特定非営利活動法人タートル 情報誌
タートル 第32号

1998年10月9日第三種郵便物認可(毎月3回8の日発行)
2015年9月5日発行 SSKU 増刊通巻第5233号

目次

【巻頭言】

『私のワーク・ライフ・バランス』

理事 松尾 牧子(まつお まきこ)

私は現在一般企業で仕事をしながら趣味のヴァイオリンを弾いています。 もともと学生時代、ヴァイオリンを専攻していたものの、楽譜がどんどん見えなくなり、非常に辛い思いをしていましたし、卒業後の不安を感じていました。勉強不足でとても音楽で食べていくことはかなわず、仕事についても目のことが原因でパワハラを受けたり、大変辛かったときもあります。

しかし、タートルに相談して新しい一歩を踏み出すことができて現在の会社に勤めて9年。就職してもなかなか仕事がないまま数年が経ち、ようやく私ができる業務が少しずつ増えてきたころ、ある1通のメールで私の新たな演奏活動が開始されることになりました。

卒業後は何度もヴァイオリンをやめればきっと楽になると思いつつも、誰かが演奏依頼をしてくださって、細々と練習をしてきました。再就職したころは視力としての視野がなくなってしまい、演奏ももういよいよできないなと思っていたころに届いた1通のメールは、「NHK厚生文化事業団50周年記念コンサート」に障害のある演奏家も参加しませんかというものでした。

まさかオーケストラで、しかも世界的に活躍されている小林研一郎先生のもとで弾かせていただけるということで、楽譜を見ることもできないのを忘れて私は速攻申し込んでいました。

楽譜は当然、眼で見ることはできないので、自分のパートをヴァイオリンを弾ける人に弾いてもらってそれを録音して、ひたすら聴いて弾いて、聴いて弾いてを繰り返し、CDと合わせてみたり、それはそれは大変な作業です。
いざオーケストラの練習では指揮も見えません。もちろん完璧にはできないものの、指揮者の呼吸だったり、隣の演奏者の呼吸や他のパートの音、衣擦れの音までも聴きながら、みんなと一緒に演奏ができたのです。

視覚に障害があってもプロの演奏家は何人もいらっしゃいます。だから私にだってできないことはないのに、どこか「できない」スイッチを入れていたのでしょう。今思えばもっともっと早く「やればできる」スイッチを入れられていたらと思いますが、遅ればせながら今改めてちゃんと勉強してなかった学生時代を取り戻すべく勉強中というところです。

仕事でも今ではいろいろやらせていただけるようになり、演奏の方でも更に難しい課題をこなさなければならない状況へと一歩進みました。
両方ともこなせているとはとても言えませんが、でも仕事だけで疲れるのではなくて、好きなこともやって疲れているのだから、充実していると言えるのではないかと思っています。

壁を乗り越えるって簡単なことではないものの、皆さんが何かあきらめていたことがもしあるのなら、何かがきっかけで「やればできるスイッチ」が入って、工夫やサポートしてもらうことでできるようになるかもしれません。タートルのみんなで知恵を出し合って趣味などについてもサポートもできたらいいですね。

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【認定NPO取得のご報告と更なるご支援のお願い】

認定特定非営利活動法人タートル
    理事長    松坂 治男

はじめに

タートルでは、昨年来取り組んできた、「認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)」の申請について、去る5月19日に東京都より認証を受けることができました。有効期間は認定日から5年間です。
認定NPO法人になると、寄付を受け易くなるというメリットもありますが、組織や事業活動の適正な運営の維持、事務量の増大など、更なる人的サポートが求められてくるという課題もあります。
以下、その概要とお願いです。

●認定NPO法人とは

認定NPO法人は、NPO法人のうち、その運営組織及び事業活動が適正であって、公益の増進に寄与する法人について、一定の基準をクリアした法人に認められるものです。
6月5日現在、NPO法人の全国総計54,573団体のうち、認定を取得しているのは、540団体(全体の約1%)に過ぎないことを考えると、タートルは、おかげ様で、結構な狭き門を突破できたことになります。

●認定NPO法人に寄付をした方・法人への税制上の優遇措置とは

認定NPO法人の最大のメリットは、その団体に寄付をした方もしくは法人に対して、以下のような税制上の優遇措置が設けられていることです。

@個人が寄付をした場合
寄付金控除または税額控除のいずれかの控除を選択適用できます。
A法人が寄付をした場合
一般寄付金の損金算入限度額とは別に、特定公益増進法人に対する寄付金の額と合せて、特別損金算入限度額の範囲内で、損金算入が認められます。
B相続人等が相続財産等を寄付した場合
寄付をした財産の価格は、相続税の課税価格の計算の基礎に算入されません。

☆詳細については以下のURLでご確認ください。
https://www.npo-homepage.go.jp/kifu

●賛助会員への入会、及びご寄付のお願い

タートルが一貫して行ってきた中途視覚障害者の就労支援について、その体制や内容を充実していくには、皆様のご支援、ご協力による財政基盤の強化が欠かせません。
また、認定基準が求める、パブリック・サポート・テスト(広く市民から支援を受けているかどうかの基準)の絶対値基準(3,000円以上の寄付者が年平均100名以上)をクリアするためにも、皆様からのご支援が必須です(注)。

(注)認定基準のポイントであるPSTには、「相対値基準」(収入に占める寄付の割合が20%以上)と「絶対値基準」があり、そのいずれかをクリアすることが求められています。今回、タートルは、相対値基準を選択し、クリアすることができました。しかし、相対値基準は、寄付とみなされる助成金の多寡によって左右されるなど、不安定感は否めません。
5年後の認定の更新においては、より安定した絶対値基準でのクリアをめざしています。

今般の認定審査において、賛助会員の会費も寄付とみなされる(税制上の優遇が受けられる)ことを確認しております。「総会での議決権は要らないが、会員としてタートルの活動を支援したい」という方は、ぜひ、賛助会員にご加入くださいますようお願いいたします。また、タートルの趣旨にご賛同くださり、側面からご支援いただける皆様には、温かいご寄付をぜひともお願いいたします。

☆賛助会員への入会及び、ご寄付のお申込みについては、事務局にご連絡いただくか、タートルのホームページ掲載の申込書をご利用ください。
事務局電話 03(3351)3208(受付時間:土日・祝日を除く10:00〜20:00)
ホームページ http://www.turtle.gr.jp/join.html

●組織運営・事務量増大へのご協力のお願い

タートルが認定NPO法人になったということは、組織運営や事業活動が適正であることを担保するコンプライアンス体制や、透明な会計・経理処理がこれまで以上に求められてくることになります。寄付(賛助会費を含む)の受付や領収証の発行、東京都への報告事項が増えるなど、事務量が増大することも必至です。
タートルが、本来の使命である中途視覚障害者の就労支援の更なる充実を果たし、認定NPO法人に求められる社会貢献や公益増進に寄与し続けるためには、マンパワーの更なる充実が必須です。これまで以上のご支援・ご協力を、どうぞよろしくお願いいたします。
また、とくに会員各位におかれましては、認定NPO法人の会員として、タートルの活動への更なる積極的参画・関与・サポートを切に期待しています。

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【平成27年度通常総会報告】

6月6日、日本盲人職能開発センターにおいて通常総会が開催された。今回も総会と記念講演の模様を大阪会場と福岡会場にスカイプ中継した。
議事に先立ち、理事長の松坂より認定NPO法人として、5月19日に東京都から認証を受けた旨の報告があった。

◎審議内容

1.平成26年度事業報告(タートル31号参照)
事業については理事長から一括して報告があった。

2.平成26年度収支決算報告

3.平成26年度監査報告
採決に先立ち、以下の質問・要望があった。
質問:S氏
会員数は昨年に比べて増加傾向にある。一方会費未納者も多くなっているが、原因と今後の対応策について説明してほしい。
回答:杉田理事
平成26年3月末現在、会員数263名に対して、会費未納者は約45名、平成25年度は同時期で約10名余であった。
回答:松坂理事長
会員資格の更新時期においては、会費の振込用紙を郵送しているが、見えないため気が付かないこともある。そのため、例えば、入金のない会員に対しては、振込用紙の再発送を行ってきた。しかし、本年は認定NPO法人格の取得手続きなどに忙殺され、再発送ができなかった。今後は再発送を実施するなどして、会費未払いに対応していきたい。
要望:S氏
認定NPO法人格の取得によって、今後、寄付や賛助会員の募集などが活発に行われることと思う。こうした協力者へのアフターフォローをしっかり行い、会の継続・発展につなげていっていただきたい。また、それに伴い事務工数の増加が懸念されるが、事務局に専従者をおくなど、効率的な組織運営を課題として検討していく必要がある。
回答:松坂理事長
事務局運営は、新たに人をお願いするなどして対応を行っている。会員もNPO法人の一員としての自覚をもち、活動に積極的に参加していってほしい。

4.任期満了に伴い役員の改選が行われた。
役員選出に際し、松坂理事長より理事会の若返りの必要性が説明され、そのうえで理事会から新役員案が提案され承認された。

平成27年度役員
理事長 松坂 治男(マツザカ ハルオ)
副理事長 工藤 正一(クドウ ショウイチ)
副理事長 新井 愛一郎(アライ アイイチロウ)
理事(事務局長) 杉田 ひとみ(スギタ ヒトミ)
理事 安達 文洋(アダチ フミヒロ)
理事 市川 浩明(イチカワ ヒロアキ)(新任)
理事 和泉 森太(イズミ シンタ)
理事 神田 信(カンダ シン)(新任)
理事 熊懐 敬(クマダキ ケイ)
理事 重田 雅俊(シゲタ マサトシ)
理事 清水 晃(シミズ アキラ)(新任)
理事 長谷川 晋(ハセガワ シン)(新任)
理事 藤井 貢(フジイ ミツグ)
理事 藤田 善久(フジタ ヨシヒサ)
理事 星野 史充(ホシノ フミタカ)
理事 松尾 牧子(マツオ マキコ)(新任)
理事 湯川 仁康(ユカワ キミヤス)
監事 下堂薗 保(シモドウゾノ タモツ)(新任)
監事 伊吾田 伸也(イゴタ シンヤ)
相談役 篠島 永一(シノジマ エイイチ)

