タ ー ト ル No. 10

1998. 6.13.
中途視覚障害者の復職を考える会

<総会特別号>              (タートルの会)

1997年度活動報告

I 手記集の発行について

 1995年6月の設立総会において、手記集(『視覚障害をバネとして』)を正式な形で出版することが確認され、以来、その実現に向けて、資金面と内容面からの検討を重ねてきました。紆余曲折を経ながらも、ようやく1997年12月9日の「障害者の日」に、『中途失明〜それでも朝はくる〜』として出版に漕ぎ着け、当初の目標を達成することができました。
 発行部数は、初版3,000部、第2版を1998年3月25日付で2,000部の増刷をし、全体で5,000部の発行となりました。
 そして、全国各地の様々な分野の人たちから、会に対する問い合わせ、具体的な相談、多くの励ましが寄せられました。中には、これから盲学校教員になるという匿名の方から、三療以外の職業、特に事務職の職域開発に期待をかけてと、10万円の寄付が寄せられました。
 ちなみに、本書の出版については、本会のホームページをはじめ、多くのマスメディア等によっても広く紹介されました。以下、確認済みのものを掲載します。
  1. 日本経済新聞朝刊社会面(97.12.10)
  2. 「しんぶん赤旗」日刊紙(97.12.21)
  3. 読売新聞夕刊社会面(97.12.25)
  4. 毎日新聞朝刊家庭面(97.12.26)
  5. 点字毎日(98.1.11)
  6. NHKラジオ第二放送「視覚障害者の皆さんへ」(98.1.4)
  7. 労政ジャーナル第640号(労働ジャーナル社/企業向け雑誌)(98.3.5)
  8. 朝日新聞日曜版(98.3.15)
  9. TBSラジオ「メイコのイキイキモーニング」(98.5.17)
  10. JBS日本福祉放送
  11. 雇用連情報第43号(全国視覚障害者雇用促進連絡会)
  12. 点字民報381号(点字民報社/全日本視覚障害者協議会機関誌)
  13. JARVI第16号(視覚障害リハビリテーション協会)
  14. 週刊・新刊全点案内(図書館流通センター/図書館向け情報誌)(98.5.26)
  15. 生活教育(ヘルス出版/'98.9予定/保健婦向け雑誌)
  16. 労働組合機関紙(全厚生)
  17. 労働組合機関紙(全労働/予定)


II 相談活動について

(1)相談活動の概要
 この1年間の相談を見ると、やはり手記集の発行がきっかけとなったものが多く、地域的には、首都圏をはじめとする大都市圏からの相談が多くありました。
 相談に至る経路では、本人や家族から直接というのが多いものの、医療・リハビリテーション関係者からの紹介によるケース、さらに、ホームページを見て、あるいは、メーリングリストから入ってくるケースなどがありました。
 相談内容の特徴的なものについては、以下に列挙しますが、直接復職に関する相談ではなく、私たちの活動に関心を示し、励ますというのも少なくありませんでした。中には、看護教育の現場関係者からの積極的なアプローチもありました。
 それらに対しては、情報提供だけで終わる場合もありましたが、具体的な支援が必要な場合も少なくありませんでした。
 いずれにしても、相談に関する情報は幹事会において共有し、当事者の人権を尊重し、交流会や社会資源を有効に活用し、できるだけ効果的な支援に努めました。

(2)具体的な相談事例にみる特徴と問題点
 以下に、復職その他に関する相談事例を簡単にまとめます。

  1. 休職することなく働き続けたケース
     早期に相談に結び付いた弱視者の場合は、交流会に継続的に参加することで、そこから必要なノウハウや知識、支援を得ながら働き続けています。社内キーパースンが重要な役割を果たし、短期間の研修で復職できたケースもあります。
  2. 原職復帰を果たしたケース
     これは、一定期間休職した後に復職したケースですが、これらの中には、会発足直後から会の行事に参加し、生活・職業訓練を経て、原職復帰を果たしたケースや、地域障害者職業センターや障害者職業総合センターに繋げて成功したケースもあります。
  3. 目下、原職復帰を目指しているケース
     この中には、職業訓練を終了あるいは目前にし、職場と調整中のケース、生活訓練から職業訓練に移行しようとしているケース、生活訓練中のケースなど、現在、7名が原職復帰を目指しています。中には、地域障害者職業センターで訓練中のケースもあります。
  4. 技術職であることが隘路となっているケース
     写真、調理、舞台照明、印刷などの技術・作業現場などでは、配置転換ができない、仕事がない等の理由で、隘路に入り込むケースが少なくありません。
  5. 解雇絡みのケース
     この中には、解雇通告を撤回させ、原職復帰を目指して訓練中のケース、解雇無効を求めて裁判中のケース、退職を迫られているケースなどがあります。
  6. 教育現場で働くケース
     この中には、高校教諭(英語、社会科)、あるいは障害児学校、大学教育に携わっているケースがあります。中には、今、休職の交渉を始めたケースもあります。
  7. 退職したケース
     この中には、復職の交渉が実らず、やむなく退職をした技術者(新聞社)、訓練が認められずに退職を余儀なくされた公務員のケースなどがあります。公務員の場合、当局から分限解雇規定を示されていました。
  8. 家族からの相談
     家族の苦悩にも大きいものがあります。家族が交流会に参加し、家族が変わり、それが本人の変化を促したケースもあります。

