第3回 どのようにすれば、素早くメモをとれるか 日時:2017年2月4日(土) 情報提供:吉本 浩二 氏 (民間企業 事務職) 1.情報提供 (1)電話のメモを取る  事務職の視覚障害者が仕事をしていて電話がかかってきたら、会話の内容をすぐにメモに取れるでしょうか? 晴眼者の場合、ポストイットなどのメモ用紙に、相手の氏名、電話番号、誰宛にどのような用件などをすぐに書きとめることができます。  弱視者なら、白紙にマジックで書く、黒い用紙に白いペンで書く。  私の場合、自分の書いた文字が見えないので、例えば電話で「折り返し電話するように伝えてください」という伝言をお願いされたら、以下のようにしています。 ・見えないなりに、手持ちサイズのホワイトボードにメモを書く ・細かいことは書けないのでメールに書くとして、「すぐに読んでください」などと簡単に書く ・使用しているホワイトボードはB5。A4、A3なども市販されているようである (ここでホワイトボードを回覧)  これは周囲の人への伝言の方法ですが、折り返しの電話番号など伝言をお願いされた内容を忘れないようにするための自分用のメモはどうしたらよいでしょうか。 全盲の人の場合は、まず自分用のメモとして、常に点字タイプライタを机に置き、聞いたことを書き留めている人もいるかもしれません。  パソコンしかない場合は、メモ帳を立ち上げて、メモを書き込んで、確実に保存するという方法になります。 これを(パソコンのメモ帳に書いて保存する)、電話がかかってきた時に、速やかに行えるかどうか、ということが問題になります。 (2)会議の場面  次に別の場面として会議の場面を考えてみます。  資料の説明を聞きながら、それを理解し、メモを取り、意見交換を聞き、自分に意見があったら発言し、出席者の合意が得られたら、次の議題に進む、 というのが通常の会議の流れです。  この(会議の)繰り返しの流れの中で、説明を聞く、資料を確認する、メモを取る、そして自分も議論で発言する、(このめまぐるしさの中で)議論の発言タイミングに自分は追いついていけるでしょうか。 20年程前の学生時代、タートルの諸先輩の話で、業務にはスピードが大事という事を聞いていました。当時、実感はありませんでしたが、就職して意味がわかって来ました。資料を素早く読むなど、それぞれの作業の速さもそうですが、会議で周りのリズムについていくこと。 資料を見ながら、メモを取りながら、相手の発言を聞きながら、自分の意見を言う。 自分の意見を言いたい時に、次の議題に移ってしまっては、自分の意見を言うタイミングを失ってしまいます。 (3)報告書を書く  第3の場面としては、報告書を書く場面を考えてみたいと思います。  資料やホームページ、あるいは過去のメールを見ながら、報告書をまとめていたとします。多数のウィンドウが立ち上がっている中から、自分の目的とするウィンドウを見つけてそこで作業をします。  ウィンドウを「Alt」と「Tab」、もしくは「Alt」と「Escape」で切り替えて行くと作業が中断された形になると思います。スクリーンリーダーユーザーは、資料やメールに書かれている内容を単に確認するためだけの目的でウィンドウを切り替える必要があります。(見えていれば、ウィンドウを並べて見比べるということができます。)  ウィンドウを切り替えるということは、メールを見たい、ホームページを読みたい、作成している報告書に加筆したい…、これらの目的のためのウィンドウかどうかを、ウィンドウを切り替える操作の結果の読み上げを聞いて判断しなければなりません。自分が操作して、その結果、「エクスプローラのウィンドウである」「Outlookのウィンドウである」という読み上げを聞いて、「これだ」「これではない」という判断をする作業が本来の作業の途中に挟まれることになります。  本来の自分のしたい作業の過程において、別の作業が差し挟まることにより、目的の作業に対する集中力がそがれてしまいます。 (4)ここまでのまとめと本日のテーマの再確認  今、「電話を取る」「会議に参加する」「資料を作成する」という3つの場面を考えましたが、自分は墨字は使えない視力で、パソコンの使い方としては、ノートやメモを取るという文房具的な使い方をしています。あるいは会議においては、「ファイルを事前に送ってください」というお願いをしますが、資料を閲覧するためにもパソコンを使います。  視覚障害者にとってパソコンは、活字の取り扱いを可能にするという道具であるという意味において、通常の人のパソコンの使い方以上に活用している、使用の範囲が広がっているということを認識しておかなければならないと思います。  様々なウィンドウを一般の人よりたくさん立ち上げ、内容を確認するためにウィンドウを切り替えるという煩雑な作業を繰り返さなければなりません。これにどうやって対応するかということが今日考えたいことです。  その中で「メモを取る」ということに焦点を当てて、お話をしたいと思います。メモ帳を使うなど様々な方法があると思います。 「今日の話の原型となった話は、2012年10月23日のタートルの勉強会で、新井さんにお声掛けをいただき、中野のサンプラザでお話したものを、再度、もう少し丁寧にした形でお話したいと思います。 