中途視覚障害者の復職を考える会【タートルの会】 会報
タートル36号
1年に数枚、我が家のムスメは、ジグソーパズルを作ります。
1000ピースのやつで、熊のプーさんばかりです。
1週間くらいでやっつけてしまいますよ。
にこにこっと、実に楽しそうに。
とても僕には、できません、目が悪いせいじゃなく、そんな根気を持ちあわせてないんです。
だから、ムスメはエライんです!?
しかし、ムスメも、バックが、空の青一色とか、夜の黒ばかりが多いやつは、難しいとのたまわっております。
そりゃそうですね、同じ模様で、形がちょっとだけ、違うだけなんだから。
1000個の、別々の形や模様のピースが、きちんとその場所に、はめあわされれば、すばらしい1枚の絵になります
我が家の壁に、それらのすばらしい絵が飾られています。
1月28日〜30日、コアクティブ・コーチングの講習に参加しました。
タートルの会名古屋交流会がキッカケです。
コーチングは、今ある位置(ポテンシャル)から、そのヒトが、自分の有している無限の能力に気づくこと。
そして、さらなる 高い位置へ進んでいくことをサポートするという考え方です。
カウンセリングが、"癒し"、すなわち、ー(マイナス)→0(ゼロ)に戻るためとすれば、コーチングは、0(ゼロ)→+(プラス)に上がるためのものなんです。
このことから、中途障害の方の相談には、ピア・カウンセリングのいいところ+(プラス)コーチングが有効だと思います。
僕は、目が悪くなって、かなり、いい意味で性格が変わったなあと感じていました。
今が、楽しくって、自分らしく生きているんだなあと思いこんでいました。
しかし、それは、見事に打ち砕かれ、崩れさっていきました。
これまでの僕は、表面的に"ヒト(Human Being)"と接していたにすぎないと、気づかされました。
話に耳を傾けようとせず、できないことを理由づけし、自分のやっていることを正当化する、
そして、うすっぺらな体験を押しつけ、自己満足する。
何と傲慢で、ちっぽけだったんでしょう。
しかし、このことに気づくと、実に楽で、そして、自然体で、ヒトの話に真剣に耳を傾け、自分の思いを率直に言う、すなわち、"アサーティブネス"が、できるようになります。
だから、2005年1月30日は、"My Golden-Spot"だと思っています。
"Golden-Spot"を見たことがありますか?
アオムシが、サナギになり、そして、殻を破り、羽化する時、割れ目から、金色の光を放って、あげは蝶の黒い濡れた羽が出てくる、その瞬間のことを言うのです。
コーチングは、視覚障害者、たとえ全盲であっても、問題はありません。
それは、コーチングが、障害の有無や、年齢の高低の前に、"Being=アルコト"そのものを、対象においているからです。
僕は、コーチングで、"Being"を、実感しました。
そして、あげは蝶のように華麗ではありませんが、自分が変わったなあと感じます。
"変わる"タイミングは、それぞれのヒトに、多かれ少なかれ、訪れているのです。
「過去と他人は変えることはできないが、未来と自分は変えることができる。」
過去や他人を、ごちゃごちゃと批判しても、しかたがありません。
まずは、自らを変え、未来を変えるために真摯に、耳を傾けます。
それだけでも、十分なのかもしれません。
他人を変えることはできません。
でも自分が変われば、それが原因で、他人が変わることはあります。
さあ、楽しく、ステキな絵を描きましょう。
同じ絵を描くのは、やめにしましょう。
ひとつのピースが、形と模様を変えれば、そのまわりのピースも変わります。
その変わり方が、大きければ大きいほど、そして、鮮やかであれば鮮やかなほど、とてもすばらしい絵になっていくのです。
エッ、なぜかって?
そおじゃないと、ステキな未来のジグソーパズルは、完成しないからだよ、なあ、偉大な?!ムスメよ。
楽しくやろうよ!!
