会報「タートル」31号(2004.2.29)

1998年10月9日第三種郵便物認可(毎月3回8の日発行)
2004年2月29日発行 SSKU 増刊 通巻第1383号

中途視覚障害者の復職を考える会
タートル 31 号


目次

【巻頭言】
「世の中の変化に敏感?鈍感?」

タートルの会幹事 吉泉 豊晴

 一障害者として、世の中の動きで少し気になる事柄がいくつかあります。例えば、CSR(Corporate Social Responsibility)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは「企業の社会的責任」のことらしい。障害者をどれくらい雇用しているか、製品に有害物質は含まれていないかなどを指標として、社会的責任達成の度合いを評価しようという動きがあります。
 そういう評価をしてどうするのか…… 実は、これが投資の重要な参考材料になるというのです。平たく言えば、CSR達成度が高いとその企業の株価が高く推移する傾向があり、投資して儲かるらしい。
 株をやっている人には既に周知のことなのかもしれませんが、昨年、職業リハビリテーション学会に参加したおり、障害者雇用に熱心に取り組んでいる企業経営者からその話を聞いた時は、「ほんまかいな?」という思いで聞いてました。いわば「障害者雇用は儲かる」ということなわけで、そういう動向が本当にあるなら魅力ある話です。
 そうこうしているうち、しばらく後に新聞に同じような趣旨の記事が載りました。多くのCSRに関する調査票が格付機関から送られてきて、企業は、その対応にてんてこまいというのです。CSRを投資や取引の判断材料にしようとの動きが欧米で広がっていて、その波が日本にも押し寄せてきたということらしい。それでも、私にはまだピンとこない。世の中の変化に敏感でなければと思いつつ、自分の実感としてその変化を捕らえきれないのです。
 ですが、そこには私の鈍感さだけではない要因もあると思います。CSRにはいろんな側面があって、障害者雇用はその中の一つに過ぎません。更に、視覚障害者の雇用は、障害者雇用の中の一つに過ぎない。CSRなどと言われても、一視覚障害者の立場からは身近なものと感じるにはあまりに遠い。それに、これまでの経験から、同様の考え方があまり支えにならなかったのではという根強い疑惑もあります。
 いわく「障害者が使いやすいものは健常者にも使いやすい。だから障害者が使いやすいものを。特に高齢化が進んでいる今、高齢者や障害者に使いやすいものは売れるのでは。」
 この考え方は決して間違っているわけではないだろうと思います。これからも持ち続けなければならない理念だと思います。ですが、長期的展望はともかく、今を生きている障害者の人たちにとってどうなのか。健常者と障害者とか高齢者と障害者を安易にごっちゃにしてしまうと、障害者の問題が埋没して見えにくくなってしまうのではないか。
 また話は違いますが、エコマネーというのもあります。ボランティア活動等を貨幣に代わる独自のチケットやカードで評価・蓄積・使用できるようにして、新たな人間関係やコミュニティを築いていこうという考え方です。コンピュータの世界では、linuxに代表されるような資源共有を指向するオープンソースの考え方が拡がってきています。いずれも興味深い。
 そうした動きが社会を変えていく原動力になるのかどうか、なるとすれば障害者である自分にとってどうなのか、「身近な実感」を大切にしながら考えていきたいと思っています。


