会報「タートル」37号(2005.5.15)

1998年10月9日第三種郵便物認可(毎月3回8の日発行)
2005年5月15日発行 SSKU 増刊通巻1780号

中途視覚障害者の復職を考える会【タートルの会】 会報
タートル37号

目次
【巻頭言】
「出来る事と出来ない事」
幹事  植村 滋樹
【1月交流会記録】
「視覚障害者等の移動環境・交通権について」
〜特に信号・プラットホームについて〜
高瀬 清(神奈川視覚障害者の生活と権利を守る会)
【職場で頑張っています】その1
「視覚障害を楽しむ」
渡辺 正弥
【職場で頑張っています】その2
「常に前向きな精神でチャレンジ」
藤川 聖視
【活動日誌】
定例幹事会、1月交流会、相談会、定例幹事会など
【お知らせ】
発刊本の広報について
「中途失明II 〜陽はまた昇る〜」の発刊のご案内
【編集後記】
(事務局長:篠島永一)


【巻頭言】
「出来る事と出来ない事」

幹事  植村 滋樹

 私は、幹事一年生の植村滋樹と申します。疾患は、原因不明のブドウ膜炎で、障害手帳は4級です。中心暗点がありますが、視力は0.1強ありますので、普段は、白杖もついていません。
 お酒と漫画が大好きな中年です。漫画は、月曜日のスピリッツに始まり、金曜日の漫画ゴラクまで、週に7から8冊は購入しています。電車の中、ルーペを使いながら読んでます。家内には、そこまでして読まなくても、他の事に小遣い使ったらと笑われます。お酒もこよなく好きで、お酒の入る胃袋には穴があいているのかいくらでも入ってくれます。
 そんなごく平凡な私の目は、昭和の年号が平成に変わる頃から徐々に見えにくくなり、平成が2桁になると、経理の仕事をしていて、数字の桁を誤ることがしばしばあるようになりました。1980が190とか、見ようとするとますます見えない状態になり、この先どうしたものかと、ハローワークの障害者相談コーナーを訪ねたんです。
 そこで個人的に「タートルの会」を紹介され、さまざまな方達と知り合う機会を得、拡大読書器があることや音声ソフトでパソコンが使えることを知り、まだまだ「出来る事」がたくさんあることを知りました。出来なくなってしまったことも沢山ありますが、工夫をすれば出来ることを知りました。
 そんなおり、母校の短期大学が4年制大学となることを、校友会の紹介で知りました。1年間自分に出来るか出来ないか悩んだ末、平成15年の春、3年生に編入しました。仕事が終わると、お酒の好きな私は、酒屋にも目もくれず、毎日学校へ通いました。一番前の席で、単眼鏡とルーペを駆使して黒板の文字をノートに写し、家へ帰ると、家内の協力のもと、パソコンを使って復習をしました。音声でパソコンが使えることを知らなかったら、とても対応できなかったと思います。
 四半世紀前の見えていた頃より、真面目にノートの整理をしたような気もしています。若い学友からは、老眼辛そうねと助けられ、教師や事務職員の支援により、当初目標としていた単位も取得でき、今春経営学士の学位を取得することができました。
 あの時「タートルの会」の存在を教わらなかったら、今ごろ仕事も辞め、どこかの公園で朝から一升びんを抱え、世間が悪いとか言って凍死していたかもしれません。「タートルの会」で皆様に知り合え、そして出来ないことを数えるのではなく、出来ることを数えることの大切さを実感できました。
 あきらめなければ、可能性は大です。It is never too late to mend.(改めるに決して遅すぎることはない。)高校のとき、悪さをして、英語の先生から「訳してみろ」と言われ、訳せたら、「これから頑張れよ」と一言、これが頭の中をよぎりました。できないことを、できないと悔やむより、あきらめなければ、「出来る事」はまだまだ無限大です。
 皆様、これからも共に頑張りましょう。



【1月交流会記録】
「視覚障害者等の移動環境・交通権について」
〜特に信号・プラットホームについて〜

高瀬 清(神奈川視覚障害者の生活と権利を守る会)

1 はじめに
 私は1958年川崎生まれ46歳です。81年23歳の時、日本ライトハウスの歩行指導員養成課程を4ヶ月受けそれ以来、歩行訓練の仕事をしています。

2 5〜6人の語録
(1)発想の転換
 1つ目に「私達が信号を無視しているのではなく、私たちが信号から無視されている。」という言葉があります。「東京視覚障害者の生活と権利を守る会」の山城完治が言いました。山城さんはプラットホームからの転落事故を調査して、その解決の為に情熱的に活動しています。
 2つ目は、埼玉大学名誉教授の清水寛さんの言葉。車中心社会の標語で「飛び出すな、車は急に止まれない」ではなくて人間優先、子ども中心に考えれば「飛び出すぞ、子どもは急に止まらない」だと。実際は親が子どもに注意しますが、本来は、子どもが安心して道路を歩けるようにしていく必要があります。
 3つ目は、「一人歩きはなぜ必要か」に「夫婦喧嘩ができるから」という言葉です。『福祉のまちづくり』という本、大学教授日比野正己著、1978年発行です。その中で盲人の歩く自由について座談会を5,6人でやりました。日比野正己は晴眼者ですから、率直な質問をはじめの座談会の時にしたそうです。「盲人にとって一人歩きはなぜ必要ですか?」と質問した時に、ある視覚障害者が答えました。「それは夫婦喧嘩ができるからです」と。日比野さんは、「この短い表現の中に盲人の一人歩きの重要性が語られています。つまり最も人間的な信頼の絆で結ばれ、何事も言える人間関係であるべき夫婦、その夫婦にあってすら、ついつい相手に遠慮がちになる、喧嘩をすれば相手の協力を得にくくなってしまう。だから一人歩きできるという事は、それぞれの人格を認め合った深い人間関係、ひいてはそういう社会につながるという事です。」と書いています。
(2)さだまさしと宮崎康平
 さだの父親と宮崎康平が知人なので、さだは小さい頃から宮崎康平の家に遊びに行ったそうです。宮崎は昭和25年頃に「島原地方の子守唄」という歌を作りました。「はよ寝ろ、泣かんで、おろろんばい」というのがその一部です。 宮崎康平の述懐では「私が完全に失明した時出奔した妻、妻に見捨てられた2人の幼いわが子を抱いて、じっと失明の苦悩に耐えながら夜通し子どもをあやしていた。その際、島原地方の『おろろん、おろろん』の言葉を入れて何となくできたのがこの歌です」という事です。
 失明した時宮崎康平がさだに言ったそうです。「見えなくなるということは、何も見えなくなることではない、いやむしろ目明きが見えないものが見えることもある。まさし、俺が見えなくて困るのは1つだけ、歯磨き粉が歯ブラシにのらないのだ」さだは「先生それでどうしました」と聞き、宮崎が「うん、たいしたことはなかった。口の中へ先に歯磨き粉をいれればいいんだ」と答えたそうです。