(3)今後の問題と課題
 相談活動における今後の問題と課題について整理すると、以下のようになります。

  1. 組織と財政の充実強化
     年々増加する200名を超える会員のニーズに応え、また、全国各地からの切実な相談に応えるためにも、専任の担当者の配置、場合によっては旅費の確保などについて、検討が求められます。
  2. メーリングリストの活用による支援体制の充実
     ホームページやメーリングリストの存在が知られるにつれ、初対面の人から直接メーリングリスト上で相談が寄せられるようになってきました。このような相談に対応するためにも、少なくともパソコン所有の会員すべてがメーリングリストに参加できるようにする必要があります。
  3. 歩行訓練体制の充実
     復職事例が増えるにつれ、歩行訓練の希望、通勤経路の定期的なメンテナンスを希望する声も増えています。
  4. 雇用管理上の配慮
     復職後の職場定着のために、昇進・昇格、研修、向上訓練など、雇用管理上の適切な配慮が望まれ、実際に役立つ具体的な事例集などが求められています。
  5. 関係機関の職員の充実
     雇用の継続・維持を考えると、職業安定所や地域障害者職業センタ-等の役割は大きく、視覚障害の問題に対応できる専門職員の配置が望まれます。
  6. 働く権利の保障
     障害者差別に繋がる分限解雇規定を撤廃し、在職中のリハビリテーションを制度的に保障することが必要です。そのためにも、障害を理由とした解雇を禁止する措置が求められます。


III 「二見訴訟」の支援について

 当会の会員であり、中途視覚障害のために関西電力を不当に解雇された二見徳雄さんに対して、以下のような支援活動を行いました。
 「二見さんの関西電力への原職復帰を支援する会」の総会('98.3.21)に参加するとともに、横浜税関に職場復帰を果たした「馬渡闘争」に関する資料を提供し、支援する会の会報に「障害者雇用の責務と生存権侵害」と題する一文を寄稿しました。


IV 交流会について

 交流会については、会員の実際の仕事の体験を聞くことを中心に、3回の連続交流会を行ったほか、歩行、生命保険、通信ネットワークをテーマに行いました。
 いずれも、参加者は約50名と好評で、日本盲人職能開発センターで行いました。
 また、手記集の出版を記念して、出版祝賀会を開催し、これには約80名の参加がありました。
 なお、「連続交流会」と「通信ネットワーク」関連については、別項において詳しく報告します。
 {開催された交流会一覧}


V 連続交流会について

(1)連続交流会の概要
 1997年9月から11月にかけて3回にわたり「どんな仕事をどのようにしているのか」をテーマとした連続交流会を開催しました。それぞれ3人ずつ、補助機器や人的支援の状況について報告し、活発な意見交換が行われました。
 このテーマは私たちの最も関心のある一つとして、今後、多くの人たちの体験を共有し、出された課題を整理し、それらを深め発展させたいと思います。

(2) 連続交流会の記録について
 連続交流会については、記録をし、整理することを重視しました。
 テープ録音からテープ起こしをし、報告者の発言の概要や質疑応答のポイントを整理し、会報(7号から9号)に掲載しました。

(3) 連続交流会の課題
 連続交流会で提起された課題については、会報第9号にまとめました。全体的には、見えないことが問題なのではなく、条件が整備されれば具体的に働ける可能性は大いにあるということであり、その方向性を確実なものとしていくことが次の課題でもあります。
 ここで、条件整備に関連し、今後深めていくべき課題について、以下に整理します。