【10月交流会】(2003/10/18)
「元気を出して良い人間関係を」

青木 匡光氏

 皆さんとの出会いを、非常に楽しみにして参りました。皆さんが『タートルの会』のメンバーであるということは、「現状打破型の人たち」であろうと受け止めています。「今のままじゃどうにもならない」と、皆さん燃えておられる。そういう意欲的な方々にお話ができる機会を与えられて大変うれしいです。
 実は私、耳がほとんど聞こえず、1種3級の障害者手帳を持っています。そういう私ですが、人生を楽しく生き生きと生きています。なぜそうなのかということを含めて、私が経験したこと、つかんだこと、そういう話をしながら、皆さんに元気をつけていただきたいと思います。
 これは、基本的には「素晴らしい仲間がいっぱいいる」ということに尽きるわけですね。ぜひ良い仲間をお作りになっていただきたいと期待を込めてお話しします。私自身これまでの人生において、「一人の出会い」「一つの言葉」によって、どれほど勇気づけられたか、しっかりと感じています。
 21世紀になって3年と10カ月経ちました。物の考え方の何が変わったのでしょうか。20世紀から21世紀へ大きく変わりつつある世の中に、自分が対応していかなければ生き残りにくいということです。皆さん一人ひとりが『自分という人生会社、自分カンパニーのオーナー』です。経営者の経営の能力というのは変化に対応する能力です。したがって変化に対応する能力を発揮しないと生き残りにくいというわけです。
 どう変わってきたかというと、『人間が主役』の時代になってきた。20世紀は『企業が主役』で、企業のシナリオどおりにやっていける人間が得をした時代です。21世紀になり、人間が主役になってきた。自分で自分の面倒をみないといけない時代です。企業は一生、人の面倒を見切れませんから、自分で面倒をみなければならない。そういう時代になってきたということは、皆さんの行動のあり方、物の考え方を変えていかなければならないわけです。
 人間が主役の時代の動きに3つのこだわりを私は感じます。1つは『縁』にこだわっていく。要するに「一人じゃ生きられない世の中」です。だから学校の縁、趣味の縁、仕事の縁。みんな『縁』にこだわりながら生きていく。一緒に生きて行こうという『共生』の感覚が普及してきます。
 2つ目が《人》にこだわり始めた。これだけ世の中が厳しいと、人を見つめる目も非常に厳しいです。自分が納得できる人間と付き合い仕事をしていく、そういう時代になってきた。
 3つ目が《仕草》にこだわり始めた。仕草・行動・ふるまい。これだけハイテクが進むと、逆に人間くさい行動、人間らしい行動が非常に注目されてきます。
 そういう3つのこだわりの時代に、しなやかに生き残っていくには、皆さん一人ひとりが自立して生きることです。主役として振舞うためには絶対に相手役が必要です。《相手役》という素晴らしい仲間が非常に大事なわけです。そう考えると、相手役探しを一生懸命にやって、どんどん仲間を増やしていくことが重要です。
 いつの時代も人間は変わりません。時代が変わっても、素晴らしい人は必ず存在します。よい人というのはどういう人かというと、波長、相性の合う香りの人です。そういう人が、皆さんのために仕事の情報も人間の情報もみんな持ってきてくれます。
 旬である人が丸ごと好かれるイメージは、大きく分けて3つあります。1つ目は「心配りのある人」です。2つ目は「スリーハット人間」という3つの帽子をかぶり分けて生きていく人。3つ目は「知恵のある人」です。
 最初の心配りですが、世の中どうかすると気配り人間が多すぎる。気配りというのは自分の安全に神経を使うことです。相手を思いやる「ユー・イズム」がこれから非常に大事になっていくのです。それが自分中心だと「ミー・イズム」、自分中心主義。ギスギスした形で人間関係がうまくいかない。
 それから2つ目の「スリーハット」、3つの帽子のかぶり分けです。まず1つ目は《オーナーズ・ハット》といい、「自分自身の、自分カンパニーのオーナー経営者」の帽子。自分らしい人生を全うしなければ嘘です。そういう気持ちを持つことが《オーナーズ・ハット》をかぶるということです。2つ目は《オンリー・ワン・ハット》です。たとえば、何か一つの取り柄を持つことは非常に重要です。人生は勝負を賭ける「オンリー・ワン・ハット」が絶対必要です。これからの時代は、職人の時代になります。何かのエキスパートになるということが非常に大切です。3番目は「ネットワーカーズ・ハット」です。仲間を一人でも多くしていくと、それが自分の出番を作ってくれるわけです。
 3つ目は「知恵のある人」です。知恵のある人は、人生の応用能力をいっぱい持っている。その応用能力を身につけるためにはどうしたらいいか。話の聞き方がうまくなる「聞き上手」になることが一番です。自分の問題として話を受け止める。あの人と私とどう違うのと、違いがわかる精神で話をしている。先生と生徒という一方通行で話をしてはだめです。
 「知恵」とはどういうことか。人との出会いを楽しむということです、出会いを楽しむとはどういうことか。《言葉の杖》をつかむことです。その言葉の杖をいっぱい持った人が知恵のある人だと私は思っている。人間ですから悲しい時も、苦しいときも、辛い時も、いろいろあります。そういうときに言葉の杖がありますと、したたかに、しなやかに人生をやっていけるのです。
 たとえば私の大好きな言葉のうち、代表的なものを申し上げますと「今日までのことは明日の準備」という言葉があります。今日の瞬間はすべて明日にある。過去を振り返って、「あの時あんなことをやらなければよかった」と一切考えない。常に前を向いている。そういう言葉の杖は人と出会うことによって得られます。
 皆さんは1つくらい語るべき何かをお持ちです。それを心の奥の、奥の院にしまいこんでいる。質問したり、議論したり、あの手この手で《言葉探しのゲーム》をやっていただきたいんです。そうしながら良い言葉を引き出して、自分の言葉の杖としてどんどんためていくと、それが皆さんを勇気付ける一つのバネになっていきます。
 《知恵のある人》になっていくもう一つのポイントは、「人を巻き込む力を持つ」ということです。これは人を引きつける《香り》のことです。人を引きつける香りがありませんとよい仲間も増えません。
 人間関係で気がついたことは、みんな《11の袋》を持っているということです。「十一」というのは、士という字になります。その下に心を加えると志という字になります。11の袋を持っている人は、志を持っている人。志のある人は香りのよい人と受け止めることができると思います。
 その11の《中身》を簡単に申し上げてまいります。まずはみんな《胃袋《を大切にして、健康管理に気をつけています。体が弱かったら、どんなに頭がよくてもどうにもなりません。
 それから2番目は《お袋》を大切にしています。お袋というのは心の港、《オアシス》です。家族の人間関係すらうまくいかない人は、他の人間関係もうまくいかないです。
 3番目が《給料袋》です。これは当然のことで、飯の種がしっかりしてないと何をやってもうまくいかない。経済的な基盤をしっかり立てることは非常に大事です。「コスト意識」を持って生きることです。しかし、使うべきお金を使わないと、人を引きつける魅力がありません。
 それから4番目が《堪忍袋》です。本当に自分がやりたいことをやる時は、何かを我慢するか、切り捨てないとできません。
 5番目が《手袋》です。手袋というのは専門技術、オンリーワンのことです。何かの取り柄を持つということが絶対必要です。
 6番目が《知恵袋》です。これは皆さんあらゆる手段をこうじても、知恵袋であるよい仲間、よい人探しをしていただきたい。
 7番目が《お守り袋》です。お守り袋は道しるべです。具体的に、「こういうふうに自分はありたい」という道しるべです。
 8番目には《匂い袋》です。人を引きつけるような香りとか、魅力、知性と教養、あるいは心配り。そういう心の香りを持つことが、素晴らしい匂い袋を持つことになるのです。
 9番目が《状袋》です。封筒とか手紙のことです。心のこもった手紙を相手に書く。それが相手の気持ちをつかむ原点になっていくわけです。
