中途視覚障害者の復職を考える会【タートルの会】 会報
タートル45号
1. 目がみえなくなったらまず何をするの?
きょうここにお見えの方々は、ほとんどがそのような場を通過されてきた、あるいは目下その途中の段階、サポートをされているボランティア、奥様などさまざまだと思います。
中途で目が見えなくなったら一体どうすればいいか、非常に困りますよね。どう動けばよいかさっぱり分からない、自分と同じように見えなくなった人達が一体どのような道筋を辿って立ち上がっていっているかが知りたい。もう一つは、将来自分の目が見えなくなったら働き続けられるのかどうか、他の人はどうしているのか知りたいということがあります。知りたいと思う時期が何か行動を起こそうとするタイミングの心理状態なのです。その心理状態がリハビリに向かって努力しようという時期になっていないとなかなか情報を集めようとする気にもならないと思うのです。
最初は、とにかく自分の目が見えなくなったことを認めたくないわけです。まず“否認”から始まります。そしてその次は、なぜ自分だけがという“怒り”、この自分自身の目の病気について無性に腹立たしい気持ちになってくる。そしてこれからの生活がどうなってしまうのだろうと大変心配になってきます。その人の社会的地位、家族状況、年齢、その人の性格などいろいろな要素により異なります。この段階で非常に悩むわけです。今後の将来について“苦悩”する。でも、まだこの時期は、たとえば眼科医から何か情報があったとしてもそれをなかなか素直には受け入れ難いような時期でもあります。あくまでも、視力を元に戻したい、前のように見えるようになりたいという気持ちが強くあります。ですから、もっといい医者がいないか、患者の会に接触して有名な方の情報や少しでもよくなった話があれば、そこへ訪ねて行くということで病院を転々とします。このことは以前はたくさんありました。網膜色素変性症の人達が中国まで鍼治療に出かけて行ったという話などです。
しかし最近は、このような病気はもう治らないという情報がある程度伝わっていて、この目を治そうという“模索”ですね、他の病院に行っても同じだと考え転々とすることは少なくなってきています。中途視覚障害の三大疾患といわれる緑内障、網膜色素変性症、糖尿病などによる視覚障害は、現状維持か改善されない、治らないことが分かる。それを医者に診断されますと、落ち込んで“抑うつ”という状態になってしまいます。この抑うつ状態になった時が一番危険な状態です。この状態のときにうっかりすると自殺することになりかねません。
視力の落ち方が軽くても、とことん落ちてしまっても、その前の状態と違うからその悩みはその人にとっては本当に深刻で抑うつになっていく、そのときに大体引きこもっていきます。この引きこもっていく状態から外へ飛び出して、抑うつから努力といういきなりそこへ向かうのです。この転換はまさに劇的です。これは出会いやきっかけがあり、よし自分も、という気持ちになりこの段階から情報を真剣に集め始めます。ここからいろいろな情報を集めて、その後復職など仕事をしながらいろいろな葛藤があって、そこでようやく自分自身をしっかり認めて受容するところまで辿り着くということになります。非常に早くいける人と、だらだらと長くいつまでも過去を引きずりながらなかなか受容できない人、それぞれ様々で一様ではありません。
情報を得ようとするとき、まず同じ仲間が一体何をしているのか、どうしているのかをまず知りたい、それから見えなくても仕事はできるのだろうかということです。どんな仕事をしているのかも知りたい、さらにどのようにすれば仕事ができるのだろうか、そういうことを知りたいのです。中途で目が見えなくなった場合、今までできたことができなくなります。できなくなったことをできるようにするにはどうすればいいのだろうかということもあります。これは視覚障害リハビリテーションです。そういう話も聞きたい、それから具体的に相談にのって欲しい、そんなところがあったら教えて欲しいということです。
目が見えなくなったときに福祉制度、手帳はどうするのだろうか、手帳がどんなメリットがあるのかということもあります。手帳の問題はかなり複雑で、自分自身の気持ちの中で手帳を取るべきかどうか迷いますが、その辺になるとかなり受容したといってもいい時期ではないかと思われます。人によってはリハビリを受けながら受容していく場合もあります。
視覚障害リハビリテーション施設がどこにあって具体的に何をしてくれるのか、働き続けるためには具体的にどうしたらいいのだろうか。働き続けるための手立て、道具や視覚障害補償機器にはどんなものがあるのか、いろいろな情報をとにかく得ようとします。目が見えなくなり最初に何をすればよいのかわからなかった段階から情報を得ることで行動を起こし始めることになります。
2.今働いている会社はどうするの?
