会報「タートル」49号(2007.9.13)

1998年10月9日第三種郵便物認可(毎月3回8の日発行)
2007年9月13日発行 SSKU 通巻2562号

中途視覚障害者の復職を考える会【タートルの会】 会報
タートル49号


目次
【巻頭言】
「今までを振り返って」
【1月交流会記録】
「中途視覚障害者の就労継続とロービジョンケア」
 山田信也
【3月交流会記録】
「国内外における視覚障害者の就労環境」
 指田忠司
【職場で頑張っています】
【第12回定期総会記念公園】
「視覚障害者の雇用・就労をめぐる国内外の動向と
当事者団体の役割-タートルの会への期待」
松井亮輔
【NPO法人タートル設立総会】
【NPO法人化の進展状況】
【お知らせ】
【編集後記】


【巻頭言】
「今までを振り返って」

タートルの会幹事  向田 雅哉

 私は視力障害を生じてから5年が経ちます。目が見えなくなった当初は、いつかは視力がある程度は回復するものと思っていました。
 その頃は弱視で、ルーペを使えば文字を読むことや書くこともでき、白杖を持たないで歩いていたのですが、その一方で見えにくい状態が続き、歯がゆさを感じたり、イライラしたり、悶々としたりした日が続きました。
 視力に障害を生じて3年が経とうとした頃、眼圧が上昇し、更に見えなくなってきて、外を歩くのが怖くなり、ルーペで文字を読むこともできなくなりました。医師の診断では、手術をすれば眼圧が下がるとのことで、手術をしてもらうことにしたのです。
 ちょうどその頃、拡大読書器の存在を知り、地元の市役所の福祉課が取り扱っているという眼鏡店に行き、拡大読書器を試しに使ってみたら、自分で書いた鉛筆の字が読むこともでき、書くこともできました。その時、手術をして視力が回復しなくても、現状を保てれば、拡大読書器で文字を読むことも書くこともできると少しばかり安堵の思いを持って、手術に挑みました。
 手術をした結果、手術をした直後は眼圧が落ち着くのですが、1ヶ月後に上昇し、再手術することになりました。再手術のあとも、眼圧が高い状態が続き、視力は指数弁になってしまったのです。拡大読書器を使って、鉛筆や太字のマジックで文字を書くことも読むこともできなくなってしまい、更に考え込む日が続き、殻に閉じこもった状態が続いたのです。
 私の頭の中では、「何でだろう?」という気持ちと「何とかしないと。」という気持ちが交錯して、そのおもいだけが空回りしている状態が続いていました。その後切羽詰まり、今後の望みもない、藁にもすがる思いで、タートルの会に参加しました。
 初めて参加して思ったのは、皆さんの会話に覇気があり、笑い声もあちらこちらから聞こえ、何より明るいことに驚き、ほっと安堵の思いを感じたのを覚えています。そして、皆さんの明るい姿を見ているうちに、「自分も何とかなるかもしれないな。」と思ったのも覚えています。
 それから交流会に毎回参加しているのですが、タートルの会に参加してからの2年間はたくさんの方々と出会うことができました。そして、先輩、仲間もでき、いろいろと話を重ねていくうちに、笑いも増え始め、少しずつ元気を回復できたと思います。
 私の考え方が、「何でだろう?」から、「何とかなるかもしれないな。」、そして「何とかする。」、さらに「何とでもなる。」と思えるように、前向きにそして楽観的に変わっていったと思います。
 タートルの会に入会してからは、それまで以上にいろいろな方々との出会いを大切に考えるようになりました。そして、人の優しさ、暖かさを改めて感じました。
 それにしても、本当にいろいろな方々と出会うことができました。タートルの会に入会してから、国立身体障害者リハビリテーションセンター第3機能回復訓練部に入院しての歩行訓練、国立函館視力障害センターでの生活訓練、日本盲人職能開発センターでのパソコン等の訓練、川崎市盲人図書館の歩行訓練を経て、原職復帰に至りました。厳しく、優しくご指導いただいた先生方に心より感謝申し上げます。
 現職復帰後の人との出会いは、今なお続いていて、これからもあるかと思います。今度は、自分が人に優しくして差し上げねばと思っています。それには、自分自身まだまだ非力と痛感しています。1歩ずつ1歩ずつながら、確実に着実に進んでいきたいと思います。