 10番目が《福袋》です。福袋というのは幸福。つまり幸福をみんなと分かち合いながら生きていく。
 最後、11番目に《大入り袋》です。心の広さです。人間関係で一番大事なことです。みんな一人ひとり価値観が違う。自分にとって常識と思っても、相手にとって非常識ということも多いわけです。だからそういうものを受け入れるだけの、心の広さをお持ちになることが大事です。
 《11の袋》を頭に置きながら、何が足りないのか意識していただき、現在高をチェックし、重点的にエネルギーを注いで身に付けていく。そこに志が生まれます。誰もが人間性に惹かれて付き合うようになっていく。そして結果として《浮き袋》が生まれてくる。浮き袋が皆さんを支える人間財産、人脈です。
 人間に対しての価値観が変わった時代は、人間そのものに焦点を合わせ、ビジネスも人間関係も展開しているのです。その底に流れているものは、人の心を揺さぶる《揺さぶり》です。
 揺さぶりの典型的なものとして、まず1つ目は《仕掛け人》になることです。自分から仕掛けるのであればどんな仕掛けでもいいし、自分が仕掛けられなければ、仲間を引っ張り込んで仕掛けさせればいいのです。
 もうひとつは「情報を発信する人」になることです。集めた情報に対する直感にこだわり、自分流に加工し、組み立て直して発信する姿勢を常に持つことです。直感にこだわるとは、この情報は自分にとって役に立つか立たないか、面白いかつまらないか、必要かどうかを見極めることです。
 質のいい情報人間を仲間に巻き込むためには、先ほど申し上げたような「揺さぶり」が大事になってくるわけです。「揺さぶり・しぐさ」を身につけるためには、《5マメ人間》になることです。
 1つ目は《足マメ》です。会いたいと心がうずいた人がいたら、すぐに会いに行き、一言いい情報をもらってくればいいのです。
 2つ目は《筆マメ》《です。生きた情報を持っている人になかなか会えないという問題があります。そういうときは、「会いたい」と手紙を送ればよいのです。「足マメ・筆マメ」のように、面倒くさいこと、厄介なこと、手間暇かかることをサラッとやってのけるのが、21世紀の重要な武器になるのです。
 ハイテクに対し、面倒で厄介で、手間暇がかかる人間くさい行動を《ローテクノロジー》といいます。コンピュータで情報ネットワークはできるかもしれませんが、絶対に人間のネットワークはできません。顔と顔を見合わせ、初めて自分の五感や体で感じながら人間関係を作っていくものなのです。
 3つ目は《電話マメ》です。用事を伝達するだけの道具として電話を使うのではなく、むしろ真心をメッセージする手と足にしてしまえばよいのです。
 4つ目は《世話マメ》です。皆さんなりの立場で世話の仕方があると思います。自分が行動できなければ、その行動ができる人間を仲間に巻き込み、自分はあくまでも「指示命令をする知恵袋」となって、代わりにその世話役にさせてしまえばいいのです。
 5つ目は《出マメ》です。出ることにマメになることです。自分なりにできるだけ出て行く姿勢を心がけていけば、わざわざそうしてくれたことに対して、多くの人が感動してくれるでしょう。
 しかしこうした仕掛け心は、人間関係の必要条件であっても、十分条件ではありません。十分条件を満たすには、うまくコミュニケーションをとっていかなければならないのです。これからコミュニケーションにおいての《隠し味》をいくつかあげてみたいと思います。
 まず大前提として頭において欲しいのは、「言葉・声」をかけることは、心をかけるということです。
 もうひとつは、「理解できる言葉・納得できる言葉」を用意する心配りです。どう言えば相手がわかるのか、受け止めやすい言葉使いをしているか、もう一度よく考えてください。本人だけがわかる言葉では、聞いている方は白けてしまいます。ところが自分が理解、納得できる言葉使いをすると、相手は非常に反応がし易いものです。
 特に若い人に何かをやらせたい場合、その人が理解し、納得できる言葉使いをすることが大切です。「これはあなたにとって、とてもプラスになる」というように、相手にとってどうなのかを納得、理解させる喋り方をすると、相手はその気になってくれます。
 コミュニケーションの隠し味として《イエス・バット方式》というのがあります。これは会話にリズムがつくまで「イエス」を続けるというものです。例えば、「今日は暑いですね」と言われたら、「本当に暑いですね」と返すのがイエスです。ところが「私はちっとも」と返されたら、そのとたんに気持ちは白け、その後何も言う気がなくなってしまいます。自分が納得できなくても、まず相手に言いたいことを全部言わせてしまうのです。相手が言い終わった後に、「でも私はこう思う」つまりバットを提示したとしても、会話のリズムは途切れることなく続いていくものです。
 また、聞き上手な人は相槌が上手いものです。聞き上手の秘訣は、同じ相槌を二度続けないことです。相槌に変化をつけながら反応することで、相手は自分の話を聞いてくれていると感じ、嬉しくなって、更に喋ろうとするでしょう。
 そこでとっておきの秘訣は、ある瞬間《観音様》になっていただきたいのです。「観」は「人生観・処世観」という意味で、相手の物の見方や考え方を、音で見て聞いてやるのが観音様なのです。その過程を手抜きしなければ、相手もこちらの話にきちんと耳を傾けてくれるでしょう。
 家庭教育においても、母親が観音様のような姿勢を持っていると、子どもは非常によいかたちで育ちます。素晴らしい母親は、子どもの背の高さにしゃがみ目線を合わせて、子どもの言うことを一生懸命聞き取ろうとします。
 ところが、うまく観音様になれない母親は、しゃがむどころか立ったままで、「何が言いたいの」と無理やり言わせようとします。母親が自分の言いたいことを理解してくれないと感じた子どもは、それを行動で示そうとします。
 次の隠し味は《ボディーランゲージ、体の言葉》です。会話をしていて相手の言うことに納得したら、眉毛をぐっと上げた表情を作りながら、「そうなの!」と言ってあげることです。更に、相手の言うことが心から納得できたときには、「そうなんだよ!」と自分のひざを叩くなり、相手の肩をポンと叩くなりして、話に乗っていることを自分の体で表わすとよいでしょう。
 次は「陽性、ネアカ」です。陽性、ネアカの人は周りを明るくしますから、皆さんもそこにいるだけで周りをほっとさせるような《いるだけボランティア》になってください。周りを明るくするにはユーモアが必要です。ユーモアを持つには、自分をからかう、ほんの少しの勇気を持つことです。職場でも家庭でも、笑顔を引き出しましょう。
 次は、先ほどの大入り袋に相当する心の広さ、つまり《度量》です。相手の話にじっくり耳を傾ける、聞いてあげることは人間関係にとってとても大切なことです。ぜひ「聞くだけボランティア」を大いにこころざして欲しいと思います。
 それから自分や他人においても、欠点は直らないものと思うことです。無理に直そうとするのではなく、叩いて封じ込めてしまえばよいのです。その代わり、他の部分で使える長所があれば、そこをどんどん伸ばしてみてください。人間というのは面白いもので、「あいつはすごい」と思った瞬間に、目眩しをくらったように、その人の欠点が見えなくなってしまうものです。人間の素晴らしい部分においての接点をつけることで、皆努力するのです。
 私はいつも、「えくぼには両目を開けて、あばたには片目をつぶれ」と言っています。えくぼ、つまり長所はしっかり両目を開けて見てあげて、欠点のあばたは見てみぬふりをしてやるのです。
 皆さんがコミュニケーションをしていく上で、何かスピーチを求められることがあるでしょう。スピーチをスマートにやるためには《三づくし》を頭に置いて話してみてください。これは言いたいことを「3つに絞る」というもので、4つ以上になると相手は消化不良を起こしてしまいます。実は、何を言いたいのかがわからない人が意外と多いのです。私は21世紀のキーワードは、「単純明快、具体的でわかりやすい」だと思います。
