中途視覚障害者の復職を考える会
タートル 31 号
一障害者として、世の中の動きで少し気になる事柄がいくつかあります。例えば、CSR(Corporate Social Responsibility)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは「企業の社会的責任」のことらしい。障害者をどれくらい雇用しているか、製品に有害物質は含まれていないかなどを指標として、社会的責任達成の度合いを評価しようという動きがあります。
そういう評価をしてどうするのか…… 実は、これが投資の重要な参考材料になるというのです。平たく言えば、CSR達成度が高いとその企業の株価が高く推移する傾向があり、投資して儲かるらしい。
株をやっている人には既に周知のことなのかもしれませんが、昨年、職業リハビリテーション学会に参加したおり、障害者雇用に熱心に取り組んでいる企業経営者からその話を聞いた時は、「ほんまかいな?」という思いで聞いてました。いわば「障害者雇用は儲かる」ということなわけで、そういう動向が本当にあるなら魅力ある話です。
そうこうしているうち、しばらく後に新聞に同じような趣旨の記事が載りました。多くのCSRに関する調査票が格付機関から送られてきて、企業は、その対応にてんてこまいというのです。CSRを投資や取引の判断材料にしようとの動きが欧米で広がっていて、その波が日本にも押し寄せてきたということらしい。それでも、私にはまだピンとこない。世の中の変化に敏感でなければと思いつつ、自分の実感としてその変化を捕らえきれないのです。
ですが、そこには私の鈍感さだけではない要因もあると思います。CSRにはいろんな側面があって、障害者雇用はその中の一つに過ぎません。更に、視覚障害者の雇用は、障害者雇用の中の一つに過ぎない。CSRなどと言われても、一視覚障害者の立場からは身近なものと感じるにはあまりに遠い。それに、これまでの経験から、同様の考え方があまり支えにならなかったのではという根強い疑惑もあります。
いわく「障害者が使いやすいものは健常者にも使いやすい。だから障害者が使いやすいものを。特に高齢化が進んでいる今、高齢者や障害者に使いやすいものは売れるのでは。」
この考え方は決して間違っているわけではないだろうと思います。これからも持ち続けなければならない理念だと思います。ですが、長期的展望はともかく、今を生きている障害者の人たちにとってどうなのか。健常者と障害者とか高齢者と障害者を安易にごっちゃにしてしまうと、障害者の問題が埋没して見えにくくなってしまうのではないか。
また話は違いますが、エコマネーというのもあります。ボランティア活動等を貨幣に代わる独自のチケットやカードで評価・蓄積・使用できるようにして、新たな人間関係やコミュニティを築いていこうという考え方です。コンピュータの世界では、linuxに代表されるような資源共有を指向するオープンソースの考え方が拡がってきています。いずれも興味深い。
そうした動きが社会を変えていく原動力になるのかどうか、なるとすれば障害者である自分にとってどうなのか、「身近な実感」を大切にしながら考えていきたいと思っています。
皆さんとの出会いを、非常に楽しみにして参りました。皆さんが『タートルの会』のメンバーであるということは、「現状打破型の人たち」であろうと受け止めています。「今のままじゃどうにもならない」と、皆さん燃えておられる。そういう意欲的な方々にお話ができる機会を与えられて大変うれしいです。
実は私、耳がほとんど聞こえず、1種3級の障害者手帳を持っています。そういう私ですが、人生を楽しく生き生きと生きています。なぜそうなのかということを含めて、私が経験したこと、つかんだこと、そういう話をしながら、皆さんに元気をつけていただきたいと思います。
これは、基本的には「素晴らしい仲間がいっぱいいる」ということに尽きるわけですね。ぜひ良い仲間をお作りになっていただきたいと期待を込めてお話しします。私自身これまでの人生において、「一人の出会い」「一つの言葉」によって、どれほど勇気づけられたか、しっかりと感じています。