【1月交流会記録】(2007/1/20)
「中途視覚障害者の就労継続とロービジョンケア」

講師 函館ロービジョンケアを考える会代表 山田信也

 函館ロービジョンケアを考える会代表の山田です。
 現職でがんばられている方がたくさんおられるタートルの会で、「中途視覚障害者の就労継続のためのロービジョンケア」についてお話しする機会をいただき大変感謝しています。函館ロービジョンケアを考える会では函館市内在住の眼科、盲学校、福祉施設の支援員等が月に2回集まって、ロービジョンケアの勉強会をしています。そこではそれぞれが関わっている視覚障害児・者や高齢者も含めて「本当のニーズは何だろう」ということや、実際の見え方はどうなっていて、その結果本当に必要なものは何だろうかということを話し合っています。
 キーパーソンは誰か、現在置かれている状況がいろいろあるわけですが、この状況から見て「本当に必要とされている行政の支援は何だろうか」、「この方が将来的にはどのような状態になることを望まれているのか」ということを個々の事例によって検討しています。
 専門職の立場はもとより一人の人間として率直な意見を出し合うようにしています。いろいろと検討していますと、その中には施設を利用することなく元の仕事に復帰される例もあるわけです。
 さて「就労継続のためのロービジョンケア」というテーマで私自身が関わってきた中で、原職復帰できた場合と、結果的に原職復帰に結びつけなかった場合の違いについて改めて問いかける機会をいただきました。これからお話することの前半の部分はここにおられる皆さんからすれば当たり前のことを言っているように思われることかもしれません。「ちょっとロービジョンケアを知っているからそういうことを言うのか」と思われるかもしれません。それでもあえてその当たり前さや単純なことが、実はとても大切なのではないかと問いかけてみたいと思います。
 まず視覚に障害を受けた際、私たちはこれからの未来に対して不安や恐れを抱きます。「このままいったらどうなるんだろう、仕事は大丈夫だろうか」。心配が心配を呼び、頭や心の中がパニックに陥ってしまいそうになります。現実に取り組むことよりも思い煩うことや逡巡することに陥りがちです。そのとき私たちは障害を一つの条件だとは思い切れません。むしろ「どう考えても未来に希望は持てない、いまに駄目になるのではないか、もうおしまいだ。」と頑張ろうとすればするほど次々に否定的な思いがわいてきてあきらめそうになるというふうに、今までに関わってきた方をみると感じるわけです。
 人間は誰しも障害の有無にかかわらず壁が立ち現れたとき、周りから「あなたのやっていることはNo!」と言われたとき、同じように失望したり落胆したりします。ここで大切なのはNO!という事態に対する不安や失望に対して、どのように立ち向かうかという姿勢だと思います。多くの原職復帰されたお一人お一人の姿を通して浮かび上がってくるのは、「あきらめない」、もっと言うなら「いまの職場で働き続けたい」という確固たる思いです。その思いに関わる一人の人間として、また専門職として応えていこうと感じています。
 これから現職に復帰していこうと志しておられる方もここにおられると思いますが、NOという事態に対して強く立ち向かうことを心にしっかりと持っていただきたい、そこからスタートではないかと思います。NOを突きつけられたとき私たちはたじろぎます。しかし過去そして現在の事態に対してNOとは言われていても未来に対してはNOではないのです。NOはYESに転換できる、そのためには自分自身の置かれている状況をあるがままに見なければなりません。
 この「あるがまま」というのが難しいのです。気になっている問題やその所在だけではなく、その周囲の関係性までも含めて問題全体をとらえます。全体が見えるからこそNOをYESに展開していく道筋が見えてくると思います。現在足りないものは何だろう、それは技術的なものかもしれません、パソコンのブラインドタッチもでき仕事は問題なくこなすことができるが歩行が不安である、企業としては通勤時に事故が起きては困るということがありますから、そこさえ解決していけば済むことかもしれません、生活訓練あるいは職業訓練を本格的に受けなくてはいけないかもしれません、あるいはほんのちょっとした工夫でやり過ごせるかもしれません。
 いまの現実をしっかりと見つめることが大切です。そこから軌道修正するための方策を十分に練り、実際に行動する、その中で自分自身の必要とするものが明確になってくるのです。そして就労を継続していく上で、あるいは原職復帰した際の具体的なイメージを描くことです。自分自身の将来像、つまり思い描く現実はどのようなものなのでしょうか。リアリティーがあればあるほど現、在問題になっている現実とのギャップが見え、その現実を転換していくために必要なアクションプログラム(行動計画)が見えてきます。
 アクションプログラムを実施するにはまず協力者ともいうべき人が必要です。専門職であったり会社の同僚であったり、タートルの会の仲間であったりします。率直に思いを話せ、率直に語ってくれる方がキーパーソンになってくれます。苦言を呈してくれる、自分にとってとても苦しいことを言うかも知れませんが、真摯に向き合ってくれる方も大切な仲間であることには違いありません。その方たちと連携しつつ、より具体的な方策を練っていくことです。
 次に原則です。原則というのは実際に現実を変えるための自分自身の行動指針です。「孤軍奮闘」を排除して同僚に自分自身のことをきちんと伝え、チームとして取り組んでいく。そのために自分のとるべき行動は・・・という原則です。そしてアクションプログラムがきちんと履行できているか、の点検のためのシステムです。
 例えば1ヶ月か3ヶ月に一回、問題の改善がなされているか、さらなる改善点や次に取り組むべきテーマはないかを自分のライフスタイルに根ざした実現可能なものとしてシステム化するとよいと思います。その際にキーパーソンとなる方たちと本心から話し合うことも、また現状をつぶさに語り、それぞれの意見に耳を傾けることも新たな転換となると思います。こういうことを原職復帰されている人達の中から私は、ずっと感じてきています。
 ここまでは当たり前な話をしてきました。しかしいざ実行しようと思ってもなかなかできないのではないでしょうか。だからこそ仲間が、先をゆくモデルが必要なのです。さらに原職復帰できたから、就労が継続されているからよかったのではなく、常に問題や事件は生じてくるものです。特に中途視覚障害の方だと、自分が障害を持つ以前のことも考えていただければ分かると思います。日常の仕事を通して考えると常に問題や事件が起こるわけです。そしてクレームが生じてきます。いつNOを突きつけられるやもしれません。そういったときでも自分自身をどう立て直していくかということも、就労を継続していく上で大事なことではないかと感じています。NOはNOでなくそれをYESに転換できることを目指していけるよう、私達は後方支援者として関わっていきたいと思います。
 ここまでが今日のお話の中で一番のエッセンスだと思われるところです。
 ここからは具体的な事例を紹介しながら、実際に考え実際に歩いてきたその中で感じたことも含めてお話していきたいと思います。
 まずいろんなシチュエーションで原職復帰あるいは継続雇用をお話くださる場面に遭遇します。例えば眼科医の方から「今日会った患者さんにこんな方がいるんだけどどんなふうに考えられますか?」というようなことが勉強会で出ます。そこで病院に行って患者さんにお会いしたり、視力センターに1時間か2時間来ていただいて眼の評価をして、今だったらこんな方法でいけると思うがどうですかと納得していただくやり方です。
 二つ目のやり方は、大学病院とかのロービジョンクリニックに来られた方を紹介されてお会いします。ここで難しいのは、初対面の信頼を持てるか持てないか判らない相手に自分の本心や弱みはおっしゃらないわけです。けれどもそこがすごく大事な部分だと感じています。ここができなくて悔しくてたまらないんですとか、今までこんなふうにやってきたんだけれどもできない、何かいい方法はないのか、ということを漠然とでもいいですが訴えていただきますと、いろいろ考えたり関われたりできるわけです。ところが「お仕事でお困りですか?」とか「何で一番お困りですか?」とお聞きしても「字が読めない。」と答えられます。「仕事の方はどうですか?」と言うと「読めたら何とかなるんですけどね。」と濁されます。でももっと深いところでは「これとこれができれば随分違うができなくて悔しい、何かいい方法はないのか。あちこちの病院を回ってきたが眼鏡を合わせてくれるとか、道具を与えてくれるだけだ。でもそれでは一つひとつは使えたとしてもトータル的にはバラバラで使い心地も悪い。かといってこんなものを職場の人の目の前で使うことはできない。」と、いろんな思いがそこに交錯しているわけです。その部分を最初から出していただくと、今目立ちたくなければ目立たない方法をとことん考えてみましょうと、その人の視力、視野そういったものに関わっていけるわけです。
 タクシーの運転手さんで矯正をすると0.7とか0.8の視力は出るという事例です。日本の場合は矯正視力0.7あれば視野が狭くても普通乗用車は運転できるわけです。ところがタクシードライバーは奥行き視覚検査などいろいろな検査があり、視野の問題もありますのでなかなか難しいです。とりあえず免許証をクリアしていただくには、矯正眼鏡と言い張って単眼鏡を眼鏡に組み込んだもので視力検査をクリアします。しかし、視野の部分に関してはクリアできません。そういう要請があった時に皆でいろいろ考えるわけです。ご本人も運転は難しいと思うし、他の仕事は考えられないのかという話をしていくわけです。「会社の規模はどれくらい?配車は無線で指示を出すの?」と聞くと「それはしていますよ。」という話です。「函館の市内の道は詳しいの?」と根ほり葉ほり聞いていくわけですね。そうするとドライバーとしては今まで通りにはできないけれども、無線で指示を出していくことはできるわけですね。そういう形で戻っていくことを勉強会をきっかけにやることもありました。
 Kという男性に最初に関わった時には中心暗点が20度ありました。周辺でものを見るといっても、かなり大きな文字で提示しないと見えないんです。最初に字は読めますかと見せたときは、1時間ほど付き合いましたが1文字も読めませんでした。月に1回の訓練を3〜4回くらいやっていく中で、実際のところ1分間に10字とか20字くらいしか読めなかったです。しかし、ご本人が現場に復帰されてから読まれるスピードは1分間に100文字になっていました。この例のように最初に0だからあきらめるかじゃなくて、その人の持っている保有視覚、確かにある視野というのがきちんと認識できればそういうレベルにもなっていくことが可能だということです。
 この方は最初お会いした時に自分の病気のことを告知されていませんでした。ご本人よりも奥様の方が非常に悶々とされており、ご本人はまあ何とかなるだろうという感じだったように思います。彼に「このままだったら会社に戻れないよ」と言うきっかけがなかったということでした。そしてもう嫌われてもいい、恨まれるかなと考えながらドクターと相談の上、「もう治らないですよ、この現実をしっかりと見据えてここから立っていくしかないですよ。」と言ったんです。そうしたところご本人は飄々とされていました。奥様がものすごく落ち込んでしまわれて、これは最悪のパターンだなとその時は思いました。「今あなたの目というのは字は読めないね、でも周辺は見えるよね。この視野を使うことはまずできる。それからトレーニングをきちんとすればいろんなことができる。だけど仕事に戻るのに、どう考えてもあなたの場合はパソコンのスキルは必要だろう。そのためには生活訓練を経てというのでは遅過ぎる。日本ライトハウスに職業訓練があるから、とにかく急いで行った方がいいよ。」と言いました。
 最初は「やあ、そんなのは」とかいろいろ濁されていました。2回目、3回目に「本気でやらないと本当に後悔するよ、後悔というのは後から悔いるから後悔というので、先に悔いるんだったらそうは言わないよね。」と話をしました。そうしてご本人も腹を括っていかれました。
 きっかけを作ることも簡単なようで難しいことです。何が難しいんだろうといつも考えるんですが、一つはタイミング、機会ですね。それから誰に言われるかも大きいと思います。例えばドクターに言われるのと支援員に言われるのと、仲間に言われるのと家族に言われるのと、自分が尊敬している人に言われるのと嫌いな人に言われるのとは受け方が全然違います。まして会社で関係の悪い人から「職業訓練行った方がいいよ。」と言われたら、この人は自分に会社を早く出ていってくれと思っていると、本当はそうではなくてもそう思うのが僕ら人間の心情だと思います。タイミングというのはものすごく大事なんですが、そのタイミングも待っているだけではだめなんですね。まず自分の現実を知ることです。そうやってなかなか煮え切らなかったけれどもタイミングときっかけがあって進んでいきます。自分の方ではこれで原職復帰していくぞという条件が整ってくるわけです。
 ところが今度は壁になる人達がまた出てくるんですね。それが会社のトップであったり、戻りたい部署の上司であったり様々です。その時にこれだけ一生懸命やっているのにどうしてという思いが当然出てきます。そこがまたピンチはチャンスです。Noと言われるということはNoでない状態を作れば戻れるんだというふうに受け止められるといいです。しかし、一つの会社の内部の力だけで解決していくというのは、ことのほか難しい気がします。そこでマスコミや労働組合の活用、その地域の有力者の協力、そういう力も必要になってくる場合もあります。けれども、個々の問題解決をしていくということでは様々です。
 原職復帰モデルというのは一つのものすごい大きな知恵ではあるんですが、全てその通りにはいきません。中小企業でその方のポジションが非常に大きな意味を持つこともあります。その人がチームにとってかけがえのない存在であれば、会社は協力者にもなってくれるわけです。壁が高いということは、実はその壁をクリアすることによって逆に戻った時に楽かもしれません。壁が低いということは、戻してはくれたけれども仕事をくれないところもあるんです。それで戸惑う人達もたくさんいます。自分はここにいて本当にいいんだろうかと、逆にものすごくしんどい思いになるわけですね。
 Kさんに関して言いますと、彼は3ヶ月ごとに自分の企業の中のポジションを回って、その人の一番できる適性は何かということをチャレンジさせてもらっています。最初はそれすらなかったわけです。ところが、ご自身がせっかく戻してもらって、経営指導員という立場をこれから伸ばしていきたいという思いもあり、そういった意味で自分に何ができて何ができないのか、ということも知りたいということでやりました。周りも一生懸命この人はやっているなとか、文章に関してミスが全然ないとか、あるいはきっちりした議案を作るなとか、そういうところでどんどん信頼ができていくわけです。
 最初は戻ってきてこの人をどう扱ったらいいか分からなかったのが、活かし方が分かるから、この人はここにいてもらわなきゃ困るという形になるわけです。
 大きな企業の管理職だったもう一つの例ですが、その人はやっぱり自分自身で悶々としながらも、まず企業に戻っていきました。戻っていって自分なりに自分のできること、できないことをはっきりと示し、やれることはどんどんされていったことにより信頼が当然出てきました。その結果彼が戻った年に一人新規に視覚障害の人を雇い、今年また一人雇っているんですね。僕自身の中でもそういう視点が足りなかったなとすごく反省しました。私どもが一丸となって同じ道を二人で歩む“同行二人”みたいな形で、一緒に原職復帰を目指して戻っていった。単に戻っただけだったら企業は新たな視覚障害の人を雇おうという気はなかなか起こしません。ところがその人の戻りようがきちんとし、この人がこの同じグループの中で必要な人なんだということが分かりますと、二人目、三人目、あるいは将来社員に中途の視覚障害の方が出てきても、まず辞めろという前にがんばってみないかということが出てくるのではないかと思います。そのために一緒にいろんなことを考えてきたはずですが、実はあまり考えてこなかったので、これからその辺りをどう考えていくかをしっかりと持ちたいと思います。
 逆に原職復帰を果たせる状況にないとは言えないが、結局できなかった事例も出しておきたいと思います。思いはいっぱいあるんです。努力もされました。戻ってきてもいいよと上司は言ってくれるんです。ところが戻れないです。なぜかというと、一つはこれ以上自分の目を悪くして、本当にこの仕事でいいのかなというためらいがあること。それから家族が「がんばってきたんだし、お疲れ様、何とかなります。」と言われると、ふっとそうかなと思う瞬間があるみたいです。一番切ないなと思ったのは、上司は理解があっても同僚との人間関係の問題です。戻っても辛いばかりだなと思うような現状ですね。現実が待っていて、同じチーム、組織で仕事をしようかと思った時に、今までそういう関わり方しかしてこなかったから、理解してもらえないだろうと思って、諦める人がいるわけです。
 自分がその職場で生き残っていくのであれば、まず自分のことを理解してもらう、例えば自分の見え方であるとか、どういう配慮が必要で、でもこういう配慮はちっともいらないということを明確に相手に伝えていくことの努力が必要だと思います。
 最後に、繰り返しになるかと思いますが、原職復帰をされる時には、アクションプログラム、行動計画を考えていただきたいですし、それにはまず人です。それから自分自身の指針としての原則です。それから自分のやっていることが、正しい方向で努力をしているんだろうかというシステム、つまり点検できるためのシステム、これは自分自身に対して、そして協力してくれるキーパーソンの方と一緒にやっていくことです。
 僕はタートルの会でお話させてもらうことになって、すごくうれしいような不思議な感覚を持ちました。ここには先行くモデルの方がたくさんおられるわけです。かつてはなかったわけです。ところが、12年の間にいろんな方がモデルとして立ち現れて、それぞれの道で切り開いていかれているわけです。その知恵を使っていきながら、Noが突きつけられても、NoをNoとせずにYesに変えていくための知恵を、もっといろんなところから出てくるといいという気がしてなりません。
 本日はこのような場を与えていただいたことを感謝しております。当たり前みたいな話をしたかもしれませんが、ひとりではなかなかできる、できないはわかりません。けれども一緒に考えさせていただければと思っています。


【3月交流会記録】(2007/3/17)
国内外における視覚障害者の就労環境

障害者職業総合センター 指田忠司

◆はじめに
 私は現在、障害者職業総合センターの研究員として雇用システムの研究を担当しています。そのかたわら、視覚障害者の国際NGO(非政府組織)であるWBU(世界盲人連合)の執行委員、また雇用委員会のアジア太平洋地域の代表委員を務め、視覚障害者の雇用・就業の問題について、海外との交流も行っています。
 今日のテーマは「国内外における視覚障害者の就労環境」という非常に大きなテーマです。一口に海外といっても、いろいろな国がありますが、ここでは欧米先進国の状況を紹介し、日本の状況と比較しながら、改善に向けた課題を検討してみたいと思います。