 コミュニケーションを卒業し、次に素晴らしい仲間を味方につけるためには、自分を売り込む技術を身につけることです。人を引きつけるには自己PRをすればよいのですが、皆が失敗してしまうのは、自己宣伝つまり《コマーシャル》をしてしまうからです。しかしPRは「ラブミー」、つまり「自分を愛して欲しい、理解して欲しい、好きになって欲しい」という気持ちの表現なのです。現実問題、自分のことで頭が一杯になりがちな今日、自分から「ラブミー・コール」をしなければ相手はわかってはくれません。自分をわかってもらうための努力を怠ってはいけないのです。
 人を引きつける基本的に必要な、「付き合い六法」という6つの香りについてお話します。その中の1つでも身につけていただければと思います。
 1番目は、皆さんらしい「これが俺の生き方だ」という《らしさ》を出していただきたいと思います。我々一人ひとりが「これが俺の人生だ、俺のやり方だ」というふうに、自分らしさにこだわって生きていく。自分が納得できる《らしさ》を打ち出しながら生きていく。これがこれからの皆さんの人生の大きな宿題だと思います。
 2番目は《好奇心》です。好奇心を持って生きるということは、人生にとって非常に重要なことです。人間に関わることすべてに関心を持つ。好奇心のある人は教養のある人になっていく。教養のある人とは、いかに多くの《無駄》をしてきたか、無駄の累積が教養です。「人付き合いの無駄・読書の無駄・よろず体験の無駄」、いろいろな無駄から人を楽しませる話題を豊富に持っている人です。
 3番目が《自然流》です。人付き合いは自然体で構えずにやるのが一番です。それを「騙されまい、馬鹿にされまい」と構える人がいる。構えられるととっつきにくいことになって、ぜんぜん面白くない。私の《ヒューマンハーバー》は「人間の出会いの港」ですから、全国からいろいろな方が見えますが、ほとんどが初対面です。初対面の人がもし私を騙すなら、騙されてもいいと思っています。そうやってオープンに付き合っていますと、とてもうまくいきます。
 4番目が《人間行脚》です。人を探し歩くことに燃えること。「この人に会いたい」とうずく人には会いに行く。うずく人が波長の合う人なのかどうかを自分のカンで確かめる。そうやって1人ずつ増やしていく。
 実は、私のNHKラジオを聞いて、全盲の人が「眼の見えない人たちが集まって自立して生きていくための会」を開いた。そのためのサロンを作りたいのでお知恵を拝借したいと訪ねて来た方がいます。一歩踏み出す勇気を持って来られると次の展開が示される。自分の《ヒューマンハーバー》を皆さんもお作りになるといいです。本音の会話がし易いところで、いい人との出会いを楽しむという《仕掛け》の工夫が重要だと思います。人間行脚の一つの仕掛けを勇気を出してお持ちになったらどうでしょう。
 5番目が《遊び心》です。遊び心を持つ人というのは大人の付き合いができます。人間性が非常に豊かです。仕事をやった分だけ一生懸命に遊ぶバランス感覚が、人間性を豊かにする。仕事だけの人は無味乾燥、人間的な香りがないです。《遊ぶ》ことで人間性が豊かになっていく。
 6番目が《芝居心》です。芝居心を持つ人に出会うと、「また会いましょう」と心から握手ができるのです。なぜなら、そういう人は、「もてなす精神」がものすごく旺盛で、人生を一つの《舞台》に見ている人です。人生舞台においていろいろ出会いがあります。自分が脇役になって舞台が楽しくなるよう心がける。そうやって皆さん自身のサービス精神を発揮する。
 「サービスとは何か」、よくマスコミから聞かれるのですが、私は《後味のよさ》と答えています。どんなサービスも、後味が悪いと何にもなりません。何かを仕掛けた場合でも、後味がいいよう心を配り、うまく展開させることです。
 こんなふうに、6つの基本的な「人を引きつける香り」をお持ちになることです。そして《11の袋》の話です。人間関係というのは織物を織り上げるのと同じことです。織物は縦糸と横糸の織り合わせです。《11の袋》は縦糸に相当するのです。横糸は6つの香りと5マメです。
 横糸と縦糸、これが人間関係の基本の糸です。その1本でもいいから皆さん流に織ると、人間関係がよくなるという循環が始まる。基本をしっかり身に付けて、自分をPRする実践的な方法を工夫していただきたいと思います。
 人間関係についての良い仲間探しの最初にやるべきことは、自分が何かの《縁》にこだわって、その延長線に仲間をつかむということです。「友達の友達は友達」です。いい仲間の延長線上に、またいい仲間が増えていく。
 いい仲間が見つかったときに「知的サービス」を頭に置くといいです。たとえば、相手がイタリアに燃えている人ならイタリアの情報を集め、さりげなく教えてあげる。そういう知的サービスが相手の気持ちを揺さぶります。
 それから《人間のプロ》を目指していただく。プロとは、どんな世界でも当たり前にきちんとやっているからプロなのです。だから、人から何かしてもらったらすばやく反応する。人間としてあるべき姿勢を、常に《しぐさ》として、きちんとけじめをつけることが非常に大事です。親しいということは、相手を思いやることで、相手に甘えることではないのです。何か約束をしたらきちんと守るとか、時間には遅れないとか、けじめをつけて付き合うことが人間関係としては一番大事な基本的な構造です。
 そういうベースを踏まえた人間関係の極意が《ギブ・アンド・ギブ》です。《ギブ・アンド・テイク》というビジネス感覚を、絶対に人間関係に持ち込んでいただきたくないのです。あの人と付き合うと得だとか損だとか、計算感覚は見抜かれて離れていきます。ギブ・アンド・ギブとは、自分のできることをさりげなく徹底的にやればいいんです。
 北九州のすばらしい女性からいい言葉をいただきました。「人に与えることのできる喜びは、人から与えられる喜びよりも、遥かにうれしくて大きい」。まさにそのとおりです。だから《与える喜び》に徹し切って、反応のない人だったら普通にお付き合いすればいい。人間関係は、誰とも公平に仲良く付き合うなんて神様しかできません。不公平でいい。人間、差別は大嫌い。格差は大好きです。だから、皆さん流のやり方でいろいろ情報提供をして、どんどん格差をつけて、揺さぶっていったらいいと思います。
 皆さんもこれから相当数の人間とお付き合いするでしょうが、基本的には1対1です。《マンツーマン・カウンセリング》といいますが、一人ひとり丁寧にお付き合いしていく姿勢が大事だと思います。
 最高に説得力あるPRはこれからの皆さんの生き様です。たった1度しかない人生です。自分にしかできない何かを、自分なりのやり方で残していく。《モニュメント》といいますが、生きた証を残す。「俺にはできないことをよくやるなあ」と思われるような何かをやってみる。そのことで揺さぶられて引きつけられていくのです。
 その生き様を中国では「金を残すこと」は《下》、仕事あるいは事業を残すことは《中》、人を残すことは《上》と言います。だから、《いい人探し》をして、自分にとっての《芸術作品》と思われるような人間財産を築き上げていただければ、すばらしい人生に結びつくと思います。
 最後に3つだけ、私が揺さぶられた《言葉の杖》を申し上げます。NHKから「サラリーマンの元気回復ゼミ」という対談を頼まれたときのことです。アナウンサーが「戦国武将の言葉の中で印象に残っているものは?」と聞かれたので「金銭を失うことは失うものが小さい。信用を失うことは失うものが大きい」そして「勇気を失うことはすべてを失う」。それが非常に気に入っていますと申し上げました。
 2つ目は「心の花を咲かせて生きよ」です。植物の花は時間が経てば枯れますが、心の花は咲かせ続けることができる。言い換えれば《張り合い》だと思います。
 3つ目は、私が高校時代お世話になった心の師匠が喜寿の祝いの席でおっしゃった言葉です。「長生きをするというのは天の恵みだと思う。若さを保つのは生活の技術のおかげだと思う。今私が燃えているのは死ぬまで生きることです」と。私はカルチャーショックを受けました。今、本当に生きているだろうか。死にたいように生きたら、死んだ方がマシです。「生きる存在感」を持つ生き方をするには、すばらしい仲間と一緒に生きることです。そのためにいろいろな角度から、人間関係を大切にしていただく具体的な方法を申し上げました。自分流の楽しい人間関係を展開していただければ本当にうれしく思います。