(おわり)
○司会 パソコンを使い新しい仕事をということで具体的に始まっています。西田さんお願いします。
○西田 私は1985年に沖電気に入社しました。ソフトウエア技術者として入社しましたが、1988年に緑内障と診断を受けて、99年に手帳を取得しました。当時は視覚障害1種3級だったんですが、現在は1種2級になっています。
多少の入院期間があって、会社に復職しました。相変わらずソフトウエア技術者を続けていたのです。視覚障害者という意識が全くなくて、「私は目の悪い技術者なんだ」と考えて仕事を頑張っていたんですが、2001〜2年あたりから、とうとうにっちもさっちもいかなくなりまして、そのころ障害の等級は2級になったんですが、そんなときにある方に出会いました。
この方には今でも感謝しているんですけども、こちらタートルのほうを紹介していただいて、タートルの会のことを知ってタートルに参加して、「よし、視覚障害で生きていこう」と思って、そこから生き方を変えまして現在に至っているわけです。
私の勤めている会社、沖ワークウエルは、障害者雇用を目的とした沖グループの特例子会社です。今年の4月20日に発足、誕生しました。同時にそちらに出向になり、ホームページ関係のアクセシビリティチェックの仕事を行っています。
現在全社員が29名です。障害者が私も含めて25名です。そのうち在宅勤務が21名ですが、肢体不自由の方が主なのです。ほかにリウマチなどの内部疾患の方、脳溢血などで通常の勤務に耐えられなくなった方などが在宅で仕事をしているわけです。
オフィスにいる障害者は、視覚障害者の私、背骨が少し曲がっている方、会社が発足してから採用した知的障害者が2名、計4名です。
業務の内容としては、ホームページ作成の仕事が主です。あとは絵心がある在宅の方がおられるんでポスターのデザインもやっています。主に社内の安全月間だとか、そういう社内向けのポスター、それをデザインなどしています。それから社内向けの名刺の作成の仕事。2名の視覚障害者の方が中心になって、プリントからカット、そして発送までやっています。あとは名刺自体のデザイン、レイアウトに関しては、これも在宅の方がやっています。
4月20日にどうやって今の会社に潜り込んだかという話をしたいと思います。これ全く偶然なんです。2002年度の、私どもの沖電気の研究開発本部という所の研究発表会に私、行ったんです。なぜかというとご存じのように沖電気、現金自動支払機(ATM)をつくっていますのが、視覚障害者向きのATMつくったっていうふうに案内に書いてあったんで、面白いんじゃないか、ちょっと見てやろうと思って見に行ったんです。
つくったのは触覚記号と呼ばれるパネルの横にシール貼って、これが支払いですよとか、触ってわかるようにしたATMだったんです。今考えるとなかなか素晴らしいものだと思うんですが、当時は虫の居所が悪くて、担当の女性の研究員に「こんなもんじゃだめだよ」と。いろいろ会社で厳しいこともあり、結構きついことを言ったんです。
その方が何だかしらないけれど、私のことを覚えていてくれたんですね。ホームページのアクセシビリティの研究をやってる隣の席の研究員に「実際に視覚障害者の意見を聞きたいんだけれど、だれか知らない?」と、話しかけられたそうです。そうしたら「別に外を探さなくても会社の中に1人いるじゃない」と。それで私に声が掛かったというわけです。それが2003年の春でした。
そのころから、実際その当時の職場では、私のやる仕事はほとんどありませんでしたから、時間は余っていますので、そちらから頼まれたりする仕事をちょこちょこやっていたんです。そうこうしているうちに、去年、ヒューマンリソースセミナーが田町の障害者福祉会館であり、次の仕事を探さないといけないかなと思いつつ、興味があったので行って受付けをしたんです。
当然、受付簿に書けませんので、「すいません書いてください。沖電気の西田といいます」と言ったら、後ろに待っていた人が「あんたが西田さん」と言って声をかけてくれたんです。それが今の社長なんです。
具体的に私のやっている仕事ですが、ホームページの視覚障害者向けのアクセシビリティをチェックすることです。私どもの会社がつくったホームページのアクセシビリティが備わっているかどうかを、私がチェックをいたします。私はホームページをつくるのが仕事ではありません。在宅の方で、非常に高いスキルを持ちなおかつ目も見えますので、デザインなども万全ですから、私はつくることはしません。