◆最近における国際情勢の変化
 まず海外の状況の変化をいくつかあげてみます。EUでは、2000年11月に「雇用と職業における均等待遇のための一般枠組み設定に関する指令」が発布されています。これは、各国政府に対して、障害者の雇用就業の面での均等化に向けて国内法を整備するようにという指令で、これに従わないと、EU司法裁判所に訴えられ、きちんとやりなさいという判決が出されます。実際、2005年と2006年にドイツなど数カ国がこの判決を受けています。雇用と職業における差別をなくすこと、障害を理由とした入口での差別、求人、面接、待遇などの面での差別をなくすことが目標とされており、各国の事情によって実施が延期された場合でも、2006年の12月2日までには実施するようにという指令です。
 この指令との関係でみると、フランスの場合、2003年までの段階で雇用差別防止法などの制定を通じて、指令の内容は達成されています。それをさらに充実させるため、2005年2月11日に「障害のある人々の権利と機会の平等、参加及び市民権に関する法律」が制定されています。
 ドイツでは、1974年以来、割当雇用制度(法定雇用率制度)とその未達成の場合の課徴金制度が設けられ、障害者の雇用の機会を拡大する努力がなされ、現在、5%の法定雇用率が定められています。EU指令が発布された後、特に2001年に重度障害者法が、社会法典という大きな法典の中に組み込まれ、この中で雇用差別、先程申し上げた入口の差別や、配置転換などの差別を禁止する条項が定められたのと同時に、職場環境を整えることを要求することが労働者の権利として規定されました。従来は、職場環境を整えることは雇用主の義務として規定されていましたが、これを障害のある労働者が雇用主に要求できる権利として規定し直した点が注目されます。
 こうしたフランス、ドイツの流れに先行して、イギリスでは、DDA(障害者差別禁止法)が1995年に制定され、1996年の12月2日から、雇用分野について施行されています。イギリスの場合、このような差別禁止法がEU指令以前に制定されていました。1996年の施行時点では、差別禁止の対象を20人以上の労働者を雇用している事業主に限定していましたが、2004年10月からはすべての企業に適用されることになりました。またEU指令の趣旨に沿って、差別を受けた障害者の救済などの面での改正が行われています。
 このように、EU指令を契機として、ヨーロッパ各国では障害者雇用・就業の面での障害者差別を禁止する国内法が整備されてきています。また、こうした差別禁止法の一環として、ドイツの社会法典などにみられるように、「合理的配慮」の提供、すなわち、障害の程度、障害の種類、従事する仕事の性質などからみて合理的に考えられる適応のための措置を提供することを雇用主に義務付ける規定が整備されてきています。
 このようなEU諸国の動きとも関係しますが、もう1つの大きな流れは、国連における障害者権利条約の採択があります。国連では2001年の総会で、障害者の権利を保障するための条約を制定すべきだということを決議して、2002年の夏からアドホック委員会(特別委員会)を設置して、多いときは年3回、全部で8回の会合を開いて審議してきました。そして2006年8月25日の第8回特別委員会の最終日に基本合意が成立して、12月13日の国連総会で障害者権利条約が採択されました。雇用・就業に関する内容としては、企業で働く場合だけでなく、授産所などのワークショップで働く保護就労や自営も含めて、障害者の働く機会と権利を保障するために、各国がそのための政策を実施することを義務付けています。

◆最近における国内情勢の変化
 次に国内についてみると、昨年の4月から障害者の雇用の促進等に関する法律の改正法が施行されています。身体障害者と知的障害者を母数として算出された法定雇用率1.8%の中に、精神障害者を雇用した場合には、これを含めて算出してもよいという法改正が行われ、事実上、精神障害者の雇用機会の確保についても法律が動き出しています。
 また障害者福祉の面では、障害者自立支援法が昨年の4月から施行されています。特に10月からは、就労移行支援事業、就労継続支援事業など新しい事業が始まっており、これから就労と福祉とをどういうふうに組み合わせていくのかが注目されています。

 ところで、視覚障害者の雇用・就業について考える場合、視覚障害者の実態をみなければなりません。厚生労働省では5年ごとに行なう障害者実態調査を2006年6月に実施していますが、まだ速報値は発表されていません。2001年の調査では、18歳以上の在宅視覚障害者は30万1千人いますが、この数が5年間にどのように変化しているかが注目されます。
 障害者雇用対策の分野では、5人以上の従業員を雇用している事業所を対象とする調査が5年ごとに行われています。また毎年6月1日には、ハローワークを通して、その年の障害者雇用率の達成度をみる調査が行われています、さらに、昨年4月から、ハローワークにおける視覚障害者の新規の就職状況について、特別に集計した調査も行われています。こうすることによって、視覚障害者の労働市場における状況をより詳細に把握しようという取り組みです。この結果をもとに、きめ細かな対応ができるのではないかと思われます。

◆視覚障害者の就労環境をめぐる主な変化
 ここでは、視覚障害者の雇用・就業をめぐる変化についていくつかの側面から概観したいと思います。
 まず第1に、産業別の雇用拡大の取り組みが注目されます。独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構では、銀行、新聞、鉄道、航空会社などいろいろな業界を対象として、障害者雇用に関する講習を行っています。その結果、視覚障害者についていえば、新聞業界などがヘルスキーパーを一斉に採用するようになりましたし、鉄道業界では、視覚障害者の採用には直接結び付きませんが、キオスクの管理やその他の事務作業を中心として、特例子会社を立ち挙げて障害者の働く機会を作る試みに取り組んでいます。視覚障害者についていえば、こうした取り組みの結果推進されたのは、情報処理とヘルスキーパーの2職種です。
 第2に、職域拡大の取り組みについてみます。ここでは、三療関係と三療以外の職域ということであえて分けてみました。この2つの職域は、その対策が必然的に異なりますので、こういう分け方をしています。
 三療関係では、これを開業して晴眼業者と競争していくことが困難であるという実態に着目して、三療資格を生かした形で雇用を促進するということで、1990年代から大企業に働きかけて、ヘルスキーパーという新たな職種を作り出してきました。また、ここ数年の間にみられる変化としては、介護施設における機能訓練指導員として、あんまマッサージ指圧師の資格を有する視覚障害者の雇用を促進する取り組みが行われていることが注目されます。こうした新たな職種に関するパンフレットの作成と配布の他、ハローワークでは、機能訓練指導員の求人があるときは、視覚障害者を優先的に紹介するような取り組みが行われています。
 三療以外の職域については、昨年『視覚障害者雇用の拡大とその支援―三療以外の新たな職域開拓の変遷と現状―』(資料シリーズ35)を刊行し、関係機関に配布した他、障害者職業総合センターのホームページでそのデータを提供しています。この刊行物では、日本盲人職能開発センターで行っている事務系の職業や録音タイプなどの取り組み、日本ライトハウスや、所沢の国立職業リハビリテーションセンターで行われている電話交換、情報処理などの職業訓練を終了した視覚障害者の就職状況などについて紹介しています。また、教員、公務員、図書館員、福祉施設職員、弁護士、医師などの専門職など、職域開発の変遷と現状について概観しています。
 第3に、視覚障害者の就労環境の中で、ここ20年くらいの大きな変化は、支援技術の発達と活用があります。これはカナタイプに始まり、オプタコン、音声ワープロ、そしてインターネットなどネットワークへの接続技術を活かして、視覚障害者が事務的な仕事も含めて、さまざまな職域に就くようになったことが注目されます。この点については、前述の刊行物の中で、日本盲人社会福祉施設協議会(日盲社協)が行ったIT技術と視覚障害者の雇用状況に関する調査の結果をダイジェストして載せていますのでこれを参照していただきたいと思います。
 支援技術の発達と普及によって、視覚障害者の雇用環境はいい方向に向かっていますが、残念ながら、十分な支援技術が開発できているかというとそうではありません。特に、個々の職場での環境調整をしていく場合に、開発と導入に多額の経費がかかると、なかなか雇用に結び付きにくいという問題が出てきています。
 第4に、制度的バリアの撤廃と職域拡大という点を挙げたいと思います。これはいわゆる欠格条項の話です。1999年時点では、欠格条項、つまり目が見えない、耳が聞こえないことが、いろいろな資格を取れないということにつながっていました。つまり目が見えないこと、耳が聞こえないことが絶対的欠格条項とされていました。欠格条項の撤廃というのは、この絶対的欠格条項を障害者の個々の状況を考慮して、資格が取れるようにすること、つまり、相対的な欠格条項にしていこうという動きです。
 この流れは、1981年の国際障害者年、1983年からの国連障害者の十年で叫ばれた「完全参加と平等」に端を発しています。つまり障害者が完全に社会に参加して、平等な扱いを受けるためにはどうしたらよいのかということで、いろいろな取り組みが行われたわけですが、その中に4つのバリアフリーという目標が掲げられたのです。情報バリアフリー、物理的バリアフリー、制度的バリアフリー、心のバリアフリーの4つです。
 そのうちの1つの制度的バリアフリー、これが欠格条項の撤廃を意味しています。この制度的バリアフリーは、1995年の障害者プランの中でもうたわれていましたし、その後も障害者団体からの要望として出てきており、政府は2002年度末までには制度的バリアをなくすという目標を立てました。
 すなわち、1999年の時点で63あった欠格条項について、2002年度末までに法改正を行うことにしたのです。
 そのうちの1つが医師法の改正です。医師法ではかつては目の見えないものには医師の免許は与えられませんでした。もちろん医師国家試験も受けられません。この医師法が2001年に改正され、2003年の医師国家試験で1人、医学部在学中に失明した男性が録音テープ出題、口頭回答の方式で受験して合格しました。もう1人は、大学卒業までは見えていたが、卒業直後は拡大読書器を使っても試験が十分できず不合格となり、その後20年以上別な仕事をしていた男性が3度目の受験で合格しました。この人の場合には、点字出題も併用されています。現在2人とも医師免許を付与され、医師として活動しています。
 ただ、2003年に合格した人の場合には、2年間1つの医局で研修を受ければよかったのですが、2005年に合格した人の場合には、研修制度が変わったため、研修医として複数の診療科目を経験しなければならないということになりました。したがって、この人の場合には、すべての研修を終わらないと、自分の診療所を開いたり、経営ができないということになりますので、まだ問題は解決していません。これは早急に取り組まなければならない課題だと思います。
 また欠格条項についていえば、課題は雇用だけではありません。例えば医師の場合ですと、医師国家試験は受けられるようになりましたが、その前提となる医学教育そのものが受けられるかどうか、教育のバリアフリーがなければ就業の道は開けていかないという、新たな問題が出てきています。

