職復帰を果たしたケースもある。また、地域障害者職業センターや障害者職業総合センターに繋げて成功したケースもある。  
目下、原職復帰を目指しているケース  
この中には、職業訓練を終了あるいは目前にし、職場と調整中のケース、生活訓練から職業訓練に移行しようとしているケース、生活訓練中のケースなど、現在、7名が原職復帰を目指している。中には、地域障害者職業センターで訓練中のケースもある。  
技術職であることが隘路となっているケース  
写真、調理、舞台照明、印刷などの技術・作業現場などでは、配置転換ができない、仕事がない等の理由で、隘路に入り込むケースが多い。中には、技術経験を生かして再就職したケースもある。  
解雇絡みのケース  
この中には、解雇通告を撤回させ、原職復帰を目指して訓練中のケース、解雇無効を求めて裁判中のケース、退職を迫られているケースなどがある。  
教育現場で働くケース  
この中には、高校教諭(英語、社会科)、あるいは障害児学校、大学教育に携わっているケースがあり、今、休職の交渉を始めたケースもある。  
退職したケース  
この中には、復職の交渉をしていたが、やむなく退職をした技術者(新聞社)、訓練が認められずに退職を余儀なくされた公務員のケースなどがある。公務員の場合、当局から分限解雇規定を示されていた。  
家族からの相談  
家族の苦悩も大きい。交流会に参加し、家族が変わり、それが本人の変化を促したケースもある。

4. 相談・支援活動の特徴とポイント

 何よりも当事者自らが相談に当たることが、本人の前向きな気持ちを引き出し、復職への意欲を高めている。継続的な交流会への参加やMLへの参加により、当初の問題は解決し、より積極的に変化する姿を見ることができる。
 実際の相談では、あらゆる社会資源、ネットワークを活用しているが、これまでの事例を通して、具体的な支援のポイントを整理すると以下のようになる。
     
  1. 労働組合や職場の支援者と連絡をとり、具体的な支援を依頼し必要な情報を提供する。  
  2. 職場の関係者に訓練現場を見るよう働きかけ、訓練成果のデモンストレーションを見てもらう。  
  3. その場合、必要に応じて、同じ体験をした当事者にも参加してもらい、関係者の理解をより深めてもらう。  
  4. 復職に際して、医師の診断書の書き方次第で明暗を分けることがあるので、医師や医療ソーシャルワーカーに復職事例などの情報を提供し、理解を求める。  
  5. 弱視者の場合、ロービジョンケアのできる医療機関に繋げることもある。  
  6. 雇用問題であることを考え、職業安定所や地域障害者職業センターなどに積極的に相談する。  
  7. 不当解雇の場合、裁判闘争を視野に入れた運動が必要であり、弁護士や障害者団体の協力を得る。  
  8. この場合は、マスコミに情報を提供することもある。

5. 今後の問題と課題

 
MLの活用による支援体制の充実  
HPやMLの存在が知られるにつれ、初対面の人から直接ML上で相談が寄せられるようになった。このような相談に対応するためにも、少なくともパソコン所有の会員すべてがMLに参加できるようにする必要がある。  
遠隔地に対する支援体制の充実  
全国各地からの切実な相談に応えるためにも、旅費の確保、専任の担当者の配置などが求められる。  
歩行訓練体制の充実  
復職事例が増えるにつれ、歩行訓練の希望、通勤経路の定期的なメンテナンスを希望する声も増えている。  
雇用管理上の配慮  
復職後の職場定着のために、昇進・昇格、研修、向上訓練など、雇用管理上の適切な配慮が望まれ、実際に役立つ具体的な事例集などが求められている。  
関係機関の職員の充実  
雇用の継続・維持を考えると、職業安定所や地域障害者職業センタ-等の役割は大きく、視覚障害の問題に対応できる専門職員の配置が望まれる。  
働く権利の保障  
障害者差別に繋がる分限解雇規定を撤廃し、在職中のリハビリテーションを制度的に保障することが必要であり、そのためにも、障害を理由とした解雇を禁止する措置が求められる。

Turtle HP URL : http://www.turtle.gr.jp/


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