本人の立場と会社側の立場があると思います。会社側としては、途中で見えなくなった人が特別な知識、技術や経験を持っていれば配慮してくれると思いますが、ほとんどの場合は持っていないのが実情だと思います。上司も人事も見えなくなった社員をどうしたらよいのか分かりません。自分が目をつぶって目の見えない状態を想像すると前に足が一歩も進みません。周りに何の情報もありませんから、これは文字も読めないし何もできなくなるのではないかと思ってしまいます。その段階で会社がいろいろな情報を得ようと努力すればよいですが、それをしてくれる会社はあまりないのです。それで本人に一任するというか、後は自分で将来を考えなさい、自分で情報を集めて方向転換を考えなさいと突き放してしまうのです。
タートルの会としては、そういう会社側の無知からくる偏見、固定観念、見えなくなったら何もできないという考えに対して、いやそうじゃない、いろいろなことができますよ、いろいろなところでこんなふうに働いていますよ、というようなことをできるだけ情報提供しようと、『中途失明U 陽はまた昇る』あるいは『視覚障害者の就労の手引書=レインボー』を発刊して、できるだけ情報提供しながら、企業、雇用側に視覚障害者は見えなくても頑張ってこれだけの仕事をやっているということを知ってもらおうと社会啓発を行っています。
会社は一番心配している安全に通勤できるのか、仕事に対応できるのかということが分からない訳ですが、本人も最初はそれが分かりません。しかし先ほどお話したように、情報を得ることによって結構働き続けている人がいることや自分も頑張れば働き続けられると分かってくる、そして歩行やパソコンの基礎技術、文書処理能力の回復、こういうことをやれるところは何処だろうかと調べてリハビリテーション施設に入ろうとします。リハビリテーションを受ければ歩けるようになり、文字も読んだり書いたりすることもできるようになります。相談の結果あるいはいろいろな情報を得て、働き続けるんだ、働き続けたいという意志を強く持つようになります。
そうは言っても心が揺らぎます。辞めようかな、なかなかしんどいぞと弱気になります。それをいろいろな人達、仲間と交流しながら、自分独りじゃない、他の人も頑張っているということで、また勇気を取り戻します。そんな機会のひとつが今行われているこの交流会です。
仲間と知りあって情報を得ながら頑張る力、エネルギーをもらって、これまでやれていたことができなくなくなった自信喪失を、リハビリテーションをしながら自信の回復につなげていきます。すべてが出来なくなったんじゃなくて、情報を得ながら、あるいはリハビリテーションを受けながら少しずつ自信を回復していきます。特に歩けるようになると、ものすごく自信の回復になります。日本盲人職能開発センターで訓練を受けるようになった人達は、生活リハビリテーションを受けた後ここに来ています。ですから受容もされていますし、自信もかなりついてきています。しかし職業につくにはまだもう少し不足しているから、パソコン技能・知識のレベルを上げようと入って来ている訳です。
3.その頃の本人の気持ちって?
中途視覚障害者の中では40代、50代のころが一番数も多いし、事例も多いのです。一家の大黒柱ですから、この先子供たちの教育費や家族の生活がどうなるのか、住宅ローンがまだ残っているがどうすればよいのか、経済的状況の不安があります。失明や視力が落ちてくることに対する恐怖といった精神的な不安があるのです。
会社で責任のある仕事が続けられなくなるとともに肩に重荷がのしかかってきます。それがプレッシャーになり不安や精神面のストレスになります。職場で仕事がどうも上手くはかどらなくなりミスが目立ってきます。そういうことで責任をまっとうできるのかと自分自身の自信の喪失につながり、会社に対して申し訳ないというような気持ちが出てきます。自信を喪失してきていますから、弱気になり消極的になってきます。さらに会社に行くのさえも苦痛になってきます。ある日突然見えなくなった場合は勿論会社に行くなんてことは出来ません。一方、徐々に悪くなってくる人の場合は、会社には通っているけれど、いつどこで自分の目の状況を話したらいいだろうという悩みもあります。そして過去をどうしても振り返りますから、見えていたらこんな失敗することはなかったのにとどうしてもそこに執着します。過去に戻ろうとする後ろ向きの考え方がどうしても続きます。これ以上会社に迷惑をかけたくないという感じです。自主的に退職を願い出てしまうことが過去には非常に多くありました。最近はそんなことは少なくなりました。働き続けた方がよいと仲間から情報を得て、できるだけ元に戻って仕事ができるようにいろいろ工夫をしたらいいよ、会社側と交渉したらいいですよ、と本人もまたその気になっていきます。でも、途中の段階、まだ情報がない段階では、会社を辞めようと思ったりもします。
4.どうやって前向きな気持ちになるの?