3 歩行・交通権・憲法、財源は税金の集め方・使い方を変える
(1)安全な移動のために必要な3つのこと

  1. 1つ目に、リハビリテーション、歩行訓練です。川崎市では1974年から視覚に障害のある市民の方に通所・家庭訪問で生活訓練を行っています。
     2つ目、今日のテーマの移動環境、交通環境、交通権を保障する事です。
     3つ目に、先ほどの皆さんの自己紹介にもありましたが「人間は一人では生きていけない、様々な周囲の援助・協力が必要」という事です。この人間連帯については、吉野弘の“生命は”という詩が一番それにピッタリな内容と思います。
  2. 交通権
     交通権学会の定義です。「国民の交通する権利であり憲法22条、これは居住・移転の自由、職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の権利のことです。25条、13条を集合した新しい人権。通勤、財貨輸送など生活交通、物流・情報など生産関連交通、旅行など文化的交通さらに災害援助などの交通。政府、自治体、交通事業者などによって積極的に保障され充実される」と提唱しています。
(2)歩行の困難性
 国はほぼ5年ごとに身体障害者の実態調査をします。最新は2001年6月の調査で在宅の18歳以上の視覚障害者が301,000人です。65歳以上がそのうち54%過半数です。過去1年間の外出の調査で、ほぼ毎日、週に2,3回という方もいますが、それに続いて月に2,3回が20.3%、年に数回13.3%、外出無し6.6%で合計40.2%です。高齢者が多いのを考えたとしても、月に2,3回以下、週に1回も外出していない困難な状況が読み取れます。「外出する上で困ること」では、電車・バス等の利用が不便11.4%、車などに危険を感じる9.2%、道路や駅等公共の場所が不便7.0%で合計27.6%の方々が今日のテーマの交通環境をあげています。
 交通権を保障する為には信号でも駅の設備でもそうですが、それだけでなく私達の日々の暮らし、社会保障を充実させていく為には、財源の問題が有ります。
(3)財源
 税金の使い方を改めるのは国民の立場から見ると当然です。例えば公共事業費の無駄と浪費。5兆円の軍事費、これは世界第2位です。特殊法人向け予算、官房機密費や不正に流用されている警察報償費、選挙買収にも使われた政党助成金など、これらにメスを入れれば国と地方合わせて10兆円の財源を作れます。これを信号機やプラットホーム、国民の暮らし、社会保障に使うという事です。

4 信号
 今までお話してきた事、政治のあり方が基本問題だと思っています。信号の設備を増設させる為には財源が必要です。なかなか進んでいないのは財源を使っていないからです。
(1)現状