〈プロフィール〉
青木匡光(あおき まさみつ)
●1933年(昭和8年)東京生まれ。
1975年(昭和50年)アソシエイツ・エイラインを設立。
サロン風のオフィスをヒューマン・ハーバー(人間の港)として開放し、異業種交流の場として提供。
メディエーター(人間接着業)として28年間、人間関係に悩む人たちに指針を与え、仕事と人生とに意欲的な人間同士を結び付けている。
周囲からは、人脈づくり、異業種交流の草分け、企画のプロなどの異名をとる。
現在、ビジネス評論家として人間交流、企画、イベントなどの相談、講演、著作などで活躍中。
●著書:よい人間関係(日本実業出版)ほか多数


【11月交流会(2003/11/15)】
テーマ「こんな工夫をしています」

★職場内ネットワークへのアクセス
★通勤や職場内の移動
★電話メモやすぐに自分で読めない文書

●佐藤 正純

 私は数年前まで横浜市内の病院で脳外科医として勤務していました。現在は脳外科はできなくなりましたが医師免許がありますので医療専門学校で講師をしています。私の障害は非常に特殊なので皆さんの参考になるかどうかわかりませんが、その中から何かヒントになることがあればと話をさせていただきます。
 皆さんは目の病気で視覚を失われた方が多いのではと思いますが、私は脳外傷によって視覚障害になりました。スノーボードで頭部を打って、それが原因で視覚に障害を受けました。
 人の視覚というのは目から入った情報が脳の後頭葉というところに伝達され、その情報を認識して初めて目が見えたということになります。ところがこの認識する部分が壊れてしまうと見えていても見えないという状態になります。つまり私の場合も人の顔がぼんやりと見えているのですが何が見えているのかが認識できないわけです。家族と一緒に歩いているうちに、いつの間にか知らない人について行ってしまいストーカー扱いされたこともあります。見えていても認識できないというのは不便なことが多いわけです。
 それと同時に私は事故で頭を打ったのが原因で記憶力が低下しました。そのような状態を「高次脳機能障害」と言います。高い次元の機能が障害を受け、特に記憶力が低下することが典型的な症状です。新しい記憶力や古い記憶、そういうものが全般的に低下しました。
 事故後1カ月ほどしてやっと意識が回復したときにはそのような状態になっていました。リハビリセンターに入院しましたが私の状態がかなり重度な障害だったので職業リハの対象にはならず、家庭生活ができればよいでしょうという担当医の判断でした。それなら私は医者なのだから自分で自分のリハビリを考えるしかないと思い、自分なりの道を模索しました。
 まず図書館からテープ図書を借りてどんどん聞いてどんどん話をするようにしました。それと音声対応のコンピューターの指導を受けて話した内容やテープで聞いた内容を記録しました。そういったことをやっているうちに記憶力というのは少しずつ回復してくるものです。それが今から3年前のことで、その時期に休職期間が切れて勤務していた病院を退職しました。その後、横浜市大の医局から、「医療専門学校に講師を派遣することになったので、しばらく一緒に聴講生として行ってみたらどうか。」と話がありました。
 私には音楽の趣味があり、ジャズバンドと障害者バンドの両方に所属しています。障害者バンドの方は障害者になってから入ったのですが、ジャズの経験が長いのでバンドマスターとして指導する立場になっています。そういう活動も記憶を取り戻すためには役に立っています。バンドの練習に行くときはほとんど妻の送迎に頼っていました。しかし妻も都合のつかない日があります。けれどもバンドマスターですのでどうしても休みたくないわけです。そのような気持ちや医局からの話がきっかけで今度は歩行訓練が課題となりました。
 最初は自宅近くの郵便ポストまで図書館から借りたテープ図書を返しに行くことから始めました。それから範囲を広げて私が住んでいる田園調布の数カ所の郵便ポストまで行けるように訓練しました。そしてその道順をコンピューターに記録しました。医療専門学校に通うための歩行訓練は都盲協の山本さんにお願いしました。
 私の場合は視覚障害だけでなく記憶力の低下、それと下肢にも麻痺があり運動機能的な問題もあります。そのため訓練方法は二人で話し合いながら進めました。行きたいところはバンドの練習、病院、日本盲人職能開発センター、それから医療専門学校です。山本さんに安全に歩ける経路を決めてもらい、それに従って何度も往復してみました。歩きながら頭の中でここを右に曲がる、左に曲がる、階段を上る下ると覚えていくのです。そして自宅に帰るとコンピューターで自分の地図を作り、メールで山本さんに送ってチェックしてもらいました。このような方法で記憶を取り戻していくと同時に歩行の訓練を工夫してきました。
 外出時に気をつけていることとしては時間に余裕をもって出かけることです。東戸塚の医療専門学校に通うためには田園調布を7時半の電車に乗るようにしています。1時間目は9時20分からなのですが、9時前には学校に到着しています。乗りかえの横浜駅はとても混雑していますので、電車を降りて階段のところで少し待って人影が少なくなってからゆっくりと降りていきます。今日はこの後横浜のホテルまで行くのですが、その道順をちゃんと記憶しています。実は昨日ホテルのフロントまで実際に行って予習をしてきました。だから今日は安心して焦らずに行くことができるわけです。新しいところを開拓するときにはそういった準備が必要だと思います。事前に情報を得ておくということを心がけています。
 専門学校の講義では、前もって学生に資料を配っておきます。内容を全て記憶して話すほどにはまだ記憶力に自信がありませんでした。最近はだいぶん慣れて1時間ぐらいの講義なら何もなくてもできるようになりました。資料の項目を学生に読ませながら講義を進めています。板書ができないのでその対策ということもあります。資料は自宅で作成してインターネットで学校に送っています。会社内ネットワークとは違うかも知れませんが在宅の仕事と学校での仕事をインターネットを利用して講義に役立てています。
 送った講義資料は学校の方で読みやすく校正していただいています。それについては私が講師になるときの学校との申し合わせで快く了解していただいています。そして私の臨床経験に基づく講義内容が学生の教育に役立っているという自信があります。非常勤講師で年次契約ですが、一応来年度も仕事ができる見込みです。まだ私もこれから学ばなければならないことがたくさんあります。皆さんのご意見を参考にしてこれからも頑張っていきたいと思います。