仲間との交流、触れ合いによって勇気・元気をもらい、さまざまな情報やリハビリテーション等により不安を軽減していくことで、少しずつ前向きな考え方になります。働き続けることを、気持ちとして持ち続けられるようになっていきます。
開き直りというのも非常に大事です。ここまで来たらもうどん底だ、もうこれ以上落ちることはないのだ、と開き直ることで前向きになるのです。スタートラインみたいなものですけれど、開き直りは非常に大事です。ゼロからの出発、ここからスタートしていくのだと考えればそこにプラス、プラスとどんどん積み重なっていきますから、前向きになろうとする考え方のひとつです。リハビリを受けながら訓練をしていく、その途中の段階で段々自信が回復していきますから、そうすると考え方もまた前向きになってくるといってよいと思います。
見えなくても働けるのだという信念を持つことが非常に大事だと思うのです。訓練を受けているときは、本当に大丈夫かなとか、こんなことで本当に仕事ができるようになるのかなとか、自問自答しています。それでも、周りの仲間が働いていることで、よし自分だって働けるようになるのだという信念を持つこと、これが非常に大事だと思っています。
過去を振り返らない、苦しくても焦らず一歩ずつ着実に進むことが大事なのです。他人と自分を比較しないことも前向きな考え方になるには大事です。どうしても、人と比較してしまいます。同じスタートラインからスタートしても、能力の差、相性がありますし、技術の面が特にそれが大きいのです。先へ先へと進んでいく人と比較して、自分はどうももたもたしているぞと慌てる、焦ってくることがないようにするのが大事です。マイペースを保てるようになることが大事だと思っています。
プラス思考、マイナス思考とよくいいます。物事が良い方向に進んで行くと考えることがプラス思考です。マイナス思考は、物事を悪い方へ悪い方へ考えてしまいます。この辺はその人の性格がありまして、プラス思考になれといってもなかなかそうはいきませんよと言う人がいます。これは、どうしても悪い方へ考えてしまいます。よく先のことを考えて、備えあれば憂いなしと言いますが、良いことを考えて備えるならばよいけれど悪いことばかりを考えてそのたびにどうしたらよいのだろうなどと考えないほうがよいのです。この切り替えをしっかりしたほうがよいと思います。
5.どんな仕事が出来るの?
視覚障害者もいろいろな仕事をしています。
6.どんな訓練・どんな訓練施設があるの?
視覚障害リハビリテーション訓練は日常生活動作訓練、、歩行訓練、コミュニケーション訓練(点字、パソコン、手書き)などです。日本盲人社会福祉施設協議会(日盲社協)のリハビリテーション部会には32施設が加入していて、これに国立のリハビリテーションセンターを加えますと全国に約40カ所の施設があります。リハビリテーション施設には盲導犬施設も加わっています。ロービジョン訓練をしてくれるところは、『中途失明』や『中途失明U』の資料にも載っています。ただ看板だけで実状が伴っていないところもあるようです。
職業訓練としては、“あはき”あんま・鍼・灸(三療)の資格取得のための訓練施設と事務職への訓練施設、例えば日本盲人職能開発センター、埼玉県の所沢に国立職業リハビリテーションセンター、大阪に日本ライトハウスがあります。大阪府立盲学校に情報処理科があり、OA実務とプログラマー的な情報処理技術者の養成を行っています。また、筑波技術大学は4年制で三療師と情報技術者を養成しています。
7.能力つけたらどうやって復職・再就職するの?