5.各担当理事より、27年度の活動計画が提案され承認された。(タートル31号参照)
相談事業に関しては、これまで電話相談は下堂薗理事が担当してきたが、同理事の退任に伴い、熊懐理事が引き継ぐことが報告された。また、工藤副理事長より、これまで蓄積された相談業務のノウハウを「マニュアル化」したいとの発表があった。
交流事業に関しては、重田理事より、昨年度に引き続き「タートルサロン」の開催を実施し、会員相互の交流に努める旨が発表された。
情報事業に関しては、長岡理事より、情報誌の内容についての提案があった。また、長岡理事の退任に伴い、清水理事が引き継ぐことが報告された。 また松坂理事長より、ホームページ更新を図りたい旨の発表があった。
啓発・セミナー事業に関しては、新井副理事長より、昨年度作成した「ガイドブック」の成果を拡大するとともに、出前セミナーを通じて企業と連携を図り、新規・継続雇用支援の双方に取り組んでいく旨が発表された。
ボランティア窓口について、長岡理事の退任に伴い、市川理事が引き継ぐことが報告された。
助成金関係については、引き続き湯川理事が担当することが報告された。

6.平成27年度予算案は提案通り承認された。(タートル31号参照)
補足:松坂理事長
定期交流会や理事会などで使用している日本盲人職能開発センター会議室の使用料について、昨年度同様、センターのご好意で免除していただけることになった。
質問:S氏
ボランティアに対する交通費や経費の支給はどうなっているか。
回答:松坂理事長
認定NPO法人格取得により、複式簿記の記帳も必要となった。記帳に協力してくれる方への経費などは、適切に支払っていく。 今後も法人の運営基盤(資金と人材)の強化をはかることが必須であると思う。

(事務局長 杉田ひとみ)

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【平成27年度総会記念講演】

『視覚障害者の職業選択の自由〜働く権利を現実のものとするために〜』

講師 日本盲人会連合 会長 竹下 義樹(たけした よしき)氏

【講演レジュメ】

1 働く権利は憲法上の権利である
(1)憲法27条(勤労の権利義務)は視覚障害者にとってどのような意味を持つのか
― 労働基準法や労働保護法は憲法27条の具体化である。障害者雇用促進法は憲法27条の具体化でなければならない。
(2)憲法22条(職業選択の自由)は視覚障害者にとってどのような意味を持つのか
― 一般的には自由権は国による制限や干渉を許さないという趣旨である。しかし、障害者にとって職業選択の自由が保障されていると言えるためには何が必要なのか。差別(合理的配慮を含む)の禁止が前提となるのではないか。憲法14条(法の下の平等)は差別禁止に役立たなかった。改正障害者雇用促進法によって職業選択の自由は実現するのか。
(3)憲法25条(生存権保障)は視覚障害者にとってどのような意味を持つのか
― 生存権は第一義的には働くことによって(所得によって)実現され、第二義的には社会保険(年金保険、雇用保険、労災保険など)によって、最後は公的扶助(生活保護など)によって保障される。改正障害者雇用促進法は、視覚障害者の生存権保障に結びつくのか。

2 改正障害者雇用促進法とガイドライン(障害者差別禁止指針及び合理的配慮指針)について
(1)改正障害者雇用促進法第34条〜第36条
― 採用と待遇に分けて、それぞれ差別の禁止と均等待遇(合理的配慮)を規定し、それぞれのガイドラインの作成を規定した。また、合理的配慮を実施する過程で障害者の意見の尊重と事業者の講ずべき措置を定め、さらには厚生労働大臣の助言、指導及び勧告を規定した。
(2)本年3月にガイドラインが確定した
― 差別とは何か、禁止されるべき差別の定義ないし範囲、合理的配慮の考え方や過重な負担の考え方などを示した。ガイドラインを具体化する指標として別表により差別や合理的配慮の具体例を示した。
(3)2015年6月中には事例集とQ&Aが発行される予定
(4)差別への対処と合理的配慮の実現に向けて
― 職場での話し合いをどのようなメンバーでどのような形式で持つか。外部(専門機関や第三者機関)の協力者を加えることの必要性。具体的な配慮事項(調整、変更、補助機器、その他)を提案することの必要性。要求が実現されなかったときは労働局長の斡旋手続などを利用する。

3 視覚障害者の雇用促進のために
(1)雇用統計の意義ないし役割
― 障害者の法定雇用率の推移と視覚障害者の実雇用数の推移。障害別統計と法定雇用率との関係。新規採用における障害別統計をどう活かすか。
(2)改正障害者雇用促進法の周知と事業者の理解
― まずは視覚障害者ないし当事者団体がガイドラインや事例集、あるいはQ&Aを使って学習すること。労働行政の担当者による学習(研修)の実施。事業団体や経済団体へのPRとガイドライン等を用いた学習会(研修会)の開催を呼びかける。問題事例をマスコミ等に取り上げてもらう。改正障害者雇用促進法第36条の6に基づく厚生労働大臣の助言、指導、勧告をどのようにして発動させるか。
(3)処遇改善、とりわけ雇用形式と安定就労
― 有期雇用そのものを差別と評価できるか。嘱託や非常勤待遇と正社員との処遇の違いを差別と評価できるか。

(以下の講演内容は事務局の責任で編集しております)

<自己紹介について>

みなさん、こんにちは。まず私は「見えない」ということについて、自信を持ちたいというのが私の結論です。自己体験からいうと、私は弁護士になった時に、新聞等でしょっちゅう報じられました。肩書きは常に「全盲の弁護士 竹下義樹」です。「全盲の」がつかない私の新聞記事はなかったと思います。私の活動が何であろうが、私の名前が出る時は「全盲の弁護士」という肩書きでお決まりでした。

ある時、新聞の記者に、「一回、オレの肩書きから『全盲』を外してや」と言ったことがあります。それは私にとってのある種のコンプレックスでした。自分が全盲と言われることによって、何か劣っているというのか、レベルが低いと言われたような印象を持ったのでしょう。私が司法試験を受かったのが1981年11月1日ですから、それ以降の新聞記事をずっと見たらわかりますが、単純に「弁護士 竹下義樹」と出るようになった時期がありました。その時に何か自分ではないように感じたので。1〜2年もしないうちに、「やっぱり肩書きに『全盲』とつけてくれ」とお願いをしました。

何が言いたいかというと、我々が「見えない」ということによってコンプレックスを持っている間は、悲しい段階だと思います。見えないことを決して誇る必要はありません。でも、「見えないことを恥じる必要はない」と思える時に、自分が本当の意味で「自信を持って職業人として生きている時だろう」というのが、今日の枕言葉であります。

<今日の講演の流れ>

さて、そういう思いで、私はこの間弁護士を31年やってきたわけです。たぶん今日講師として呼ばれたのは、障害者の立場、あるいは日盲連の代表として、労働政策審議会(障害者雇用分科会)のメンバーとして、この間の法律改正や基本的考え方(指針)をつくる時のメンバーに加わっていたこともあるので、呼ばれたと思っています。当然、それには自身の歩みの反省も含まれているだろうと思います。

そこで私が果たした役割の「価値」と「不十分さ」と、そして不十分さがあればあるほど、価値があればあるほど、この指針から読み取るものの「重要性」というものが出てくるというのが、今日の私のスピーチの根本であります。

今回は工藤さんから4つの柱で話してほしいと言われました。1つは「ガイドラインを読み解いていただきたい」というのが第1点目です。これが今日の柱だと思って来ました。2つ目は「統計をどう活かし、統計の問題点をこれからどう克服するか」というものです。3つ目は「無理解な事業主をどう説得するか」です。4つ目は「有期労働契約を無期労働契約に変えるためには、何に注意したらいいか」というものです。

<憲法論について>

そこで「まず我々が捉えなければならないのは何か」というと、「憲法」から入るべきだと私は思っています。なぜか。それはすべてが憲法によって組み立てられているわけだからです。

今日のテーマである「労働」ということで言うならば、憲法27条、28条という労働に関する2つの条文があります。27条というのは、皆さんがご存じの「勤労の権利、義務」の規定です。28条というのは「労働組合」あるいは「労働における三権利」、団結権であったり、ストライキ権であったり、団体交渉権の根源となっている規定です。この2つを抜きにしては、いまの日本の労働体系というか、労働法の立法はあり得ないわけです。

そういう意味では、私のレジメは憲法から入っています。私のレジメでは、最初に「働く権利は憲法上の権利である」という当たり前の見出しから入ります。でも、当たり前のことが当たり前として実行されていないところに、障害者福祉のつらさ・現実があるわけですから、当然このお題目から入らざるを得ないわけです。

ちなみにレジメにも書きましたが、我が国における労働基本権は憲法27条から発しているわけです。したがって労働基準法、労働組合法、その他の労働保護法と言われる分野のもの、これらは憲法の理念がその具体的な法律に実体化されているはずです。では、障害者がそこから省かれてよいのかということです。

しかし、それは憲法の建前から言えば、当然、憲法14条に基づいて「平等」ですが、しょせん絵に描いた餅にとどまってきました。障害者が働く時にも「労働基準法の適用がない」などということは誰も言えません。でも、現実には「福祉的就労」という分野では、働いているにもかかわらず、労働基準法は適用されていません。これも、我々は現実として、まず頭に置いておかなければならないのです。そういうことが、この3年から5年の間に国の論議として土俵に載せましたが、克服されませんでした。「中間的就労」という名前は、日本では広がる一方です。

生存というのは、まずは働くことによってこれを成り立たせます。それによって自己実現も図りますし、人生というものが組み立てられていくし、紡いでいけます。これが人間の本質であるし、人間が社会というものを構成している時の大原則ではないでしょうか。そうであれば、我々視覚障害者もまた働くということによって、その労働が適正に評価された時に、その対価としての賃金によって「我々の豊かな生活・人間らしい生活を実現する」というのが大原則でなければいけないのです。

その点からしても、憲法25条の生存権が保障されるということは「我々は働ける限りにおいては、働くことによってその生存を実現させる」ということでなければなりません。そういう点でも、25条に触れておきたいと思います。あとレジメに書いてあることは飛ばします。

これが、まず憲法論として入りたい内容になるわけです。それを踏まえて、今回の改正障害者雇用促進法は来年の4月から施行をされますが、今回改正された改正法の34条から36条の6までが、今回の「差別禁止」と「合理的配慮」という規定によって生まれた内容です。

<合理的配慮と差別について>

今回は改正されていませんが、雇用促進法の5条という総論の規定ではこう書いています。「事業主の責務」という規定です。ここには「第5条 すべての事業主は、障害者の雇用に関し、社会連帯の理念に基づき、障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有するものであって、その有する能力を正当に評価し、適当な雇用の場を与えるとともに適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るように努めなければならない」と書いてあります。

「障害者である労働者が有為な職業人として」は、何となく私はあまり好きな言い方ではありませんが、このあとの「自立しようとする努力に対して」、いいですか、ここが大事ですが、「協力する責務を有する」とまず書いてあるわけです。すなわち「労働者が頑張って働きたいと言えば、それに協力しなさい」と書いてあるわけです。