21世紀になって3年と10カ月経ちました。物の考え方の何が変わったのでしょうか。20世紀から21世紀へ大きく変わりつつある世の中に、自分が対応していかなければ生き残りにくいということです。皆さん一人ひとりが『自分という人生会社、自分カンパニーのオーナー』です。経営者の経営の能力というのは変化に対応する能力です。したがって変化に対応する能力を発揮しないと生き残りにくいというわけです。
どう変わってきたかというと、『人間が主役』の時代になってきた。20世紀は『企業が主役』で、企業のシナリオどおりにやっていける人間が得をした時代です。21世紀になり、人間が主役になってきた。自分で自分の面倒をみないといけない時代です。企業は一生、人の面倒を見切れませんから、自分で面倒をみなければならない。そういう時代になってきたということは、皆さんの行動のあり方、物の考え方を変えていかなければならないわけです。
人間が主役の時代の動きに3つのこだわりを私は感じます。1つは『縁』にこだわっていく。要するに「一人じゃ生きられない世の中」です。だから学校の縁、趣味の縁、仕事の縁。みんな『縁』にこだわりながら生きていく。一緒に生きて行こうという『共生』の感覚が普及してきます。
2つ目が《人》にこだわり始めた。これだけ世の中が厳しいと、人を見つめる目も非常に厳しいです。自分が納得できる人間と付き合い仕事をしていく、そういう時代になってきた。
3つ目が《仕草》にこだわり始めた。仕草・行動・ふるまい。これだけハイテクが進むと、逆に人間くさい行動、人間らしい行動が非常に注目されてきます。
そういう3つのこだわりの時代に、しなやかに生き残っていくには、皆さん一人ひとりが自立して生きることです。主役として振舞うためには絶対に相手役が必要です。《相手役》という素晴らしい仲間が非常に大事なわけです。そう考えると、相手役探しを一生懸命にやって、どんどん仲間を増やしていくことが重要です。
いつの時代も人間は変わりません。時代が変わっても、素晴らしい人は必ず存在します。よい人というのはどういう人かというと、波長、相性の合う香りの人です。そういう人が、皆さんのために仕事の情報も人間の情報もみんな持ってきてくれます。
旬である人が丸ごと好かれるイメージは、大きく分けて3つあります。1つ目は「心配りのある人」です。2つ目は「スリーハット人間」という3つの帽子をかぶり分けて生きていく人。3つ目は「知恵のある人」です。
最初の心配りですが、世の中どうかすると気配り人間が多すぎる。気配りというのは自分の安全に神経を使うことです。相手を思いやる「ユー・イズム」がこれから非常に大事になっていくのです。それが自分中心だと「ミー・イズム」、自分中心主義。ギスギスした形で人間関係がうまくいかない。
それから2つ目の「スリーハット」、3つの帽子のかぶり分けです。まず1つ目は《オーナーズ・ハット》といい、「自分自身の、自分カンパニーのオーナー経営者」の帽子。自分らしい人生を全うしなければ嘘です。そういう気持ちを持つことが《オーナーズ・ハット》をかぶるということです。2つ目は《オンリー・ワン・ハット》です。たとえば、何か一つの取り柄を持つことは非常に重要です。人生は勝負を賭ける「オンリー・ワン・ハット」が絶対必要です。これからの時代は、職人の時代になります。何かのエキスパートになるということが非常に大切です。3番目は「ネットワーカーズ・ハット」です。仲間を一人でも多くしていくと、それが自分の出番を作ってくれるわけです。
3つ目は「知恵のある人」です。知恵のある人は、人生の応用能力をいっぱい持っている。その応用能力を身につけるためにはどうしたらいいか。話の聞き方がうまくなる「聞き上手」になることが一番です。自分の問題として話を受け止める。あの人と私とどう違うのと、違いがわかる精神で話をしている。先生と生徒という一方通行で話をしてはだめです。
「知恵」とはどういうことか。人との出会いを楽しむということです、出会いを楽しむとはどういうことか。《言葉の杖》をつかむことです。その言葉の杖をいっぱい持った人が知恵のある人だと私は思っている。人間ですから悲しい時も、苦しいときも、辛い時も、いろいろあります。そういうときに言葉の杖がありますと、したたかに、しなやかに人生をやっていけるのです。
たとえば私の大好きな言葉のうち、代表的なものを申し上げますと「今日までのことは明日の準備」という言葉があります。今日の瞬間はすべて明日にある。過去を振り返って、「あの時あんなことをやらなければよかった」と一切考えない。常に前を向いている。そういう言葉の杖は人と出会うことによって得られます。