まず復職ですが、これは会社との交渉という大きな問題があります。歩行訓練を受けてある程度歩けるようになったら、会社にデモンストレーションとして出かけて行くとか、音声パソコンを使って文字処理ができるようになったことを、ある程度のところで見てもらいます。
職場の理解をすすめるために、・歩行訓練士、ハローワークの雇用指導官や職業センターの職業カウンセラー、職業訓練施設の指導員等との連携が重要です。
●定着のために(番外)
私は、マンションの企画・建設・販売を手がける株式会社穴吹工務店の東京本社に勤務しています。
<就職に至った経緯>
私は都内私立大学の法学部を卒業しましたが、元々コンピュータが好きで簡単なプログラムが組めたため、プログラマーまたはSEを志望して就職活動を行っていました。しかし、現実はそんな簡単なものではなく、大学卒業時の就職は失敗してしまい、その後、国立職業リハビリテーションセンターのOAシステム科に入所し、本格的にプログラミング(C,JAVA,VB)やネットワーク構築の基礎を学習しながら、再度、就職活動を行いました。
そこで、穴吹工務店にSEを志望して応募し、画面読み上げソフトの入ったパソコン持参で面接に行ってみると、東京にはSEの仕事がないとのことでしたので不採用を覚悟していました。ところが、会社側にいろいろと配慮していただき、情報システム部を経験している財務課の課長の下で、大学で学習した知的財産関係の業務や財務課の資料作成業務を担当することで採用していただきました。当時は企業の求人意欲が冷え込んでいた時期で、実質的には採用に消極的だった企業が多い中、このような会社なら希望業務とは異なるとはいえ、貢献できることがあるのではないかと考えて入社しました。
<業務内容>
支援ソフトは、画面読み上げソフト(スクリーンリーダー)のJAWS・XPReader(予備)を使用しています。Lotus Notesの社内システムへのアクセスやE-Mailの使用をはじめ、下記はJAWSのみで可能です。
(1)知的財産に関する業務
<業務上の創意工夫>
開発環境のいらない簡易言語のVBScriptで、以下のようなことを行う簡単なプログラムを作成して、業務を効率化しました。
<これまでの反省点と現在>
私とどう接したらよいのか、どのように業務をシェアするのかなど上司や同僚の方が悩んだと思います。自分自身も業務内容に納得して入社したはずなのに、入社後、「事務職で役に立たない自分」という現実と、それによって引き起こされる周囲の評価から完全に自信を無くしてしまい、自分にできる業務、できない業務(解決手段がある場合はその手段)について、上司や同僚に積極的にアピールしなくなりました。いつも何かにつけ周囲にフォローしてもらっていますが、自分自身でコミュニケーションの壁を作ったことが最大の反省点です。
正直なところ、入社直後には、入社にご尽力いただいた方々のことを考えながらも、Webのアクセシビリティーチェック担当として内定していたある特例子会社を辞退したことを後悔し、また、年齢を考え、このタイミングで技術職へ転職することを真剣に考えていました。
しかし、「負け組で引き下がるには早過ぎる」「1年は頑張ろう」などと考えながら日々の業務をこなしているうちに、「せめて知的財産関連の業務だけでもしっかり会社に貢献しよう」「もう少し成果を出そう」「せっかくならこの会社でできるキャリアアップを目指そう」と考えるようになり、現在に至っています。
職場では、私が足を怪我した際に通勤ラッシュを考慮して時差出勤をさせていただくなど、環境面でも人事評価の面でも、上司や同僚から温かく長い目で見ていただきながら業務を行っています。
会では、「〜設立10周年記念誌・100人アンケート〜視覚障害者の就労の手引書=レインボー=」の発刊に伴い、社会啓発のため、厚生労働省への陳情、業界のトップ団体との懇談を行ってきましたが、ここでは、社団法人日本経済団体連合会「日本経団連」、社団法人日本眼科医会、財団法人日本眼科学会との懇談について、その要旨を報告します。
懇談は、いろいろな立場にある方々のご協力をいただき実現に漕ぎ付けましたが、お蔭さまで和やかな雰囲気の中、「視覚障害者の一般就労に特化して取り組んでいるグループがあるのか?」という驚きみたいなものと、「実は、こちらもどうしたらいいか困っていたのでパートナーとして活用させてもらいたい」というような補完作用も手伝い、第1回目から、予期以上の手ごたえを感じたものとなりました。
それぞれ、今後とも機会あるごとに懇談するということで合意しているので、この貴重な意見交換を無にすることのないように努力し、視覚障害者の就労の拡がりのため、尽力していきたいと考えていますので、会員のみなさま方のご支援よろしくお願いします。
