ある日、突如として、千葉駅前広場に突起部分のみが黄色の点字ブロックが姿を現しました。
それらは、多額の経費をかけたわりに、視覚障害者に役に立たない欠陥品ともいえるものでした。
私たちは、本格的な工事はこれからという段階でそれに気付いたため、見直しと改善を関係者に求めました。しかし、行政当局の対応は、「事前に当事者の合意を得て、都市景観に配慮したもの。何ら問題はない」の繰り返し。私たちとしては、目の前で工事がどんどん進んでいくのをただ見守るしかないのだろうか。
そこで、私たち千葉県内の視覚障害者ら33人は、このような点字ブロックの他への波及を恐れ、何よりも、これが敷設されることは、視覚障害者の歩行の安全、移動の自由、ひいては歩く権利を侵害するのではないかと、千葉県弁護士会に人権救済申立を行いました。
その結果、私たちの主張が全面的に認められ、千葉市の姿勢も少しずつ変化し、やがて、全面改善に漕ぎ着けることができました。
本書は、いわばその一連の経過をまとめた記録です。
いわゆる点字ブロックは、本来、視覚障害者の歩行の安全を確保するために開発されながら、いつの間にか、当事者の望まないものが敷設されるようになってしまいました。
今回の千葉駅前再開発も例外ではなく、美観や景観を優先するあまり、視覚障害者に役に立たない点字ブロックが採用され、これが様々な問題を投げかけることとなりました。
私達がここで問題にしたのは、点字ブロックの本来の機能を損ねてまで、なぜ美観や景観が重視されなければならないのか、どうしてもそこが納得できませんでした。
全国を見渡すと、点字ブロックは相変わらず当事者の望まないものが、まるで「免罪符」のように、実に多種多様なものが敷設されております。
私たちは、今回の一連の取り組みを通して、一番のネックになっているのは行政担当者が当事者の実体をあまりにも知らな過ぎること、また、本気で知ろうとしないこと、その結果、これが視覚障害者には配慮されているとの「思い込み」となり、さらには、建築設計者やデザイナーからの提案を何の疑問も抱かずに受け入れてしまう傾向があると思いました。
今回の私たちの取り組みが、ある意味で、市民オンブズマン的な役割を果たし、少なくともその後、点字ブロックの敷設に関する千葉市の対応は大きく変わりました。視覚障害者に最も望ましい点字ブロックを求めて、「景観に配慮した視覚障害者誘導用ブロックのあり方検討会」を設置し、弱視者100人と晴眼者50人に対してモニタリング調査をするなどして、現時点で最もよいと思われるものを、私たちと協議のうえ決定し、現在(1998年6月)、全面改修にとりかかっているところです。
ちなみに、千葉県弁護士会から千葉市長に出された要望書は、点字ブロックが単なる視覚障害者に対する情報提供手段にとどまらず、生命・身体の安全を確保する役割を果たしており、その具体的な設置方法如何によっては、視覚障害者に対する人権侵害または人権侵害のおそれありとしています。
また、点字ブロックの設置と景観の関係について、景観より安全と福祉が優先されなければならないという見解を示しています。
本書の編纂に当たって、私たちは、このような成果をより多くの関係者にフィードバックしていくことが何より大切なことだと考えました。単に記録集としてではなく、少しでも視覚障害者のことを理解してもらう手助けになればと考えました。
「人にやさしい街づくり」を言葉だけに終わらせないためにも、全国の自治体関係者や建築設計関係者に本書が活用されることを強く願っています。
また、視覚障害者の移動の自由と歩く権利という観点から、このような問題に関心を持たれている方には、是非ご一読いただければと思います。
何れにしても、これからの街づくりや福祉の向上に役立てていただくために、一人でも多くの人に活用していただきたいと願っています。
なお、発行日の6月12日は、人権救済申立が認められて、千葉市に要望書が出された、ちょうど1周年を記念した日です。
本書の点字本については、「点字民報社」(電話06-697-9053)から出版される予定になっております。
第1部は、人権救済申立書とそれを受けての要望書からなっており、視覚障害者の移動の自由と歩行の安全について、基本的人権という観点から改善を求めています。
また、カラー写真8ページを掲載し、視力0.06の弱視者の見え方を対比させながら、実際の敷設上の問題点と改善すべき点について具体的に解説しています。
第2部は、一人ひとりの思い思いの陳述書からなっています。ここでは、普段、視覚障害者がどんな気持ちで歩いているかを訴えています。
中には、視覚障害者の歩行特性、障害物と危険物などについて、視覚障害者の歩行を取り巻く問題を総括的に捉えた陳述書もあります。
第3部には、点字ブロックに関する資料を掲載しました。
「手をつなごう全ての視覚障害者全国集会」で確認された「視覚障害者誘導用ブロック(点字ブロック)についての視覚障害者の考え」や、点字ブロックに関する実体調査結果などが掲載されています。
はじめに 天海 正克
◇第1部 人権救済申立の経過
◇第2部 (とびら写真あり) 視覚障害者の歩く権利を求めて
◇第3部 資料
あとがき 松川 正則
<奥付>
30センチの安全地帯 頒価1,000円(本体)1998年6月12日発行
編集 30センチの安全地帯刊行委員会
発行 障害者の生活と権利を守る千葉県連絡協議会
所在地 千葉市若葉区西都賀2−15−5 ヤマキハイツ101
電話 043−252−6691
ファックス 043−252−6641
印刷 クロス印刷工房
本書の製作に当たっては、「社会福祉法人新日本友の会」より助成金をいただきました。
(eye mark を印刷してあります)
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連絡先 email: 工藤 正一(EQH60319@biglobe.ne.jp)