◆諸外国との比較から何を学ぶか
 以上、海外と国内の情勢変化を踏まえ、視覚障害者雇用をめぐる状況について概観してきましたが、最後に、諸外国の事例をもう少し詳しく紹介しながら、今後の課題について考えてみたいと思います。
 第1に注目したいのは、ドイツでは職場に障害者代表という制度があることです。障害者の権利を守るため、障害者の労働者が5人以上いるところで代表者を選んで、その人が障害者のために、会社側との調整をしていくというものです。ある人が障害者代表として働いた場合は、その職務が免除されたり、1年間あるいは、2年間この代表を務めていると昇進が遅れたりしますが、そういう面でも後からきちんと是正するようにするなど、いろいろな細かい規定が整備されています。実際の運用ははっきり分からないところがありますが、少なくとも法律上はそういう対応をしています。障害者代表の制度は、職場におけるさまざまなハラスメント(嫌がらせ)などの防止も含めて、今後、障害者が働きやすい環境を作っていく上で、たいへん大事な制度ではないかと思います。
 第2に、年金制度と雇用の関係について注目したいと思います。フランスでは、労働者は20歳で年金に加入して40年間積み立てないと満額の年金がもらえないということになっています。このような年金制度について、障害者の場合、4分の3の期間だけ積み立てれば満額もらえるという制度ができています。イタリアやスペインも同じで、障害者が年金を受けるための要件が緩和されています。
 またフランスの場合、年金制度には所得制限があり、働いて収入を得ると年金が支給されなくなります。そこで、年金を受給し続けようとして、多くの人が働かなくなってしまうという問題が起こりました。フランスでは、こうした問題に対応するため、新たにインセンティブ(刺激策)として所得制限のない手当を作りました。この制度の下では、働いて収入を得ることで年金は打ち切られるが、手当が支給されるので、それで障害補償のための対応はできるだろうということです。制度は複雑になりましたが、フランスはそういう試みを行っています。
 第3に、各国における「合理的配慮」の提供に関する取り組みについて考えてみます。イギリス、フランス、ドイツのいずれの国でも、アメリカと同じく、合理的配慮の提供に伴う雇用主の負担が課題となる場合には、その義務は免除されるということです。負担の主なものは経済的負担ですが、この点について、先日、イギリスの専門家に、合理的配慮というのはどのくらいお金がかかるのかと聞いてみました。その答えは、大雑把にいえば、95%の事例はお金がかからないか、それほど配慮が必要でない場合だということです。お金がかかるのはわずか5%だけだというわけです。イギリスでは、このような場合、国が全額負担し、雇用主は負担なしという制度になっているようです。
 「合理的配慮」の内容として何を求めることができるか、この点について障害者と雇用主の間に意見の食い違いが出た場合、どのように解決するかですが、フランスやドイツでは、裁判や調停手続きに持ち込んで、第三者が介入して紛争を解決する道が保障されています。この点は、アメリカやイギリスと同じですが、フランスやドイツでは、労働組合や障害者団体が本人の意向を汲んで、団体として雇用主を相手に裁判手続を行う道が定められている点が注目されます。
 第4に、中途障害者の復職問題の取り組みですが、冒頭のご挨拶で下堂薗会長から人事院通知の話が出ました。これと同じようなことがイギリスのDDA(障害者差別禁止法)の中でも規定されています。職業生活の中途で障害になった場合には、リハビリテーション訓練を受ける権利があります。フランスでも2005年法でそう規定されました。これらの国では、復職に向けたリハビリテーション訓練が、在職のまま受けられるという規定が整備されているといえます。
 第5に、今後、雇用機会を拡大していく上で、どのようなことが必要かということについて考えてみます。従来からいわれていることですが、好事例の蓄積とその活用ということがどこの国でも指摘されています。アメリカでは、AFB(アメリカ盲人援護協会)が運営するキャリア・コネクトというデータベースが有名です。これは、在職者のボランティアを募ってデータベースを構築したもので、いろいろな仕事に就いている人々が、ボランティアとして自分の障害程度や仕事に関する情報を登録します。このデータベースは一部分公開されており、さまざまな職種に就いている事例があることがわかりますが、具体的には、コーディネーターが相談を受けた際、必要に応じてボランティアを個別に紹介し、相談者とボランティアとの間での対話を仲介しています。
 フランスでは、1999年に80くらいの職種について、百数十名の事例を載せた本が出版されました。これは実名での事例紹介です。またEBU(欧州盲人連合)では、インターネットを使って、加盟団体からの事例紹介を募っています。
 第6に、福祉的就労について考えてみたいと思います。日本では、障害者自立支援法の関係で、福祉的就労の体系も変わってきていますので、課題が多々あると思います。
 ヨーロッパでは、ソーシャル・ファーム(社会的企業)の取り組みがかなり進んできています。現段階では知的障害者、精神障害者向けの取り組みが多いのですが、イギリスでは視覚障害者向けのソーシャル・ファームというものができてきています。
 ソーシャル・ファームというのは、非営利の会社です。しかし、対外的には営利活動を行います。純粋な営利企業では、株主など出資者に利益を還元しますが、ソーシャル・ファームではそれをしません。ソーシャル・ファームでは、きちんと利益をあげた上で、その利益をそこで働いている障害者のために使っていきます。
 日本では滋賀県に社会的事業所というのがあります。例えば作業所、授産所ならば、労働法は適用されていないのですが、社会的事業所では、労働法を適用して雇用していくという試みです。ソーシャル・ファームというイギリスの試みも、労働法を適用するということです。最低賃金や、労働基準を守って、障害のない人たちと同じ条件で障害者が働ける場を確保していく試みが、ヨーロッパ各国で進んできています。日本でもこれからの検討課題になってくるのではないかと思っています。
 以上で私の話を終わります。ご静聴ありがとうございました。


【職場で頑張っています・その1】
「ただひたすらに…たどり着いた今がある」

大脇多香子(愛知県・ユニー株式会社)

 今の私を励ましてくれているのは、過去の自分。今の会社での居場所は、視力を失い絶望の中、夢みてた、ありえない憧れの世界。
 2004年11月に名古屋で開催された「タートルの会・地方交流会」に、思い切って参加して本当によかった。子供達の成長と反比例にどんどん失われていく視力、怖くて悲しくて泣いてばかりいました。
 このままではだめだ、何とかしなければいけないと、藁をもつかむ思いで勉強しました。不安と恐怖、劣等感に押しつぶされて挫けそうな気持ちをごまかすようにがむしゃらに取り組みました。見えないせいか能力がないからなのか、努力が足りないのか、それとも人格の問題なのか…この線引きが難しくて、自信をなくし途方に暮れていました。
 でも訓練を重ねていくうちに戸惑いがなくなり、進むべき道がみえてきました。同じ病気を負う仲間との出会いに救われて、孤独感から解放されました。同じ障害を負う仲間との出会いに恵まれて、生きる希望をつかむ事ができました。たくさんのボランティアさんの存在に助けられ、優しい気持ちに包まれ思いやりの心に励まされ、勇気ずけられました。
 そんな方々とのかかわりの中で、見えにくくても楽しく生きていられる事、見えなくたって楽しく生きていいんだという事を学びました。
 いろんな事があったけど、一歩一歩の少しずつの歩みでしたが、たくさんの涙と共に乗り越えられる事ができました。
 人に傷つき、人に救われ、今があります。もし視力を失っていなかったら、「生きる」なんて事を考えたりしなかったかもしれない。平凡で当たり前の日常生活を幸せだとも感じなかったかもしれない。これ程、人の存在に感謝したり、人との繋がりを大切にしていきたいと思わなかったかもしれません。
 気がつくと、視覚障害者となって生き返った自分を大好きになっていました。そんな頃から自分に与えられた病気や障害に対して、真正面から向き合えるようになり、自分をとりまく環境が少しずつ変わっていった気がします。
 退職勧告から約三年、ついに社内ネットワークに繋がった音声PCが導入されました。
 やっとやっとの長い道のりでしたが、ずっと目指していたゴールが見えた瞬間、また新たなスタートラインに立っています。ここからが本当の踏ん張りどころだと新鮮な緊張感と期待感で気持ちが満たされています。
 あんなに辛かった職場で共に働く仲間との関係が、今は「企業内ジョブコーチ」と呼べるほど自然にサポートしてくれます。もちろん私自身が変わった事が大きな要因です。「できない部分」を簡潔明瞭に伝える事でサポートする側の戸惑いもなくなり、バリアがなくなっていく事を体感しています。
 障害の有無にかかわらず、誰一人、一人ぼっちで生きてはいません。周囲との関係に、見えない事でついつい遠慮や申し訳ない気持ちを捨てきれずにいました。でも自分が思うほどそんな感情は不必要で、それがかえって人間関係を邪魔したりするのではないかと…。同じ人間として、目を借りて自分が助かった部分への御礼の気持ちを、心を込めて過剰ではなくさらりと伝えればいいと思う。
 せっかく負ったハンディだから、私らしく胸を張ってキラキラと生きていこうと強く思う今日この頃です。


【職場で頑張っています・その2】
「職場復帰体験記」
〜両眼眼球破裂から職場復帰まで〜

藤田善久(福岡県・株式会社熊谷組九州支店)

1.自己紹介
 私は、現在34歳、家族には妻、子ども2人がおります。視力・視野はなく、1種1級の全盲です。福岡県在住です。
2.現在までの経緯について
 私が視覚障害者になったのは、平成16年5月の仕事中のことでした。地上約40メートルの屋上部分から、鉄パイプが落下して、どこかにワンクッションした後、私の頭部右側に当たったのです。
 このことにより両眼眼球破裂となりました。被災時から4カ月後までの間は、ほとんど記憶がありませんので、当然、頭が痛いことや目が見えないことなども覚えていません。
 頭部外傷の創傷が癒えた後、平成16年7月、視覚を含めたリハビリテーションのため平成17年3月まで、柳川リハビリテーション病院に入院しロービジョンケアを受けました。同病院入院中、福岡障害者職業センター(以下、職業センター)に相談するよう助言され、その後、職業センターにも支援をしてもらいながら、平成17年5月から翌年2月までの期間、国立福岡視力障害センター(以下、視力障害センター)で生活訓練を受けました。しかし、視力センターでの訓練期間の10カ月間ではパソコンスキルを習得できませんでした。そのため、平成18年4月から平成19年3月までの約1年間、日本ライトハウスにてパソコン操作をメインとして訓練を受けました。
 訓練では、事務職を目指してできる限りの事を行いましたが、現場監督の仕事をしていたため、社内の事務的業務に精通しておらず、一般事務全般を同等にこなせるまでには至りませんでしたが、現在、訓練で習得した内容を実際の業務内容に応じて活用しています。
 職場で実際によく活用しているのは、if関数、vlookup関数、concatenete関数、Scriptなどです。Macroも活用しようと思いましたが、すでに社内のデータ内に複数のmacroが組み込まれており、他の職員の方も使用するため「システム障害」をおこしたくないので使用していません。このようにして、関数やショートカットなどを駆使して自分の業務を行っておりますが、現在の業務に満足せずに業務範囲拡大に努めています。
3.訓練施設での体験について
 私は、平成17年5月から翌年2月まで視力障害センターに入所し、歩行訓練、点字訓練、パソコン訓練、感覚訓練等を受けました。
 歩行訓練では、白杖操作の基礎・交通機関での利用方法を学ぶとともに、到達しなければならない自宅から会社までの通勤経路の訓練では、二つの経路を習得しました。
 訓練時間は、最大6時間になる時もあり、足腰に疲労がたまったこともありましたが、あれぐらい集中しなかったら、安全な歩行はできていないと思います。
 点字訓練では五十音・濁音・半濁音・拗音・数字・英字・記号を学び、1頁の内容を15分程度で読み上げられるようになりました。点字の学び始めは、読み書きのしりとりを数回行いましたが、なかなか難しくて「四つ、五つの点字も読めない」と思いながらも楽しくやっていました。
 パソコン訓練では途中まで視力障害センターのPCトーカーを利用していたのですが、支援していただいた皆様方から「企業にて業務をするのであれば、JAWSの音声リーダーが必要」と教えていただき、早速JAWS Ver4.5を購入しました。入所していた視力障害センターでは、PCトーカーで訓練するのが基本であったにも拘わらず、JAWSの訓練もしていただき、感謝しています。
 その後、平成18年4月から約1年間、日本ライトハウスの生活訓練部へ入所しパソコン訓練・歩行訓練・点字訓練・墨字訓練・感覚訓練などを訓練しました。
 主要であるパソコン訓練では、初めの頃、訓練速度が速すぎると感じましたが、1ヶ月を経過すると「1年間で業務レベルに到達するには 当然の訓練ペースだな」と、自分の考え方が甘かったことを反省し、その後昼間は訓練に集中し、夜間は昼間の訓練の復習を行いました。
 また、訓練中にT先生より「藤田さん、パソコン業務に向いてないな?」と言われたため「コンチくショー」と思いましたが、夜、一人になって考えれば考えるほど、はっきり言っていただいたことに対して感謝の気持ちが溢れてきて、涙が止まりませんでした。
 このような体験から、すべてのことに対して自分の心には「いそがず、あせらず、おこたらず」という信念のようなものが確立したように思います。
 歩行訓練では、大阪という知らない土地であることから東西南北が分からず苦労しました。訓練当初よりN先生から東西南北をよく指導していただき、頭に地図を描くことがいかに重要であるかを学ぶことができました。
 点字訓練では、レベルの高いクラスになったことが、逆に訓練意欲がでて良い経験になりました。「自分で自分の指を誉めてやれ」と誰かが言っていたことを思い出します。
 感覚訓練では、目が見えなくても沢山のスポーツがあるのだなと勉強になりましたし、訓練を終了したら、実際にやってみたいスポーツもありました。例えば、テーブルテニス、フロアーバレー、キーパーボール、ブラインドサッカー、ブラインドベースボールなどのスポーツがあります。
 このように、私は2つの訓練施設を経験し、訓練以外にもいろんなことを学ぶことができました。施設に入所して本当に楽しかったと思えるこの頃です。
4.心境の転機について
 私は、不慮の事故により視覚障害者になったわけですが、記憶が数カ月ないこととともに、病気で徐々に視覚障害者になったわけではないので、眼の病気で視覚障害者となった方とは、視覚障害に対する感じ方や考え方が少し違うように思えます。それは、記憶が戻る前は別として、ある程度、私の心境が落ち着いてからのことですが、「自分の両目は見えるようになるのだろうか。もう見えることはない。見えないのであればしょうがないな。」とベッドで涙を浮かべながら毎晩同じ質問と回答を何度も繰り返していました。
 しかし、ロービジョンケアに携わる眼科医並びに関係各位の皆様方と出会い、ベッドの上で考えていた回答を明確にしていただいたように思えます。なぜならば、私は病気で視覚障害者になったわけではないのですが、ロービジョンケアをしてくださったT先生・Y先生・K先生方から、視力障害者のことだけではなく、心のサポートをしていただいたからです。
 たとえば「見栄を張らなくてもいいのですよ、素直にいきなさい。ましてや、人の顔色を見なくても良くなったでしょ(笑い)」「小さな楽しみを、大きな楽しみに変えてみると、面白い1日になりますよ!」などです。
 このようなサポートがあったからこそ視覚障害者ということをスムーズに受け入れられたのだろうと感謝しています。
 私にとって、転機のきっかけは、「ロービジョンケアのできる眼科医との出会い」と確信しております。
5.これからの抱負について
 私は、平成19年4月に復職して3カ月が過ぎましたが、現在は購買部の業務に携わっております。現在の購買部門の2つの業務から、これから枝葉をだして一つひとつ確実に花を咲かせていくとともに、JAWSの音声リーダーでの社内システム環境に柔軟性をもって業務に邁進していく所存です。
 各会社で違いますが、システムプログラムのなかでは「不具合をおこすキー操作がある」と聞きました。Jawsカーソルといえども確認する必要性を感じています。実際、私の場合は、IEの画面においてスクリプトを組んで業務の処理を行うように計画したのですが、ある一つの業務に関連した画面の場合にだけスクリプトが実行されないということがありました。そこで、いろいろ調べてみると明確な答えではないのですが、会社と音声リーダーのプログラム言語に問題があるのではないかということでしたので、考えを切り替えて「できないことはできない、できる操作方法を検証する」というふうになりました。
 このようなこともありましたが、私は業務時間以外において、業務におけるパソコン攻略操作方法を見出していき、業務時間の最小化とともに業務範囲の拡大に努めていきたいと考えています。
6.あとに続く中途視覚障害者の皆様方へ
 私は、大きなことは言えませんし、視覚障害のことを全て知っているわけではありませんが、私の経験したことについて申し上げます。