  1. 交通事故の現状
     2004年版、交通安全白書によると、日本の道路交通事故死の特徴は歩行中の死者の割合が非常に高いという事です。その比率、日本は約30%ですが、イタリア・フランス・ドイツ・アメリカは11〜13%です。イギリスは22.6%です。これは視覚障害者、子供、老人の犠牲者につながってくると思います。もう一つの特徴は65歳以上の高齢者が多いという事です。これは年齢の項目ですから65歳以上の人が歩行中だけでなくて、自分が運転している場合等もあります。
  2. 音響式信号機の現状
     警察白書では「視覚障害者用付加装置」と言っています。1991年には日本の信号機13万基の内、6,485基ですから4.78%です。2002年には総数約18万基の内、1万2,000基ですから6.67%へ、微増です。財源の問題でなかなか増えない。最新の数値では1万2,700基ですから700基位この1年に増えています。
(2)様々な運動等で一定の前進
 警察庁の方針は「メロディ式」から渡る方向を取れる可能性のある「異種擬音鳴き交わし式」へです。警察庁は実証実験により、「擬音式の一つである異種擬音鳴き交わし方式の誘導性の高さが認められた為、統一して進めていく」と。例えばヒヨコですと、前から「ピヨ」と鳴って後ろから「ピヨピヨ」と鳴く。前も後ろもピヨで同種擬音式です。もう一方は「カッコー」と「カカッコー」です。
 この異種擬音鳴き交わしと、もう1つのキーワードは歩車分離式信号です。長谷智喜さんという人が生活思想社から『子どもの命を守る分離信号』という本を出版しています。その本の冒頭。「私達家族が最愛の息子元喜と二度と会うことの出来ない不幸に見舞われたのは平成4年11月11日水曜日午前8時。(中略)現場に着いて真っ先に目に飛び込んできたのは交差点の周りを囲む人だかりと、知人に抱かれ目を真っ赤にしている妻、横断歩道中央付近で毛布をかけられていた物体―息子であった。」とあります。そしてこの事故がどのようにして起きたか、その原因は何か等が書かれています。9歳の妹が渡り終ったのですが、元喜君は後を歩いていて、左折のダンプが無理やり入ってきて轢かれたという事です。両親は「青信号を守って横断していた息子が、なぜ命を奪われなければならなかったのか」やり場のない怒りを抱きながら、この事故の根本的な原因を調べました。そして「この種の事故をなくすには、人と車を完全に分けて通行させる分離信号を設置するべきだ」と提唱し署名運動や国家賠償訴訟、この道路が構造的に事故を呼んだのだという事で道路責任者に対し国家賠償訴訟を通して運動を続けました。そして平成13年ごろでしたか、9月に警察庁は全国100ヶ所の事故多発交差点に歩車分離式信号を設置し、試験的に運用を始めました。歩車分離式信号とは、まさに長谷さん達が長年提唱し続けてきたことが実ったという事です。
 歩車分離式信号の一つがスクランブル方式ですが他の方式もあります。例えば6パターンで変わりますが前に十字路があるとします。まず車が縦にしか進めない、人間がその時渡れば絶対接触はしません。次に車は縦と左折が可で人は渡れません。3つ目が縦の右折だけと。縦と横で6パターンになります。
 警察庁は「公共施設等の付近、または通学路等において生徒・児童・幼児、高齢者および身体障害者等の交通の安全を特に確保する必要があり、かつ歩車分離式導入の要望がある場合」設置を検討するように等の指針を出しました。
 音響式と歩車分離式を必ずセットで要求するべきだと思います。
(3)信号についての課題
  1. 音響信号について
     一つ大きな問題は時間制限です。神奈川県警だと7時から19時と思いますが、「視覚に障害のある人はあまり夜一人で歩くな」と言っているようです。例えば通勤で朝7時前に夜7時過ぎに歩く場合もある。騒音問題等があるのでしょうが。例えば必要な時だけ鳴らす方法はどうでしょうか。その有る位置の分かりやすい押しボタン式や、視覚障害者等音響を必要としている人が発信装置を持って、そのスイッチを入れる時だけ鳴る方法にすれば、時間制限は少し解決の方向が見つかるかなと思います。
     もう一つは鳴らし方といいますか、例えば東西と南北の通りの時に方角に合わせて「ピヨピヨ」と「カッコー」を決めればどうでしょう。川崎駅から川崎市福祉センターへ行く時にほぼ南に進みますが、一つ目の信号は「カッコー」、二つ目は「ピヨピヨ」と変わります。方角で合わせず道路の主従です。2つの道路を比べより交通量の多い方、主道路を渡る時に「ピヨピヨ」という方式を使っている為です。どちらが良いでしょうか。
  2. エスコートゾーンについて
     西日本で普及していますね。多分愛媛県警とどこかで始めたと思います。視覚障害者用道路横断帯通称エスコートゾーンです。道路横断は方向がとりにくいです。異種擬音鳴き交わしは音だけですから、正確にとれないので触覚的な方法という事で、横断歩道中央部に幅30cm、アクリル製の突起物を敷設したものです、これは可能性があるので推進していくべきか、もっといい方法があるのか様々な議論があるところです。
  3. 点字ブロックについて
     溶着式ブロックが増えてきています。これは道路の白線の塗料みたいにすぐ乾く専用の塗料と機械で敷設しますが、短時間に出来るし、コストも28%位安いと普及していますが、触覚で分かりやすいか課題だと思います。又、点字毎日墨字版11月25日に「点字ブロック、音響信号機国際的な規格統一を。ISO技術委員会に日本人が初めて議長になった」との記事が載っています。徳島大学の末田統教授です。「日本は点字ブロック、音響信号機は進んでいますし、日本の点字ブロックはJIS化されています。それら蓄積されたデータを基にして、点字ブロックの国際的統一を目指す案進む」という記事です。
  4. ユビキタス社会について
     国土交通省の自律的移動支援プロジェクトが神戸で実験しています。点字ブロック等道路にICチップを埋め込み、白杖等に取り付けた読取装置で情報が得られるという物です。これはかなり進んでいく可能性があると感じています。

5 プラットホーム
(1)欄干のない橋
 誰にとっても危険なプラットホームになぜ安全対策が不十分なのかという事です。2001年1月26日新大久保で3人亡くなった事件がありました。例えば同年同日の3時頃、川崎の南武線平間駅で55歳の女性が貧血で線路に転落し、居合わせた客が救助しました。また同年1月31日22時40分京王線つつじヶ丘駅で妊娠中の女性がめまいで転落し、客3人で救助しました。このように、誰にとっても物理的にプラットホームは転落する可能性があります。よく視覚障害者が「欄干のない橋」に例えています。怖いですね、橋に欄干がないと。大阪の道頓堀では欄干があっても乗り越えて飛び降りる人がいますが。先の2件とも客が救助していて、新大久保も駅員は確かいなかったようです。安全にお客を移送しなければならないわけですけど、それよりも効率・人員を減らす事等が優先されています。実は駅員はいます。どこにと思ったら改札の外で「スイカやオレンジカード」を売っている、JRは八百屋さんになったのかなと。
 大阪大学の久保・吉野・橋本らの論文で「JR経営の現状と課題」というのがあります。国鉄が分割民営化されてから2000年までの従業員数の変化がJR東日本・JR東海・JR西日本、私鉄の東武・西武・京成・京王・小田急・東急・京急・相鉄・名鉄・近鉄・南海・京阪・阪急まで全て数値が載っています。例えばJR東日本ですと8万人の従業員が6万人位に2万人も減らされていますし、JR西日本でも5万人から4万人に対して、各私鉄はほぼ横ばいです。
 新大久保の事件が起きた後の国労の声明では「最大の原因は運転間隔の短縮や速度アップ。運転本数が増えているのに関わらず効率性優先で、ホームの安全を管理する駅員をダイヤ改正の度に廃止し、ラッシュ時間帯を除いて全廃に近いところまで要員を削減したところにある。」と言っています。JRは列車非常停止ボタンや転落検知マット等を増やしています。これは必要では有りますが、落ちない安全対策や人員配置が大前提だと思います。
(2)一定の改善と課題