●和泉 一雄

 「タートルの会」には和泉という方が4人いますので、私は「上尾の和泉」と名乗っております。歩行訓練マニュアルについては専門家に譲るとして、今日は私なりにやっていることをお話させていただきたいと思います。私の歩行マニュアルには3つのポイントがあり、1つ目は目的意識を持つこと、2つ目は上手に視覚障害者を演ずること、3つ目は割りきるということです。この3つのポイントに沿ってお話したいと思います。
 私の通勤は自宅からバス停まで徒歩で5分、バスに乗って駅まで行き、電車は途中で乗りかえをして会社の最寄の駅に着きます。そこから社バスに乗ってやっと会社に到着です。会社は工業団地の中にあり、バスを降りて自分の机がある事務所まではさらに15分歩きます。
 朝の通勤では駅まで行くという目的を意識してバスに乗ります。バスの乗車口にはいろいろありますが、どのバスでも乗り込んだら運転手さんのすぐ後ろのポールにつかまります。ここが視覚障害者が安心して立っていられる場所なのです。自分が降りたいところでボタンが押せないわけですから運転手さんのすぐ脇に行って降りたい場所を伝えます。ここが2つ目のポイントの視覚障害者を上手に演じるときです。私も最初はなかなか言えなかったのですが、心の中の歩行訓練士が「さあ和泉さん、監督さんがカチンコを持っています。3、2、1、はいスタート!」。そうすると「すいません運転手さん、私目が不自由なもんで、どこどこで降りたいんですけれども、よろしくお願いします。」と言います。そして運転手さんが返事をしてくれれば監督さんからOKが出ます。
 次に駅の周辺とかコンコースの点字ブロックがある場所では、必ず点字ブロックや誘導ブロックを利用するようにしています。世間の人は視覚障害者は点字ブロックの上を歩くものだと思っていますので、2つ目のポイントの視覚障害者を演じるのです。点字ブロックの上を歩いていれば周囲が納得していますから安心して歩けます。とは言っても通勤時間帯ですから必ずぶつかったり文句を言われたりもします。視覚障害者が歩いていることなど目に入ってはいないのです。そんなことを一々気にしていたら通勤などできません。
 会社は敷地が広く奥にトラックターミナルがあるので、大型トラックが頻繁に行き来しています。そしてトラックの間をぬってフォークリフトが右往左往しています。その中をかいくぐって事務所まで歩いていきます。
 私は網膜色素変性症なので徐々に視力が悪くなっています。このまま通勤していて事故でも起こして労災問題になったら会社に迷惑をかけてしまう、会社に迷惑はかけられない、そして会社に残って仕事がしたいと思いました。そのためにも歩行訓練を受けさせて欲しいと会社にお願いしましたが、なかなか回答がなかったので勝手に埼玉県総合リハビリテーションセンターに申し込みをしました。会社には有給休暇を使って歩行訓練を受け、安全に通えるようにしたいと言ってセンターに入所しました。
 入所時に訓練は1年以上かかると言われたのですが、それを会社に言ったらクビになってしまいます。最短の7カ月のカリキュラムを作っていただき必死で訓練し会社に戻りました。
 会社からは歩行訓練を受けて安全に歩けるのであれば、どこの工場に行っても同じだろうと転勤させられました。それで、歩行訓練士に自宅から新たな職場までと社内での訓練をお願いしました。会社ではトラックの間をぬって歩くのが当り前ですから今度の職場の敷地内も一般の道路を歩くよりも非常に危険です。
 しかし、歩行訓練士は2日で帰ってしまいました。こういう危険な場所は基本動作が身についていればあとは応用しかないので自分で練習するしかないと言われました。ただ私が驚いたのは、私が勤務することになってそれまで歩道と車道の区別がなかったところに1メートル幅で白いラインが引かれていました。私は会社側の配慮に感謝しました。しかし仕事ですから忙しくなるとそういうところにもトラックを平気で停めます。物も置いてあります。半年間は会社に行って毎日のように自分の机から入口の守衛所まで歩きました。仕事はしません。まずは安全に歩行することが大事です。その点は上司にも話しました。私が1人で歩行訓練をしているとトラックの運転手さんたちが見ています。もちろん会社の上の人も見ています。白杖で安全を確認しながらトラックや物をよけて歩いていることをだんだんと理解してくれるようになりました。
 それと一日1回駐輪場の整理をしています。駐輪場はパレットターミナルの間をくぐって行くので汗びっしょりになります。視覚障害者は工夫して安全を確認して歩いているんだということを理解してもらうことがポイントだと思います。
 仕事といってもはっきり言ってしていません。私は総合事務所にいるのですが、取引先の営業さんとかお得意さんがしょっちゅう来ます。そういった時に「すごい会社ですね。やはりある程度の会社になると障害のある人を採用しないといけないんですね。」などと話しているのが聞こえます。私が会社にいるということが会社のイメージを上げるという点でかなり貢献していると思います。私は20年以上勤務しているこの会社に愛社精神を持っています。仕事ばかりでなく私の存在が会社のために貢献できればいいと思っています。

●坂上 実

 私は網膜色素変性症で身障手帳は2級です。一昨年の6月に国立職業リハビリテーションセンターでの訓練を終了して都内の会社に就職しました。入社するまでに何度も面接があり通勤の安全についてかなり聞かれました。私の方から「入社前に歩行訓練をやっておきます。」とはっきり答えたので内定を出してもらえたのだと思います。
 一般職で人事部に採用されたので住宅補助はないということだったのですが、職リハの方から「重度障害者通勤対策助成金」を紹介していただき、会社の方で特別にこの制度を利用していただけることになりました。これは通勤の便のよいところに住めるように、単身者は6万円、妻帯者は10万円を上限として10年間家賃を補助してくれる制度です。ただ条件として住宅の契約者は会社になり、家賃も一時的に会社が立て替えるような形になります。おかげで会社まで地下鉄を乗り換えなしで45分のところに住むことができました。
 住むところが決まり、次は都盲協に通勤経路や自宅の周りの歩行訓練をお願いしました。自宅周辺のお店や病院などの詳細な情報を調べていただき、スーパーも実際に中に入ってよく買いそうなものがどこにあるかを確認しました。入社前の歩行訓練のおかげで、通勤に関しては不安なく入社の日を迎えることができました。
 私は会社に到着すると白杖は折りたたんでかばんの中にしまい、社内では使用していません。広いオフィスは通路の両端にコピー機やファックスやお茶の機械なども置いてあります。その辺りは人がいることが多いので慎重に歩きます。気づかないこともありますが、むこうから声をかけてくれるのでぶつかることはほとんどありません。入社したばかりのころに、人事部内にあるゴミ箱を何度も蹴飛ばしたものですから、私のために皆はゴミ箱を机の下に入れてくれたり、昼休みにオフィスの照明も消さないようにしてもらっています。
 周りが気を付けて「台車が置いてあります」とか「プリンターを移動しました」とか、配線工事をしている時には課長が「いま通路にでっかい穴があいてるから、帰るとき私が誘導しますから」などと声をかけてくれます。
 私宛の書類に附箋が貼ってあれば読んでくれますし、私が確認する必要がある書類は、拡大読書器にその部分が映るように載せてくれます。私の方からは特にお願いしていませんが、そうしてもらえるようには仕向けています。例えば、何か持ってきてくれたときには「それは何ですか」って聞きます。お土産などもらったときは、「だれから、それどんなお菓子?」とかいろいろ聞きますから、私に聞かれる前にみんな教えてくれるようになりました。そんな恵まれた環境で仕事をさせてもらっています。
 以前働いていた新潟の会社では見えないことをひたすら隠そうとしていたので精神的にも辛かったです。今の会社では入社初日に社内を白杖を持って挨拶に回りましたので、私としても本当に気持ちに余裕を持って働くことができています。
 私の会社でもパソコンは全てLANでつながれており、そこにプリンターやコピー機までつながっています。部内にあるプリンターを使うにしても、共用していますので同時に出力すると自分で出したものがどれかわからなくなります。それで他の人が使っていないときを見計らって出力するようにしています。
 グループウェアはロータスノーツが今も使われていますが、最近はイントラネットサイトに移行してきています。スクリーンリーダーはPC-Talkerを使っていますが会社で使っているノーツのバージョンにはほとんど対応していません。それでZoomTextで画面を拡大して確認し、その部分が開いたらクリップボードに一旦コピーしてからどこかに貼り付けて読んでいました。イントラネットサイトには連絡事項などの情報が掲示されていますが、ブラウザはIEv5.5が限定されていますのでPC-Talkerでほとんど問題なくアクセスできています。
 私が入社したころは申請関係は所定の用紙で処理されていたのですが、最近になってそれぞれの端末から社内ネットワークを使ってネット上で処理するシステムが導入されました。しかし画面上のアイコンにテキストでタイトルが入っていなかったり 見た目には文字であってもそれが画像の場合は代替テキストが入っていないとスクリーンリーダーでは読めません。そういう点で困るのは私1人だけですが、情報システム部に対応をお願いしています。
 システム導入のときの打ち合わせに私も参加させてもらいましたので、私が拡大読書器を使って文字の読み書きをしてパソコンはスクリーンリーダーを使っているということをメーカー側に訴えました。メーカー側は、画面の修正は基本部分の変更なので今の時点ではできないという回答でしたが、その後その部分には説明が入って私にも解るように改良されていました。
 官庁などのホームページでもPDFというファイル形式がバリアになっていると聞きますが、私の会社でもやはりPDFがよく使われています。テキストが抽出できて音声化できるものはまだよいのですが、完全に画像になっているものは音声化できません。イントラネットにアクセスはできますが、つくり方によっては情報を取り出せなくて仕事上でも困ることがあります。
 私の所属は人事部で一応事務職ですが事務的な仕事はほとんどやっていません。基本的にはホームページの作成を担当しています。プログラマーやSEの仕事をやっていましたのでプログラムを組み込んでシステム作りもやっています。人事部のホームページを私が作成して「人事部のホームページはちょっと違うね。」と言ってもらえるようになりました。総務部とか営業本部のホームページも担当しています。会社のことが何もわからないうちは要望は出しにくいと思い、少し実績を積んでから発言しようと考えていました。
 これからは私しか困らないことでも遠慮せずに要望して、改善をお願いしていきたいと思います。