皆さんは1つくらい語るべき何かをお持ちです。それを心の奥の、奥の院にしまいこんでいる。質問したり、議論したり、あの手この手で《言葉探しのゲーム》をやっていただきたいんです。そうしながら良い言葉を引き出して、自分の言葉の杖としてどんどんためていくと、それが皆さんを勇気付ける一つのバネになっていきます。
《知恵のある人》になっていくもう一つのポイントは、「人を巻き込む力を持つ」ということです。これは人を引きつける《香り》のことです。人を引きつける香りがありませんとよい仲間も増えません。
人間関係で気がついたことは、みんな《11の袋》を持っているということです。「十一」というのは、士という字になります。その下に心を加えると志という字になります。11の袋を持っている人は、志を持っている人。志のある人は香りのよい人と受け止めることができると思います。
その11の《中身》を簡単に申し上げてまいります。まずはみんな《胃袋《を大切にして、健康管理に気をつけています。体が弱かったら、どんなに頭がよくてもどうにもなりません。
それから2番目は《お袋》を大切にしています。お袋というのは心の港、《オアシス》です。家族の人間関係すらうまくいかない人は、他の人間関係もうまくいかないです。
3番目が《給料袋》です。これは当然のことで、飯の種がしっかりしてないと何をやってもうまくいかない。経済的な基盤をしっかり立てることは非常に大事です。「コスト意識」を持って生きることです。しかし、使うべきお金を使わないと、人を引きつける魅力がありません。
それから4番目が《堪忍袋》です。本当に自分がやりたいことをやる時は、何かを我慢するか、切り捨てないとできません。
5番目が《手袋》です。手袋というのは専門技術、オンリーワンのことです。何かの取り柄を持つということが絶対必要です。
6番目が《知恵袋》です。これは皆さんあらゆる手段をこうじても、知恵袋であるよい仲間、よい人探しをしていただきたい。
7番目が《お守り袋》です。お守り袋は道しるべです。具体的に、「こういうふうに自分はありたい」という道しるべです。
8番目には《匂い袋》です。人を引きつけるような香りとか、魅力、知性と教養、あるいは心配り。そういう心の香りを持つことが、素晴らしい匂い袋を持つことになるのです。
9番目が《状袋》です。封筒とか手紙のことです。心のこもった手紙を相手に書く。それが相手の気持ちをつかむ原点になっていくわけです。
10番目が《福袋》です。福袋というのは幸福。つまり幸福をみんなと分かち合いながら生きていく。
最後、11番目に《大入り袋》です。心の広さです。人間関係で一番大事なことです。みんな一人ひとり価値観が違う。自分にとって常識と思っても、相手にとって非常識ということも多いわけです。だからそういうものを受け入れるだけの、心の広さをお持ちになることが大事です。
《11の袋》を頭に置きながら、何が足りないのか意識していただき、現在高をチェックし、重点的にエネルギーを注いで身に付けていく。そこに志が生まれます。誰もが人間性に惹かれて付き合うようになっていく。そして結果として《浮き袋》が生まれてくる。浮き袋が皆さんを支える人間財産、人脈です。
人間に対しての価値観が変わった時代は、人間そのものに焦点を合わせ、ビジネスも人間関係も展開しているのです。その底に流れているものは、人の心を揺さぶる《揺さぶり》です。
揺さぶりの典型的なものとして、まず1つ目は《仕掛け人》になることです。自分から仕掛けるのであればどんな仕掛けでもいいし、自分が仕掛けられなければ、仲間を引っ張り込んで仕掛けさせればいいのです。
もうひとつは「情報を発信する人」になることです。集めた情報に対する直感にこだわり、自分流に加工し、組み立て直して発信する姿勢を常に持つことです。直感にこだわるとは、この情報は自分にとって役に立つか立たないか、面白いかつまらないか、必要かどうかを見極めることです。
質のいい情報人間を仲間に巻き込むためには、先ほど申し上げたような「揺さぶり」が大事になってくるわけです。「揺さぶり・しぐさ」を身につけるためには、《5マメ人間》になることです。
1つ目は《足マメ》です。会いたいと心がうずいた人がいたら、すぐに会いに行き、一言いい情報をもらってくればいいのです。