  1. 固定柵の変更を
     「神奈川視覚障害者の生活と権利を守る会」は、相模鉄道本社に平成13年3月、「横浜駅のホーム固定柵設置の計画を再検討して可動柵へ」とお願いしました。受け入れられず固定柵が設置されましたが、主にコスト財源が理由です。すでに固定柵が設置されていた東急池上線の蒲田駅で視覚障害者の転落事故が起きている事もあり可動柵を要望したのですが。
  2. 交通バリアフリー法
     この法律は一定の前進と思います。細かい事ですが交通事業者職員の誘導介助研修の努力にもふれています。
  3. ホーム柵設置促進に関する報告書
     国土交通省が03年12月に出しました。
    これはホーム柵を設置促進するのですから一定の前進と思いますが、当事者等の要望を受け入れてほしいです。
  4. その他
     車内のドアの位置表示はご存知だと思います。他に名古屋のあおなみ線という新しく出来た線で、車内の床が灰色系ですがドアの所だけが黄色です。高齢者やロービジョンの人が出口を探しやすいかもしれないですね。非常に細かい事ですけど。

 テーマが大きくてまとまりにくかったですが、これからも皆さんとご一緒に、様々な課題に一歩ずつ取り組んでいきたいと思います。どうも有り難うございました。


(まとめ:幹事・重田 雅敏)

【職場で頑張っています・その1】
「視覚障害を楽しむ」

渡辺 正弥

1 私とタートルの会との関わり
 会の発足以前から吉泉さん、滝口さん、工藤さん他の皆さんから助言を頂いて今の私があります。本当に感謝しております。

2 中途視覚障害者の辿る道を私は次のように思うのです。
1st. 否認:自分が失明するなんて信じたくない。
2nd. 怒り:どうして自分だけが?
3rd. 苦悩:これからの生活の不安など。
4th. 模索:病院を転々としたり、情報を探したり。
5th. 抑鬱:回復しないとわかったときから悩みは深刻に。
6th. 努力:社会復帰へ向けて。
7th. 葛藤:仕事継続上での悩み。
8th. 受容:障害を受け入れる。

3 私の仕事
 最近「青色ダイオード裁判」などで「職務発明」が新聞などのマスメディアで取り上げられるようになりました。
 私は某食品会社で、研究開発、開発企画を経て知的財産室で22年間働いていますが、1997年夏を過ぎて視覚障害手帳を受けました。
 私の場合、視力5級から始まり今は1級の光覚弁です。歩行は不安なのでタクシーで通勤しています。
 私の仕事は国内外の特許の出願から登録まで、競合他社の特許化阻止、係争、契約、なんでもやります。
 わが社の場合、自ら明細書を書きますし、海外の代理人とも直でやりとりすることもあります。
 幸い特許庁へはhtml文書をオンラインで送ればいいし、国際特許事務局にも日本語でオンライン送信することができます。
 専門知識はあるのですから、英語、日本語さえ出来れば、国内外の弁理士事務所とのやりとりもメールで出来ますし、業務上の支障は極めて少ないといえます。
 私は生活訓練を受けたわけでも、パソコンを習ったわけでもないのですが、スムーズに業務を継続しています。
 それは、私が情報を得て業務継続のシナリオを書き納得してもらったことと、私がパソコンにかなり精通していたのも幸いしたと思います。

4 人間関係
 見えなくても補助具を利用するなど工夫次第で仕事は出来ますし、工夫して出来た悦びもあります。
 しかし、見える見えないに関わらず人間関係は重要な課題だと思いますので、若干書いてみます。
 私達団塊の世代は競争社会のなかで育ちましたし、私も生来反骨精神と闘争心は人一倍強いほうです。
 企業において、競争優位の環境では人は権力を得て優位に立つと、相手に対し経済制裁だけに留まらず精神までも破壊しようとするものでしょうか?
 「嫉妬」、「怒り」、「確執」などのマイナスの感情は相手を地の底に引きずり落としてしまうまで満たされないのでしょう。
 私が、心理学の勉強などを始め、弁理士に挑戦し、カウンセラーを目指したのも、これがきっかけです。
 私は誰にでも好かれる性格ですし、社内に多くの親しい人たちがいますし、職場の皆が以前にも増して私を援助するようになり、益益職場の居心地は快適になってきました。
 みなさんには人間関係を円滑にし、豊かにすることをお勧めします。
 なにより人間関係が業務をこなし仕事を続けていくうえで最も重要なポイントだと思うからです。
 敵を作らないことです。どうしても嫌な人には近寄らないで出来るだけ避けることです。

5 「受容」への道
 もう、もがくのは止めようとふっと力を抜いてみました。すると、新たな道が見えてきたのです。
 「諦め」とは「明らかにすること」となにかの本で読みましたが、受容の一つの形ではないかと思うのです。
 「自分に自信の無い人間は、他者に謙虚になることはできない。」
 この言葉は自戒も込めて私を救ってくれました。
 「神はあなたが超えることができるからその試練を与えているのです。」
 「もしみなさんがいま逆境にあるなら、その環境を喜ばなければいけないのです。何故なら、その苦境から脱したときに、みなさんの人生はストーリーになるからです。」

6 視覚障害を楽しむ
 それは、「one sport, one taste, one learning, one lifework」を持つことではないかと思うのです。
 スポーツはだんだん変ってきて、今は「山行」、「水泳」などを楽しんでいます。
 http://www.pref.osaka.jp/osaka-pref/shogaifukushi/news/sport03.htm