(1)視覚障害者であることを素直に受け入れること。
(2)身体障害者協会並びにロービジョンケアのできる眼科医、福祉関係の機関へ出向いて、いろんな情報を入手すること(福祉サービス、補装具・日常生活用具、訓練施設等)。
(3)生活訓練等のできる施設に入所して、日常生活ができるようにすること。
(4)施設入所中に、視覚障害者の方達との談話の中で情報交換をすること。
(5)今の生活設計を計画して、何が必要であるかを抽出すること。
(6)抽出されたものに対して、多方面より情報収集を行うこと。難しいことではあるが、投げやりにならないこと。
(7(必ず就職して働きたい、自分で生活したいという強い意志を持つこと。
(8)決して「弱者」という心を持たないこと。ただ、目が見えないだけ、それだけのことです。
(私には、真っ暗の中に一つの煌々とした光がはっきりと見えました。トンネルの中から見える出口のように。)
いろいろ申し上げましたが、あくまでも私の考えなのでご了承ください。しかし、皆様方へ一つだけ言えることがあります。それは「自分の考えには自信を持つこと」、それがなければ前には進めません。
7.お世話になった皆様方へ
 会社の人事関係者の皆様方には、多方面にわたりご協力・ご指導・ご鞭撻して頂き、心より深く感謝しております。また、私の知らないところで職員の皆様方のご協力を感じております。社内で私が移動する時でも道を譲って頂いていることなど申し上げると数えられないくらい感謝しております。これからは会社ならびに職員の皆様方への感謝の気持ちを忘れずに、業務に邁進していく所存です。
 また、これまでの訓練期間の約2年間を振り返ってみて、家族、会社、訓練施設やその同級生、病院、官公庁の皆様方にご協力・ご支援・ご鞭撻を頂いたことに対して、心より深く感謝しております。


【第12回定期総会記念公園】
「視覚障害者の雇用・就労をめぐる国内外の動向と当事者団体の役割-タートルの会への期待」

法政大学現代福祉学部 松井亮輔

 私のキャリアは、1964年に、神奈川県の座間に日本キリスト教奉仕団がつくったアガペ身体障害者授産施設からスタートしています。なぜ私がそのことに関わったのかを申します。私は、1963年に国際キリスト教大学を卒業していますが、60年代初めごろはエネルギー革命ということで、「石炭から石油へ」という転換が行われた時期でした。とくに九州の筑豊炭鉱は中小企業の炭鉱で、どんどん閉山して、残されたお年寄りや幼い子供たちをかかえた家族に対する支援ということで、関東と関西のキリスト教系大学の学生100人以上と一緒に夏休みを利用して、ボランティアとして筑豊に入って給食や余暇活動などをする経験をしました。その給食活動のための材料を提供してもらったのが日本キリスト教奉仕団です。当時副主事として奉仕団の窓口の役割をされていた小川孟さん(元横浜市総合リハビリテーションセンター長)から身体障害者授産施設を作る計画をしているので、一緒にやらないか、というお誘いを受けたのがきっかけです。13年間アガペで仕事をしました。当初、私は、障害者福祉ということをあまり知らなかったのです。(奉仕団については話が長くなるので省略します。)アガペにいた4年目にアメリカのボストンにあるノースイースタン大学大学院に行って、アメリカにおいてどのような取り組みをしているのかを、学ばせていただきました。その後、1977年に身体障害者雇用促進協会(現・独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構)が設立され、そこに来ないかというお話があり、福祉分野から労働分野に移ったというわけです。それ以降、障害者の職業・雇用関連の仕事をしてきました。
 視覚障害の方々とのかかわりは、アガペに入って翌年に、障害者更生援護施設関係職員の研修会があり、そこで故・松井新二郎先生にお会いしたのが最初です。先生とはそれ以降親しくさせていただきました。そのあともう亡くなられましたが日盲連会長の村谷さん、現会長の笹川さん、吉泉さん、指田さんなどと知り合うことができました。また、リハビリテーション・インタナショナル(RI)という世界的なリハ分野の団体の副会長を8年間務めた関係で、キキ・ノードストロームという世界盲人連合の前会長、今回障害者権利条約交渉の中でタイ政府代表として非常に大きな働きをされたタイ盲人協会会長のモンティアン・ブンタンさんなどとも知り合いになりました。このように内外の多くの視覚障害のリーダーの方々と接して、私自身教えられることが多々ありました。
 今日は、主に2つの話をしたいと思っています。
 一つは、内閣府が、10年単位で作っている障害者基本計画についてです。最近の障害者基本計画は2002年の12月に作られました。その障害者基本計画の中に8つの主要分野があります。その主要分野について、障害当事者の方々が、どのように現状を考えているのかを、一昨年度から調査を始めました。一昨年度は生活環境、情報コミュニケーションなどアクセスの問題を中心に調査が行われ、その結果が今年度紹介されています。昨年度は、雇用、就業というテーマで調査が行われました。調査対象は、日本障害フォーラム(JDF)という団体です。JDFは、障害団体を網羅しているということで、JDFに依頼して当事者の方々の意見を聞きました。そこで、雇用、就業については、今年1月から2月にかけて調査をしました。この結果は、今年の9月以降に公表することになっています。そのポイントを今日ご紹介したいと思います。これは、障害別に回答をもらっていますので、視覚障害の方と、視覚障害の方も含めた全員とくらべ、どう違うのかについてその概要をご紹介させていただきます。
 1.アンケート回答者の概要
 (1)年齢別構成
 視覚障害の方の場合は、65歳以上という人たちが21%、2割です。障害者全体の場合は、13%ぐらいです。視覚障害の方のほうが年齢的に高いということがいえます。
 (2)最終学歴
 視覚障害の方は3分の2、63%近くは盲学校の高等部普通科ないしは専攻科を卒業されていますが、全体ではその割合は50%です。
  (3)これまで受講した訓練
 視覚障害の方の場合は、盲学校の専攻科で訓練を受けたという方が、85.6%つまり9割近くは専攻科で訓練を受けたということになっています。全体の場合は、一番割合が高いのは、授産施設とか作業所で訓練を受けたという方で、約35%です。そこは視覚障害の方と全体ではかなり違っています。
 (4)社会の理解
 障害者が働くことに対して社会の理解があるか、という質問に対しては、否定的な回答が多いのですが、比較的あると答えられた方は、視覚障害の方は4割です。全体の場合は35%ですから、視覚障害の方のほうが働くことについて、社会的に理解されているが、やや高いということになっています。
  (5)当事者の受け止め方
 障害者が働くことについて、社会の理解がないと思う理由として圧倒的に多いのは、雇用機会が少ない、つまり働きたいと思っても機会がない、社会の理解がないということで、視覚障害の方の場合92%です。全体では82%で、視覚障害の方のほうが10%、働くことについての機会が少ないと答えています。
 (6)就業への支援
 障害者が仕事を探すための支援は、十分と思うか、ということに対して、視覚障害の方の場合、そう思うという回答が16.9%で2割に満たない。全体でも20.4%ですから、圧倒的な方々は、仕事を探す支援が十分ではないという答えになっています。
 (7)職業訓練
 障害者に対する職業訓練は十分と思うか、ということに対して、視覚障害の方の場合は、24%がそう思う。全体では22%、つまりそう思うという方は、2割程度です。
 (8)継続就労への配慮
 働き続けるために職場では十分な配慮はなされているか、ということについては、視覚障害の方の場合、そういう配慮はあるというのは26.3%です。全体では25.5%ですから全体の4分の1の人ぐらいしか、配慮は十分とは考えてはいないということです。
 (9)福祉サービスからの支援
 障害者が働く上で福祉サービスからの支援は十分か、という割合についても、視覚障害の方、または全体で見てもやはり2割ぐらいしか、福祉サービスからの支援が十分とは考えていらっしゃらないのです。
 (10)差別感
 障害を理由に差別を受けたと感じたことがあるか、という質問に対して「ある」と答えた方が視覚障害の方が53%です。全体の割合では、52%ですから、まあ視覚障害の方の方がやや多く差別を受けたことがあるという回答になっています。
 (11)差別を受けたときの反応
 どのようなときに差別を受けたと感じるか、ということに対しては、多いのは仕事を探しているときに差別を受けたと感じるというのが、視覚障害の方の場合に50%です。全体の場合も47%ですから、半分近くの人は仕事を探しているときに、差別を受けたと感じるということです。個別に意見も求めているわけですが、視覚障害の方の場合この差別を受けたと感じたときどうしたか、という質問に対しては、多くの方があきらめたというのです。ですから、差別を受けたけれども、それに対して何の対応もしないで我慢をしたという人たちが、回答者の中で圧倒的に多い。何人かは他の人に相談したとか、あるいは苦情を伝えたという方もいらっしゃいますが、それほど数は多くはないということです。
 (12)希望勤務形態
 どのような働き方や制度があれば障害者が働きやすいと思うか、ということについては、視覚障害の方の半数以上は在宅勤務という答えをされています。全体では、短時間労働、あるいは労働時間上の配慮です。そこはかなり違いが明確です。それからもう一つ多いのは、仕事上の援助や本人の周囲への助言を行う者の配置、そのような助言者の配置や、補助者の配置ということについての希望が視覚障害者の場合、49.5%です。全体では43%ぐらいです。
 (13)法整備の必要性
 障害者がもっと働けるようにするための法律の整備が必要か、という質問に対しては、圧倒的に「思う」と答えられた方が、視覚障害の方の場合82%、全体でも79.3%、つまり8割前後の方がそう思うということです。
 (14)収入について
 生活するための収入はどのように得たいか、という質問に対しては、やはり一番多いのは、年金と働いて得る収入を合わせて生活するという回答が多くて約半数、44%から45%です。続いて、視覚障害の方で多いのは、働いて得た収入だけで生活すると答えた方が、全体の3分の1です。全体の割合は18.9%ですから、2割に満たないです。そこも視覚障害の方と全体との違いとして出ていると思います。
 (15)公的な制度の利用
 公的な制度とか場所を利用したことがあるか、という質問に対しては、視覚障害の方の場合は、福祉事務所が52%、半分以上は福祉事務所が一番大事な場所と答えています。全体の場合は、ハローワークで47%です。したがって、視覚障害の方の多くにとっては、ハローワークよりもむしろ福祉事務所のほうが頼りになると考えているようです。
 (16)役に立った公的機関
 利用して役に立った公的な制度や場所はありますか、ということに対して、視覚障害の方は、約6割が、福祉事務所が役に立ったと回答しています。全体の場合は役に立った割合は、福祉事務所とハローワークとほぼ同じ(約4割)になっています。視覚障害の方の場合、ハローワークが役に立ったと回答された方は、24.8%ですから全体の4分の1ということです。つまり、視覚障害の方は、ハローワークをそれほど利用されていないということになります。これは雇用機会が少ないということと関連しているのではないでしょうか。
 (17)働くための訓練は?
 働くためには、どんな訓練があればいいのか、ということに対しては、視覚障害の方は、圧倒的に多いのはパソコンなどのコンピューター技能ということで、回答者の3分の2はコンピューターというふうに答えられています。それについての高度な技術であるとか、基礎的な技能訓練という回答が、約5割という形になっています。
 (18)働きやすくなったか
 この10年間で障害者が働きやすくなったと思うか、という質問に対して、なったという視覚障害者の方が33.7%です。つまり3分の1ぐらいの方はそうなった、しかし逆に働きにくくなったと答えた方は30%ですから、この回答では33対30ですからやや働きやすくなったという回答になっています。これは、全体でみても働きやすくなったという方が36%ですから、4割弱は、働きやすくなったということに対して、逆に働きにくくなったと答えた方が、障害者全体の割合は14%ですから、この回答はかなり肯定的な回答になっています。
 (19)働きやすくなった理由
 働きやすくなった理由としては、視覚障害者の方は、情報提供が進んだということが働きやすくなったと思う理由であると、約半分の方が答えています。全体では雇用機会が増えたと答えた方が、全体の45.6%ですから、全体でいえば5割弱の方が、働く機会が増えたから働きやすくなったというふうに答えています。「視覚障害の方が具体的に働きやすくなった例」としては、やはりコンピューター技術をマスターした結果が役に立ったとか、アシスタントが得られることの重要性です。しかし、その反面、現在の雇用率は障害別の雇用率になっていませんけれども、視覚障害の方は、障害別の雇用率を設定すべきであるという意見の方、仕事も大切だけども、お昼ごはんをどうするか、会社の忘年会や送別会などに一緒に参加できるような環境づくりとか、必要なパソコンのソフトウエアの用意というようなものが、必ずしも十分に配慮されていないと挙げられています。
この回答者のうち、(20)あなたはいま働いていますか、に答えた方が、視覚障害の方の内71.6%です。つまり70%以上は働いています。全体では6割強ですから、視覚障害の方のほうが働いている方の割合が、1割ぐらい多いことになっています。