なお、9月16日は第7回日本ロービジョン学会学術総会・第15回視覚障害者リハビリテーション協会研究発表大会合同会議において発表し、今後は、連合との懇談、12月6日の独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構の第14回障害者職業リハビリテーション研究発表会において発表を予定していることを付言しておきます。
◎社団法人日本経済団体連合会(日本経団連)との懇談
日時 平成18年8月30日(水)14時00分から15時20分
場所 社団法人日本経済団体連合会、3F会議室
応対者 輪島 忍氏(労政第一本部雇用管理グループ長)
畠山千蔭氏(東京経営者協会障害者雇用相談室・障害者雇用アドバイザー)
[要旨]
1.視覚障害者の雇用に関してハローワークの相談窓口としての重要性と、連携について
<回答or見解> 一義的にハローワークの重要性についてはお説のとおりであると思います。しかし、企業側としては各職業センターにも相談したりしているが、どこに相談したらいいか戸惑いもあるため、経団連は企業側の相談窓口として、平成10年に東京経営者協会に「障害者雇用相談室」を設置しました。
同席の畠山さんを責任者として、3人の雇用アドバイザーに月曜日から金曜日まで、午前10時から午後5時の間、常時1人は必ず待機している態勢をとっています。雇用についてのハローワークの指導は厳しく、精神・知的障害者に対する電話相談は多いです。電話で相談の要旨を聞いたあと、改めて後日、直接面談して対処するようにしています。特に視覚障害者の雇用についてどうするかでありますが、ハローワークの最大手である飯田橋において、たとえば、視覚障害者の雇用に関して専門性のある者が月曜日には対処できるというような仕組みがとれるようにすべきではないでしょうか。
2.雇用アドバイザーに対して、視覚障害者雇用に関する質問がありましょうか?
<回答or見解> 雇用主から、あちこちに聴いたがよく分らないので経団連に雇用アドバイザーがいるということを聞いたと言って、「どのような工夫ができるか」というようなことをたまに聞いて来ることがあります。私自身は、長い目で見れば、視覚障害者に対する見方は「どのような仕事がいいのだろうか?」と考えるようになり、世の中は少しづつ変ってきているように思います。
制度としては、多様化して受け皿がたくさんできてきたように思えますが、それを進めるマンパワーが追いついていないように思うので、制度をつくると同時にそれを活かせる人材を官民ともども育てる必要があると思います。
大企業はそれなりに対応できる可能性が高いと考えられますが、小企業にあっては余裕がなかったりするので、そのようなとき、さまざまな制度を活かせるアドバイザーがおれば、そちらからのアドバイスが受けられることが考えられます。
3.視覚障害者に関する相談事例の質問の中で、ここが分らないというところは具体的に何でしょうか?。
<回答or見解> 私は、「中途失明U〜陽はまた昇る〜」や、「視覚障害者の就労の手引書(レインボー)」などを、読ませてもらっていて分るのですが、いずれにしてもまだポピュラーではないと思います。
一般的には、ビデオなどで、視覚障害者がどうやって働いているのか、拡大鏡などを使って仕事をしているその様子を間近にみるとか、どうやって働いているかという就労事例を見ていないから、ということだろうと思います。そういうようなものが普通に、「あ、あのようなものを使えばいいんじゃないの」と、なるようにするのかどうかではないかと思います。ある会議で、視覚障害者の先生方が、拡大読書器などを使いながらやっていた会議の場面に遭遇したことがありますが、普通の会議に比べて少し違和感がありましたが、しかし、そういうものが普通だと思えるような環境をどのようにつくるかということだろうと思います。
レインボーなどをもっとどのようにして周知するのか、どのようにしてもっといろんな人の手にとどくようにするのかということが一義的には重要なんだろうなと、思います。
雇用率の観点からいうと、今、雇用率を達成していない企業は中小企業のところが多いので、中小のところで一人ずつどうやって受け入れてゆくのか、その仕組みをどうするのかという制度がまだ見えないんです。
大企業は最近は特例子会社により、5人、10人などと雇用して、一箇所で雇用管理を行い、仕事をやってゆけるというものがだんだん分ってきていますが、中小のところでは、どうするのかということについて、まだ、仕組みができていません。
雇用促進ということで「雇え雇え」と指導はしますが、実際、どのように雇用するのかについては企業側も、雇われる側もまだよく分らないということがお互いにあるように思われます。
4.ジョブコーチ制度の拡充について