 趣味は結構多く、今は「読書」、「川柳」などを楽しんでいますが、退職後の趣味も優先順位をつけなければならないほどやりたいことが一杯あります。
 http://ch.kitaguni.tv/u/4119/
 http://intfusha.exblog.jp/

 学習は、いわゆる生涯教育を続けて自己研鑽を絶やしてはいけないと思うものですから、「放送大学」、「ラジオ中国語講座」などを続けています。
 ライフワークとしては、秘密ですが定年退職後の目標を持っています。
 常に社会とのつながりをもって社会に貢献出来れば、人生は満ち足りて幸せなものになると思うからです。
 今はその夢に向かってマイペースで歩いています。
 きっと私の人生は豊かで幸せに満ちたものになることでしょう。



【職場で頑張っています・その2】
「常に前向きな精神でチャレンジ」

藤川 聖視

 徳島県在住の藤川聖視です。年齢は40歳で、身障2級、病名は網膜色素変性症です。19歳の時にこの病気のことがわかりました。夜、車を運転していて、大きな石にぶつかったのです。同乗していた母が、あれが見えないのはおかしいと病院に行き、治療法のない、進行性の病気だと言われました。それから何度事故を起こしたことでしょう。職場では失敗の繰り返し、職場の健康診断では視力がでず、就業上危険と判断され解雇されました。それからも転職を繰り返していましたが、30歳を迎えたころから、視野狭窄と夜盲がひどく、一般社会での就職は無理だと思いました。そこで在宅でできる仕事はないかと考え、パソコンの勉強をしました。そして私の在宅就労が始まりました。しかし思った以上にこの病気は手強く白内障や黄斑変性症を合併し、パソコンの文字も見えづらくなり、マウス操作もうまくいかず、仕事もできなくなりました。黄斑部の手術入院のあと1年ほど仕事もできず、どうしたものかと悩んでいたときに、県内で同じ病気の人に出会い拡大読書器や音声パソコンの情報を得ました。これがあれば、何とかなるぞ、そんな気持ちで音声パソコンの講習、拡大読書器の申請をしました。そして、仕事を再開し「働ける」と確信しました。
 今の私の在宅就労状況です。

 現在、仕事は主に友人知人の紹介で県内の仕事のみですが、今後の目標として、ITを活用して、県外進出と企業との契約、「障害者雇用促進法の改正」に反応できるよう情報の幅を広げ勉強していこうと思っています。そのためには「タートルの会」の皆さんと交流をもち、働くことへの刺激を与え合い、情報を共有して今できることを見落とさず努力していきたいと思っています。



【活動日誌】

2005年1月〜3月活動記録

●定例幹事会
日時:1月15日(土)
場所:日本盲人職能開発センター
議題:アンケート集計結果の取り扱い方法等ほか

●1月交流会
日時:1月15日(土)
場所:日本盲人職能開発センター
講演:「視覚障害者等の移動環境・交通権−信号・駅等−について」
講師:高瀬 清氏(神奈川県視覚障害者の生活と権利を守る会)

●相談会
日時:2月9日(水)
場所:日本盲人職能開発センター

●定例幹事会
日時:2月19日(土)
場所:日本盲人職能開発センター
議題:総会の内容、アンケート集計結果の取り扱いほか

●相談会
日時:2月19日(土)
場所:日本盲人職能開発センター

●講演会参加
日時:3月2日(水)
対象:筑波糖尿病と網膜症研究会(つくば地域内科医・眼科医等)
講演:工藤正一副会長(「中途視覚障害への就労支援と心の支え」)

●定例幹事会
日時:3月19日(土)
場所:日本盲人職能開発センター
議題:総会の内容ほか

●3月交流会
日時:3月19日(土)
場所:日本盲人職能開発センター
講演:「企業の障害者雇用の現状と沖ワークウェルのチャレンジ」
講師:木村良二氏(株式会社沖ワークウェル社長)

●懇談会(交流会後)
日時:3月19日(土)
場所:日本盲人職能開発センター



【お知らせ】
発刊本の広報について
「中途失明II 〜陽はまた昇る〜」の発刊のご案内

 私たち「中途視覚障害者の復職を考える会(通称:タートルの会)」は、「中途失明II 〜陽はまた昇る〜」を発刊致しましたので、ご案内申し上げます。
 本書は、97年に発刊した「中途失明〜それでも朝はくる〜」につづく第二弾になりますが、内容的には初刊本がどちらかといえば「当事者が当事者に勇気を与え、本人の障害の受容を促すもの」だったことに対し、本書では、中途視覚障害者がどのようにして業務を遂行しているか、また、健常者のパートナーとしてどのように協働しているかなどにつきまして、目覚しい発達を遂げつつある音声対応パソコンなどのIT機器を駆使しながら業務を遂行し、「積極的に社会参加している様子、高い実績をあげている様子、そして、たくましく活躍している様子」を、取材ルポと手記により紹介し浮き彫りにしました。
 私どもは、常々視覚障害者の就労の拡大及び促進につきまして、微力ながら活動しておりますが、本書もその一環として発刊されたものであります。
 このような観点から、本書「中途失明II 〜陽はまた昇る〜」が一人でも多くの方々に購読され、また、視覚障害者の就労促進の一助になることなどを願い、本書の発刊の案内をさせていただきました。