その協力の中身はというと、その後ろに書いてあるわけです。「有する能力を正当に評価し」、これで「同一労働、同一賃金」が、本当は出てこないといけません。「適当な雇用の場を与えるとともに」、これによって「採用における差別をしたらいけない」と出てこないといけません。「適正な雇用管理を行うことにより」、これによって「合理的配慮」が出てこないといけません。そして「雇用の安定を図る」と言うならば、有期労働であったり嘱託みたいな不安定のものにしたら、本来はいけないということです。

また一昨年の2013年6月に成立した「障害者差別解消法」、これはとても長い名前で「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」ですが、これとの関連を意識しておかなくてはいけないということです。すなわち「障害者権利条約」がこの背景にあるとするならば、34条以下の改正法を適用する場合・運用する場合・解釈する場合は「権利条約に適合するように解釈・運用されるべきである」ということになるわけであります。

2つ目に「障害者差別解消法との関係は」と言うならば、障害者差別解消法の13条にこう書いています。雇用の場における差別の禁止と合理的配慮は、この法律によるのではなく「雇用促進法」によると書いてあります。すなわち、こういう場合に法律的には雇用の場面ではまず「障害者雇用促進法」を適用し、それで足りない部分があれば「障害者差別解消法」を適用してくるという法律関係になるということです。

この意味では、「障害者差別解消法」と改正された「障害者雇用促進法」は別々であってはならないのです。その解釈・運用において一定の統一性がなかったらいけません。もちろん統一性と言う時の中身として、「雇用促進法」が「差別解消法」よりも一歩先へ行っていることは何も問題はありません。それに対して「雇用促進法」の解釈内容が「差別解消法」よりも遅れているとか、レベルが下の解釈・運用がされるとするならば、それは誤りだという縛りもかかるわけです。

したがって、この34条以下の新しい法律の解釈・運用にあたっては、まず大きくは「障害者権利条約」を背景として、その権利条約が求めている基準に沿うものでなければならないという1つの基準があります。この「障害者差別解消法」が最低限の規範であって、それを超える内容でなければならないということです。そして、最後に「雇用促進法」内部の関係で言うと、5条の具体化であるという位置づけが必要になります。これが、言わばこの新しい改正法を読み解く時の大きな柱になるわけであります。

そこで、この改正8箇条がどういう構造になっているかをまず見ておきたいと思います。8箇条のうち、まず4つはこういうことです。1つ目は、差別の禁止として2箇条あります。「採用時における差別は駄目です」ということ、2つ目は「雇用継続中における差別は駄目です」というものが1つ。3つ目は「採用場面における合理的配慮が必要です」と書いてあり、4つ目は「継続雇用における合理的配慮が必要です」というものです。

さらには、「差別の禁止についてガイドラインを作りなさい」というものと、「合理的配慮についてガイドラインを作りなさい」というもので、これで6つ目です。7つ目には、ガイドラインを作る時には、とりわけ合理的配慮についてのガイドラインを作る時には「必ず障害者の意見・声を聴きなさい」と書いてあるのです。8つ目には、事業主がそれを守らない時には「厚労大臣は指導・助言・勧告ができます」という監督権限が規定されました。これで8箇条です。こういう構造になっているわけです。これが法律の全体像です。

そこで、いま申し上げたように「差別について」と「合理的配慮」に分けて、なおかつ、それを「採用時」と「雇用継続時」に分けているわけですが、それぞれについて指針を作らなければいけません。ガイドラインを作らなくてはいけません。そのガイドラインが今年の3月2日にでき上がったわけです。言わば、今日の学習テーマはそれになるわけですが、その内容に入る前にもう少し話したいことがあります。

そこでガイドラインについてです。まず1番目に「差別」というところから入っていくことにします。そのガイドラインは「障害者差別禁止指針」という題です。言わば副題的に「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」と書いています。

別の言い方をすると、「事業主が対処」ということで、要するに「事業主が実行すべき指針です」と書いてあるということです。これを意識してください。ここに書いてあることは「事業主はきちっと実行しないとはいけませんよ」ということです。なぜならば、法律の条文では「差別」をしてはならないからです。

そこで、では具体的に「どういうことが禁止されるのか」ということになります。「障害者であることを理由として、障害者を募集又は採用の対象から排除すること」これは「差別である」と言いきっているわけです。これはよく募集にあることですが、特に地方公務員が発表されるからわかりやすいですが、募集には「視覚障害者は」とは書いていませんが、「印刷文字が処理できる者」「単独で通勤できる者」という表現によって、視覚障害者や肢体障害者を募集段階から排除しているのではないか、排斥しているのではないかということが疑われるわけです。

すなわち、「機会の均等」「平等な機会の確保」が差別をなくする第一歩になるわけです。

2つ目に問題にしたのは「障害者に対してのみ不利な条件を付加すること」で、これも差別だというわけです。募集や採用に当たって、障害者に対して特に不利な条件を付加することです。

私が入学した時はすごいことがあったのです。昭和46年の龍谷大学の合格発表の日に5人の視覚障害者が呼び出されたのです。その5人に「あなた方は実は合格しているのです。だけれども、今から申し上げる3つの条件をのまない限りは、1時からの発表には入れません」と言われたのです。それが通用した時代なのですね。その3つというのが、1つ、必ず親族の付き添いを受けること。2つ、大学には一切要求しないこと。3つ、大学は何も配慮しないのでそれを了解すること。この三点でした。

またそれは私が生まれて初めて司法試験を受ける時まで生きていたのです。昭和48年、法務省の人が私の目の前で「あなたに来年から点字受験を実行してあげましょう。そのために、いまから言う3つの条件をのみなさい」と言うのです。1つ「試験会場は東京しか認めません」と。その当時、地方に10カ所の試験会場があって、京都にもあったのですが。2つ目は何だと思いますか。2つ「点字の六法は用意しないので、あなたが必要な条文を指摘したら、試験官(人事課付きの検事)が読み上げます」と。もっとひどいのは3つ目で「論文式試験では問題文は点訳しませんので、あなたが書き取ってください」と。すごいでしょう。「この3つをのむかどうか署名しなさい」と、私は署名までさせられたのです。そんな時代だったのです。

すなわち「そういう不利な条件を付加することは許しません。それは差別だ」ということが明確になったというところに、すごい意味があるわけです。

3つ目「基準を満たす者の中から障害者でない者を優先して採用すること」これは駄目で、同じ点数の場合、双方をそこで区別はできないということです。この3つが「採用時における差別の概念」です。

では、「直接差別」とは何か。直接差別という言葉があるぐらいですから「間接差別」もあるわけです。 また「間接差別」の例として、ヨーロッパでは「このレストランには犬は入れません」「このホテルには動物は持ち込めません」という条件をつけることによって、実際には盲導犬を同道している視覚障害者が利用できなくなります。わかりやすい典型例ですが、これを間接差別と呼んできたのです。

直接差別、すなわち今回の改正障害者雇用促進法の34条、35条は、直接差別を禁止対象としているわけです。それでわが国の解釈としては直接差別というのはこれから解釈の幅の余地があるということが重要です。またぜひ読み解いてほしいのは、まさにこの「直接差別の内容」と「採用時における差別の禁止のポイント」であります。

そして、次に「能力云々」というのがありますが、今度はちょっと大きく飛んで、賃金支払い等での「継続雇用中における差別の禁止」は何を意味するかということです。これも、言わばこれまでの法律の言葉であったり、女性差別禁止撤廃のところで使われてきた概念にほぼ対応する形で「障害者の差別の禁止条項」をつくってきました。

その中の「2 賃金」のところで言うと、1つ目にこう書いてあります。「障害者であることを理由として、障害者に対して一定の手当等の賃金の支払をしないこと」で、これは「差別です」と。これは全部読んでからにしますが、2つ目の例が書いてあります。「一定の手当等の賃金の支払に当たって、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと」で、2つめはなかなかわかりにくいですが、この1番目は重要なのです。何かと言ったら「賃金において障害を理由として区別してはならない」ということであるならば、冒頭に申し上げた労働基準法の「同一労働、同一賃金が実現されているか」というところに、我々は意識することができるようになってきたのです。

今までは「あなたは目が見えないのだから」という理由で、例えば横の人と同じ仕事をしているにもかかわらず賃金が違ったとすれば、それは我慢せざるを得なかったという面があったのに対して、今回「賃金」の面における基本的考え方、2の(2)のイと言うのですが、そこに書いてある「障害者であることを理由として、障害者に対して一定の手当等の賃金の支払をしないこと」は、この「しない」というのはゼロという意味ではなくて、他の人より少ないのも「しない」ということになります。これを、今後我々の意識としてどれだけ徹底させることができるのか、場合によっては、それが「法廷闘争にまで持ち込むことができる根拠となり得るか」ということになるわけであります。

この2番目の「賃金の支払い等に当たって、特に不利な条件を付すること」というのは、やはり非常にわかりにくいです。先ほど言ったように「あなたにも他の人と同じ賃金を与えるというならば、あなたは特別にこのこともプラスして仕事をしなければ駄目です」というものです。

例えば、典型的な例で言うと「他の人は一人でこの仕事をして月30万の給料を貰っています。あなたの場合は職場介助者を付けてあるから、それによって事業主も余計な負担をしているのだから、その分を引いて払いましょう」ということになったら、言わば「障害を理由とした特別の条件」を付けたことになりかねません。そういうことになります。そういうことが重要になるのだろうと思います。

結局のところ、こういう形でこれを全部読んでいくかどうかはありますが、例えば次に「3 配置」のところがあり、配置の中において「差別が具体的にはどういう場合に当たるか」とか、ずっと書いています。

「配置転換」というのは、目が見えなくなったために起こるので、気をつけなければならない点があります。すなわち、目が見えなくなったことによって、配置転換が必要になる場合もあるわけです。 それを以て「差別というわけではない」ということの問題と、逆に見えないことによって、簡単に言えば「あなたは人の目の目立たないところに置きます」という配置がされたとするならば、それはこの「配置転換における差別」になるわけです。だから、具体例で言いますと、「一定の職務への配置に当たって、障害者に対してのみ不利な条件を付すこと」です。こういうものが、やはり出てくるわけです。

それから、3つ目に「一定の職務への配置の条件を満たす労働者の中から障害者又は障害者でない者のいずれかを優先して配置すること」です。だから目の見えない人だけを隠すような配置をしてはいけないということになります。実際に配置のところで、どれだけ当事者と会社の人事担当・総務とのやり取りの中で「適正配置」というものが実現されるかというのは、差別になるかならないかということと非常に結びつきますし、実はあとで述べる「合理的配慮」との密接不可分の関係もあるわけです。

一定の合理的配慮をすることによって、従来の職種のままで同一職場に留まれるのか、合理的配慮を実践するためにも配置転換が必要なのかということで、非常にわかりにくいけれども、デリケートな部分での「差別に当たる・当たらない」という判断が出てくるという意味では厄介だろうと思います。