<回答or見解> 視覚障害者のために独自の特化したジョブコーチを育てておく必要が大切だと思います。
一般的に福祉の部分の一号と、企業内における二号をどのようにたくさん養成するのか、気になっているところですが、今回、二号についてきちんと整備してくれたことは重要だったと思っています。
厚生労働省・障対課と話をしているのは、一号や二号のジョブコーチになる要件のことです。特に二号について言えば、特例子会社では3年の実務経験が求められています。今はジョブコーチのマンパワーという裾野を拡げるべき時期だと思っているので、なぜ、そのような要件をつける必要があるのか?と、疑問もあります。
企業側から言うと、二号のジョブコーチになるためには、生活相談員になって5年の実務経験か、特例子会社などの3年が要件という現実にそぐわない高いハードルがつけられており、障害者雇用促進法上のジョブコーチの育成にハードルをつけてしまっているように思えます。
最後に、今後とも、意見交換の場をもつということで意見一致し、散会した。
◎社団法人日本眼科医会との懇談
日時 平成18年8月31日(木)14時から15時20分
場所 (社)日本眼科医会応接室
応対者 古野史郎医師 常任理事
横山謙二主任 事務局 公衆衛生部
[要旨]
1.視覚障害者が働き続けられるためには障害当事者・企業主・医療機関・行政・当事者団体などとの連携が重要であることについて
<回答or見解> ロービジョンケアについての講習会は東京都では年に数回行っていますが、実はそのようなことをやっていてもタートルの会の存在はまったく知りませんでした。
このようにしてタートルの会の存在が分ってくると、タートルの会と同じように視覚障害という立場で、自分たちで活動している会に色覚異常のみなさんの「パステルの会」というのがあり、私どもが多くのことを教えてもらうことがありますが、これと同じように今後はタートルの会に相談するようなことになると思う。
2.診療報酬に関して、・厚生労働省保険局がロービジョンケアを制度化するためには眼科医団体の専門家からの要望が重要である旨の助言があったことについて
<回答or見解> 診療報酬は、切り詰め切り詰めやっているので、新たなものを加えるということとなるとかなり大きな労力を必要とすると思います。新しい手術の方法が入ってきても、すぐ診療報酬に結びつかない状況にあり、それがどんどんたまっているのが現状です。先端医療などといいますが、保険医療のほうがまだ追いついていない状況です。
かたやロービジョンケアを診療報酬の対象として、新しくつってもらうというのには、非常に苦労するんですね。厚生省は、古いものをちょっと替えることについては対応するが、新しく項目を増やすことは困難と思います。
それでも働きかけてみるという必要はあると思いますが、今、医療機関でロービジョンケアをやっているところは非常に少ないんです。
ロービジョンケアは、非常に長時間を要しますから、コストも高くつくし、通常の診療の合間にちょいとやろうというわけにはいかないので、それなりの時間が必要です。取り組んでおられる先生は、一生懸命にやっておられますが、一方それをやろうとする先生はあまり多くないので、増えてくる可能性もむずかしいですね。それだけの診療報酬がはいってくるなら、増える可能性もあると思います。いろんな問題がたくさんあります。
3.「医療行為として」という言葉の範囲について。例:「医療行為として、眼科医が視覚障害リハビリテーションを認めたら、病気休暇の対象にできる」
<回答or見解> これは、われわれとしては、「われわれがこう話をして、患者さんにお話をすること自身」が、医療行為であります。ですから、それこそ電話再診、まあ、診療報酬のほうでも、「電話再診」というのは、認められているんですから、医療行為にはつながっていることだと思います。たとえば、「XXXについては、これこれという症状なのでどうしたらいいか?」に対し、「こうしなさい、ああしなさい」という指示を出すと、これは医療行為として再診料が取れる。と、なっています。ですから、それとまったく違わないので、医療行為と考えることができます。昔、私が医学部にいたころは、「視覚障害リハビリテーション」という概念はなかったのですが、最近はそういうことが入ってきているようです。
4.眼科医会の会員へ、タートルの会の存在を周知する方法について
<回答or見解> タートルの会が、直接眼科医会の会報に投稿するとか、案内を出すとか、あるいは、眼科医会の名前でタートルの会の資料を送付するということなどは、むずかしいですが、たとえば、本会会員の先生に投稿してもらい、その文中で、タートルのことに触れるという方法なら、可能だろうと思います。
周知が、一番大事なことであるとして、今後の協力を約束してしめくくった。
◎財団法人 日本眼科学会との懇談