中途視覚障害者の復職を考える会
(通称:タートルの会)
会長 下堂薗 保

【添付資料―1】

■はじめに
 私たちタートルの会は、『中途失明〜それでも朝はくる〜』(1997年)につづき、このたび『中途失明II 〜陽はまた昇る〜』という第2弾を発刊することとなりました。
 初版から6年の歳月が過ぎた今日、世にいうIT革命の風に乗り、パソコンの活用などによって視覚障害者の就労環境は大きく変貌しつつあります。リハビリテーション施設などで習得したパソコン操作の基礎知識を有する視覚障害者の多くは、「読めない、書けない、できない」といった過去の最大弱点を、いろいろなソフトの特色を活かすなどの工夫により「できる」ように改善し、職務の遂行に努めております。このような積極的な取り組みの姿勢は、雇用する側にコラボレーション(協働)マインドを喚起することになり、与えられた業務に高いコストパフォーマンスをあげ、視覚障害者の就労範囲を拡げている現実があります。しかしながら、視覚障害者の雇用はなかなか拡がらないという現実も一方に存在しており、職場に復帰できることを信じ、技能習得のリハビリテーションに懸命に汗を流しても、夢はついえ辛酸をなめているケースもあります。
 『中途失明II 〜陽はまた昇る〜』は、このような現実を「視覚障害者はプラス・アルファではない」と言い切る企業など、現に視覚障害者を雇用している企業の取材ルポと当人の寄稿文により実態を紹介するとともに、リハビリテーションの重要性、家族ならではの心温まる支え、視覚障害者の歩行やコミュニケーションなどの日常生活について紹介しました。
 また、「〈資料編〉ロードマップ&データファイル」には、2003年10月から改訂された障害者雇用納付金制度に基づく助成金制度や、さらに、中途視覚障害者が避けて通れない医療機関について、タートルの会独自の視点から選んだ、中途視覚障害者の就労に理解ある医療機関を紹介するなど、本書は視覚障害者と雇用する側との「協働社会」の実現の一助につながってほしいという強い願いを抱いて編纂しました。
 私どもは、思いもよらない失明という事態に一時は路頭に迷いながら「視覚障害というハンディキャップ」をバネにして社会参加を目指すありのままの声を「陽はまた昇る」の副題にこめてそのまま文字にしましたので、行間からにじみ出る汗と涙、そしてたくましく輪の中で働いている様子を読み取っていただければ幸甚に存じます。
 なお、寄稿文については、個人のプライバシーに関わるため、当の個人と関係する会社や職場を明らかにしない稿もありますこと、また、執筆者名のない稿は、巻末に一覧表にして掲載しましたことなどを本文に入る前にお断り申し上げます。
 最後に、本書の出版にあたり、快く寄稿くださいました視覚障害者の夫を支える文字通りの内助の功の奥様方、並びに多忙な中、精力的にご協力いただきました共同通信社の滝上広水様、デザインで奉仕いただいた池田憲昭様に厚く御礼を申し上げます。
 さらに、出版でお骨折りをいただきました「株式会社大活字」の市橋正光社長・成松一郎編集部長には一方ならぬお世話になりました。ここに、改めて心より御礼を申し上げます。

中途視覚障害者の復職を考える会
(通称 タートルの会)
会長 下堂薗 保


【添付資料―2】

CONTENTS

I 視覚障害者を雇用して 11
 企業の論理 ―― 雇用の厳しさ(大手物流業) 13
 障害者も企業の一戦力(家庭用品メーカー) 14
 人物本位・能力主義がキーワード(IT産業) 18
 障害者はプラス・アルファではない(IT産業) 20
 大事なのは人間性と社会常識(職業紹介業) 24
 視覚障害者が立ち上げたベンチャー企業 26
 ―― 情報発信、新たな接点を求めて 32

II 働く視覚障害者と家族 33
■民間企業で働く 34
 「頑張りすぎずゆっくりと」
 近江辰夫 34
 「『希望』という列車に乗り込もう!」
 嶋垣謹哉 41
「アンテナは高く、姿勢は低く、挨拶は自分から先に…」大脇俊隆 52
「第一線営業マン、まだまだやれる!!…かな?」ふと気づくと復職からはや10年 湯浅幸洋 59
 「復職のカギ」田辺和平 68
「もう一度働きたかった」
 坂上 実 73
 「自らバリアを作らないこと」
  〜職業生活が教えてくれたもの〜
 北神あきら 77
 「自ら墓穴を掘る」斉藤浩二 83
■官公庁で働く 89
「中途失明から職場復帰まで」
 渡辺珠美 89
 「職場復帰から12年」工藤正一 94
■教育機関で働く 101
 「自分にチャレンジ、明日にチャレンジ」吉原 学 101
 「復帰 認定無しの立場で」
 久保田千秋 105
 「青春の夢サポーター」山口 通 112
 「失明後の可能性を引き出してくれた人々」生井良一 116
 「視覚障害を伴う高次脳機能障害におけるリハビリ当事者の目的意識」
   佐藤正純 121
■職場復帰を目指して 128
 「ポジティブ・シンキング」
 小高公聡 128
 「リハビリテーション(生活訓練)について」和泉一雄 132
■支える家族たち 136
 「ほっとひと息して思うこと」
 松坂妙子 136
 「夫の涙」佐藤明美 140
 「夫が視覚を失ってみえたもの 」
 〜すてきな出会い・支えあい〜
 工藤良子 144

III 中途失明から職場復帰まで 151
 苦悩と葛藤 152
 出会い 153
 リハビリテーション 154
 復職・転職 157
 職場適応・支援機器 159
 職場からの支援 160

IV 視覚障害について 163
■視覚障害とは 164
 視覚障害の原因となる病気・事故 165
 視覚障害の種類 〜見え方のいろいろ 168
 視覚障害の程度・等級 169
■視覚障害者の生活 172
 移動・歩行 173
 食事・買い物  174
 職業生活 175
 コミュニケーション 177
 さまざまな趣味 180
■視覚障害者の歩行について 185
 歩行特性と歩行の手がかり 185
 白杖の役割と障害物・危険物 186
 歩行方法の実際 187