「5 降格」の降格人事において、当たり前ですが「失明したから降格にというのは、絶対に許されない」というようなものは、今さら言う必要はありません。

それから「6 教育訓練」ここが重要なのです。実は、先日和解によって終わりましたが、ある貿易会社に勤めていた障害者、この人は車椅子の障害者ですが、ずっと昇進できませんでした。理由は研修教育を受けさせて貰えなかったからです。その企業では、研修所で研修を受けた人にだけ、試験を受けさせて昇進させました。それを受けさせて貰えないものだから、ずっと昇進ができないわけです。その結果、同じ世代の同じ経験年数の同僚と比べても、給料に10万以上の差がついてきたわけです。そこで「これは差別だ」ということで裁判をやりました。しかし裁判所は、この改正障害者雇用促進法はこれから施行されるのだから「現時点でこれを適用して差別だということにはなりません」と言いました。

でも、この「教育・研修の機会を保障する」ということは、いまの会社で同一労働を実践して、同一賃金を貰うということにはならないので、教育訓練の場における差別をなくすことは重要です。

京都であった事件は、この事例「障害者であることを理由として、障害者に教育訓練を受けさせないこと」の典型例です。それについては、向こうの弁護士も負けていません。「いや、拒否したのは、そうせざるを得なかったのだ」と、理由は「研修所には段差があって、車椅子では入れないからだ」と言うのです。ここでも合理的配慮との組み合わせが、やはり出てくるわけです。それから、「教育訓練の対象となる労働者を選定するに当たって」という点、ここが大事です。「障害者でない者を優先して対象とすること」という内容はまさにこの例の典型です。

<雇用について>

実は、「7 福利厚生」のところでちょっとだけ触れておくと、一番最後に触れられたら触れたいと思っているのは、雇用の形式です。臨時とか、パートとか、あるいは嘱託とか、準職員とか、どんな名前でもいいのですが正社員との区別によって福利厚生に違いが出てくるとすれば、それがこの「差別に当たるかどうか」というところで、これから議論をする必要があるということだけは、押さえておいて貰えればと思います。

それから「9 雇用形態の変更」これが重要です。なぜならば、いま触れたように障害を持ったことによって、正社員から仮に嘱託とか有期雇用にされたら、それは100%差別だということであります。例えば、障害を持ったことを理由に子会社に移したとします。これを、では「配置転換」として差別の対象と評価するのか。それとも「雇用形態の変更」として差別の対象とするのか。どちらの議論もあり得ることになるでしょう。

いずれにしても雇用形態の変更が生じるとしたら、それが障害とどう結びついているのかということです。新規採用の場合に、障害者がほとんどの場合に嘱託や有期労働者としてしか採用されていない現実があります。この問題を審議会でも議題にしましたが、これに対する明解な答えや議論を深めるところまでは、残念ながらいきませんでした。

この「9 雇用形態の変更」のところには、やはり3つの例を挙げているので、一応読んでおきます。1つ目は「雇用形態の変更に当たって、障害者であることを理由として、その対象を障害者のみとすること又はその対象から障害者を排除すること」です。要するに、ほぼ同じ言い回しですが、結局は「直接差別」という言い方と同じなのです。形態を変更する際には「障害を理由として優劣を付けるということは駄目です」と言っています。

それから「雇用形態の変更に当たって、障害者に対してのみ不利な条件を付けること」と「雇用形態の変更に基準を定める場合に、労働者の中から障害者だけに当てはまるような基準をつくること」これも駄目ですというわけです。

こういう形で、常に「直接差別」という概念に当てはまる形で「差別を体系化しよう」ということに、ずっとこだわっているわけです。 これは「12 解雇」の部分も同じです。この解雇の部分でも、目が見えなくなって解雇されるかどうかという時に、2つの問題があります。その1つは「それが差別であるかどうか」ということと「合理的配慮を尽くさずに解雇に結びつけてしまうかどうか」という2つの面があるわけです。

そのうちの差別の関係で言うと「10 退職の勧奨」というのがあります。これは、私も会社のいろいろな顧問をやっていますが、整理解雇をする時に、障害者だけをあるいは障害者を優先的に整理解雇の対象にするのは、典型的な差別であります。すなわち障害を理由として、障害者でない者と比較した中で不利益におくわけですから、これは直接差別です。

こういう形で、同じように退職という場面においても、きちっと差別ということに当たるかどうかという時に、しつこく同じことを言いますが「直接差別」という表現をこのガイドラインはとっていますが、実質的に見て、すなわち表現上は障害者を名指しにしていなくても、実質的に障害を理由にしていることが見えてくる場合、あるいは表れている場合は「直接差別に含めて、差別として取り上げましょう」ということに尽きるわけです。

その意図は、決して「障害者差別」の問題だけではないのです。もともと「不当労働行為」という労働組合法において重要な概念があるのですが、これも「不当労働行為意思」と言いまして、事業主の主観的な要素を考慮して、不当労働行為の「ある・なし」を判断するわけですから、そういう意味では同じですし、そう考えるべきだと思っています。

<ガイドラインについて>

最後は「12 解雇」「13 労働契約の更新」までいくわけですが、これらは一応時間的に飛ばします。どこでも表現者はほぼ同じように、この差別の禁止はガイドライン化されました。このガイドライン化された中で、ぜひ覚えておいてほしいのは、したがって3つに整理することができるだろうと思います。

 1番目、「直接差別」と言われる差別禁止対象は、障害を名指しにするという形式的なものではなくて、障害というものを「不利益な取り扱い」や「平等性を害する中身」になっているということです。すなわち「実質的な意味での、障害を理由とする差別」である限りは、禁止の対象になるというのが1つ目の整理です。

2つ目には、私たち自身が差別ということを判断する上で、自分の能力とか、採用場面で言うと「機会の均等」であるとか、先ほどの「教育・研修」も機会の均等でありますが、そういう「差別の禁止」を単体で見ることが不合理に感じてくる場合があります。なぜならば「合理的配慮」と結びつけて考えないと、実質的な意味での「機会の均等」とは言えない場合があるからです。 なぜならば「あなたも試験受けてもいいですよ。採用試験受けてもいいですよ」「でも、点字試験は認めません」というのは差別です。しかし、合理的配慮のことと併せて考えないと、差別の概念は位置づけられません。なぜならば「採用時における差別の禁止」というのは採用の機会を均等に認めるということですから。そうであるならば、その合理的配慮としての点字受験や、口頭試問なり、あるいはパソコンの利用なり、そういう合理的配慮の組み合わせによって、はじめて「均等な機会」が実現するというところに、ややこしさがあるわけです。これが「差別の禁止」ということを単体ではなく、合理的配慮と抱き合わせの中でものを考えるということです。これが2つ目のまとめです。

3つ目には、このガイドラインに書かれていることを、常に我々は問題になった時にこれに立ち返るということです。条文に立ち返らなくてもいいですが、このガイドラインに立ち返るということです。立ち返って、どれかに当てはまらないかと。 別の言い方をすると、ストレートではなくても、そのどれかに概念として「意味が共通する類似の表現や類型はないか」という探し方をします。そうすることによって、我々の「差別の禁止」という内容を押し開いていく、幅を持たせるようにしていく努力が必要だということです。この3点にまとめることができるのでないかと思っています。これが「差別の禁止」における大きなまとめです。

<合理的配慮について>

次に「合理的配慮」についてです。権利条約というのは、本当は言葉としてはこう書いています。障害者権利条約は、合理的配慮の部分を「合理的配慮の実施義務」とは書いていないのです。これは面白いのです。条約の表現は「合理的配慮の不提供が差別だ」と書いてあるのです。ところが、日本の法体系はそれを嫌ってか「合理的配慮義務」ということで「実施しなければならない」という表現、法形式にしてしまっているのです。差別解消法もこの雇用促進法も。これは微妙ですが、本質的にはものすごく大きな違いがあるのです。

例えば「合理的配慮義務」と言った時に「実施することが大変だ」という場合、例えば過重負担・過度の負担という時がそうですが「この合理的配慮を実施すること自身は困難です」と言い訳をするのと、「提供することが不可能です」と表現するのとは、えらい違いがあるということがわかりますか。難しい言い方をすると、挙証の転換とも言うのですが、要するに証明の問題です。すなわち、合理的配慮義務があるという時には、「あなたにはこの場面で合理的配慮をすることが可能であるし、それは過度でない」ということを証明しなければならない可能性がある。それに対して、権利条約のように「不提供が差別だ」と言われたときには「提供しないことにおいて、それが正当だ」という証明を、本当は事業主がしなければならないことになるわけです。法律の組み立てとしては。それほど大きな意味合いで、本当は違うのです。

だから我々としては、この法律の立て方としては、この合理的配慮のところは「均等な待遇」という表現で、均等な待遇を実現するという形で、すべての事業主に「合理的配慮義務」というものを認めたわけです。合理的配慮義務という法律の体系にはなっていますが、常に「不提供が、本来問題にすべきなのだ」と、言わば、合理的配慮の本質的な理念を念頭においた上で、事業主と対応していくことが必要なのです。例えば、交渉において「では、なぜここで、点字で実施できないのですか」と、「実施できない理由を言ってくださいよ」という話になるのです。

したがって、この合理的配慮の冒頭で大事なのは、条約は「合理的配慮の不提供が差別だ」と言っていることです。しかし、日本の法体系ではそういう表現はとらずに、差別解消法では「合理的配慮の実施義務」、雇用促進法では「機会の均等な待遇を実現するため」、あるいは採用のところでは「機会の平等を実現するため」、雇用の継続をされている場面では「均等な待遇を実現するため」で、これを合理的配慮と呼ぶのであると、こういう表現なり法形式に変わっているということが1つあります。

そして、同じように合理的配慮の趣旨という項目が設けられています。ここでも先ほどと同じように、こう書いています。「事業主が講ずべき措置に関して、その適正かつ有効な実施を図るために必要な事項について」定めることであるから、すなわち、我々の適正な能力や有効な労働が実施できるようにすることが、合理的配慮の意味だということになります。しつこく言いますと、我々が目が見えないために本来持っている潜在的労働能力を、適正に引き出して実践できるための条件が、合理的配慮ということになります。

ところで、合理的配慮の中で、重要な概念はいくつかあるのですが、ここでは整理を丁寧にしています。合理的配慮というのは、そういう意味で今まで日本になかった概念ですから、「基本指針」でも一応丁寧な構成をして、できるだけ合理的配慮について広げようということで、こういうことを書いています。

 「合理的配慮に関する基本的な考え方は、以下のとおりである」として理屈を述べています。1つ目、合理的配慮は、個々の事情を有する障害者と事業主との相互理解によって提供される。すなわち「個別的なもの」であり、かつ事業主と当該労働者との話し合いによって、その障害者の抱えている問題を「共有しながら実現していく」と書いてあるわけです。