2.いま働いている人に対しての質問
 (1)仕事の内容
 仕事の内容を聞くと、やはり視覚障害者の方がついている職業の圧倒的に多いのは、あんま、マッサージ、鍼灸で全体の7割近くの人たちがそのような仕事についています。これは障害者全体の中で、極めて特異な数字になっています。
(2)働き方
 どんな働き方をしているのか、という質問に対しては、やはり、あんま、マッサージに関わるわけですが、自営業と回答された方が、約半数です。全体では、作業所・授産施設・福祉工場などで働いているという方が、全体の3分の1を占めます。それに対して、視覚障害の方は授産施設を利用されている方は、極めて少なくて、6%ですから、多くは自営業等で仕事とされていることと、全体の福祉工場等で働いている3割というのは、非常に違いが際立っていると思います。
(3)労働条件
 1ヶ月の労働日数では、視覚障害の方は、フルタイムで働いている方は全体の6割です。全体では全体の5割弱ということです。視覚障害の方のほうがフルタイムで働いている方が、全体の1割以上多いということになります。
(5)働いている所
 いま働いていると
ころはどういうところですか、という質問に対しては、自営業という回答は、視覚障害の方が非常に多いわけですが、全体では、作業所・福祉工場、それから民間の企業等が全体の約4分の1、25%です。視覚障害の方の場合は、民間の企業等で働いている方は1割に満たないということで、ここにも特徴が出ていると思います。
(6)満足度
 いまの仕事に満足していますか、という質問に対して、視覚障害の方の76%は満足しています。全体では、71.5%ですから、視覚障害の方がやや満足している方が多いです。
(7)満足している内容
 いまの仕事に満足している内容はなんですか、ということに関しては、仕事の内容と答えられた方が、75.7%です。全体でも73%ですから、多くの方は仕事の内容でいまの仕事に満足している、という答えになっています。
(8)満足していない内容
 逆に仕事の内容で満足していない内容は何か、ということに対する答えで一番多いのは、給料など働いて得る収入が期待していたようなものではないという回答が、視覚障害の方の場合66.7%、7割弱の人がそう答えています。全体の場合も、72%です。つまり全体の回答としては、視覚障害の方よりやや多い割合で、給料等が期待通りではないと答えています。
(9)職場の配慮
 職場の上司や同僚などから障害があることについて配慮されているか、ということに対して、そう思うという回答は視覚障害の方は、51.4%、半分を上回る人がそう思っています。全体では、そのような配慮がされているかということに対してそう思うという回答は7割ぐらいですから、視覚障害の方の場合はそれより2割ぐらい低い、ということになっています。
 「具体的に配慮されている内容」としては、文書、書類関係の点訳、出先機関等の移動の介助、というふうに答えた方が多くて、見えにくいときに説明してもらえるとか、あるいは代筆してもらえるということが多い数になっています。その他音声ソフトの導入であるとか、拡大文字の使用であるとか、勤務時間の配慮、あるいは盲導犬を快く受け入れてくれるとか、そういうことが回答としてあります。
ざっと紹介をさせていただきましたが、いまのアンケートの結果でもわかりますように、まだまだ障害を持った方々が仕事をするという上で、さまざまな課題が日本の社会にあるということがわかります。