【職場で頑張っています:その1】
「私の体験」

(株)武蔵野香料化学研究所
山田 郁生
 私は生まれながらの弱視で、右目は中学生の時に失明、左目は緑内障による視野欠損10度、視力0.1となっています。
 現在、検査のため、毎月1回程度東大病院へ通院しています。
 1年前ぐらいに、担当医の国松先生から「だんだんと見えなくなりますよ!」といわれ頭の中が真っ白になりました。私は1年半前まで、そんなに不自由さを感じていませんでしたのでショックが大きく、どうしていいか分からずに過ごしていましたが、1カ月経過した頃、障害者手帳2級の申請を行なった時に、いろんな補助があることを知らされました。
 会社を辞めようと思い上司に相談したところ、もう少し時間をかけてよく考えてみるようにと説得されたのです。また、国松先生からも辞めないで頑張るようにと忠告され、「病院にロービジョン科が設置されることになったので、受診して下さい。担当は私です」と言われてびっくりしてしまいました。
 さっそく受診して、初めて拡大読書器に触れ、文字がどれもハッキリ見ることができることを知りました。すぐに購入しようと思い、値段を聞いてびっくり。しかし、補助が受けられるとのことで安心しました。問題はパソコンで拡大文字が打てれば、書類等も読み書きできる、それで機種探しを始めたのです。パソコンもいろいろあり、音声が出るものがありびっくりしました。試用してみて、おどろきと便利さを実感し、十分使えるなと思いました。
 会社に相談したところ、あまりに高額すぎるとのことで、私一人のために購入はできないと言われ、無理もないことだな、と思った次第。また暗礁にのりあげ、どこかいい相談するところがないかと途方にくれていた時に、先生から目の悪い人たちのサークルがあるから行ってみるように勧められたのです。
 会の名は「タートルの会」で、事務局から工藤正一さん(厚生労働省障害者雇用対策課)を紹介して頂きました。いろんな相談をし、この時に日本障害者雇用促進協会(現・独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構)を紹介してもらったというわけです。
 この協会の事業の一つとして、障害者を雇用する事業主に対して、障害者の就業を助ける機器などを半年間(原則)、無償で貸し出しをする制度があることを教えてもらいました。いっきに解決の道が開け、会社にこの事を報告して了解をもらい、篠島さん(日本盲人職能開発センター所長)にいろいろの機器を見せて頂き、これを参考に協会へ行き、拡大読書器とパソコンの貸出しを受けたわけです。最近独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構に名称が変わり、貸し出しの機種も多くなっているようです。
 現在、私は拡大読書器はティーマン、パソコンはNECのwindows2000を借用しています。私は、50人程度の小さな会社の総務に所属しているのですが、仕事の内容はおもに社外、社内向けの文書の作成及び印刷業務を担当しています。また、ルーペを使用して、その他の雑用も行なっています。
 当面、これからはパソコンを音声の確認で入力や操作を能率的にできるようにすること、そして多様な機器及びソフトの理解と把握、またいろいろな人との交流を図っていきたいと思っています。
 前にも述べましたように、このような機器は大変高価なものです。また日に日に便利なものが出てきます。しかし、この不景気に会社に購入してもらうのは難しい。この無料貸出し制度を利用して感じたことですが、貸出期間が短いのが大きな欠点だと思っています。しかし、この機器の貸出しがなかったら、1年前に退職していたでしょう。
 ここまで行き着くまでにいろいろありましたが、私は、何事も積極的に行動すること、そして自分で勝手に結論を出さないことを痛感したのです。どのようにやって行けばいいか分からなかった私を、このように親切丁寧に支援して頂いた関係者の皆様に厚く感謝申し上げます。