2つ目「合理的配慮の提供は事業主の義務であるが」ここはちょっと嫌らしい言い方ですが、「採用後の合理的配慮について、事業主が必要な注意を払ってもその雇用する労働者が障害者であることを知り得なかった場合には」、合理的配慮を提供しなかったことを以て差別にならないという表現をしています。 これは何を意味しているかといったら、一番典型的なのは精神障害者の場合です。我々に関係するとしたら、弱視の場合です。「自分の見え方について」はまさにハンディキャップですから、その見え方についての配慮は、事業主において気づかないことがあるだろうという意味なのです。だから「当該労働者から申し出なさい」ということです。簡単に言えば、「私はこの明るさでは読みにくいのです」「私はこの文字の大きさでは読みにくいのです」と、あるいは「この机の配置では物が見えにくいのです」というようなことを、当該労働者から申し出ないことには、事業主はわからないでしょうということです。

3つ目、「過重な負担にならない範囲で」という条件があるということです。この「過重な負担」については最後に触れます。

4つ目、「合理的配慮の提供が円滑に図られるようにするという観点を踏まえ、障害者も共に働く一人の労働者であるとの認識の下、事業主や同じ職場で働く者が障害の特性に関する正しい知識の取得や理解を深めることが重要である」ということで、何を言っているかというと、職場において「見えない」ということのハンディを、事業主も管理者も同僚も全部理解できるようにすることが合理的配慮を実践する時には必要だ、と言っているわけです。表現によっては「プライバシーの問題もある」とか、いろいろ議論はあったのですが、我々においてこのことが重要になるのは弱視の場合でしょう。全盲の場合にそのことが、そんなに理解を広げることにおいて難しいとは思いません。全盲の場合に、逆に気を付けなければならないのは何かというと、「全盲イコールできない」というレッテルを張るのは固定観念で、この部分を解消するための障害の特性、弱視の場合には見え方における障害の特性、こういうものを共通にすることを抜きにしては、合理的配慮は生まれてこないというわけです。

合理的配慮をどう実現するかという手続きについてもちゃんと書いてあります。これは大事なことでありまして、この「合理的配慮をどうやって実現するの」というのは、この「手続」の場面であります。

募集採用時の場面では、言うに及ばず「申し出ろ」というわけです。それはそうです。募集時において、事業主の側で「どういう配慮をしていいのか」とわかる場合はあり得ないわけです。だから、応募者である労働者の側できちっと申し出なさいというわけです。

次に、採用されている場合においてですが、「合理的配慮の内容」をどうやってやるかという時に、まずは合理的配慮に関する内容は、事業主と障害者の間の話し合いで決めますが、「募集・採用時に当たっては」というところでは、不便となっている部分をまず確認してから、何を配慮すべきかについて話し合いをしなさいと。採用時には、一方的な基準を設けるのではなくて、やはり話し合いによって「どういうことを採用時に実践しましょうか」とやりなさいというわけです。

その後には「その障害者が希望する措置が具体的に直ちに実現されるわけではない」ということを、わざわざ注意書きしています。厭らしいですが、そういうのはありますが、一応話し合いで、1つの基準に当てはめるのではなく、言わば「個別にどういう配慮をするかを検討しなさい」となっているわけです。

最後に、合理的配慮は「どうやって確定させるか」ということです。障害者との話し合いによって双方を一致させたら、具体的な実践に移りなさいということです。こういう流れをつくりなさいということで、要するに裏返しに言えば「事業主が一方的に配慮事項を決めて、押し付けるのではない」ということに尽きるわけです。これは、採用後も募集時も似たような流れです。そういう形で、合理的配慮は流れとしては一言で言うと「まず個別の労働者ごとで共通の認識をつくり出しなさい」と。そして「話し合いによってどういうことを実施するかを決めなさい」ということです。

<具体例「別表」について>

そして、具体例としてどんなものを挙げていくかということになると、合理的配慮の具体例として「別表」をつくりました。「別表」をつくった中には、残念ながら私が強く求めたものが、1つだけどうしても入りませんでした。それは「人的な支援」です。この「基本的考え方」の本文にも、「別表」の事例の中にも「人的支援」の部分は、意識的に落としたとしか言いようがないほど、一切記述がなかったのです。

でも、条文では「人的支援」はきちんと入っているのです。それはどういうことなのか。例えばの例で言うと、36条の3です。条文には「人的支援」が書いてあるにもかかわらず、この指針からは落そうとしたのです。「事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため」ここまでは目的です。「その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な」、ここからですが「施設の整備」これはまさにいろいろな物的な支援です。その後の「援助を行う者の配置」これは人的支援そのものではないですか。そして「その他の必要な措置を講じなければならない」と書いてあるわけです。

条文にすら「人的支援」が入っているのに、ガイドラインには「人的支援」の一切の記述がないのです。これはおかしいのではないかと、審議会の場で、私は言いました。さすが座長も、その指摘はもっともだと言い、このガイドラインは物的支援に偏っていると誤解されかねない。この部分の速やかな改善を事務局に指示されて、この条文に沿った「人的支援」に相当する「支援者の配置」という言葉がやっと入ったのです。これが入ったことで重要な意味が出てきます。

確かに、「別表」の具体例の中には「職場介助者」とか、そういう規定は入れられませんでした。でも、その時に2つの引き出しができたのです。1つは、条文に載っているので当然といえば当然のことですが、本体のガイドラインに「人的支援」の文言を入れさせたことです。2つ目には、事務方の答弁の中で「人的支援」にあたる職場介助者等については、事例集やQ&Aを作る時には「そのことを考慮して作ります」という約束をしたことです。この2つを引き出したことは、審議会での大きな成果です。「別表」に載らなかったことは、悔しいけど現時点での不十分さでしたが、そういう論議過程がありました。

<過度の負担について>

最後に「過度の負担」のところで終わります。この過度の負担を日本では「過重な負担」と呼んでいますが、この時に何が議論として重要なのか。一言で言うなら、過重負担といえるかどうかの基準を作らせたということです。この「過重な負担」のところでは、これがあくまでも「事業主の恣意的または主観的な判断によって決まるものではない」ということです。

もしガイドラインを見てもらえるなら、一番最後を見てもらうといいのですが、「第5 過重な負担」という項目です。(1)事業活動への影響の程度、(2)実現困難度、(3)費用・負担の程度、(4)企業の規模、(5)企業の財務状況、(6)公的支援の有無、という基準があるわけです。この基準のどれに当てはめて、ものを考えるのかということが大事です。

とりわけ誤解を招くのは「費用・負担の程度」という言葉の部分です。この時に座長と私とのやり取りで、こういうことがありました。「費用・負担の程度」と言うけれども「わずかな費用・負担であっても、過重負担と言われかねないのではないですか」というやり取りに対して「それはないでしょう」と。なぜならば、法律は「合理的配慮において負担というものを前提としているからだ」というやり取りがあります。すなわち、合理的配慮を実施するために「事業主に一定の負担が生じる」ことを大前提にして、なおかつ「過重となるかどうか」を考えなければいけないということです。だから「費用・負担の程度」の内容は、当該措置を講ずることによる費用・負担の程度をいうわけです。細かく書いているので、いま表現上では見つけられなかったのですが、あくまでも「事業主が合理的配慮を実現するためには、費用・負担は前提になっている」ということを押さえてください。

費用・負担が前提になっている上で、なおかつ一定の適正な基準を超えるほどに大きいのか。その時に基準として持ってくるのが5番目の「企業の財務状況」と、もう1つ4番目の「企業の規模」です。すなわち「合理的配慮は費用・負担を前提とした上で、企業規模と企業の財務状況とも併せて過重かどうかを判断しなさい」と、こうなってくるわけです。だから費用・負担があっても、いま言ったように企業規模・財務状況・公的支援の有無、これらを全部合わせないと、「費用・負担があるから」という一事を以て過重負担とはならないことになるわけです。

こういう形で縛りをかけることができます。あるいは、これから合理的配慮というものを我々が求めていく時に、単純にというか、主観的・恣意的に「負担がしんどい」というような「根拠のないものは駄目だ」ということです。しかもその場合には、求めた合理的配慮が実践できないことについての「説明責任」は事業主にあります。そのことはガイドラインにも明確にされています。

最後の合理的配慮のまとめは「我々が必要とする合理的配慮を必ず提示する」こと。その提示された内容が事業主において「実施が困難であることについての根拠を事業主が示す必要がある」こと。さらに、最終的に「実施しない」となるならば「実施しないことについての説明責任は事業主にある」ということです。しかし、それで終わるものではありません。それで終わったのでは、我々の要求は具体的には実現されない場合が多すぎます。そこで大事なことは、そういう場合に「どこに持ち出すことになるのか」ということです。

<紛争解決機能について>

「個別労働紛争解決」というものがいくつかあります。1つに、何といっても手軽なのは労働局長の下にある「個別労働紛争解決機能」に「斡旋」というものを持ち出すか、あるいは「労働委員会」の「斡旋」に持ち込むことも可能です。要するに、個別の合理的配慮が実現されなかった時には、我々としてはそこで諦めることで解決することはないのであって、常にそうした紛争解決機能に持ち出すということです。それでもなおかつ解決しない時にはどうするのか。裁判という言葉を軽々に使いたくはないですが、司法の場もやはり活用する必要があります。いきなり本裁判ではなくても、訴訟でなくても、調停であったりという様々な紛争解決機能を利用して、時にはそれ以外の機関を利用することが、もっと工夫されてくるかもしれません。

それから有期雇用の問題ですが、これからは「差別の問題」として我々は議論しておきたいと考えますが、これはまだ私の試案です。試みの方の試案です。なぜならば、目が見えないために、障害があるために、嘱託労働者や有期契約であることが実態であるとするならば、それ自身が先ほど申し上げた「継続雇用における差別に当たらないのか」ということです。

そういう議論を労働法の学者も交えながら議論することによって、我々のまさに安定した、そして働きがいのある、さらに言うなら冒頭に申し上げた「働くことによって自分の生活を豊かにし、自己実現を図れる働く権利」というもの、「職業選択の自由」というものを具体化するために、その部分も少しこれから議論していくことを提案して、私の話を終わりにします。
どうもありがとうございました。

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【3月交流会講演】

『相談活動20年を振り返って』

講師 副理事長 工藤 正一(くどう しょういち)

本日私に与えられたテーマは「相談活動20年を振り返って」というものです。大きく次のような柱でお話したいと思います。

1.失明から職場復帰まで
2.タートルの会の結成当時の相談の思い出
3.様々な連携
4.ロービジョンケアの重要性と眼科医の役割
5.相談を振り返って
6.提言

(ここから、講演内容)