2つ目は《筆マメ》《です。生きた情報を持っている人になかなか会えないという問題があります。そういうときは、「会いたい」と手紙を送ればよいのです。「足マメ・筆マメ」のように、面倒くさいこと、厄介なこと、手間暇かかることをサラッとやってのけるのが、21世紀の重要な武器になるのです。
ハイテクに対し、面倒で厄介で、手間暇がかかる人間くさい行動を《ローテクノロジー》といいます。コンピュータで情報ネットワークはできるかもしれませんが、絶対に人間のネットワークはできません。顔と顔を見合わせ、初めて自分の五感や体で感じながら人間関係を作っていくものなのです。
3つ目は《電話マメ》です。用事を伝達するだけの道具として電話を使うのではなく、むしろ真心をメッセージする手と足にしてしまえばよいのです。
4つ目は《世話マメ》です。皆さんなりの立場で世話の仕方があると思います。自分が行動できなければ、その行動ができる人間を仲間に巻き込み、自分はあくまでも「指示命令をする知恵袋」となって、代わりにその世話役にさせてしまえばいいのです。
5つ目は《出マメ》です。出ることにマメになることです。自分なりにできるだけ出て行く姿勢を心がけていけば、わざわざそうしてくれたことに対して、多くの人が感動してくれるでしょう。
しかしこうした仕掛け心は、人間関係の必要条件であっても、十分条件ではありません。十分条件を満たすには、うまくコミュニケーションをとっていかなければならないのです。これからコミュニケーションにおいての《隠し味》をいくつかあげてみたいと思います。
まず大前提として頭において欲しいのは、「言葉・声」をかけることは、心をかけるということです。
もうひとつは、「理解できる言葉・納得できる言葉」を用意する心配りです。どう言えば相手がわかるのか、受け止めやすい言葉使いをしているか、もう一度よく考えてください。本人だけがわかる言葉では、聞いている方は白けてしまいます。ところが自分が理解、納得できる言葉使いをすると、相手は非常に反応がし易いものです。
特に若い人に何かをやらせたい場合、その人が理解し、納得できる言葉使いをすることが大切です。「これはあなたにとって、とてもプラスになる」というように、相手にとってどうなのかを納得、理解させる喋り方をすると、相手はその気になってくれます。
コミュニケーションの隠し味として《イエス・バット方式》というのがあります。これは会話にリズムがつくまで「イエス」を続けるというものです。例えば、「今日は暑いですね」と言われたら、「本当に暑いですね」と返すのがイエスです。ところが「私はちっとも」と返されたら、そのとたんに気持ちは白け、その後何も言う気がなくなってしまいます。自分が納得できなくても、まず相手に言いたいことを全部言わせてしまうのです。相手が言い終わった後に、「でも私はこう思う」つまりバットを提示したとしても、会話のリズムは途切れることなく続いていくものです。
また、聞き上手な人は相槌が上手いものです。聞き上手の秘訣は、同じ相槌を二度続けないことです。相槌に変化をつけながら反応することで、相手は自分の話を聞いてくれていると感じ、嬉しくなって、更に喋ろうとするでしょう。
そこでとっておきの秘訣は、ある瞬間《観音様》になっていただきたいのです。「観」は「人生観・処世観」という意味で、相手の物の見方や考え方を、音で見て聞いてやるのが観音様なのです。その過程を手抜きしなければ、相手もこちらの話にきちんと耳を傾けてくれるでしょう。
家庭教育においても、母親が観音様のような姿勢を持っていると、子どもは非常によいかたちで育ちます。素晴らしい母親は、子どもの背の高さにしゃがみ目線を合わせて、子どもの言うことを一生懸命聞き取ろうとします。
ところが、うまく観音様になれない母親は、しゃがむどころか立ったままで、「何が言いたいの」と無理やり言わせようとします。母親が自分の言いたいことを理解してくれないと感じた子どもは、それを行動で示そうとします。
次の隠し味は《ボディーランゲージ、体の言葉》です。会話をしていて相手の言うことに納得したら、眉毛をぐっと上げた表情を作りながら、「そうなの!」と言ってあげることです。更に、相手の言うことが心から納得できたときには、「そうなんだよ!」と自分のひざを叩くなり、相手の肩をポンと叩くなりして、話に乗っていることを自分の体で表わすとよいでしょう。