彼がつくったものを音声リーダー、具体的にはホームページリーダーなんですけれども、ホームページリーダーで聞いて、これは視覚障害者はわからないよ、こんなもんつくっちゃだめだよ、っていうふうにあそこをこういうふうに変えてくださいていうのが、私の仕事です。
最近の流れとして、6月20日に日本工業規格で高齢者障害者等配慮設計指針、情報通信における機器、ソフトウエア及びサービス、第3部Webコンテンツ、JIS X 8341―3というのが制定されて、今、社会的にホームページのアクセシビリティについての関心は非常に高まっています。
ちなみに以下に当日交流会に参加した人たちのパソコン音声環境等を参考までに記しておきます。
1.支援ソフトタイプ別の利用状況 | 人数 | 割合 |
音声ソフトのみを利用している人 | 25人 | 83.3% |
拡大ソフトのみを利用している人 | 2人 | 6.7% |
音声ソフトと拡大ソフト両方を使用している人 | 3人 | 10.0% |
計 | 30人 | 100.0% |
2.音声ソフトタイプ別の利用状況 | 人数 | 割合 |
ホームページリーダーのみを利用している人 | 10人 | 35.7% |
ホームページリーダーとスクリーンリーダーを利用している人 | 9人 | 32.1% |
スクリーンリーダーのみを利用している人 | 9人 | 32.1% |
計 | 28人 | 100.0% |
3.スクリーンリーダーの利用状況 | 人数 | 割合 |
95リーダーを利用している人 | 11人 | 61.1% |
PC-Talkerを利用している人 | 7人 | 38.9% |
計 | 18人 | 100.0% |
4.その他の音声ソフトを利用している人 | 0人 |
○司会 次に伊藤さんから、これからの仕事を切り開いていくためにお考えになっている問題を中心にお話していただきたいと思います。
○伊藤 私は、今、目は明かりが見えるぐらいで、1級です。信用金庫のシステム部で、やれているかどうかわかりませんが、SEをやっています。私は16年ぐらい前に今の会社にプログラマーとして入って、そのころはまだ5級の弱視でしたが、ずっと仕事をしてきました。
平成13年の初めごろにさすがに文字が見えなくなって、これからどうしようかと、いろいろ悩んでいました。そのころにちょうどJAWS(ジョース)が出てきて、JAWSだとパソコンをLANでつないで汎用機の仕事もできるのではないかという話を聞いて、会社と交渉したんです。最初は会社もやってみようかと、それで頑張っていけるかなと思っていたんです。
ところが、13年の秋に、それまではWindows95が入っていたのを、2000に替えようとしていて、みんなのパソコンも替えなきゃいけないと、ついでに伊藤さんのも一緒に入れようという話が出ていたんです。突然、音声はまずいだろうと、うちは金融機関なので、別に勘定系とか定型の本番の汎用機とつなぐわけではないんですが、開発系の汎用機なので自分では大丈夫だと思っていたんですけど、やはり上からストップがかかってしまったんです。
14年の夏ぐらいに、会社側と話し合いの中で、パソコンを入れてもらったんです。それは汎用機とつながってないので、今まで自分がやってきたプログラマーとして、システムの開発はできない。どうしようか、いろいろ上司と話し合いながら、今まで10何年やってきた知識があるし、会社の業務も自分ではある程度はやってきたので、実際にプログラムをつくるのではなく、設計書をつくる仕事はできないか、と。
それから設計書をつくる仕事を考えて、上司と話し合いながらやろうとしていたんですが、なかなか難しい。今やっている仕事は、3つぐらいに分かれていて、プログラム、システムの中の不具合があったら、汎用機からFTPで同僚にパソコンに落としてもらって、不具合を見つけて設計書をつくる仕事です。もう1つが、今までにシステムの中のプログラムで仕様書がないものがあるので、それをプログラムから仕様書に起こす仕事、そしてもう1つ、部内のミーティングをICレコーダーで録音して議事録をつくるとか、あとは部内でもいろんな委員会というのがあるので、今は福利厚生という委員会に入っているんですが、その中で会合があったときの議事録をつくったり、この3本立てでやっています。
ただ私がきょう話したかったポイントは、皆さん一般の企業では今、成果主義と言って社員に仕事の量とかスピード、難易度を求めて、社員を評価して給料やボーナス、待遇を決めているようになってきていると思うんです。私の会社でも3年前からそれが導入されて、上期、下期と半年ごとに仕事の具体的な目標を立てて、あとは2つのチェックする管理シートがあるんです。