「その時の報告書がありまして、今日の準備のためにそれを読み返していました。当時相当頑張ったな・・・(会場笑い)  報告書はWordファイルで、新井さんに言えばもらえると思いますが、(印刷したものを)墨字の読める方だけになりますが回覧したいと思います。  今日説明する方法は、2012年に説明した方法とはちょっと違う方法を紹介したいと思います。一番手軽にできるもので、『そんな方法はもう知っています』という方もいると思います。もっといい方法を知っている方もおられると思います。  情報共有は、後程の意見交換の場でお話できればと思いますので、まずは聞いてください。もし、説明を聞きのがしたなどありましたら、話の途中でも遠慮なく質問してください。 (5)メモにはWordが適している  どのような状態でも1つのキーボードの操作でメモを開く。そのために、デスクトップのショートカットを使いましょう、ということです。  例えば、PC-Talkerを立ち上げるショートカットキー「Ctrl+Shift+F3」というのは、デスクトップのPC-Talkerアイコンにショートカットキーが設定されていることによるものです。  このショートカットアイコンは、インストールするプログラムだけではなく、WordやExcelなどの文書ファイルのショートカットもデスクトップに置くことができます。ファイルの実態ではなくショートカットのリンクのアイコンです。これをデスクトップに置くことができ、なおかつショートカットキーを設定することができます。  テキストファイルでもWordファイルでも、どんなファイルでもショートカットアイコンを作ることができるのですが、メモファイルを作るのはWordファイルがいいのではないかと思います。  Wordであれば、一度開いておいて、メールをするとかインターネットエクスプローラーで調べものをするとか、別のことをやっている時でも、開いていたWordを表側に持って来ることができます。  テキストファイルだと、同じ名前の同じ保存場所のファイルを、別のメモ帳で開いてしまうことがあります。うっかりして、両方セーブしてしまうと、片側にしか書いていないメモが消えてしまうという事故が起きます。  何か一生懸命メモ帳で、メモ用に使っていたファイルにメモを書き込んでセーブしていて、「Alt+Tab」、「Alt+Escape」で(ウィンドウを)回しているうちに、同じ名前のテキストファイルが別のメモ帳のウィンドウで開いていて、別のことが途中まで書き込んでいて、これをセーブしてしまうと前に書いた内容が失われてしまう、といったことが起きえます。そういったことがWordでは起きません。  裏側にあるウィンドウを表側に持って来ることができるということは、どんな場面でもメモを取りたい時に、ショートカットアイコンに設定したショートカットキーの操作をすれば、そのファイルを開いたウィンドウを表に持ってきて書き込む状態にできるということです。  仮にここでセーブするのを忘れたとしても、メールを確認したいとかで、「Alt+Tab」、「Alt+Escape」で(ウィンドウを)回した場合も、セーブしていなくても再度そのウィンドウを呼び出した時に、さっきの状態のままで表になってくれます。この点で安心です。 (6)実演 ◆デスクトップにメモ用のWordのショートカットアイコンを作る。 リンク先のファイルの実態は、通常メモとして使っているファイルとする。 実演では、Dドライブの直下にtartle_memo.docxを作り、これをリンク先に指定。 (手順1)アイコンの作成 @MyFileでDドライブを表示。 Aメモ用のファイルを選択する。 B「ファイル」メニューの中の「ショートカットの作成」を実行する。 C「ショートカット作成先の選択」のダイアログが開くので、「作成先の選択」の一覧で「↑」「↓」で「デスクトップへ」を選択して「Enter」。 D次の画面では、「現在のフォルダ Desktopで決定」を選択して「Enter」。 E次の画面では「作成」のボタンを選択して「Enter」。 (手順2)ショートカットキーの割り当て @「Windowsキー+D」でデスクトップを表示。 A作成したショートカット、「tartle_memo.docx ショートカット」を選択する。 B「Alt+Enter」でプロパティを開く。 C「ショートカットキー」にショートカットとして使うキーを順番に押して「Enter」。 実演では、例として、「Shift」「Alt」「1」の順番で入力して「Enter」。 ◆使用方法 ・メモ用のファイルtartle_memo.docxが開いていない状態で、 「Shift+Alt+1」を押すと、メモ用のファイルが開く。 ・メモ用のファイルtartle_memo.docxが開いていて、他のアプリケーションのウインドウの下に隠されている状態 「Shift+Alt+1」を押すと、メモ用のファイルのウインドウが最前面に表示される。 (7)メリットについて  使用方法の実演で明らかなように、メモ用のファイルが開いていても閉じていても、また他のウィンドウの背後に隠されていても、どのような状態であろうとショートカットキーを押すことによりすぐにメモ用のファイルを表示してメモを取れるようになります。  