次は「陽性、ネアカ」です。陽性、ネアカの人は周りを明るくしますから、皆さんもそこにいるだけで周りをほっとさせるような《いるだけボランティア》になってください。周りを明るくするにはユーモアが必要です。ユーモアを持つには、自分をからかう、ほんの少しの勇気を持つことです。職場でも家庭でも、笑顔を引き出しましょう。
次は、先ほどの大入り袋に相当する心の広さ、つまり《度量》です。相手の話にじっくり耳を傾ける、聞いてあげることは人間関係にとってとても大切なことです。ぜひ「聞くだけボランティア」を大いにこころざして欲しいと思います。
それから自分や他人においても、欠点は直らないものと思うことです。無理に直そうとするのではなく、叩いて封じ込めてしまえばよいのです。その代わり、他の部分で使える長所があれば、そこをどんどん伸ばしてみてください。人間というのは面白いもので、「あいつはすごい」と思った瞬間に、目眩しをくらったように、その人の欠点が見えなくなってしまうものです。人間の素晴らしい部分においての接点をつけることで、皆努力するのです。
私はいつも、「えくぼには両目を開けて、あばたには片目をつぶれ」と言っています。えくぼ、つまり長所はしっかり両目を開けて見てあげて、欠点のあばたは見てみぬふりをしてやるのです。
皆さんがコミュニケーションをしていく上で、何かスピーチを求められることがあるでしょう。スピーチをスマートにやるためには《三づくし》を頭に置いて話してみてください。これは言いたいことを「3つに絞る」というもので、4つ以上になると相手は消化不良を起こしてしまいます。実は、何を言いたいのかがわからない人が意外と多いのです。私は21世紀のキーワードは、「単純明快、具体的でわかりやすい」だと思います。
コミュニケーションを卒業し、次に素晴らしい仲間を味方につけるためには、自分を売り込む技術を身につけることです。人を引きつけるには自己PRをすればよいのですが、皆が失敗してしまうのは、自己宣伝つまり《コマーシャル》をしてしまうからです。しかしPRは「ラブミー」、つまり「自分を愛して欲しい、理解して欲しい、好きになって欲しい」という気持ちの表現なのです。現実問題、自分のことで頭が一杯になりがちな今日、自分から「ラブミー・コール」をしなければ相手はわかってはくれません。自分をわかってもらうための努力を怠ってはいけないのです。
人を引きつける基本的に必要な、「付き合い六法」という6つの香りについてお話します。その中の1つでも身につけていただければと思います。
1番目は、皆さんらしい「これが俺の生き方だ」という《らしさ》を出していただきたいと思います。我々一人ひとりが「これが俺の人生だ、俺のやり方だ」というふうに、自分らしさにこだわって生きていく。自分が納得できる《らしさ》を打ち出しながら生きていく。これがこれからの皆さんの人生の大きな宿題だと思います。
2番目は《好奇心》です。好奇心を持って生きるということは、人生にとって非常に重要なことです。人間に関わることすべてに関心を持つ。好奇心のある人は教養のある人になっていく。教養のある人とは、いかに多くの《無駄》をしてきたか、無駄の累積が教養です。「人付き合いの無駄・読書の無駄・よろず体験の無駄」、いろいろな無駄から人を楽しませる話題を豊富に持っている人です。
3番目が《自然流》です。人付き合いは自然体で構えずにやるのが一番です。それを「騙されまい、馬鹿にされまい」と構える人がいる。構えられるととっつきにくいことになって、ぜんぜん面白くない。私の《ヒューマンハーバー》は「人間の出会いの港」ですから、全国からいろいろな方が見えますが、ほとんどが初対面です。初対面の人がもし私を騙すなら、騙されてもいいと思っています。そうやってオープンに付き合っていますと、とてもうまくいきます。
4番目が《人間行脚》です。人を探し歩くことに燃えること。「この人に会いたい」とうずく人には会いに行く。うずく人が波長の合う人なのかどうかを自分のカンで確かめる。そうやって1人ずつ増やしていく。
実は、私のNHKラジオを聞いて、全盲の人が「眼の見えない人たちが集まって自立して生きていくための会」を開いた。そのためのサロンを作りたいのでお知恵を拝借したいと訪ねて来た方がいます。一歩踏み出す勇気を持って来られると次の展開が示される。自分の《ヒューマンハーバー》を皆さんもお作りになるといいです。本音の会話がし易いところで、いい人との出会いを楽しむという《仕掛け》の工夫が重要だと思います。人間行脚の一つの仕掛けを勇気を出してお持ちになったらどうでしょう。