【職場で頑張っています:その2】
「『5人の福の神』との出会い」

甲斐 幸二
 私の病名は、視神経萎縮。3年前、地元の大学病院に入院し治療を受けたがその効果はなく、あきらめきれず、その後も鍼治療を一年間続けたが結果は同じであった。それで、人から勧められるままに神様、仏様の類に足繁くかよったものだが奇跡は起こらなかった。小さいときから 両眼とも視力は1.5あったので、発症当時は頭の中が真っ白になってしまった。ついに、回復へのかすかな望みを捨て、視覚障害者となった自分を受け入れることを決めた。当然のことながら通常では書類は判読不可能になり、休職を余儀なくされた。
 こんなある日、失意のどん底にあった私に一筋の光明が差した。以前、入院した大学病院の神経内科の先生が、インターネットで福岡の柳川リハビリテーション病院を教えてくれたのである。そこには、視覚障害者の患者と真剣に向き合っている高橋先広生の姿があった。先生は、視覚障害者の状況を十分に理解し説明してくれたので、いままで医者に抱いていたある種の警戒心(失礼)から解き放たれ本音で語ることができた。
 この柳川リハビリ病院では、国立函館視力障害センターからやってくる山田信也先生との眼球運動の訓練も待ち受けていた。時々私に「守るべき家族のために復職する気があるんやろ、そんなら腹くくって頑張らなあかんで、ビッシビッシいくからな」と愛のムチ(?)を入れてくれた。二人の先生は、拡大読書器や音声対応のパソコンなどを上手に駆使すれば、必ずや職場復帰が実現できると叱咤激励し、このスキルアップを図るには、大阪の日本ライトハウスで訓練を積むことを勧めてくれた。不安のなかライトハウスに入所すると、パソコンのスペシャリストである津田諭先生との訓練が始まり、正味6ヶ月足らずの間に微に入り細に入り教えてくれた。
 ところで、私は、昨年の4月1日から職場復帰したが、復帰に際しては、ライトハウスの津田先生が私の職場に一緒に赴き、私の職場復帰への熱い思いを代弁し、その可能性を訴えていただいた。加えて、厚生労働省の工藤さんと山田先生の同僚である国立函館視力障害センターの和泉森太先生、それに高橋先生、山田先生とが全面的にバックアップしてくれた。私にとって、この方々は「七福神」ならぬ「5人の福の神」である。
 去る1月31日から2泊3日の日程で沖縄へ職員旅行をしたが、とても楽しいものとなった。
 最後に、「タートルの会」からも強力なご支援をいただきお礼を申し上げるとともに、人間はいろんな人に支えられて生きていることを痛感したことを記して終わりとしたい。

『中途失明II〜陽はまた昇る〜』献本先の紹介

 2003年12月9日(障害者の日)に、皆様の会費で自費出版しました。初版は3000冊です。
 編集委員、あるいは幹事全員が協力して作り上げたものです。また執筆者の方々に原稿料無しで執筆していただいています。紙面を借りて改めて感謝申し上げます。
 できるだけ多くの方々に読んでほしい本です。会を支援していただいた方々や交流会の講師の方々に感謝を込めて、また広く社会にPRすべく本を贈呈しました。
 贈呈先を皆様に公開します。
1. 執筆者 20
2. 編集委員、幹事等 32
3. 取材先企業 14
4. 交流会講師など協力者 26
5. 厚生労働省等労働関係機関 5
 職業能力開発局長
 保険局長
 職業安定局高齢・障害者雇用対策部長
 障害者雇用対策課長
 東京労働局職業安定部長
6. 日本ロービジョン学会理事(敬称略) 18
 佐渡 一成(さど眼科)
 高橋 広(柳川リハビリテーション病院眼科)
 小田 浩一(東京女子大学現代文化学部)
 郷家 和子(東京都心身障害者福祉センター身体障害相談課)
 簗島 謙次(国立身体障害者リハビリテーションセンター病院 第3機能回復訓練部)
 山縣 浩(宮城教育大学教育学部)
 山縣 祥隆(兵庫医科大学眼科学教室)
 新井 三樹(福岡記念病院)
 川瀬 芳克(あいち小児保健医療総合センター病院眼科)
 工藤 良子(千葉県医療技術大学 第2看護学科)
 小林 章(国立身体障害者リハビリテーションセンター学院)
 白木 邦彦(大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学)
 田淵 昭雄(川崎医科大学眼科学教室)
 永井 春彦(札幌鉄道病院 眼科)
 中村 桂子(大阪医科大学病院 眼科)
 花田 妙子(熊本大学医学部 保健学科看護学専攻)
 守本 典子(岡山大学医学部眼科学教室)
 山田 信也(国立函館視力障害センター)
7. マスコミ等支援者 15
合計 130冊

<お知らせ>

1.点字プリンターを購入
財団法人車輛競技公益資金記念財団からの
「平成15年度ボランティア活動推進助成事業」により助成を受けて、点字プリンターを購入しました。
この点字プリンターは会員相互の交流と学習等に関わる交流会、定期総会、忘年会などの開催案内を点字印刷し発送することに活用します。

2.テーマと会場決まる
 日野原先生の講演会
タートルの会第9回定期総会記念講演
講師:日野原 重明先生(聖路加国際病院理事長)
演題:「視力、その他の感覚障害喪失者へのケアのあり方」
日時:2004年6月12日(土)
   午後1時30分〜2時30分
 なお、講演会は、質疑を15分程度、15分休憩後、午後3時から交流会(参加者全員の自己紹介)4時半ごろまでを含めて予定しています。
会場:豊島区立南大塚ホール
   〒170-0005 東京都豊島区南大塚2−36−1
  tel:03-3946-4301
受付:午後1時より
参加費:無料
問合せ先:「タートルの会」事務局 03−3351−3208
【講師プロフィール】
1911年 山口県生まれ
1937年 京都帝国大学医学部卒業
1941年 聖路加国際病院の内科医になり、内科医長、院長、聖路加看護大学学長等を歴任
現在、聖路加国際病院名誉院長・同理事長、聖路加看護大学理事長、(株)ライフ・プランニング・センター理事長
著書に「生きかた上手」「続・生きかた上手」(ユーリーク゛)「生きるのが楽しくなる15の習慣」(講談社)、「生きかたの可能性」(河出書房新社)、「死をどう生きたか」(中央公論新社)など多数

3.失明告知をどうフォローする?
 3月交流会・講演会
日時:2004年3月27日 14:00〜16:30
会場:日本盲人職能開発センター
講演:「失明告知をどうフォローする? 〜ソーシャルワーカーの立場から」
講師:小松 美智子氏(東京女子医大病院医療社会福祉室)


編集後記

 沖縄の全盲の英語教師を取材して書いた本、『あきらめない』の著者である山城紀子氏は、まえがきで次のような一文を記しています。
 障害者というと、とかく「できないこと」を数えてしまう傾向は強い。しかし、私も含めて、そういう一方的な「社会の目」こそが、障害を持つ人たちの可能性を妨げる最も大きな要因になっているのではないだろうか。見えていることで得られるものと、見えないことで得られるものの両方を生かせる社会のあり方について考えを深めることは、障害のある人もない人も、男も女も、そして子どもも大人も高齢者も、ともに暮らす多様な社会のあり方を考えることに通じる。
 この著者は、『共生社会を拓く』という本も出していますが、まさに共生社会の実現こそが「心のバリアフリー」の実現に他ならないと思うのです。
 見えていることで得られるもの、これは何でしょうか。また、見えないことで得られるものとは、いったい何なのでしょうね。みんなでもっと深く考えることが大事なのでしょう。
(事務局長:篠島 永一)

中途視覚障害者の復職を考える会【タートルの会】会報
『タートル31』
2004年2月29日発行 SSKU 増刊 通巻第1383号
■編集 中途視覚障害者の復職を考える会 会長・下堂薗 保
■事務局 〒160-0003 東京都新宿区本塩町10-3
     社会福祉法人 日本盲人職能開発センター 東京ワークショップ内
     電話 03-3351-3208 ファックス 03-3351-3189
     郵便振替口座:00130−7−671967
■turtle.mail@anet.ne.jp (タートルの会連絡用E-mail)
■URL=http://www.turtle.gr.jp/


トップページ