V さまざまな職場 191
■職場をトータルにとらえる 192
 求められる対応力 193
 社会資源の活用と今後の可能性 196
 さまざまな働く形  197
■IT活用により広がる職域 199
 パソコンの活用 199
 ネットワークの活用 200
 ナレッジワーカーを目指す 202
 技術職の可能性 203
 限界と課題 204

VI <資料編>
 ロードマップ&データファイル 207
 視覚障害等級表 208
 障害者のための就労に関するロードマップ 209
 視覚障害者の就労問題に理解ある医療機関 215
 視覚障害者職業リハビリテーション施設一覧 219
 障害者重点ハローワーク一覧 220
 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構一覧 222
 広域障害者職業センター 222
 障害者雇用情報センター 223
 地域障害者職業センター 223
 都道府県障害者雇用促進協会(雇用開発協会・総合雇用推進協会)一覧 226
 視覚障害者によく利用される助成金制度 229
 あとがき 238
<編者紹介> 中途視覚障害者の復職を考える会(通称 タートルの会)241
 執筆者一覧 242


【添付資料―3】

■「中途失明II」表紙および裏表紙の説明(文:池田憲昭)
●表紙
 タイトル: 中途失明II
 サブタイトル: 陽はまた昇る
 発行:タートルの会
●表紙絵の説明
 すがすがしい朝の街の様子を描いた絵です。
 ビルの谷間からは朝日が顔をのぞかせ、街には会社に出かける人や散歩をしている人などが見られます。
 手前には、若いお父さんとお母さんと女の子がいて、お母さんが女の子にお弁当みたいなものを手渡しています。女の子は両手を差し出して、それを嬉しそうに受け取っています。これから小学校に向かうところなのでしょう。お父さんは、そんな様子を暖かく見守っています。この家族は、それぞれの職場や学校に出かけようとしているところです。お母さんは白い杖を持っているので、眼が不自由なようですが、普通の人と同じように仕事をしています。
 少し離れた所から車椅子で通勤中の若い男性と、その友人の若い女性、老夫婦や散歩中の犬が、この様子を微笑ましげに見ています。
●裏表紙
 定価:本体1,143円+税
 ISBNコード:ISBN4-86055-066-8
 バーコード
●裏表紙絵の説明
 パソコンを使って仕事中の女性の絵です。彼女は事務服を着ています。
 手前にはおすわりをした犬がいて、一緒にパソゴンの画面を覗いています。
 窓の外は月夜です。残業中なのでしょうか? 机の奥には観葉植物が置いてあり、画面右スミにはさりげなく白杖が立てかけてあります。

【添付資料―4】

あとがき
 本書は、「見えなくても、見えにくくても、働けます、働いています」を社会に理解してもらうことをねらいとしています。一般的に、見えなくなると、何もできなくなるといった先入観を持っています。視覚障害者自身も最初はそう思っています。ところが、訓練を受けることによって、できなくなったことが、かなりの部分できるようになることが分かってきます。これを当事者や関係者にとどまらず、広く社会に知ってほしいのです。
 「タートルの会」は電話相談を受けています。その多くは「見えなくなっても、働きつづけられるんだろうか」、「見えなくなった人たちは、どうしているんだろうか」という質問です。自分は、家族は、仕事は、一体どうなってしまうのだろうか、と将来の不安と恐怖、いても立ってもいられない焦燥感に苛まれるのです。適切な時に適切な情報が提供されることが大切なのです。もっと早く知っていたら、辞めなくて良かったのに、といった声をしばしば聞きます。
 目の具合が悪いな、見えにくくなってきたなと思えば、まず、眼科医を訪ねます。眼科医は本来、治療が専門ですから、患者の目の治療に専念します。また、患者もそれを望むわけです。ここで視覚が元に戻ることが明確な目の病気であれば、なんら問題はないのですが、現代医学では、限界があり、原因の究明や治療法の確立されていない目の疾患もあるのです。そこで、心ある眼科医は治療と並行して、患者のもてる視機能をフルに活用しようと努めてくれます。
 これを眼科リハビリテーション、ロービジョンクリニック、あるいはロービジョンケアといっています。眼科医と医療スタッフ等がチームをつくって、患者の生活や仕事の中での不自由さを訴えとして聴き取り、それを解決すべくいろいろな補助具などを適用しようと共に考えるわけです。この眼科リハビリテーションの考え方は、ここ数年急速に眼科医の間で広がりを見せてきています。
 ところが、医学教育において、医の倫理や障害に対する教育がきちんと行われないため、視覚障害というものをよく知らないまま医者となり、卒後の専門医研修においてもロービジョンに関する研修の機会がほとんどありません。これが、ロービジョンケアの普及を阻んでいる大きな要因です。加えて、保険医療制度の中に、眼科のリハビリテーションの考え方がないため、ロービジョンケアを実施しても保険点数に該当しないということもあります。その必要性、重要性がもっと社会に認知されて、あるいは認識を深めてもらって、眼科リハビリテーションが医療制度に組み込まれたり、医師の教育の中にきちんと位置づけられた形で履修されていくシステムづくりが喫緊の課題なのです。
 5年ほど前に創設された「日本ロービジョン学会」において、医療、教育、福祉の関係者が集まり、ロービジョンケアの重要性を研究し、問題提起に努めています。視覚障害者自身、ロービジョンケアを受けて不自由さを少しでも解消したいと思うなら、もっと当事者の声を世に訴え、地域の眼科医院でロービジョンケアを受けられるよう強く要望すべきだろうと思うのです。
 また医療機関としては、専門外な事柄は他の専門機関に任せるというふうに、連携に努めてほしいのです。「タートルの会」に電話をかけてくる相談ケースの中には、眼科医や医療ケースワーカー、看護師、あるいは視能訓練士などの医療スタッフからの紹介というのが増えてきています。私ども当事者としては、眼科医に中途視覚障害者が見えなくても働けるのだということの認識を深めていただき、復職の折に重要なカギとなる「診断書」には、「見えなくても働けるのだ」という認識のもとに内容を書いていただけるとありがたいのです。
 初版の『中途失明 〜それでも朝はくる〜』は、どちらかといえば、当事者が当事者に勇気を与え、本人の障害の受容を促す書でありました。そして本書『中途失明II 〜陽はまた昇る〜』は、中途視覚障害者自身がたくましく社会参加し、活躍している姿を紹介し、周囲の、ひいては社会の人々の視覚障害に対する受容を促す内容となったと捉えています。この障害の受容は本人だけでなく、周囲の受容がなされなければ何事も「心のバリア」の前に進むことを阻まれてしまいます。
 視覚障害者は目が不自由なだけで、なんら特異な存在ではないんだと、当たり前に受け入れられる社会になる、先入観を払拭できる書となるであろうと信じています。