 ここから2つ目の内容です。このような状況を改善する一つの有力なツールとして、私は障害者権利条約があるのではないかと思うのです。
 内閣府はこの2月に障害者に関する世論調査を行なっていますが、その調査項目のなかに「障害者権利条約が国連で採択されたことを知っているか」という質問が含まれています。知っていると答えた方は18%です。しかし内容については、知っている方は3.5%です。そういう意味で、これから皆様に障害者権利条約の内容を少しご説明いたしますが、関係者はぜひそれを十分伝えていただきたいと思います。
 人権問題が、世界的に意識されるようになったきっかけは、1948年に国連総会で採択された世界人権宣言です。それに基づいてさまざまな権利条約というか人権条約というのが出来てきました。比較的皆さんにとって身近なものは、1979年にできた、女性差別撤廃条約です。それに基づく日本では男女雇用機会均等法が出来ました。その10年後の1989年には子どもの権利条約が出来ました。一般の人権条約は全部で6つあり、6大人権条約といわれています。
 基本的には、世界権利宣言にしてもあるいは、6大人権条約にしても、すべての人を対象にしたものです。すべての人というのは、障害を持った人も含まれるし、それ以外のマイノリティーもすべての人の中に含まれるということです。
 しかし現実問題として障害を持っている方について、先程のアンケート調査の結果にも出ているように、必ずしも、対等、あるいは平等に取り扱ってこなかったという事実が厳然としてあるわけです。それ故に障害を持った人たち特有のニーズに対して、きちんと対応できるような条約を作る必要があるというコンセンサスが90年代終わりぐらいから出来てきて、2001年の国連総会で、この権利条約を検討するための特別委員会の設置が決まり、去年の12月13日に障害者権利条約が採択されました。
 この権利条約で、強調しておかなければいけないのは、普通国連は基本的には政府対政府の交渉の場なのです。ですからそこに、民間NGOの参加する余地というか、もちろんオブザーバーとしてはありますが、そこに参加して意見を表明するというようなことは前提されていません。ところが、障害者権利条約については、障害当事者の声をきちんと踏まえて、この条約を作る必要があります。ですから、2001年の特別委員会の設置のときから、特別委員会の議論には障害NGOの方々も参加できるように、参加を保障するということになりました。この権利条約の検討のための特別委員会は1回から8回まで持たれましたが、そのすべてのプロセスに障害当事者団体が参加しています。特別委員会では、世界的にゆるやかなネットワーク組織である「国際障害コーカス(IDC)」が積極的に貢献しました。そのメンバーとして日本からも、日本障害フォーラム(JDF)が入りました。ただし、JDFが正式にできたのは、2004年ですから、正式の組織としては特別委員会の途中から加わったというわけです。私も、第一回から大半の特別委員会には参加してきました。
 今回権利条約を作るプロセスにおいて、この当事者団体が非常に大きな働きをしましたが、実は今後この条約が効力を発揮するには、20カ国が批准する必要があります。現在批准している国は、ジャマイカ1ケ国です。なぜジャマイカというと、このジャマイカの労働大臣は、視覚障害の方です。ですからこの方は最初の委員会からずっと出ています。そういう意味では、ジャマイカが率先して批准しました。その批准の前に署名という、国として批准するべく意図はあるということを意思表示をする手続きがあります。昨日までの段階で97の国が署名していますが、その中に日本は入っていません。残念ながら日本政府は、いまのところ批准の用意は、出来ていないということです。安倍総理はできるだけ早く批准するようにがんばれというような、号令をかけているようです。そういう意味では、おそらく2年ぐらいの間には、批准が出来るのではないかと思います。
 まず条約交渉で非常に議論になったのは、障害の定義をめぐってです。現在のところ世界的に障害についての共通の定義はないのです。WHO(世界保健機関)が定義をしておりますが、必ずしもこれは、コンセンサスがある定義にはなっていません。そういう意味で障害の定義をすべきかどうか、最初から議論になっています。というのは余り対象を広く決めると、特に途上国では対応できないということがあります。逆に余り定義を狭くすると、先進国にとっては意味がない。そこで、どこで妥協するのかということが、定義だけでなく、条約全てに付いて課題となりました。日本の場合は身体障害については、基本的には医学的な観点から、障害のインペアメント、機能欠損がどの程度だったかということが、定義のベースになっています。それに対して、前から障害当事者団体からは、障害そのものというよりもむしろ社会的なバリア、つまり人々の態度とか、さまざまな環境上の問題とか、制度上の問題で参加したくても参加できない、働きたくても働けない、学校に行きたくても行けない、だから自分たちの問題というよりも、むしろ社会の側の問題であって、社会を変えることが先決ではないかという問題提起がなされてきました。リハビリテーションあるいは治療によって、障害を出来るだけなくするという本人の努力なのか、あるいは社会の側の問題なのか、両極端になるわけです。しかし、条約の定義では両方の問題としています。つまり、社会参加の妨げとなっているのは、インペアメントと社会のバリアの相互作用によると定義しています。そういう意味では、一歩前進した形で定義されています。
 条約はその目的として、「この条約は、障害のあるすべての人による、すべての人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し及び確保すること並びに障害のある人の固有の尊厳を促進すること」を謳っています。を目的とする。」ちょっと分かりにくい表現ですけれども、障害のある方の基本的な権利であるとか、自由であるとか尊厳を守り、促進するということがこの条約の目的だとしています。
  また、条約では、差別について規定しています。障害に基づく差別とは、あらゆる区別、排除または制限であって云々ということが規定されています。つまり障害によるあらゆる区別、排除、制限ということが差別ということです。わが国の障害者基本法にも、差別禁止規定が入っていますが、差別とは一体なんだということは規定されていません。この権利条約では、差別とはどういうことであるかとか、特に皆さんと関連のあることは、“合理的配慮”ということがうたわれています。合理的配慮は訳語などで、良く分からないと思いますけれども、要は、障害を持った方が、障害を持たない方と対等に参加するために必要な条件整備です。例えば、介助者がいれば対等に参加出来るということであれば、そうした介助者の配置であるとか、あるいは、パソコンなりソフトによって、見えなくても音声で内容が分かるようにするとかです。そういうソフト面での配慮であるとか、あるいは制度的な配慮、あるいは交通機関を利用しやすくするとか、そういう環境上の配慮をしないことは差別であるということです。合理的配慮は、雇用に関連して民間企業にも求められますが、職場の中にエレベーターをつけるとか、あるいは特別な人を配置しろとかいうことは、4人・5人の零細企業にそこまで要求するのは難しい。したがって、過度の要求ではない限りという条件付ではありますけれども、基本的に配慮するということがうたわれています。
 労働・雇用に関連しては、あらゆる形態の雇用にかかわるすべての事項に関し、障害による差別を禁止します。あらゆる形態の雇用には、フルタイムでの一般雇用だけではなくて、自宅で仕事をされる方、あるいはパートで仕事をする方、派遣労働といった多様な働き方が増えていますが、それらも含まれるし、また自営や起業、労働協同組合とか、ヨーロッパなどで広まっている社会的企業、さらには一般就職が困難な障害のある方を対象とした代替雇用(保護雇用)なども含むとされています。また、すべての事項というのは、募集・採用から、昇進、雇用の継続、労働条件といったことについても、差別してはいけないという形になっているわけです。
 わが国の障害者雇用促進法では採用・解雇、雇用継続はカバーしていますが、昇進とかキャリアデベロップメントをしているかどうかとか、労働条件がどうかについては問題にされていません。この条約を批准するにあたって、現在の雇用促進法に含まれていない合理的配慮であるとか、雇用の質に関わる部分をどうするのかといったことを検討する必要があると思われます。
 いずれにしても、もし皆さんがこの権利条約が、まさに自分たちの声を反映しているものであると理解されるのであれば、これをいかに周辺の人たちに十分理解してもらえるような努力をしていただけるのかということだと思います。たとえば、先駆的な障害者差別禁止法を持っているカナダでは、雇用衡平法という雇用の機会を平等にするための法律が1986年にできて丁度20年たっていますが、この法律の20年間の成果について、最近報告書としてまとめられています。雇用の平等は、カナダの場合は、女性、少数民族等についてはかなり成果が上がっています。カナダの場合、労働人口に占める障害者の割合は、5.6%です。これは、定期的な実態調査で明らかにしているわけです。本来、労働年齢の障害者の割合である5.6%まで障害者を採用しなければいけないところを、現状は2.3%です。法律ができて、20年たっているわけですが、5.6%に対して2.3%ですので、半分にもいっていないという実態があります。その意味では、条約とか法律だけでは、実効があがらないところがあります。その理由としては、やはり多くの人たちは、障害を持った人たちは労働力ではない、福祉の対象であっても、平等に労働に参加することを保障する対象であるとは、一般の人たちはそのように理解していないです。その意味で、やはり一般の人たちの意識を変えることが極めて大事です。タートルの会長が「会員同士の学習に重点を置いてきた従来の活動に加え、企業経営者など外部に向けて、視覚障害者自らが実態を周知徹底し、実情を知ってもらう努力を積極的に行うこと」と言っておられます。今回のNPOの設立趣旨にも掲げておりますが、やはり対外的な活動の成果が上がるように、今後さらに積極的に取組んでいただきたいと思います。権利条約第8条でも「意識啓発」として、「障害のある人の技能、功績および能力並びに、職場および労働市場への貢献についての認識を促進する」などがかかげられております。それをぜひこの会の主要な活動の一つとして進めていただきたいと思います。最後にこの会の更なるご発展を祈念して、つたない講演を、終わらせていただきます。
 どうもご静聴ありがとうございました。


【NPO法人タートル設立総会】

期日: 平成19年6月16日(土)
場所: 東京都障害者福祉センター

第1号議案 議長の選任
第2号議案 議事録署名人の選出
第3号議案 特定非営利活動法人タートルの設立について
第4号議案 特定非営利活動法人タートルの定款について
第5号議案 設立当初の役員について
第6号議案 設立当初の資産について
第7号議案 事業計画及び収支予算について
第8号議案 設立当初の入会金及び会費について
第9号議案 確認書の確認について
第10号議案 法人設立認証申請について
〈第1号議案 議長の選任〉
議長に工藤正一氏、副議長に新井愛一郎氏を選任
出席者数をボランティアの協力により確認した。出席者数は開会時点で40名
〈第2号議案 議事録署名人の選出〉
議長一任とし、議事録署名人 鈴木信一 長岡保  書記 杉田ひとみ
〈第3号議案 設立について〉
第3号・第4号・第5号議案は関連しているのでまとめて審議した。
○安達(発起人) 設立趣旨書(案)は会報47号に掲載されているとおりです。タートルの会の12年間の経験と知識を生かして、社会に向けて我々が発信して、社会の理解を得るという目的のためという内容で、設立趣旨書が成り立っております。墨字が読めないものですから、記憶の中で説明させていただきます。NPO法人設立を認証する目的の趣旨として17項目ございます。タートルの活動に合致しているというのを選んで、それを目的の趣旨としています。どなたか見える方に第3条のところあたりを読んでいただくと皆さんにも分かりやすいと思いますのでお願いします。
○和泉 定款(案)の第3条と第5条を読み上げ
○安達 主体となっているのは、タートルの今までの情報提供・相談・交流をベースに細分化しているわけです。その中にセミナー事業が入っています。これも一つの手段として、雇用側あるいは関連するリハビリテーションの訓練だとか、そういうところに対する啓発活動、といった視覚障害者を少しでも理解してもらうためにセミナーも開くというような事業です。19年度、20年度の事業活動もそれがベースになっております。決して今までの活動を逸脱して新しいことをするんじゃないというところをご理解の上、もう一度定款と趣旨書を読んでいただきたいと思います。
○嶋垣 私の方で前もってメールで質問させていただきその回答が来ています。その中で、この定款にちょっと矛盾しているところがあるんです。事業の種類の中に、いわゆる広報PR活動みたいなところについては、情報云々ということがあるんだけれども、設立趣旨書にはホームページ活用ということが書いてあるわけです。それについて、こういうのも事業の種類として入れた方がいいんじゃないですかということに対しては、ホームページは事業じゃないんですとの回答です。具体的に内規みたいなものもこれから出てくるんであればそれでもいいと思うんですが。それと、今までの任意団体だとか互助会的な部分から、いわゆる法人なんだから、法人ということは会員といっても社員なんだから、それを一丸になってやるということも一つの方向性を示すためにも、あった方がいいんじゃないかという気がします。あと一番確認したかったところは、今日のこの設立総会で定款とか事業計画が決まるわけです。「定款は総会で決める」ということになっていますから、今日決まった形で東京都に認証申請を出すということを、まず冒頭のところではっきりして欲しいんです。
○下堂薗 東京都に事前に打ち合わせに行ったんですけれども、ホームページやメーリングリストについては表立って事業というにはその専門性があるんですかと言われたんです。単に業務運営上の一端として使っているんであれば、それは除いていいんじゃないですかという説明がありました。
○篠島 私も会長と一緒に東京都に行ってきました。今のホームページのことは情報提供事業の一つとして、そこに組み込んで具体的には考えればいいでしょうと。ですから、ホームページの運営に関する事柄というのは、法人の一つの管理業務の中として位置付けていいでしょうと。だから、ホームページを充実するとか、ホームページにどういうものを掲載するとかいうことは、社会に向かっての啓発活動の一つだという位置付けなんですね。ホームページについてはあえて事業の中に組み込む必要がないなというふうに私も思いました。
○嶋垣 情報誌は事業になっているじゃないですか。
○篠島 社会啓発の一つとして考えます。
○嶋垣 そこのところを単純な話なんだから、設立趣旨書の事業の中で情報誌とあるんだから、情報誌・ホームページ等でもいいじゃないですか。
○重田 事業についての言葉のとらえ方が問題にされているようですが、議論の本質からすると外れているように思います。内容的には事業として出そうがツールとしてとらえようが、基本的には変わらないと思うんですね。そういう意味では、定款で書かれた内容が特に我々の活動を制限するようなものでもないと思いますので、ぜひ議事を前に進めていただければと思います。
○鈴木 今おっしゃっていることは、定款の変更ということになると思います。定款をよく読んでいただければお分かりかと思いますが、定款の変更に関しては臨時総会あるいは総会などで定款の変更が認められなければ変更は出来ないわけです。当然ここで決まった以降に関しては、今後は総会あるいは臨時総会で変わるのが常識だと思いますが。
○下堂薗 一言発言させてください。鈴木さんが発言した内容と同じことを発言しようと思っていましたので、全く同感です。以上です。
○嶋垣 昨日私がメールで質問し、その回答の中でいわゆる表決権、これについて今の定款の案ですと委任状と、もう一つ代理人的な人を選んで云々ということが書いてあるんですが、これについては無くした方が良いという回答でした。委任状だけにするんだったら委任状だけにするということを決めてください。
○和泉 総会での表決権、第28条を読み上げ
○議長 「代理人」を省くということですね。
○嶋垣 昨日メーリングリストに流れた文章で変えるというところは変えるんですといったらそれはそれでいいんですよ。
○議長 変えるといっても、ここでどう直すかというのを確認しないと変えられないですね。嶋垣さんから来た質問に対する回答で、執行部側が変えますと言ったところをまずどこか特定して、そこをどういうふうに変えるかということをこの場で提案しないといけないということですね。
○篠島 定款の方に「その他の会計区分」というのが残っていますから、これも削除します。
○和泉 メールでの質問の内容を読み上げ
○嶋垣 会員資格の喪失というところで、1年以上会費を滞納したものが会員の資格を喪失するとなっているんです。この1年以上というところがちょっとよく分からない。
○篠島 今1年以上というふうにしているのは、総会の資料を送る時に、会費納入の振り替え用紙を入れますね。そしてそれが払われたとしますね。次の年の納入の催促というか振り替え用紙を入れたけど、それが払われない。そうすると、次の総会の時までが1年ですね。その次送ってそれでもこないという時に、それは切りますよという、1年以上とはそういう意味合いを考えているんです。内規で、送ってから何ヶ月したら催促して、何ヶ月したら払わないものと見なすとか、そこはこれから実際に運営委員も含めて、会費納入の督促をしていくかということを決めていかないといけないなと思います。
○嶋垣 総会の定足数の部分のところで、今定款では会員の3分の1になっています。民意を反映するのであれば、やっぱり2分の1じゃないんですか。
○下堂薗 おっしゃるとおり民法上の民主的なルールからいいますと2分の1というのが普通の話なんですけど。そのことについて、もちろん内部で色々議論した経緯があります。東京都にも相談したんです。視覚障害という特殊事情があるんだということを話したら、そういうこともあるんですねということで、理解をしてもらえました。それとNPO法人の中で、すでに3分の1で認可されている団体もあると聞いたものですから、東京都の理解も含めて3分の1にしたというのが経緯です。
○篠島 設立当初の役員の名前を申し上げます。
下堂薗保・松坂治男・工藤正一・新井愛一郎・篠島永一・石山朋史・杉田ひとみ・安達文洋・森崎正毅・大橋由昌(監事)
今までのタートルの会の幹事はそのまま運営委員としてやっていただきます。
○嶋垣 私は、今お名前があがった方には全然なんの異議もないです。ただ、これもざっくばらんに言いますけど、今の議事の進行を見ていて、やっぱり晴眼者の役員の人が3分の1くらいいないと、いろんな事業の種類とか書いてあるんだけども、そういう部分ではパートナーシップを持ってやることは決して悪いことじゃないし、当事者だけでやるということが決していいことじゃないわけだから。これから申請を出されて活動なさっていく間に、ぜひ役員の定数も余裕があるみたいですから、一緒にやっていただける晴眼者の役員を会員も含めて立てていただくような方法をぜひ検討したらいいんじゃないですか。
○議長 非常に良い建設的なご意見だったと思います。
 3号・4号・5号議案、ここまでについて賛成の方は起立お願いします。
満場一致で承認されました。
〈第6号議案 設立当初の資産について〉
提案どおり承認
〈第7号議案 事業計画及び収支予算について〉
○松坂 新たな新規事業としてセミナー活動、これは社会貢献活動をするためにセミナーを企画して世間にアピールしていこうということで、新たに追加した事業です。
○嶋垣 今度法人ということなので、例えば事務局もしくは事務所というのは、常時連絡が取れるような形にしないとならないというのがあります。僕はそれが大前提だと思うんです。現状では、非常に苦慮しているというお話がメールで返事として書いてあるんです。電話を受けたりとかの部分は役員が全部背負うのじゃなくて、NPO法人タートルとして専用電話が設置されるんであれば、今度は今までのタートルの会の会員と違って社員なんだから、全員で支える、もうちょっと会員の人達にも声をかけて応援してくれるように、ぜひ発信して欲しいということが一つです。もう一つは相談のことなんですけど、これはお金にも絡むところで、僕は前から役員の人達が背負っている部分のところ、これははっきり言って勤労奉仕なわけです。回答の中には、ここ最近は、少しは経費、交通費みたいなものとかも捻出するようにはしているとは書いてあったんだけども、この辺はちゃんとした事務所とか事務局の運営ということを考えるに当たっても、かかるものはちゃんと提案した方がいいと思うんです。それでも日当が出たり報酬が出たりするわけじゃないということは、皆分かっているんだから。
○議長 極めて当然ご理解の上でのご指摘だと思います。予算案にも収支にも関わってきます。法人化を契機に検討し、実際に見合ったような形に直していくということです。予算書についても役員会に一任ということで良いでしょうか。
提案どおりに承認。
〈第8号議案 入会金及び会費について〉
○議長 タートルの会の会員については、例えば今日会費を払った人はそのままNPO法人の正会員に移行するということを皆さんで確認するということです。
提案どおりに承認。
〈9号議案 確認書の確認について〉
○和泉 法人設立確認申請についてを読み上げ
提案どおりに承認。
〈第10号議案 法人設立認証申請について〉
○和泉 法人設立確認申請についての関係する項目を読み上げ
(1)設立代表者は下堂薗保とする。
(2)役員に決定したものは、平成19年6月30日までに就任承諾書及び宣誓書を提出する。
(3)役員のうち報酬を受けるものはいない。
(4)設立当初の社員は、任意団体中途視覚障害者の復職を考える会(通称タートルの会)の会員とする。
(5)申請書類の*の事項の修正については設立代表者に一任する。
第6号から第10号議案までを満場一致で承認