目標として、先ほど言ったようなことを挙げているんですが、ただ、評価する段階では、結果的にそれができたとしても、私は今、主任ですが、同じ資格の人たち、健常者と比べて評価をつけられます。そうなるとなかなか厳しいものがあります。成果主義ということで、うちの会社でも今まで課長代理とか、そういう人でも平均以下になれば、いきなり降格されたり、出向されたり、本当に厳しい。健常の人たちも厳しい状況になっています。
そこで私としては、健常者と同じようにそういう成果主義で評価をするなら、障害者に対して合理的配慮をしてくれて、同じ条件のスタートラインに立った状態でやるなら、私はそれは健常者と比較しても全くいいんだと思うんです。健常者とは比べられない物理的な面がいろいろできない部分がありますので、それはおかしいのではないかと、いつも半年ごとに上司とけんかしているんですが、上司は、会社の制度なのでしょうがないだろう、と。
ただ、今は、評価は悪いけど、うちの部長と人事部長が話し合って、「資格は下げない」、「仕方ないんだから」と。ただ自分としては仕事をやりたいと、同じような仕事、チームに入って会社のために成果をあげていくような仕事をやりたい、と。
私が考えているのは、ジョブコーチ、人的介助といった制度の活用です。、パソコンがいくらできたとしても、会社内で健常者とやっていくには難しいではないかと思っています。最低限、人的介助が1日に2〜3時間、自分が読みたいものを見てくれるような人がいないとなかなか難しいかなとは思っているんです。
「タートルの会」は、私のように途中で悪くなった人たちがたくさんいるので、皆さんの会社では成果主義は、会社側とどうやっているか、話し合いとか、合理的配慮をしてもらってやっているかを、逆に私からいろんな意見を皆さんから聞きたいなと思って、今回で2回目になるんですが、発言者にさせてもらったんです。
とき:平成16年11月20日(土)、21日(日)
ところ:KKRホテル名古屋
参加人員:71名(20日)、57名(21日)
<プログラム>
□ 11月20日(土)
12:00〜13:00 受付
13:00〜13:30 開会式、オリエンテーション
1.開会あいさつ(司会:新井愛一郎)
2.下堂薗 保会長 あいさつ
3.情報文化センター近藤豊彦所長 あいさつ
4.オリエンテーション(事務局:山下) 日程説明
13:30〜13:40 休憩
13:40〜15:10 基調講演
「障害者雇用促進政策の現状と今後の動向について」
吉泉豊晴氏(独立行政法人 高齢・障害者雇用支援機構 障害者職業総合センター研究員)
15:10〜15:30 休憩
15:30〜17:00 分散フォーラム
○ 機器フォーラム (4階、福寿の間)
進行:山下(センター)
・メーカー参加者:株式会社アスク(朝尾)→点字の機器
高知システム開発(松岡)→PCトーカー
ライネッカー(松長)→拡大読書器
・フォーラム参加人員:24名
※ メーカー側の紹介・機器開発のコンセプト・これからの方向性等を10分〜15分程度説明し、その後、参加者にメーカー側に対する質問や意見、要望等を自由に発言してもらい、ハード面でのこれからを考えた。
○ 夢・討論フォーラム (芙蓉の間)
進行:近藤(センター)
・フォーラム参加人員:33名
テーマ1「私の夢、こんなふうに輝きたい!」
テーマ2「就労支援、定着支援サービスの在り方」
・パネラー:須子はるか氏(ジャストレード)
木村志義氏(ジョイコンサルティング)
17:00〜18:00 休憩
18:00〜20:00 懇親会(蘭の間)
進行:寺田歩美(センター)、大脇俊隆(タートルの会)
・参加人員:68名
1.近藤所長あいさつ、乾杯
2.飲食・歓談
3.報告
・岩井重子さんからの復職報告
・橋本良雲さんからの裁判闘争報告
□ 11月21日(日)
9:00〜11:00 体験報告会
進行:新井(タートルの会)
神谷奈津さん、網膜色素変性症、リラクゼーションルーム経営、「なっちゃんのおしり」著者
広瀬 誠さん(全盲)、名古屋盲学校教諭、アテネパラリンピック柔道銀メダリスト
瀧 憲一郎さん、IT関連企業に勤務
11:00〜11:10 休憩
11:10〜11:30
・体験報告会の質疑応答
11:30〜11:55 まとめ
・機器フォーラム:山下 夢・討論フォーラム:近藤 全体のまとめ:松坂(タートルの会副会長)
11:55〜12:00 閉会式