1.失明から職場復帰まで

私は1948年生まれで66歳です。私が発病したのは1981年、ちょうど国際障害者年の年でした。その年は三女が生まれた年でもあり、三女の成長と一緒に、「国際障害者年」「障害者の十年」「アジア太平洋障害者の十年」というふうに障害者運動とも重なり、復職後は障害者雇用に関わる仕事をしてきました。

さて、私が完全に失明をしたのは発病から6年ぐらい経った1987年でした。休職し盲学校に3年間通学しました。その当時は、失明しても働き続けるためには、どこで訓練を受ければいいか分かりませんでした。国立塩原視力障害センターがありましたが、これからだんだん見えなくなるというのに、塩原に行ったら一人で帰れるのかという不安もありました。また、AOKワープロが世に出た時でしたので、それを使えば仕事ができるのではないか、何とかそれを見てみたいと思いました。点字図書館に行きましたが、そこにはなく、盲学校を紹介されました。初めて足を踏み込んだ盲学校でしたが、千葉の盲学校の印象は意外にも明るく、びっくりしました。幼稚部があり、小さな子どもから中途失明の人まで幅広い年代の人がいました。そこでは、AOKワープロを見せてもらうのが目的だったのに、盲学校の実情の説明を受けることに時間を費やし、見せてもらえませんでした。帰り際に盲学校に入らないかと言われました。盲学校で何ができるかと聞くと、生活訓練もできるということでした。当時は、歩行訓練などもしてもらえる養護訓練がありました。入学試験だけは3月中に受けてくださいということでした。職場に報告する時、生活訓練をしてもらえそうなので、一時的に盲学校に行くことはどうだろうかと相談したところ、「OK」となりました。このような経緯で盲学校に行きましたので、卒業後、改めて職業訓練を受けなければなりませんでした。

私は失明を意識すると同時に、さほど抵抗もなく自ら視覚障害者の世界に飛び込んでいきました。そのおかげで多くの先達に出会うことができました。1970年代は、横浜税関に職場復帰を果たした馬渡藤雄さんの「馬渡闘争」に代表されるように、固有名詞を冠した雇用運動が、全国各地で展開されました(馬渡関連資料はタートルHPに掲載されています)。中でも、日本盲人職能開発センターの創始者である松井新二郎先生との出会いが私にとっては一番大きな出会いでした。最初にお会いしたのは、私がベーチェット病を発病する前のことで、労働省会計課在任中、契約業務を担当していた時のことです。松井先生は、「東京ワークショップ」の録音速記の契約更新のために来られたのですが、その時に、一緒に来られたのが篠島先生の奥様でした。私はまだ視覚障害者のことはほとんど知らない時でした。松井先生は視覚障害者の職業問題のことについて熱心に語られ、私は少なからず心を動かされました。その後、まさか自分が失明するなんて、その時は思ってもいませんでした。本当に不思議な縁です。失明して、今後のことを決断した後、松井先生に挨拶に行きました。「工藤君、いい人に失明をしてもらった。これからは仲間として頑張っていこう。とにかく君たちのような若い人たちに、これからの視覚障害者の雇用を切り開いて欲しい」と励まされました。その励ましが復職への意欲となり、タートルの結成にも繋がりました。

盲学校でも貴重な体験をしました。20歳ほども年の離れた学生たちと一緒に勉強しながら、彼らと将来の夢について語り合いました。神奈川県ではたくさんの視覚障害者が職員として雇用されていることを話して、千葉県にも視覚障害者を採用してもらおうと、点字採用試験の署名を集めることを提案しました。日本の点字制定100年目に当たる年に、点字署名をもって県議会に請願して採択を経て実現しました。それから盲重複障害者の働く場の問題でも父母たちと交流し、作業所づくりの運動にも取り組みました。こちらは、妻がPTAの役員をしましたので、妻の方が中心になってやりました。

卒業後、職場復帰をして事務職として仕事をするためには、一定の職業訓練が不可欠であることは、予め分かっていたことでもありましたので、どのように必要な訓練を受けるか、早い段階で職場と話し合いました。その結果、人事院と協議をした上で、職業訓練を、研修として認めてもらうことができました。それがなければ、今の私はありません。職場の理解と協力があったこと、職場の同僚が一生懸命人事院とかけあってくれたこと、側面から労働組合も支援してくれたことなど、多くの人のお世話になったことに、感謝の気持ちでいっぱいです。

2.タートルの会の結成当時の相談の思い出

私はこれまで1,000人をはるかに超える相談を受けてきました。ここでは最初の頃の3人の思い出を話したいと思います。

まず、タートルの会結成のきっかけになった、当時の厚生省職員のAさんについてです。私が職場復帰した頃は、それ自体が新聞記事になる時代で、私もいくつかの全国紙の新聞に出ました。Aさんは当時の神奈川総合リハビリテーションセンター七沢ライトホームで生活訓練を受けていましたが、そこの職業科長が私の記事を見て、職場まで訪ねて来られて、Aさんの職場復帰の可能性について相談されました。日本盲人職能開発センターで訓練をすれば大丈夫というような話をし、職場の労働組合にも支援をお願いすることを提案しました。私が国立身体障害者リハビリテーションセンター入所中にお世話になった和泉森太先生と連絡をとり、Aさんの復職支援を労働組合に働きかけてもらいました。その経緯は『中途失明〜それでも朝はくる〜』という本に詳しく書かれています。また、タートル20周年記念誌『中途失明V〜未来を信じて〜』の中でも触れていますが、労働組合の支援を得るとともに、マスコミをも動かしました。Aさんは日本盲人職能開発センターで訓練を受けて職場復帰を果たした訳ですが、Aさんの職場復帰を祝う会には、がんで闘病中の松井先生が病を押して出席されました。我が事のように喜ばれ、いつもの松井節でお祝いの言葉を述べられました。病気療養中のために、やや弱々しい声でしたが、視覚障害者の雇用促進のために命がけで今までやってきたという熱い思いに溢れていました。その翌年の1995年3月31日に先生はお亡くなりになられ、同じ年の6月にタートルの会が結成されました。

二人目はKさんです。Kさんはコンピュータ会社の事務職員でした。視覚障害が進行して退職を迫られていました。この方の場合は、労働問題に取り組んでいる労働弁護団の弁護士と、その地域を管轄する地区労連の人たちの支援を得ました。何度も夜に弁護士事務所や労働組合の会議室で会議を開きました。結局、これもマスコミがタイミングよく記事を書いてくれました。職場復帰をしたのは、ちょうどクリスマスの時でした。これでクリスマスも祝えるし、良いお正月を迎えられると、みんなで喜んだ思い出があります。もちろん本人も日本盲人職能開発センターで一生懸命訓練をしました。ストレスとも闘い、諦めずに努力した甲斐がありました。

三人目はFさんです。「二見裁判」と呼ばれていますが、視覚障害になったことで電力会社を不当解雇されました。弁護団を組織して闘い(現在日本盲人会連合会長の竹下義樹弁護士も参加)、勝利和解し、職場復帰を果たしました。これが裁判事例としては最初ですが、その後いくつかの裁判事例を経験しました。

当時は今ほど障害者に対する理解は進んでいなかったと思います。タートル発足当時の私の考えの中には、タートルの存在意義として、ゆるやかな労働組合的発想がありました。

3.様々な連携

ここで「連携」と言っているのは厳密な意味ではなくて、とにかくつなぐ、つながる、利用する、利用できるものということです。人、物、情報、組織などを意味していると思ってください。ここは、どちらかと言うとノウハウ的な話になります。どんな連携があるのか、どんな連携をしたのかを思いつくままに整理したら、15項目になりました。

☆1番目は「マスコミとの連携」です。
マスコミとは新聞、ラジオ、テレビを意味していますが、私の職場復帰の記事が、Aさんの職場復帰になったように、マスコミの力は非常に大きかったと思います。『中途失明〜それでも朝はくる〜』という最初に出した本が、日本経済新聞に大きく取り上げられ、反響も大きかったことを覚えています。最初3,000部作ったのですが、結局、5,000部まで増刷をしました。それから、NHKラジオの第2放送があります。今は「視覚障害ナビ・ラジオ」と呼ばれていますが、タートルの会員もたくさんの方が出演しています。それから、「点字毎日」がありますが、この中にも仕事に関する記事があり、今でも重宝しています。このようなマスコミ対策も大事です。日頃からこまめな情報提供をし、意識的に働きかけると、つながりも強くなって、何かの時には取り上げてもらうことができます。

☆2番目は「弁護士との連携」です。
基本的には誰も裁判などしたくはないと思います。裁判をしなくて済むのなら、それに越したことはありません。ただ、私たちが弁護士を活用するのは、裁判のプロとして見るのではなくて、交渉のプロだからです。職場との話し合いがうまくいかない場合、代理人として交渉をしてもらうことができます。しかし、弁護士は法律の専門家であり、交渉のプロではあっても、視覚障害のことには詳しくありませんので、そういう時には私たち当事者が主体になる必要があります。弁護士と連携したことで、うまくいっている成功事例も少なくありません。

☆3番目は「眼科医との連携」です。
これは非常に大事なことです。患者である私たちは、眼科医の一言に敏感に反応します。患者の気持ちを察して、「仕事はどうされていますか」「どんなことで困っていますか」と、そういうことをぜひ尋ねて欲しいのですが、それがなかなか言えないという眼科医が意外と多いのです。躊躇なく、自信を持って私たちに繋いで欲しいと思います。気の毒に思うだけでなく、「視覚障害があっても働ける」と希望を与え、単に寄り添うだけでなく、ある意味強引に背中を押して欲しい。そうすることで、その人の人生は違うものになるでしょう。

☆4番目は「産業医との連携」です。
産業医は基本的に労働者の味方です。産業医は健康診断や職場巡視を通じて健康状態や職場環境を把握し、安全配慮義務を遂行する上での助言を行っています。労働者の健康と安全、働く環境を調整するのが産業医の役割ですから、眼科医と産業医の連携は重要です。連携の実際については、後ほど述べます。

☆5番目は「ハローワークとの連携」です。
ハローワークに相談に行っても何も紹介してくれないとか、ハローワークの悪口を言う人がおりますが、ハローワークと言っても万能ではありません。当事者のことは当事者が一番知っているという意味では私たちの方が専門家です。そういう意味では、こちらから必要な情報を提供し、その上で、ハローワーク本来の専門的な立場から助言をしてもらうとよいでしょう。例えば手帳に該当しなくても、目が相当に悪く、訓練が必要な場合があります。そのような時には、診断書を添えて相談するとよいでしょう。そのようにして、手帳がなくても訓練を受けて、再就職できたケースもあります。

☆6番目は「障害者職業センターとの連携」です。
地域障害者職業センターはジョブコーチと雇用管理サポートの窓口になっています。よくある質問に、会社からの相談でないと受け付けないのかということがありますが、そういうことはありません。それはハローワークも同じです。ただ、相談したことを職場に知られたくないということはよくありますが、これについても心配することはありません。