日時 平成18年10月10日(火)17時から18時20分
場所 (財)日本眼科学応接室
応接者 竹内 忍常務理事 東邦大学医学部教授、社会保険委員会委員長
[要旨]
1.ロービジョンケアの制度化などについて
<回答or見解> お話から診療報酬のことはさておいて、具体的に、眼科医または施設が、就業の手助けを中途視覚障害者に対してどのようにするか、ということではなかろうかと理解しました。
2.タートルの会との連携と周知方法について
<回答or見解> 連携については、勉強不足のため、タートルの会の存在を知りませんでしたが、眼科医側としても、公の機関とかそれをつてに視覚障害者の自立支援をしなければならないと思っています。タートルの会を紹介することについては、たとえば、ロービジョン学会主催のシンポジウムを利用する方法もあると思います。シンポジストになるには、いろいろあると思いますが、利用できれば、プログラムにも掲載されるので学会員に広く周知され、協力が広がるのではなかろうかと思います。
もう一つは、日本眼科学会誌の中に「広報のページ」とか、あるいは「理事の発言コーナー」があるので、理事の発言コーナーの中で私がタートルの会のことについて触れたりすることは可能です。
3.眼科医の中には、当たり前と言えば当り前であるが、治療を重視する観点から、患者に対し「残念ながら治療法がないんです。」などと患者に悲観的な発言をしている場面に遭遇することがあります。これでは患者はますます失望感が高まるだけなので、ロービジョンケアの面から「見えなくてもしっかり働いたり、スポーツを楽しんだりしている人はたくさんいるなどと、希望を与える表現」が望まれるように思いますが……。
<回答or見解> そういうことは、医療技術の面からあると思います。
一般的に言って、眼科医もまだ「見えない者は何もできない」などと先入観から考えている人はいます。しかし、タートルの会の活動に関心を寄せ、手助けしたいと考えている眼科医はたくさんいると思います。
4.ロービジョンケアの診療報酬要求について
<回答or見解> この件では、ロービジョン学会がありますので、そこが中心になり主体的に動いてもらうのがいいと思っています。これまでにも、ロービジョン学会などで検討してもらい、2回ほど、厚生労働省保険局医療課あてに要求してきましたが、認められなかったのです。しかし、引き続き要求はし続けていかなければならないと考えています。
話は変わりますが、視能訓練士協会と日本眼科学会との連名で要求した「弱視のめがね・コンタクト」については、初めてでしたが補助が認められました。これには福祉に力を入れている政党からの働きかけがあった可能性があります。お金はそこそこかかっている案件でしたが、視能訓練士協会に政治力があったということかも知れません。
5.ロービジョンケアは、視覚障害者にとって就労継続につながる可能性をもつ重要なものなので、眼科専門医研修においては必修科目として、是非ロービジョンケアを取り上げて欲しいことについて
<回答or見解> 学会には、専門医制度があり一定の試験により専門医になってもらっています。その専門委員会で検討してもらい提言するのが望ましいと思っています。
6.理事会への報告などについて
<回答or見解> 本日の懇談については、理事長から指名されたことでもあるので11月の理事会において、本日の懇談の内容を報告し、学会としての社会貢献の一つとして何かやることがあるのではないかということ、シンポジウムのこと、投稿のことなどについて提案してみたいと考えています。学会は、社会貢献と、医師の質をいかに高めるかと、いうことについて、真剣に検討を重ねていますが、まさに中途視覚障害者の継続就労のサポートをどうするかは社会貢献の一つであると思っています。
ロービジョン学会にはすばらしいメンバーがおられるので、力添えをもらったらどうかと考えています。
最後に、今後とも、懇談の機会をもつことを了承していただき懇談終了。
中途視覚障害者の復職を考える会【タートルの会】会報
『タートル45号』
2006年12月15日発行 SSKU 通巻2312号
■編集 中途視覚障害者の復職を考える会 会長・下堂薗 保
■事務局 〒160-0003 東京都新宿区本塩町10-3
社会福祉法人 日本盲人職能開発センター 東京ワークショップ内
電話 03-3351-3208 ファックス 03-3351-3189
郵便振替口座:00130−7−671967
■E-Mail:m#ail@turtle.gr.jp (SPAM対策のためアドレス中に # を入れて記載しています。お手数ですが、 @ の前の文字を mail に置き換えてご送信ください。)
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