・閉会のことば
工藤 正一(タートルの会副会長)
1. はじめに
「障害者雇用問題研究会報告書」が2004年8月に出された。そのポイントは次の3点。
(ア)精神障害者の雇用促進
(イ)多様な就業形態への対応
(ウ)地域における障害者雇用の促進
この報告書を受けて、労働政策審議会障害者雇用分科会が、現在、制度改定に向けて議論している。ここでは、上記3項目に着目しながら、これまでの制度をめぐる動きについてポイントとなる点を解説したい。
2. 精神障害者の雇用促進 − 障害者雇用率制度をめぐる動向
障害者雇用率制度に精神障害者を組み入れるかどうかがポイント。今は身体障害者と知的障害者が制度の対象になっているが、精神障害者はまだ対象とされていない。
(1) 障害者雇用率制度: 官民双方とも、一定割合以上の障害者を雇用する義務が定められている。その割合を法定雇用率という。
法定雇用率は、民間企業1.8%、国や地方自治体あるいは特殊法人、独立行政法人2.1%、都道府県等の教育委員会2.0%とされている。
法定雇用率をかけた時の端数は切り捨てる。民間の場合、1.8%をかけて1以上になるのは56以上。つまり、56人以上規模の事業所に障害者1人以上を雇う義務が発生する。公的部門の2.1%が適用されるところは48人以上規模、2.0%は50人以上規模となる。
法定雇用率は、5年に1度、実態をふまえて見直し。
実際に障害者を雇っている割合のことは、実障害者雇用率といい、法定雇用率と区別する。
障害者雇用率制度と表裏一体の関係にあるのが次の障害者雇用納付金制度。
(2) 障害者雇用納付金制度: 法定雇用率を達成していない民間企業(301人以上規模)は、達していない人数分について月額5万円を納付する。
301人以上規模の企業で法定雇用率より多く雇っているところには、多い人数分について月額2万7千円の障害者雇用調整金を支給。
300人以下の企業には、4%か6人のいずれか多い数を超えて障害者を雇っているところに月額2万1千円の報奨金を支給。
そのほか様々な助成金を支給。視覚障害者に関係が深いものでは、職場介助者(いわゆるヒューマンアシスタント)に係る助成金、作業の設備設置等に係る助成金などがある。
(3) 障害者雇用率制度の対象障害者: 身体障害者と知的障害者。精神障害者は対象になっていない。
障害者かどうかの確認は、障害者手帳を持っているかどうかに拠る(つまり福祉の制度に準拠)。知的障害者については手帳を持っていなくても障害者職業センターが判定することがある。
(4) 対象障害者の範囲拡大の経緯: 最初は身体障害者だけが対象。やがて知的障害者も対象に加わる。その際、はじめは法定雇用率算定の基礎には加えなかったが実障害者雇用率にカウントした。法定雇用率算定の基礎に知的障害者を加えると、法定雇用率の引き上げにつながるため企業側から躊躇する声があった。しかし、知的障害者の雇用が伸びるにつれて身体障害者の雇用を結果的に圧迫するとの批判が高まり、今は、法定雇用率算定の時にも知的障害者が対象に加えられている。
精神障害者を雇用率制度に加えるに当たっても、同じような経緯を辿ることが予想される。
(5) 国際的背景: 障害者の範囲拡大の背景には、ILO条約や勧告がある。それら条約や勧告では、全ての障害種類を施策の対象とすべきことが述べられている。
(6) 視覚障害者の立場からの意見: 他の身体障害者に比べ視覚障害者の雇用が伸びない実態にある。そこで、身体障害者を一括りにするのではなく、障害種類別に法定雇用率を定めて欲しいとの要望が出されてきた。
しかし、(ア)障害種類別調査は細部にわたるため技術的に難しいこと、(イ)単純に現行制度と同じような形で種別の法定雇用率を算定すると率が低くなり大規模企業のみに雇用義務が課されるようになること、そうした理由から要望は取り上げられてこなかった。
5年ごとに行われる障害者雇用実態調査をみると、2003年現在、肢体不自由者18万1千人(49.1%)、内部障害者が7万4千人(20.1%)、聴覚言語障害者が5万9千人(16.0%)。視覚障害者は1万7千人(4.6%程度)。なお、1998年時点の身体障害者の状況は、視覚障害者4万3千人(10.9%)。肢体不自由者21万4千人(54.0%)などであった。
(7) 特定身体障害者雇用率: あん摩マッサージ指圧師を特定職種とし、障害程度が1〜3級に該当する視覚障害者を特定身体障害者として、特定身体障害者雇用率100分の70を設けている。この特定職種で人を雇用する場合、70%を1〜3級の視覚障害者で占めるようにしなければならない。ただし、民間部門については努力義務。