5番目が《遊び心》です。遊び心を持つ人というのは大人の付き合いができます。人間性が非常に豊かです。仕事をやった分だけ一生懸命に遊ぶバランス感覚が、人間性を豊かにする。仕事だけの人は無味乾燥、人間的な香りがないです。《遊ぶ》ことで人間性が豊かになっていく。
6番目が《芝居心》です。芝居心を持つ人に出会うと、「また会いましょう」と心から握手ができるのです。なぜなら、そういう人は、「もてなす精神」がものすごく旺盛で、人生を一つの《舞台》に見ている人です。人生舞台においていろいろ出会いがあります。自分が脇役になって舞台が楽しくなるよう心がける。そうやって皆さん自身のサービス精神を発揮する。
「サービスとは何か」、よくマスコミから聞かれるのですが、私は《後味のよさ》と答えています。どんなサービスも、後味が悪いと何にもなりません。何かを仕掛けた場合でも、後味がいいよう心を配り、うまく展開させることです。
こんなふうに、6つの基本的な「人を引きつける香り」をお持ちになることです。そして《11の袋》の話です。人間関係というのは織物を織り上げるのと同じことです。織物は縦糸と横糸の織り合わせです。《11の袋》は縦糸に相当するのです。横糸は6つの香りと5マメです。
横糸と縦糸、これが人間関係の基本の糸です。その1本でもいいから皆さん流に織ると、人間関係がよくなるという循環が始まる。基本をしっかり身に付けて、自分をPRする実践的な方法を工夫していただきたいと思います。
人間関係についての良い仲間探しの最初にやるべきことは、自分が何かの《縁》にこだわって、その延長線に仲間をつかむということです。「友達の友達は友達」です。いい仲間の延長線上に、またいい仲間が増えていく。
いい仲間が見つかったときに「知的サービス」を頭に置くといいです。たとえば、相手がイタリアに燃えている人ならイタリアの情報を集め、さりげなく教えてあげる。そういう知的サービスが相手の気持ちを揺さぶります。
それから《人間のプロ》を目指していただく。プロとは、どんな世界でも当たり前にきちんとやっているからプロなのです。だから、人から何かしてもらったらすばやく反応する。人間としてあるべき姿勢を、常に《しぐさ》として、きちんとけじめをつけることが非常に大事です。親しいということは、相手を思いやることで、相手に甘えることではないのです。何か約束をしたらきちんと守るとか、時間には遅れないとか、けじめをつけて付き合うことが人間関係としては一番大事な基本的な構造です。
そういうベースを踏まえた人間関係の極意が《ギブ・アンド・ギブ》です。《ギブ・アンド・テイク》というビジネス感覚を、絶対に人間関係に持ち込んでいただきたくないのです。あの人と付き合うと得だとか損だとか、計算感覚は見抜かれて離れていきます。ギブ・アンド・ギブとは、自分のできることをさりげなく徹底的にやればいいんです。
北九州のすばらしい女性からいい言葉をいただきました。「人に与えることのできる喜びは、人から与えられる喜びよりも、遥かにうれしくて大きい」。まさにそのとおりです。だから《与える喜び》に徹し切って、反応のない人だったら普通にお付き合いすればいい。人間関係は、誰とも公平に仲良く付き合うなんて神様しかできません。不公平でいい。人間、差別は大嫌い。格差は大好きです。だから、皆さん流のやり方でいろいろ情報提供をして、どんどん格差をつけて、揺さぶっていったらいいと思います。
皆さんもこれから相当数の人間とお付き合いするでしょうが、基本的には1対1です。《マンツーマン・カウンセリング》といいますが、一人ひとり丁寧にお付き合いしていく姿勢が大事だと思います。
最高に説得力あるPRはこれからの皆さんの生き様です。たった1度しかない人生です。自分にしかできない何かを、自分なりのやり方で残していく。《モニュメント》といいますが、生きた証を残す。「俺にはできないことをよくやるなあ」と思われるような何かをやってみる。そのことで揺さぶられて引きつけられていくのです。