☆7番目は、「中央障害者雇用情報センターとの連携」です。
ここでは拡大読書器などの就労支援機器の無償貸し出し、その他各種助成金制度の活用などについて、専門家が相談・助言してくれます。ただし、機器貸出し制度は、国・地方公共団体、独立行政法人は対象外です。

☆8番目は「職業訓練施設との連携」です。
雇用継続を考えると、特に在職者訓練をいかにして受けるかということになります。もともと訓練施設が少なく、受ける所が限られています。制度をよく知って、使い分けることが大切です。例えば、宿泊して入所訓練を受ける場合には、所沢の国立職業リハビリテーションセンター、国立吉備高原職業リハビリテーションセンターが有力な選択肢となります。その他、大阪の日本ライトハウス、福岡県障害者能力開発校などもあります。通所による職業訓練を受ける場合は、日本盲人職能開発センター、日本ライトハウスなどがあります。さらに、障害の対応に応じた多様な委託訓練があります。これは、3ヶ月間の短い職業訓練ですが、東京では視覚障害者就労生涯学習支援センターに代表されますが、ハローワークと連携し、就職実績を上げています。視覚障害者パソコンアシストネットワーク(SPAN)、千葉のトライアングル西千葉などでも委託訓練を行っております。特に、この委託訓練の中には在職者訓練があり、訓練時間は12時間以上160時間と弾力的で、仕事をしながら、職場のニーズに応じて訓練をしてもらえるという特徴があります。その他、福祉制度の枠組みでは、就労移行支援事業があり、東京都視覚障害者生活支援センターや日本盲人職能開発センターなどで行っております。何れにせよ、これらの制度の特徴を知って、新規就職、職場復帰、就労継続など、目的により使い分け、必要に応じて組み合わせることもできます。

☆9番目は「生活訓練施設との連携」です。
生活訓練のことを今は自立訓練(機能訓練)と呼んでいます。具体的には、歩行訓練や日常生活動作訓練などです。仕事をする上では、会社への通勤の安全のために、まだ見えているようでも、一度は歩行訓練を体験し、必要を感じたら、フォローアップをしてもらうとよいでしょう。訪問型の訓練など、様々な方法で行われております。

☆10番目は「点字図書館との連携」です。
点字図書館は地域における視覚障害者の総合的・情報提供窓口です。

☆11番目は「盲学校との連携」です。
盲学校はあんま・鍼灸(あはき)だけではなく、幼稚部から小・中・高ということで盲教育の拠点です。盲学校には一般就労に関心を持っている先生もいらっしゃいますので、社会資源が少ない中では、点字図書館や盲学校とも連携が必要です。なお、あはきの職業教育は盲学校の他に国立視力障害センターでも行われています。

☆12番目は、「家族との連携」です。
失明は、ほとんどの人にとっては想定外の出来事で、家族にとっても予期せぬことであり、共に乗り越えていく必要があります。失明が与える影響として、家族の絆が強くなる場合と、逆に家庭崩壊につながる場合もあります。不幸な事態にならないために、家族に対するロービジョンケアも必要で、家族同士の交流も大切です。私たちのロービジョン就労相談では、できるだけ家族にも同席してもらうようにしています。

☆13番目は「運動団体等との連携」です。
タートルは基本的には運動団体ではありません。要望事項は日本盲人会連合や全国視覚障害者雇用促進連絡会(雇用連)など運動団体と連携し、陳情の項目に上げてもらっています。そのようにして実現したものの一つが、平成19年1月の人事院通知「障害を有する職員が受けるリハビリテーションについて」で、タートルのホームページにも掲載されています。これは、合理的配慮を具現化したような内容ですので、是非一読して欲しいと思います。

☆14番目は「関連学会等との連携」です。
これまでに、日本ロービジョン学会、日本職業・災害医学会、職業リハビリテーション研究発表会など、色々な機会を捉えてタートルの取り組みの成果を発表し、タートルの存在と連携の必要をアピールしてきました。

☆15番目は「その他」、連携に役立つお役立ち情報です。
タートルでは、平成19年8月、関係機関毎のチェックリスト付の「雇用継続支援実用マニュアル〜連携と協力、的確なコーディネートのために〜」を作りました。視覚障害についての理解を深める啓発本で、チェックリストの部分は、厚労省のホームページにも掲載されています。また、平成19年4月には、厚労省から「視覚障害者に対する的確な雇用支援の実施について」という通知が発出されました。これも一読しておく価値はあります。

4.ロービジョンケアの重要性と眼科医の役割

ロービジョンケアとは、病気やけがなどのために視力が低下したり、視野が狭くなったりして、生活に何らかの支障を来している人に対して、その人の保有視機能を最大限に活用し、生活の質の向上を図る支援のことで、視覚リハビリテーションとも呼ばれます。就労継続のためには、在職中にロービジョンケアを開始することが重要です。早期にロービジョンケアを行い、本人の障害受容を図り、そして職業リハビリテーションに繋ぐことが大切です。以下は、ロービジョン就労相談の経験と成果です。

☆産業医との連携の実際
職場で適切な配慮をしてもらうために、産業医との連携を図っています。その時、眼科医は、診断書だけではなく情報提供書を作成して、本人に持たせ、産業医もしくは人事当局に渡してもらうようにしています。情報提供書には、診断書とは違って、色々なことを記述することができます。現在の見え方はもちろん、どういう工夫をして欲しいのか、どこで訓練を受けたらいいのか。また、タートルや、雇用支援機構で発行した雇用事例集等、必要な資料を添付して、産業医を通して人事当局に提供することもあります。眼科医と産業医は、基本的には医者同士の関係がありますので、タートルでは難しい場合でも、その関係を利用してスムーズに連携が取れます。しかし、必ずしも視覚障害のことを理解する産業医ばかりではありませんが、眼科医からの情報提供を受けて、理解が進んだ例はたくさんあります。

☆タートルとの連携
眼科医からタートルにも是非繋いで欲しいと思います。まずタートルの存在を知らせることは最初の連携の一つです。眼科医自らが本人の同意を得て、その場で私たちに繋ぐのが一番確実で、患者のプライバシーの問題もクリアされます。

☆診断書の内容
診断書というものは、本当にその人を左右する重要な意味を持つ書類です。それだけに、目的に叶った診断書となっているかどうかが問題です。実は、診断書によって危うく退職になりそうな人がいました。視覚障害1級になったと同時に、診断書には「就労不可能」と書かれてありました。それを見た人事担当の人が、あなたを見ていると、昨日と今日でそんなに変っていない。視覚障害1級になったからといって、働けないことはない。人事当局から眼科医に問い合わせをして、診断書を再提出してもらい、首が繋がったと言う事例がありました。このように、眼科医が視覚障害者が働くことについてどう考えているか。つまり、目が見えなくても、基本的に仕事ができることを理解しているか。また、これから訓練を受ける時、訓練を終了して職場復帰をする時、それぞれの診断書が目的に適ったものになっているか、とても大事な点です。

☆ロービジョン検査判断料
眼科におけるロービジョンケアが平成24年4月から「ロービジョン検査判断料」という形で診療報酬化されました。それによると、眼科的な検査をして、評価をして、補助具の選定をして云々というだけではなく、生活訓練施設や職業訓練施設などとの連携を図りながら療養上の指導管理を行うこととされました。治療行為そのものだけでなく、次のステップに繋ぐことを含むとされたことの意義は大きいものがあります。

5.相談を振り返って

タートル発足当初の頃から見ると、相談の変化・発展を認めることができます。発足当初の頃は、やはり当事者として体験を話し合うということが中心でしたが、今は連携を中心にした、ロービジョン就労相談が中心になっています。相談相手により、同じ職業の先輩、眼科医、福祉施設の専門家、可能ならば、職場の人にも同席してもらうようにしています。

雇用問題は、基本的には労使の話し合いで解決していくのが原則ですが、私たちの場合、労使間の問題であると同時に、障害者の問題でもあります。どうしても労働者の立場が弱いことは否めません。まして障害者となると、推して知るべしです。どのようにすれば対等の立場で話し合うことができるのか。権利を主張することも必要ですが、それだけでは解決しません。あらゆる繋がりを探ります。手紙を書き、相手に面談し、時には同情にすがることもあります。とにかく一緒に働くことで、理解が深まり、案ずるより産むがやすしということが少なくありません。しかし、不当な偏見や差別的圧力にはどう対処するか。1人でそれに立ち向かうことは難しくても、私たちは自分のこととして一緒に考え、できるだけの支援をします。それがタートルであると思っています。

☆相談に求められる資質
相談のためには、どんな知識が必要か、相談のためのマニュアルを作って欲しいとよく言われますが、個別性が高いため、なかなか難しい。しかし、必要な要件を挙げるとすれば、人事労務関係の知識、音声パソコンやIT関係の知識、障害者に対する就労支援制度としての各種助成金や職業訓練制度に関する知識、また、障害者手帳、障害年金、その他生活のための様々な福祉制度に関する知識や経験が役立ちます。各自に得意分野がありますので、複数の相談スタッフが対応していますが、多方面に人脈を持つことが大事です。

☆個人情報の取り扱い
個人情報の取り扱いには細心の注意を払う必要があります。相談をしていると、一番肝心な情報が最後になってようやく本人の口から出てくることがあります。自分に不利な情報は隠したいという気持ちは分かりますが、ある程度の個人情報がなければ実りある相談はできません。的確な相談支援のためには必要なことですので、そこは私たちを信頼して欲しいと思います。

6.提言

来年4月から「差別禁止」と「合理的配慮」が事業主に義務づけられることを念頭に置いて、中途で視覚障害者になっても安心して働きつづけられるように、今後の課題について、次の5点を提言させていただきます。

☆提言1「眼科医と産業医の連携」:在職中のロービジョンケアが重要となるため、ロービジョンケアのできる眼科医をもっと増やす必要があります。

☆提言2「リハビリテーションの保障」:中途視覚障害者にとってリハビリテーションは不可欠で、特に継続雇用のためには、在職者訓練が重要です。そのためには、既存の職業能力開発校、職業能力開発施設、就労移行支援事業などを、在職者訓練としても可能にすること。また、「障害の態様に応じた多様な委託訓練」については、さらに充実し、委託費を引き上げることも必要です。つまり、現行の3か月では足りないと言う方もいますし、在職者訓練は12時間から160時間以内なので「もっと増やして欲しい」という声もあります。また、マンツーマンによる訓練が基本になるため、現行の委託費の単価では赤字になるという問題もあります。さらに、公務員がこれらの訓練から排除されないようにすること、視覚障害のある学生については、大学在学中でも必要な就労スキルを身につけられるようにすることも必要です。