  1. 事務職の新しい可能性について
     データベースによる進捗状況の管理、というのがありました。この業務の今後の可能性について語られましたが、もう少し率直に現状を把握し、「新しい業務の可能性」として提起していく上で、課題の整理が必要です。
     また、名刺管理業務も整理すれば、他の仕事にも広げられるのではないかと思います。
  2. 通信を活用した様々な業務の可能性
     パソコン通信やインターネットを活用した業務の可能性として、消費者と通信を介してのやりとりの業務がありましたが、これは他の種類の業務にも活用できると思います。また、パソコン通信やインターネットで入手した情報を社内へ提供する試みもされていました。
     パソコン通信やインターネットを活用した各種業務の可能性を探るためにも、問題点や課題を整理する必要があります。
  3. 情報の記録・整理・検索・活用のための様々な工夫
     管理的な業務に就く人も、技術職の人も、当然一般の事務職に就く人も、情報を記録し整理し、活用するために、何らかの形でパソコンを使用しています。さらに書くことだけでなく情報を整理し活用することがスムーズにできることが重要になってきます。
     この、情報を素早く記録するための工夫(ユリーカやイヤホンマイクの利用等)や、「電子データの情報を素早く検索できることの大切さ」の2点は、様々な職域の広がりを考える時、重要となってきます。
     この点の整理は何回か話題になった電話でメモをどのように取るのか、また、電話応対業務をどのように行うか、具体的な問題解決にも役立てることができるのではないかと思います。
  4. 経験を生かした様々な仕事の可能性
     いくつかの事例には、これまでの経験を生かせる「様々な条件」がありました。どうしてもパソコンの知識や、新しい職種に偏る傾向がある中で、この「様々な条件」を再度整理することは、様々な職種の中途視覚障害者の復職問題にとって役立つのではないかと思います。
  5. 様々なソフトの活用
     報告者が使っているたくさんのソフトの一つ一つの情報は大変貴重です。(とりわけ音声対応をめぐって)。また、ソフトの使いこなしにおける様々な実践も貴重です。
     それらを整理し、皆のものとしていくことは意味あることです。

(4)今後の具体的課題
 新年度は、上記の課題を少しでも深めるために、具体的に以下のようなことをしたいと考えています。
 <交流会で>

 <担当をもうけて整理する課題>  <引き続き整理する課題>


VI 通信ネット関連の活動について

(1)メーリングリストの開設と近況
 メーリングリスト(以下、MLと略記)は、通信ネット上のメール送受信により情報交換を行うためのインターネットシステムです。このシステムには、どの地域にいる人でも同程度のコストでメールの送受信が行えるなど、情報交換を容易にするメリットがいくつかあります。
 このシステムを利用し、会員間はもとより、視覚障害関係の事柄に関心を持つ会員以外の人とも情報の交換を図っていこうという目的で、1997年7月30日、タートルの会の有志20名弱により、商用ネットの一つである朝日ネット上でMLを開設しました。その後、幹事会においてML運営が会活動として認められました。
 1998年5月24日現在、MLのメンバーは60名、投稿されたメール総数は、約1,000通になります。最近のメール投稿の頻度は、月あたり100通を超えます。

(2)投稿メールの主な内容
 投稿されるメールの内容は多岐にわたりますが、主な内容を挙げると次のようになります。

  1. 会活動に関わる情報交換〜 例えば、幹事会や交流会の予定や報告等々。
  2. 視覚障害に悩む本人、あるいは、その周辺の人からの相談〜 きっかけはリハビリ訓練、障害者関係諸制度、パソコン活用等の情報の入手にまつわる相談という形を取ることが多いですが、その後、同じ障害を持つ同士で種々の意見を交換していくことの意義も大きいと思います。また、MLをきっかけとして会の行事に参加してもらったというケースもあります。
  3. 関連放送番組や行事等のお知らせ〜 視覚障害関連の放送(会員が出演する番組等)やML参加者が関わりを持つ行事のお知らせなど。
  4. 図書情報
  5. ソフトウェアの使用方法等パソコンをめぐる技術情報の交換
  6. インターネット上の情報〜 新聞情報掲載場所の情報、糖尿病や色変関連のホームページ情報等々。
  7. 便利グッズ〜 電話での会話に便利なヘッドホン付きマイク、安全な調理器等々。
  8. 視覚障害者の生活やリハビリに関わる話題〜 ホーム転落事故、雪道の歩行等々。
 そのほか、ちょっとした身の周りの出来事を会話感覚で書き込むといったことも少なくありません。

(3)ホームページの開設と近況
 ホームページ(以下、HPと略記)は、開設者がその内容を自由に書くことのできるインターネット上の看板です。会活動等について広く一般に知ってもらうことを目的として、1997年11月に本会のHPを朝日ネット上に開設しました。その運営は、数名の担当者と若干名のアドバイザーが中心となって進めています。
 HPに掲載可能な情報量は、フロッピーディスクに換算して 20枚強になりますが、1998年5月現在、掲載している諸データの総容量は、フロッピーディスク1枚分程度です。