中途視覚障害者の復職を考える会
(通称:タートルの会)
事務局長 篠島永一


【添付資料―5】

<編者紹介>
■中途視覚障害者の復職を考える会
 (=通称 タートルの会)
 私どもの会は、1995年6月、東京において、視覚障害者が安心して働き続けられることを目的に発足しました。モットーは、積極的な挑戦、知恵をしぼり工夫し、協力することであります。
 主な活動は、1)初期相談(随時)、2)緊急対象者への支援、3)交流会(年5回)、4)調査研究、5)会報『タートル』の発行(年3〜4回)、6)図書の出版、7)サイバーコミュニティーの運用などであります。
 毎年1回行われる地域交流会では、東京まで来られない方々の便宜を考慮して当該地元における相談会を実施しております。
 図書は、初版『中途失明 〜それでも朝はくる〜』(1997年12月9日)につづき、今回の第2弾『中途失明II 〜陽はまた昇る〜』(2003年12月9日)の2冊があり、視覚障害者の就労の実態を紹介するなどして、雇用の促進について微力ながら啓発活動に努めております。
 また、ホームページのURLは、次のとおりです。
URL:http://www.turtle.gr.jp

 なお、タートルの会や資料などについてのお問い合わせは、
●タートルの会事務局
社会福祉法人日本盲人職能開発センター
 「東京ワークショップ」内
〒160-0003 東京都新宿区本塩町 10-3
TEL:03-3351-3208 FAX:03-3351-3189

「中途失明II 〜陽はまた昇る〜」の読書媒体・購入方法等
題名  「中途失明II 〜陽はまた昇る〜」
  編集発行  タートルの会
発行日  2003年12月9日
     (障害者の日)
内容   IT機器を駆使しながら活躍している実態、日常生活・家族の支援の実態、
     新支援助成制度など豊富な資料等々で構成。
サイズ等  A5版、横書き、大文字(11p)
読書媒体  単体:「本そのもの」、「FD」、「CD」 セット:「本とFD」、「本とCD」
  販売価格 単体:「本そのもの」 1,200円(税込み)。
            「FD」1,000円(税込み)。 「CD」 1,000円(税込み)
セット:「本とFD」1,700円(税込み)。 「本とCD」1,700円(税込み)。
  <本のみの直販の場合>
   送料 1冊 290円 郵便振替口座:00130−7−671967 加入者名 タートルの会
  <申し込み先>
   中途視覚障害者の復職を考える会(通称:タートルの会)
   〒160-0003 東京都新宿区本塩町10-3 社会福祉法人 日本盲人職能開発センター内
   電話(03)3351−3208
  販売 (株)大活字(一般書店申し込み可)
   〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-3 冨山房ビル6階
         電話:03-3259-2200 FAX:03-5282-4362
  http://www.daikatsuji.co.jp/hello@daikatsuji.co.jp mailto:hello@daikatsuji.co.jp
  <音訳テープ貸し出し> 「音訳集団一歩の会」 tel:03-3577-1525
  なお、パートIの『中途失明〜それでも朝はくる〜』(¥1000)については事務局へ連絡を。



【編集後記】

 本号では、『中途失明II 〜陽はまた昇る〜』の広報にだいぶ頁を割きました。実は、本の売れ行きが芳しくないのです。皆さんのご協力を期待してPRに努めていただくために、発刊の趣旨や本の内容をよく理解していただこうと考えました。発刊当初、マスコミに提供したニュースリリース資料をまとめたものです。
 具体的には皆さんの居住地の公共図書館に赴き、「こういう本が出版されているのだが、購入してほしい」と申し入れてもらえると嬉しいし、実際に購入してくれると思うのです。また、母校の図書室に推薦図書として、登録をお願いするのも一つだろうと思います。さらに皆さんの思いつく販売促進をお願いします。
 当然ではありますが、国会図書館には寄贈しています。
 パートIの『中途失明〜それでも朝はくる〜』は、書店購入はできませんでしたが、パートIIについては、全国どこの書店でも、書名と発行者名(タートルの会)、そして印刷販売を担当してくれた(株)大活字(03-3259-2200)を告げることで取り寄せてもらえます。
 皆さん、お一人お一人のご協力で販売の促進が可能です。どうぞお力添えをお願いします。
(事務局長:篠島永一)

中途視覚障害者の復職を考える会【タートルの会】会報
『タートル39』
2005年5月15日発行 SSKU増刊 通巻1875号
■編集 中途視覚障害者の復職を考える会 会長・下堂薗 保
■事務局 〒160-0003 東京都新宿区本塩町10-3
     社会福祉法人 日本盲人職能開発センター 東京ワークショップ内
     電話 03-3351-3208 ファックス 03-3351-3189
     郵便振替口座:00130−7−671967
■タートルの会連絡用メール m#ail@turtle.gr.jp (SPAM対策のためアドレス中に # を入れて記載しています。お手数ですが、 @ の前の文字を mail に置き換えてご送信ください。)
■URL=http://www.turtle.gr.jp/


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