(8) ダブルカウント: 手帳でいう障害程度1・2級の重度障害者は、障害者雇用率制度上2人としてカウントされる。重度障害者の雇用を促すための措置。
企業が何人の障害者を雇っているかホームページなどで公開している場合があるが、実人数と障害者雇用率制度上のカウント数とに違いが生ずることがある。それはこのダブルカウント制に由来する。
(9) 除外率制度: 障害者にとって難しい業種については、その難しさに応じ除外率が設定されている。例えば除外率が50%の業種については、法定雇用率1.8%の適用が結果的にその半分の0.9%に変更される。
しかし、(ア)最近の技術の進展等により障害者が就ける仕事の幅が拡大してきたこと、(イ)障害者に係る欠格条項の見直しといった社会的気運が高まってきたことから、除外率が一律10%引き下げられた。
3. 多様な就業形態への対応
(1) 短時間労働の取扱
(a)現状: 障害者雇用率制度では、原則的にフルタイムの常用雇用労働者が対象とされるが、部分的には短時間労働も対象になる。週20時間以上30時間未満の短時間労働について、重度障害者は特例的に実障害者雇用率に1人としてカウントされる。
(b)今後: 多様な就業形態の一つに短時間労働を含めてはどうかとの意見がある。短時間労働を特例的扱いから正規の扱いへ。その際のポイントは、(ア)中・軽度障害者の短時間労働も含めて考えるかどうか。(イ)法定雇用率算定の基礎には短時間労働者を含めていなかったが含めるかどうか。
(c)課題: 短時間労働は、一般に賃金がフルタイム労働に比べ減少する。障害者の希望により短時間労働が選択されるのであればよいが、作業能力等に関する判断(本人でない他者の判断)により不本意に短時間労働になる場合が出てくるとすれば問題である。
(2) 在宅就労等への仕事の発注の取扱
(a)発注の間接的効果: 障害者が多く働く事業所、あるいは障害者就労支援団体や授産施設・作業所に公的機関や企業が仕事を発注すれば、直接障害者を雇用する場合に比べ効果は薄いにしても、間接的ながら障害者の働く場の確保に貢献する。そこで、一定額以上の仕事の発注を行った企業に対し、障害者雇用率制度や納付金制度の上で優遇的扱いをしてはどうかとの意見がある。ドイツやフランスでは、障害者雇用事業所や作業所等への発注を制度的に位置づけている。
(b)課題: 企業が障害者の雇用に代えて発注に力点を置くようになれば、安定的な常用雇用を結果として圧迫することにつながる。
また、発注によって確保される働く場が不安定だと効果は薄い。その安定が課題。
更に、今回の制度改定においては発注先の対象として在宅就労やその支援団体が主に念頭に置かれており、IT活用や通勤困難への対応が色濃く出ている。この場合、実質的に授産施設や作業所が対象から除外され、発注先候補の範囲が狭くなり、実効性がどこまで上がるかに疑問。
(c)調査結果から: 在宅就業を行っている障害者の就業場所をみると、肢体不自由では自宅が、視覚障害では通所を前提とする施設が最も多い(「障害者の在宅就業に関する実態調査」2003年)。
また、1999〜2001年にかけて、支援団体の紹介・あっせんを通じて企業への就職に至った障害者は、通勤勤務よりも在宅勤務への就職数が多いが、視覚障害者の場合は在宅勤務が0(全体で36、その全てが肢体不自由)、通勤勤務が6件(全体で20)であった。在宅就労に傾斜した施策は、視覚障害者の就労促進に必ずしも好影響を及ぼさない。
(d)期待されること: 視覚障害関係では、大企業での雇用が中心であったヘルスキーパーについて、中小企業複数社を対象に支援団体がヘルスキーパーを派遣する形などが考えられる。
(3) 特例子会社にまつわる動き
(a)特例子会社とは: 障害者雇用義務は、原則として、個々の事業主ごとに課せられるものの、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社を設立した場合、一定の要件の下で子会社に雇用されている労働者を親会社に雇用されているものとみなして、実障害者雇用率を算出できる。
なお、特例子会社を持つ親会社については、関係する他の子会社も含めて企業グループ全体としての障害者雇用率算出が可能となった。
(b)特例子会社の設立要件: 次に掲げるすべての要件を満たす場合に、厚生労働大臣から、特例子会社としての認定を受けることができる。