(4)HPの主な内容
 HPのトップページ(第1ページ)は目次で、以下のような項目が立てられています。

 これら項目のうち、いろいろな方のご協力で比較的更新が進み充実してきているのは「玉手箱」です。ここには視覚障害に関連するリハビリ機関や病院等のリストがあるほか、パソコン活用ノウハウの解説文、視障雇用連の機関紙「雇用連情報」の第38〜42号が掲載されています。また、横浜税関に勤務していた馬渡さん(中途視覚障害者)の復職をめぐる国会議事録やそのドキュメンタリー「職場に光をかかげて」、視覚障害リハビリテーション研究発表大会用の関連資料等があります。
 MLとの連携も図っており、MLで話題に出たもののうちプライバシーに関わりがなく広く知っていただきたい情報については、HPの「おしゃべりサロン」に掲載するようにしています。
 あるいは、会報や交流会の内容等も随時HP上で掲載するようにしており、タートルの会のPRに努めています。

(5)通信ネット情報交換会及びパソコンボランティアの活動
 HP運営スタッフとアドバイザーが中心となって、通信ネット情報交換会を1998年2月21日、日本盲人職能開発センターにて開催しました。その目的は、視覚障害者がどのような方法でパソコン通信やインターネットにアクセスできているのかについて情報交換すること、並びにパソコン初心者に提供すべきノウハウの材料を洗い出すことでした。参加者は、予想をかなり超えて50名程度となりました。短い時間で十分ではなかったものの、3人の通信ネットアクセスのデモのほか、アクセスの実体験、意見交換も行いました。
 また、会員の方でパソコンのセットアップなどを希望される方に対し、その職場や自宅を訪問してセットアップを手伝う活動(パソコンボランティア)も、数は少ないながら行いました。数名の方より具体的希望をいただき、それに対応できる会員スタッフが訪問支援しました。

(6)通信ネット関連の活動における課題
 最近、インターネットを活用する人口が増加する中で、ML及びHPを開設した効果が着実に現れてきています。会員・非会員を問わずMLに参加される方が増えてきているほか、タートルの会のHPにリンクを張りたいとの連絡もいただくようになりました。タートルの会を広く知っていただくこと、会活動その他について情報を共有することにおいてプラスに作用していると思います。
 それだけに、「関心はあるけれども技術的な事柄がネックになってMLに参加したりHPにアクセスできない。」あるいは、「既にMLに参加しているけれどもメールを読みこなしたり投稿するのが難しい。HPに掲載されたデータを抵抗なく入手できない。」という会員に対し、的確なサポートを行う体制が必要だと感じます。会のパソコンボランティアの活動は、まだ会員有志の活動というレベルであって本格的とはいえません。今後、パソコンボランティアに関わるノウハウの蓄積と体制づくりを進める必要があります。
 また、HPの更新の在り方について十分な話し合いや体制づくりができているとは言えない状況にあります。HPの作成・更新ノウハウを持つ人材の育成を含め、少しずつでも一層の情報交換等を進めていく必要があります。


VII 調査・資料収集活動について

 労働者としての権利、原職復帰の意義などについて考える上で役立つような法律などの資料を収集し、それらをホームページに掲載しました。
 中でも、『第72回衆議院社会労働委員会議事録』(昭和48年12月18日)と、『職場に光をかかげて〜失明した労働者が職場に戻る日〜』(中村紀久雄著、1981年5月25日、新日本出版社発行)は、いずれも横浜税関に職場復帰を果たした馬渡藤雄氏に係る記録ですが、大変貴重にして役に立つ資料です。


VIII 会報『タートル』の発行について

 会報については、前年度より1回増の年4回(5〜9号)発行し、質・量ともに充実してきています。
 内容に関しては、少しでも会員の励みとなり、仕事をしていく上で役立つことを願って編集に当たりました。今後、会員をはじめ、読者からの投稿なども掲載できればと考えます。
 また、情報提供媒体として、フロッピー版とテープ版については従来どおり用意し、新たにホームページにも掲載するようにしました。しかし、拡大文字版については、現体制ではまだ難しい面があり、引き続き今後の課題としたいと思います。


IX 活動日誌

 活動日誌は以下のとおりです。
 これを見ると、昨年4月以降、今定期総会までの実活動日数は40日以上で、前回総会以降では35日となっています。


1998年度活動方針

  1. 相談活動の充実
  2. 連続交流会の実施(97年度の継続)
  3. 交流会の充実(講演内容と相互交流)
  4. 復職・定着支援活動の充実
  5. 二見裁判の支援
  6. メーリングリストやホームページの充実
  7. パソコンボランティアと支援活動とのリンクの整備
  8. 機関紙「タートル」の発行
  9. 調査・研究活動の充実

『タートル』(第10号=臨時増刊号)1998.6.13 発行
中途視覚障害者の復職を考える会
タートルの会
会 長   和 泉 森 太
〒160-0003 東京都新宿区本塩町 10-3
社会福祉法人 日本盲人職能開発センター
東京ワークショップ内 電話 03-3351-3208 Fax.03-3351-3189
郵便振替口座:00130ー7ー671967
URL=http://www.asahi-net.or.jp/~ae3k-tkgc/turtle/index.html


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