☆提言3「視覚障害者に対応できるジョブコーチ等専門家の養成」:視覚障害者に対応できるジョブコーチ、歩行訓練士、視覚障害者を指導できる職業訓練指導員等の人材を養成し、必要とされる場所に配置する必要があります。

☆提言4「視覚障害の正しい理解と合理的配慮の提供」:具体的な合理的配慮の内容については、個別性が高いため、当事者間で話し合うことから始まります。その時に障害に対する正しい理解がないと、建設的な話し合いはできません。失明したての頃は、当事者・事業主双方にとって正しい知識や情報はありませんので、話し合いの時に視覚障害の専門家の協力を得る等、必要な連携の仕組みを入れる必要があります。

☆提言5「人事院通知の積極的活用」:この通知は国家公務員に向けたものですが、その内容は、合理的配慮を具体化したものともいえ、民間にも参考になります。実際に職場に訓練を認めてもらう際に、参考になったという例は少なくありません。視覚障害者に対する合理的配慮を定着させていくためにも、「事例集」等が必要になります。ちなみに、タートルはそういう事例をたくさん持っています。私たちの立場でできるところは協力していきたいと思っています。

【関連情報】 厚労省が合理的配慮に関する事例集などを公開

厚労省は平成27年6月、職業安定局長から各都道府県労働局長に対し、「障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律の施行について」(平成27年6月16日付け、職発0616第1号)を発出し、改正法の趣旨、内容及び取扱いについて指示し、差別禁止・合理的配慮に関する指針の円滑な実施を図るよう通知しています。また、両指針のQ&A、合理的配慮指針の具体的な事例集を作成し、平成28年4月の施行に向けて周知・啓発に努めています。

以下のURLに指針の解釈通知、指針のQ&A、合理的配慮指針の具体的な事例集が掲載されています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shougaisha_h25/index.html

【工藤コメント】 合理的配慮指針事例集は、「第一版」とあるように、今回は、全国の都道府県労働局・ハローワークを通じて、事業主が取り組んでいる事例を収集したものであるため、今後事例は追加補強されていくと聞いております。例えば、タートルの相談事例の中には、職場復帰や継続雇用事例がたくさんありますが、このような事例は今回の事例にはあまり見られません。タートルには、眼科医と産業医の連携が図られたり、在職者訓練とジョブコーチ制度、雇用管理サポートの連携が図られたりした結果、雇用継続が実現したという事例が少なからずあります。これらはハローワークの窓口では把握できないケースであることを考えると、今後この事例集がバージョンアップされる際には、ハローワーク以外の支援機関等からも事例を収集するなどして、好事例の充実強化に期待したいと思います。さらに、可能ならば、国家公務員や地方公務員の事例についても、民間とは区別して把握され、公表されるよう期待しています。

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【職場で頑張っています】

『雑感二題』

会員 会社員 西田 朋己(にしだ ともみ)

東京都在住の会員、西田です。 私は1999年に障害者手帳を取得しました。当時は3級でした。現在は2級ですが、全盲です。タートルに入会したのは2003年、それから現在の職場である特例子会社に出向にはなりましたが、それでも何とか働き続けることができています。これもタートルの皆様のお陰と感謝しています。ここでは、そんな私が働く日々の中で感じたことを、雑感として皆様にお届けしたいと思います。

『続ける』ということ

ここ2、3年のことだが、通勤の途中で、声を掛けられることが多くなった。特に自宅から最寄り駅までの間で、よく声を掛けられる。最寄り駅の駅員の中にも私の顔を覚えてくれている人が出てきた。そんな駅員は、乗車口まで誘導してくれて、電車に乗せてくれる。本当に有り難いことである。

私は、手帳取得以来、白杖をついて通勤している。かれこれ17年目になる。声を掛けられることが増えたのが、ここ2、3年だから、17年から2年を差し引くと15年。要するに、「声を掛けられることが増えた」という状況は、15年間、毎日、白杖通勤を続けた結果なのかもしれない、と私は考えているのである。
「石の上にも3年」はまだ甘い、「白杖通勤も15年」。これは、少し言い過ぎかもしれない。しかし、毎日の通勤を続けられたお陰、というのが、正直な実感なのである。

さて、ここから先は、働き続けること、社会に関わり続けることも同様に大事だと話を広げていくべきなのかもしれない。しかし、残念ながら私にはその文章力がないので、ここでは「続けるということが大事なことは確かなようである」というだけにとどめたい。

余談ではあるが、通勤時間について。晴眼のころは自宅から駅まで12、13分で歩いていた。白杖通勤を始めた頃は20分以上かかっていた。最近は早いと15分で着くようになった。これも「続ける」ということの恩恵であろうか。もっとも、これ以上の時間短縮は、少し危険かもしれない。

『理解する』ということ

私の属する特例子会社には知的障害者も働いている。彼らの主な業務は名刺の印刷・梱包・発送である。 今回、「名刺に点字を打とう」ということになった。いわゆる「点字名刺」、これを作ろうという話である。そして、当然であるが、私が彼らに点字の指導を行なうこととなった。実は、この点字名刺、今までも、2人の知的障害者に試験的にやってもらっていた。これが「できるじゃないか」という評価を得て、全員が点字を覚えようという話になったという次第である。

なぜか、私は、彼らに点字を指導できることが嬉しい。私の職場は車椅子利用者の在宅雇用を会社の意義としている。視覚障害者は私一人である。そのためかどうかは判らないが、どこかに「理解されない」という感じが私につきまとう。一種の疎外感である。しかし、彼ら知的障害者に接しているとそれを感じない。だから、彼らに接する機会が増える今回の点字名刺の件が嬉しいのかもしれない。

彼らが、私の全盲という状況をどこまで理解しているかはわからない。でも、彼らが私に接する時、そこには哀れみなどは微塵もなく、それでいて優しい。ひょっとすると、彼らは「理解できないからこそ敬意を持って接する」ということを実践しているのかもしれない。そうだとすると、彼らは「対人関係の達人」だと思う。

私について言えば、彼らの考え方や感じ方について、全くと言っていいほど理解していない。だからこそ、彼らに敬意をもって接したいと考える。少しでも、彼らを見倣いたいのである。もっとも、具体的にできることと言えば、彼らに微笑を絶やさず接することだけなのだが。

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【お知らせコーナー】

◆ ご参加をお待ちしております!!(今後の予定)

《タートルサロン》

毎月第3土曜日  14:00〜16:00
場所:日本盲人職能開発センター
 *交流会開催月は講演会終了後

《交流会》

11月21日・3月19日を予定しています。
時間:13:30〜16:30
場所:日本盲人職能開発センター(東京)
(大阪・福岡とスカイプで中継予定)

《タートル忘年会》

12月5日(土)17時30分〜
両国ビューホテル
(注:11月から、「ザ・ホテル ベルグランデ」の名称が、「両国ビューホテル」に変更になります。場所、建物は変更ありません)

◆一人で悩まず、先ずは相談を!!

見えなくても普通に生活したい、という願いはだれもが同じです。職業的に自立し、当り前に働き続けたい願望がだれにもあります。一人で抱え込まず、仲間同士一緒に考え、フランクに相談し合うことで、見えてくるものもあります。気軽にご連絡いただけましたら、同じ視覚障害者が丁寧に対応します。(相談は無料です)

◆正会員入会のご案内

認定NPO法人タートルは、自らが視覚障害を体験した者たちが「働くことに特化」した活動をしている団体です。疾病やけがなどで視力障害を患った際、だれでも途方にくれてしまいます。そんな時、仕事を継続するためにはどのようにしていけばいいかを、経験を通して助言や支援をします。そして見えなくても働ける事実を広く社会に知ってもらうことを目的として活動しています。当事者だけでなく、晴眼者の方の入会も歓迎いたします。

◆賛助会員入会のご案内〜賛助会員の会費も、「認定NPO法人への寄付」として税制優遇が受けられます!〜

認定NPO法人タートルは、視覚障害当事者ばかりでなく、タートルの目的や活動に賛同し、ご理解ご協力いただける晴眼者の入会を心から歓迎します。ぜひお力をお貸しください。
眼科の先生方はじめ、産業医の先生、医療従事者の方々には、視覚障害者の心の支え、QOLの向上のためにも賛助会員への入会を歓迎いたします。また、眼の疾患により就労の継続に不安をお持ちの患者さんがおられましたら、どうぞ、当認定NPO法人タートルをご紹介いただきたくお願いいたします。

◆ご寄付のお願い〜税制優遇が受けられます!〜

認定NPO法人タートルにあなたのお力を!!
昨今、中途視覚障害者からの就労相談希望は急増の一途です。また、視力の低下による不安から、交流会やタートルサロンに初めて参加して来る人も増えています。 それらに適確・迅速に対応する体制作りや、関連資料の作成など、私達の活動を充実させるために、皆様からの資金的支援が必須となっています。
個人・団体を問わず、暖かいご寄付をお願い申し上げます。

★当法人は、寄付された方が税制優遇を受けられる認定NPO法人の認可を受けました。皆様の積極的なご支援をお願いいたします。
寄付は一口3,000円です。いつでも、何口でもご協力いただけます。
申込書はタートルのホームページからダウンロードできます。

≪会費・寄付等振込先≫

ゆうちょ銀行
記号番号:00150-2-595127
加入者名:特定非営利活動法人タートル

◆活動スタッフとボランティアを募集しています!!

あなたも活動に参加しませんか?
認定NPO法人タートルは、視覚障害者の就労継続・雇用啓発につなげる相談、交流会、情報提供、セミナー開催、就労啓発等の事業を行っております。これらの事業の企画運営に一緒に活動するスタッフとボランティアを募集しています。会員でも非会員でもかまいません。当事者だけでなく、晴眼者(目が不自由でない方)のご支援も求めています。積極的な参加を歓迎いたします。
具体的には事務局の支援、情報誌の編集、HP作成、受付、スカイプの管理、視覚障害参加者の誘導等いろいろとあります。詳細については事務局までお気軽にお問い合わせください。

☆タートル事務局連絡先

 Tel:03-3351-3208
 E-mail:m#ail@turtle.gr.jp
 (SPAM対策のため2文字目に # を入れて記載しています。お手数ですが、上記アドレスから # を除いてご送信ください。)

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【編集後記】

今回の第32号は、総会結果報告、講演が2件、それに、認定NPO取得についての報告など、報告やお知らせしたい事項、参考になると思われる内容が多く、いつもよりボリュームが大きくなりました。お忙しいと存じますが、ゆっくり時間をかけて読んでいただければ幸甚です。

最後に、私事ですが、今回の第32号をもって、情報誌の担当から外れることになりました。第12号から21回担当させていただきました。次号からは、清水理事に担当していただきます。引き続きご愛読のほど、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

(長岡 保)

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