●親会社の要件: 子会社の意思決定機関(株主総会等)を支配していること。具体的には、子会社の議決権の過半数を有している等、連結決算の対象となり得る場合。
●子会社の要件:
(ア)親会社からの役員派遣、従業員出向等、親会社との人的関係が緊密であること。
(イ)雇用される障害者が5人以上で、かつ、全従業員に占める割合が20%以上であること。さらに、雇用される障害者のうち重度障害者の割合が30%以上であること。
(ウ)障害者のための施設の改善、選任の指導員の配置を行っている等障害者の雇用管理を適正に行うに足りる能力を有していること。
(ウ)その他、重度障害者等の雇用の促進及び雇用の安定が確実に達成されると認められること。
(c)特例子会社の認定状況: 2004年10月現在、全国 157社
(d)特例子会者における主な職種: 特例子会社で多くみられる職種のうち代表的なものは次のとおり。
軽作業、印刷、事務(事務補助)、メールの配送や仕分け、クリーニング、清掃。
特に、軽作業では「部品の組立」や「梱包・包装」などの仕事を行っている場合が多い。特徴的な点として、会社の業種としては製造業であっても、社内のメール配送や仕分け、社員の名刺印刷、工場内の緑化・清掃など、いわゆる周辺業務を集約して彼・彼女らの活躍の場を作っている特例子会社がいくつも見られる。
視覚障害関係ではヘルスキーパー、データ入力ほかのパソコン関連業務等がみられる。
(e)特例子会社に対する見方: 特例子会社の制度が登場した当初、「これは障害をもつ人だけを集めた工場を設置し働かせるものだから、ノーマライゼーションの理念に反する」と批判が出た。しかし、敷地、事務所・工場、食堂などの厚生施設を親会社と共有している特例子会社はかなり多く、ノーマライゼーションに反するものではなく、障害者に働きやすい環境を提供できる形態と肯定的に捉える意見も少なくない。
4. 地域における障害者雇用の促進
(1) 地域におけるリハビリテーション: 中途障害者の復職の場合は特にそうだが、地域でリハビリを受けられるような体制づくりが重要。今はリハビリのために遠方にいかなければならない実態がある。地域の各種関係機関等と連携し、その地域でリハビリを受けられるよう工夫していくことが肝要。また、リハビリの専門家を必要に応じて地域に派遣できる体制づくりも望まれる。
(2) 職場適応援助者(ジョブコーチ)事業
・当事業は、米国等で行われていた援助付き雇用(supported employment)をモデルとしつつ、日本の職場風土に合った形で実施することとした事業。雇用された後も職場適応できるよう支援するもの。
・事業の実施主体は各都道府県にある地域障害者職業センター。
・障害者に対する支援: (ア)人間関係、職場内コミュニケーション(挨拶、報告、職場内マナー等)、(イ)基本的労働習慣(継続勤務、規則の遵守、生活リズムの構築等)、(ウ)職務遂行(職務内容の理解、作業遂行力の向上、作業態度の改善)、(ウ)通勤等に係る支援を実施。
・事業主に対する支援: (ア)障害に係る知識(障害特性の理解、障害に配慮した対応方法、医療機関との連携方法等)、(イ)職務内容の設定(作業内容、工程、補助具等の設定等)、(ウ)職務遂行に係る指導方法(指示や見本の提示方法、作業ミスの改善等)、(ウ)(ウ)従業員との関わり方(指示・注意の仕方、障害の知識に係る社内啓発の方策等)等に係る支援を実施。
・支援の在り方: 支援回数や時間を徐々に減らし、ジョブコーチ主体の支援から事業主主体の支援に移行するよう図る。支援終了後もフォローアップを行う。
・支援期間: 原則として、1ヶ月以上7ヶ月以内(フォローアップを除く。必要に応じ、最長8ヶ月まで延長。)。標準的な支援期間は2〜4ヶ月。
・課題: この事業は、主に知的障害者や精神障害者を対象に考えられているのが現状であり、視覚障害者に対応できる人材が多くはない。支援対象の幅を拡げていくことが肝要。
中途視覚障害者の復職を考える会【タートルの会】会報
『タートル36』
2005年3月8日発行 SSKU 通巻1717号
■編集 中途視覚障害者の復職を考える会 会長・下堂薗 保
■事務局 〒160-0003 東京都新宿区本塩町10-3
社会福祉法人 日本盲人職能開発センター 東京ワークショップ内
電話 03-3351-3208 ファックス 03-3351-3189
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