「Alt+Tab」によるウインドウの切り替え操作や、ウィンドウ名の読み上げについての判断などの作業は不用となります。 (8)タスクバーについて  ウィンドウが、例えば6つ、7つなどたくさん開いている状態で、「Alt+Tab」もしくは「Alt+Escape」でウィンドウを切り替えていると、見つけるまで一苦労です。どのウィンドウかわからなくなることもあります。  「Windowsキー」とタスクバーのショートカットキーを使うと便利です。  なお、タスクバーとは、「スタート」ボタンと時計などの表示部分の間にある横長の領域で、立ち上がっているウィンドウの一覧が表示されています。 ◆タスクバーの基本的な使用方法 「Windowsキー」と「T」を押すとタスクバーの1番目の項目にフォーカスがあたる。 次に「←」を押すと、最後に立ち上げたタスクにフォーカスがあたる。 「Enterキー」でそのウィンドウをアクティブにできる。 ◆タスクバーのメリットについて 「Alt+Tab」はウィンドウが切り替わっていく順番が固定ではない(状態により変わります)。 タスクバーを使うと、ウィンドウを立ち上げた順番なので、順番の想像がつきます。 ◆タスクバーのショートカットキー タスクバーにあるアイコンの左から順番に、 「Windows+1」、「Windows+2」、「Windows+3」・・・、以下、「Windows+0」まで。 タスクトレイの一番左にインターネットエクスプローラーがあるので、「Windows+1」でインターネットエクスプローラーが立ち上がります。2番目はエクスプローラーなので、「Windows+2」ではエクスプローラーが立ち上がります。この動作はどんな状態でも同じです。これらは「ピン留め」と言って、そのウィンドウが立ち上がっていなくてもタスクバーに常に表示されています。 私の場合は、タスクバーの3番目をExcelにしています。(通常標準的な出荷後の状態では、3番目はメディアプレーヤー。) ◆タスクバーのカスタマイズ タスクバーにピン留め(所望のプログラムを固定的に表示)する方法は以下のようにします。 @(所望のプログラムが起動している状態で)タスクバー内のプログラムを選択する。 A「アプリケーションキー」または「Alt+F10」。 Bコンテキストメニューが開くので、「タスクバーにこのプログラムを表示する」を選択して「Enter」。 タスクバーに固定的に表示されているプログラムを、タスクバーの表示から外す方法は以下のようにします。 @タスクバー内のプログラムを選択する。 A「アプリケーションキー」または「Alt+F10」。 Bコンテキストメニューが開くので、「タスクバーにこのプログラムを表示しない」を選択して「Enter」。 これらの方法で、自分の使いたいプログラムをタスクバーに表示しておき、「Windows+数字キー」でそのプログラムをすぐに立ち上げることができるようになります。 (9)Wordについての補足的な話  業務の作業では、Wordをたくさん立ち上げることがあると思います。 (当日は、3つのWordを同時に立ち上げ、さらにMyfileのウィンドウがある状態で実演。) 先程話したタスクバーのショートカットキーにより、ある程度予測を付けた状態で目的のWordの文書を呼び出すことができます。 @「Windows+T」でタスクバーにフォーカスを当て、「←」「→」でMicrosoftWordをフォーカスする。 このMicrosoftWordというアイコンは、3つのWord文書が集約されている状態です。 A「↓」を押す。リストが開く。 このリストにはWord文書が開いた順番で上から表示されています。 B「↑」「↓」目的のWord文書を選択して「Enter」。 「Alt+Escape」、「Alt+Tab」でウィンドウを切り替えながら判断するより、「タスクバーからWordを探して、その中から目的のWord文書を選ぶ」という(シンプルかつ固定的な)ロジックで探す方が、より作業の負担が少なくて済みます。 (10)最後のまとめ  (視覚障害者にとって)パソコンは、本来のパソコンとしての利用だけでなく、活字の文書を扱うための道具、目で見る代わりの対処手段として利用することになります。  視覚障害者すべてがパソコンの専門家やプログラマーになるわけではありませんが、目で見る代わりの道具として使うのであれば、パソコンを、あたかも物を手で触れて思ったところに移動させるのと同じように、思った通りに使えるようになることが重要だと思います。  今日お話ししたものは、特別なソフトを必要としない方法です。新しいパソコンを使い始めた時に、自分で設定できること、周囲の人にサポートをお願いした時に周囲の人が普段と同じように操作できるよう特別な状態になっていないこと、自分が設定したものをいつでも自分で元の状態に戻せること、を留意して今日の方法をご紹介しました。 本日の話『メモを取る』の要点をまとめますと、 @デスクトップ上のショートカットアイコンを活用する AファイルはWord Bタスクバーの「Windows+数字キー」(クイック起動) CWordファイルなどはタスクバーのアイコン内に結合されて開いた順番で表示される ということをご紹介させていただきました。 以上です。