【NPO法人化の進展状況】

 平成19年6月16日の午前中に第12回定期総会を開催し、「タートルの会」としてNPO法人化への移行を承認し、午後設立総会を行いました。前稿にその模様を「設立総会まとめ」として掲げています。
 この結果に基づき、定款を修正し、認証申請書類を整えていったわけです。以下にその申請書類の項目を記しておきます。

1 設立認証申請書(1部)
2 定款(2部)
3 役員名簿及び役員のうち報酬を受ける者の名簿(2部)
4 各役員の就任承諾書及び宣誓書の写し(謄本)(1部)
5 役員の住所及び居所を証する書面(住民票の写し)(1部)
6 社員のうち10人以上の者の名簿(1部)
7 確認書(1部)
8 設立趣旨書(2部)
9 設立について意思の決定を証する議事録の写し(謄本)(1部)
10 平成19年度及び平成20年度の事業計画書(各2部)
11 平成19年度及び平成20年度の収支予算書(各2部)
12 事務所設置について使用許可書
13 副理事長の辞退について

 なお、報酬を受ける役員はいません。また、社員のうち10人以上の者の名簿については、現在のタートルの会幹事のうち、NPOの役員でない人たちの名前を挙げています。事務所は日本盲人職能開発センターに置かせてもらうことにしているため、センター理事長名の使用許可書をもらっています。また、副理事長辞退については、国家公務員である工藤正一氏が就任承諾を正式に提出する段で、当局に問い合わせたところ単なる理事なら問題はないが、法人の決定権を持つ副理事長は認められないと断られたことにより、設立総会で承認されていたため、議事録からは外さず、定款の役員名簿から外したことに対する釈明資料として提出しました。
 定款の修正箇所は次のとおりです。
1.(総会での表決権等) 第28条 「2 やむを得ない理由により総会に出席できない正会員は、あらかじめ通知された事項について書面をもって表決し、又は他の正会員を代理人として表決を委任することができる。」を「2 やむを得ない理由により総会に出席できない正会員は、あらかじめ通知された事項について書面をもって表決、又は委任することができる。」と修正する。
2.(資産の区分) 「第39条 この法人の資産は、これを分けて特定非営利活動に係る事業に関する資産、その他の事業に関する資産の2種とする。」を「第39条 この法人の資産は、特定非営利活動に係る事業に関する資産とする。」と修正する。
3. (会計区分)第42条「この法人の会計は、これを分けて、特定非営利活動に係る事業会計、その他の事業に係る会計の2種とする。」を「この法人の会計は、特定非営利活動に係る事業会計とする。」と修正する。
4. 設立当初の役員について、副理事長に工藤正一氏を挙げていましたが、これを理事に修正しました。
 事業計画および予算書についての修正は、以下のとおりです。
1. 「会報、機関紙」は「情報紙」に修正すること。
2. 事業計画書の相談事業と交流会事業に会場費の計上がなく、予算書との数値の食い違いがあり、これを修正すること。

 以上の修正を加えた書類等を作成して東京都生活・文化局に提出し、認証申請が7月30日付で受理されました。目下、縦覧中であり、11月中旬には認証される予定です。


【お知らせ】

「視覚障害者の雇用継続支援実用マニュアル」が9月20日に発刊されました。発行は、社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会、企画・編集が「タートルの会」です。A4版、横書き、全体で145頁です。副題を〔関係機関毎のチェックリスト付〕〜連携と協力、的確なコーディネートのために〜としています。視覚障害についての理解を深める啓発本であり、眼科医をはじめとする医療機関用のチェックリストや就労支援機関等の関係者に気付きを促すチェックリストを主眼にしています。目次を下に記しておきます。

<目次>
発刊に当たって
社会福祉法人日本盲人社会福祉施設協議会理事長 本間昭雄
はじめに
中途視覚障害者の復職を考える会(通称:タートルの会)会長  下堂薗 保
T 視覚障害者の職業事情
U 連携と協力
V コーディネート
W 制度とコンプライアンス
X 視覚障害者の雇用支援制度について
Y 視覚障害者を理解してもらうために
Z チェックリスト
  1. 医療機関用
  2. 就労支援機関用
  3. 訓練施設用
  4. 事業主・職場用
[ 資料編
  1. 発出文書、法令抜粋等
  2. (1)人事院通知
    (2)ハローワーク等への厚労省課長通知
    (通知文)視覚障害者に対する的確な雇用支援の実施について
    (別添1)視覚障害者の職業紹介状況(平成18年度)
    (別添2)視覚障害者が実際に就いている「あはき業」以外の具体的職種例
    (別添3)視覚障害者を対象とする職業訓練コース(都道府県別開設コース)
    (別添4)「あはき業」関連の指導・訓練教育施設
    (別添5)視覚障害者の支援団体等
    (別添6)視覚障害者の雇用促進に関する参考図書・資料リスト
    (別添6−1)2000年以後のロービジョンケアに関する主な和文参考図書リスト
    (別添7)視覚障害者のための就労支援機器リスト
    (3)障害者雇用促進法等法令抜粋
  3. 視覚障害リハビリテーション施設等
  4. 就労支援機関連絡先等
  5. (1)ハローワーク統括部局所在一覧
    (2)障害者職業センター一覧
    (3)各都道府県障害者雇用支援協会所在一覧
    (4)各都道府県障害者雇用情報センター一覧
    (5)各都道府県障害者職業訓練校所在一覧
企画・編集委員および助言者リスト
あとがき

なお、会員の皆さんにはCD版を用意しようと準備中です。


【編集後記】

 本号は、任意団体「タートルの会」の会報の最終号です。認証されればの話でしょうが、次号は会報ではなく、NPO法人「タートル」の情報誌「タートル」(創刊号)となるのでしょう。
 さしあたって、創刊号は、今までと同じではなく、広く社会啓発を促す事柄を主張していくことになろうかと思っています。このことは役員会で詰めていくことになりますが、いずれにせよ内容は今までの「交流会記録」や「職場で頑張る」を中心にまとめることとなるのかもしれません。
 どのような情報誌にすればよいか、皆さんのご意見をお聞かせください。今まで情報の提供を受ける側であった皆さんが情報を提供する側になるのだという意識を持って欲しいのです。また、押し付けられるのでなく、皆さんが主体的に作り上げる情報誌とする気持ちを持っていただきたいのです。
 このことはNPO法人「タートル」の会員である皆さんの意識改革の象徴と言えましょう。「自分たちのための」から「みんなのための」に意識を切り替えることが、任意団体から法人として社会化することなのです。
 交流会にしろ、ホームページにしろ、すべて情報を提供する対象者が、当事者から不特定多数の社会全体を対象とするのだという意識にならなければなりません。私たちみんなが考え方を変えるべき岐路に立っているのです。
(事務局長:篠島永一)

中途視覚障害者の復職を考える会【タートルの会】会報
『タートル49号』
2007年9月13日発行 SSKU 通巻2562号
■編集 中途視覚障害者の復職を考える会 会長・下堂薗 保
■事務局 〒160-0003 東京都新宿区本塩町10-3
     社会福祉法人 日本盲人職能開発センター 東京ワークショップ内
     電話 03-3351-3208 ファックス 03-3351-3189
     郵便振替口座:00130−7−671967
■タートルの会連絡用メール m#ail@turtle.gr.jp (SPAM対策のためアドレス中に # を入れて記載しています。お手数ですが、 @ の前の文字を mail に置き換えてご送信ください。)
■URL=http://www.turtle.gr.jp/


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