その生き様を中国では「金を残すこと」は《下》、仕事あるいは事業を残すことは《中》、人を残すことは《上》と言います。だから、《いい人探し》をして、自分にとっての《芸術作品》と思われるような人間財産を築き上げていただければ、すばらしい人生に結びつくと思います。
最後に3つだけ、私が揺さぶられた《言葉の杖》を申し上げます。NHKから「サラリーマンの元気回復ゼミ」という対談を頼まれたときのことです。アナウンサーが「戦国武将の言葉の中で印象に残っているものは?」と聞かれたので「金銭を失うことは失うものが小さい。信用を失うことは失うものが大きい」そして「勇気を失うことはすべてを失う」。それが非常に気に入っていますと申し上げました。
2つ目は「心の花を咲かせて生きよ」です。植物の花は時間が経てば枯れますが、心の花は咲かせ続けることができる。言い換えれば《張り合い》だと思います。
3つ目は、私が高校時代お世話になった心の師匠が喜寿の祝いの席でおっしゃった言葉です。「長生きをするというのは天の恵みだと思う。若さを保つのは生活の技術のおかげだと思う。今私が燃えているのは死ぬまで生きることです」と。私はカルチャーショックを受けました。今、本当に生きているだろうか。死にたいように生きたら、死んだ方がマシです。「生きる存在感」を持つ生き方をするには、すばらしい仲間と一緒に生きることです。そのためにいろいろな角度から、人間関係を大切にしていただく具体的な方法を申し上げました。自分流の楽しい人間関係を展開していただければ本当にうれしく思います。
〈プロフィール〉
青木匡光(あおき まさみつ)
●1933年(昭和8年)東京生まれ。
1975年(昭和50年)アソシエイツ・エイラインを設立。
サロン風のオフィスをヒューマン・ハーバー(人間の港)として開放し、異業種交流の場として提供。
メディエーター(人間接着業)として28年間、人間関係に悩む人たちに指針を与え、仕事と人生とに意欲的な人間同士を結び付けている。
周囲からは、人脈づくり、異業種交流の草分け、企画のプロなどの異名をとる。
現在、ビジネス評論家として人間交流、企画、イベントなどの相談、講演、著作などで活躍中。
●著書:よい人間関係(日本実業出版)ほか多数
2.テーマと会場決まる
日野原先生の講演会
タートルの会第9回定期総会記念講演
講師:日野原 重明先生(聖路加国際病院理事長)
演題:「視力、その他の感覚障害喪失者へのケアのあり方」
日時:2004年6月12日(土)
午後1時30分〜2時30分
なお、講演会は、質疑を15分程度、15分休憩後、午後3時から交流会(参加者全員の自己紹介)4時半ごろまでを含めて予定しています。
会場:豊島区立南大塚ホール
〒170-0005 東京都豊島区南大塚2−36−1
tel:03-3946-4301
受付:午後1時より
参加費:無料
問合せ先:「タートルの会」事務局 03−3351−3208
【講師プロフィール】
1911年 山口県生まれ
1937年 京都帝国大学医学部卒業
1941年 聖路加国際病院の内科医になり、内科医長、院長、聖路加看護大学学長等を歴任
現在、聖路加国際病院名誉院長・同理事長、聖路加看護大学理事長、(株)ライフ・プランニング・センター理事長
著書に「生きかた上手」「続・生きかた上手」(ユーリーク゛)「生きるのが楽しくなる15の習慣」(講談社)、「生きかたの可能性」(河出書房新社)、「死をどう生きたか」(中央公論新社)など多数
3.失明告知をどうフォローする?
3月交流会・講演会
日時:2004年3月27日 14:00〜16:30
会場:日本盲人職能開発センター
講演:「失明告知をどうフォローする? 〜ソーシャルワーカーの立場から」
講師:小松 美智子氏(東京女子医大病院医療社会福祉室)
中途視覚障害者の復職を考える会【タートルの会】会報
『タートル31』
2004年2月29日発行 SSKU 増刊 通巻第1383号
■編集 中途視覚障害者の復職を考える会 会長・下堂薗 保
■事務局 〒160-0003 東京都新宿区本塩町10-3
社会福祉法人 日本盲人職能開発センター 東京ワークショップ内
電話 03-3351-3208 ファックス 03-3351-3189
郵便振替口座:00130−7−671967
■turtle.mail@anet.ne.jp (タートルの会連絡用E-mail)
■URL=http://www.turtle.gr.jp/